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破壊

ブリッジに戻ったカザミ艦長は、命令をくだした。

「これより潜行を開始する。」

まるで、「潜水艦」である。あらゆるレーダーから姿を消し、肉眼ですら見えない。宇宙の海の中に溶け込んでいるようである。その秘密は、表面に貼られた特殊なタイルのおかげであった。レーダー波を全て吸収し、光学迷彩を可能にする。熱に対する対応は、まだ、充分ではなかった。エンジンを止めて、慣性力で航行するなら、敵にみつからことは、ほぼないだろう。

 

 スペースコロニー群A、アルテミスからまとまった戦力が、ブリタニアとの境界領域に派兵された。ブリタニアの新大統領の演説が宇宙に中継されたことによる危機感を感じたから、と思われるが。

 チェスや将棋のように、盤面の位置を知って対応されているようなアルテミス軍の配置だった。

 オペレーターセンターの中央に座す銀髪の男も、違和感を感じずにはいられなかった。

「こちらの状況が漏れているのか。」

クーデターに成功したとはいえ、まだ、完全に軍を掌握したわけではない。


 艦長になったのは、あのクーデターの日だった。イリエンは、狡猾で危険な男だった。同志が見守る中、艦長のこめかみに銃を突きつけ、交代を迫った。拒否する艦長に、最後の引き金を引いたのはイリエン中佐だった。 

 艦長の席に座ったイリエンの次の仕事が、戦艦ファンジオの撃沈だった。彼のあだ名が「狂犬」であることは、士官学校の同窓生なら知っている話だった。

 士官学校時代、格闘技の訓練中、相手の顔をボコボコにして病院送りにしたことがある。その時に、ついたあだ名だった。

 イリエンの艦に告げられた命令は、帰還命令に従わない艦に対する攻撃だった。レッドサンダーと名付けられたこの艦の戦闘能力は非常に高いものだった。急な攻撃を受けたファンジオは、何もすることができずに撃沈した。

 

 しばらく、ロストしていた練習艦がレッドサンダーの近くに現れた。

「こちらの帰還命令に従わない練習艦の位置がわかりました。」

「すごく近いじゃないか。」

「艦長、メッセージを送りますか?」

「メッセージ?そんなものは必要ない。攻撃する。」

「しかし、練習艦ですよ。」

「そんなのは、俺には関係ない。命令どおり、破壊する。」

艦内は、静まりかえった。あまりにも、無慈悲である。これからを嘱望される人材を乗せた艦を沈めようとしている。


 練習艦に追いつくのは、簡単だった。練習艦は、スペースデブリの中に船体を隠したようにレーダーに映った。レッドサンダーは、攻撃圏内に入るといきなり、大量のミサイルを叩き込んだ。デブリ共々、破壊するをするのは明白だった。

「これで終わりだ。」

イリエンは、破壊行動に酔いしれていた。笑いを押し殺していた。

 他の乗組員は、成り行きとはいえ、自軍の艦を破壊するのは、どうしてもやるせない気持ちになる。しかし、ここで従わない選択をすれば自分の命の保証もない。レッドサンダーの艦内には重い空気が流れた。

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