攻撃
「こちらファンジオ。」
微かに聞こえる声だった。
通信士は、ブリッジに戻っていたカザミ艦長に報告を入れた。
艦長が、過去に何度か補給物資を運んだ艦であることを思い出した。
「今、攻撃を受けている。助けを求む。」
ついに、はじまった艦長シートで身震いした。
「戦艦ファンジオの位置を特定し、最速ルートを。」
小太りの航海長が、職人芸を見せてあっという間に割り出した。
「ここからだと、1時間です。」
例え向かったとしても、すでに決着がついているだろう。しかも、助けられる保証は何もない。
この段階では、カザミは、拳を強く握りしめることしかできなかった。
軍の会議室のモニターから一つの青い点が消滅した。
「もう一度、帰属していない艦に対して帰還命令を出せ。従わないものは、破壊する。」
ホーネッカーは、強い口調で命令を下した。
ファンジオ撃沈については、軍の通信により拡散された。
スペースコロニーへの帰還命令は、あいかわらず無視をしていた。
新造艦では、攻撃訓練が開始された。素人が混じった混成部隊のため、ある程度の習熟させるまで訓練は続けられた。
訓練が終了すると、士官候補生のサザビーに艦を任せた。任せたと言っても、異常を監視する簡単な任務だった。
副官と艦長は、士官用の一室で話をしていた。
「どのようにお考えですか艦長。」
「私が考えているのは、ただひとつ、クーデター軍に戦争をさせないこと。」
「やはり、最終的には戦争ですか?」
「戦争をしたい奴は、たくさんいる。このコロニーに蔓延した閉塞感を外に向けたい。そんな軍と手を組む政治家もたくさんいるしね。ただ、そうなると多くの血が流れる。」
「どのような手をお考えですか。味方になってくれそうな艦もないですし。」
「敵の敵は、味方ということわざ知っているかい。」
「どういうことですか?」
「アルテミスに協力してもらう、というか利用する。」
「と言いますと。」
「こちらの布陣を、無料でアルテミス軍に教えてやるさ。」
「しかし、こちらの弱点をさらけ出して、火に油を注ぐというか、戦争になりませんか?」
「大規模な戦争をするには、時間がいる。まだ、そこまでは両軍とも準備はできていない。アルテミス軍が動いてくれたら、クーデター軍も、国境沿いまで艦を動かさないといけない。」
艦長は、宇宙食用のコーヒーをストローで吸いながら答えた。コーヒーの香りを楽しむわけにはいかないが、カフェインが眠気を緩和してくれた。
「なるほど、国境沿いとスペースコロニーの間は手薄になりますね。」
「補給艦の艦長がいうのもなんだが、兵站を断つ作戦もあるし、待ち伏せして有力艦を叩くこともできる。」
「もし・・・、カザミ艦長がもっと大型の攻撃型の艦に乗っていれば、奴らの野望を打ち砕けたのに・・・」
副官のマテアスは、残念そうな声をはあげた。
艦長は、微笑みながら確信を持って言った。
「実は、この艦には、奴らの野望を叩くだけの能力が隠されているんだ。」
「同志」達は、軍の会議室の一室からオペレーションセンターに格上げされた。銀髪のホーネッカーは、センターの中央の椅子に座って情勢を見ていた。
そこに、屈強な若い士官があらわれて耳打ちをした。
「わかった。政治的なショーにも付き合わないといけないからな。」
その伝言は、手を組んだ新しい大統領からのものだった。選挙によらず、軍の力のみで大統領になる初めての男だった。大統領の革命成功の演説に付き合い、その後、軍の指揮を一任されるセレモニーがあった。
ホーネッカーは、事後の処理を任せてセンターを後にした。
その直後、オペレーションセンターの大型スクリーンから、破壊されたわけでもないのに、練習艦の情報が消えた。
「艦をロストしました。」
「どんな艦だ。」
「多分、情報を見ると・・・練習艦です。」
「練習艦?そんなものロストしても体勢に影響がない。」
「引き続き、帰還に応じない艦に警告を発しろ。」
革命軍の小さな綻びが始まった。