情勢
有力な艦には、すでに「同志」が、いろいろな形で潜り込んでいた。
ある艦長は、手足を縛られ艦長室に閉じ込められた。また、ある艦長は、もう息をすることはなかった。また、とある艦長は、「同志」であった。
時間の経過とともに、クーデターの成功は疑いもないものになった。
「同志」の最終目的は、宇宙制覇と地球への報復である。
新造艦のブリーフィングルームには、各担当長が並んでいた。それに、士官学校の学生達が、特別に参加を許された。
宇宙空間に上下は、あまり意味をなさない。しかし、ここブリーフィングルームには、上下が存在していた。多分、コロニーのドックに入った時を考慮してなのか、心理的な違和感を取り除くためなのか、設計者に聞かないとわからないことだが。
カザミ艦長が入ると、起立をして敬礼をした。無重力の中を、上手に敬礼をしながら自分の座るべき場所にたどり着いた。全員が着席して、シートベルトで体を固定すると艦長は、状況説明を開始した。カザミが無駄な挨拶を省くのは、艦長に就任したときまで遡る。
「以上が現在まで得られた情報だ。状況から考えると、スペースコロニー内で政治的な変化があった。簡単に言うと、軍事クーデターだ。」
さすがに、ざわついた。士官学校の学生達は、言葉が出ないぐらい固まっていた。
「私は、クーデター軍からの命令に従うつもりはない。」
艦長は、珍しく声を張って話した。
「文民統制のない軍は、危険だ。彼らの命令に、従う必要はない。そして、クーデターに対抗する。」
一介の輸送艦艦長のセリフとは、思えないものだった。長年の付き合いの航海長は、大きな拍手で艦長を支持した。まだ、動揺は続いていた。
「具体的には、どうするのですか。」
士官候補生の赤毛のガウディが質問をした。
「まずは、情報収集の継続。我々と同じ立場の艦を探す。もし、味方がいない場合は、この艦で主力艦隊を叩くまで。」
最初の考えには、同意できたが、後半のフレーズは、冗談なのか、本気なのか判別がつかなかった。ただ、艦長の目は、本気だったように感じられた。
軍の会議室の大型スクリーンには、艦の位置と識別子が表示されていた。赤い四角は、クーデター軍、彼らは革命軍と呼んでいるが。青い四角が時間と共に赤くなっていく。予定した80%は、もうすぐ、そこにある。
最後の20%、恭順するもよし、叩くもよし、主力はすでに抑えている。
コロニーへの帰還命令を受託したものは、スクリーン上で青から黄色に変更された。まだ青のままの残り15%の中に「潜水艦」も含まれていた。
「どれでもいい、態度を決めかねている艦を叩け。」
銀髪の男の冷たい声が会議室を震撼させた。




