出航
ブリーフィングルームには、士官学校の学生達が並んでいた。カザミ艦長が部屋に入ると、一斉に敬礼で迎え入れた。通常なら堅苦しい挨拶があるところだが、艦長は、予定のみを淡々と語った。
「以上が今回の演習の予定である。」
一番長身の士官候補生が、演説を始めた。
「この演習で、好成績の残し、将来、立派な士官になることを約束します。」
カザミは、携帯端末の電源入れて、彼に、端末の背面のカメラを向けた。
ウィリアム・サザビー、成績は常にトップ。端末画面には、彼の個人情報が並んだ。
カザミは、苦手なタイプだと感じていた。カザミの士官学校を出た時の成績は、中の下というところだろうか。食事に困ることのない士官学校への進学は、生活のためであった。
「期待している。」
艦長は、型どおりの答えをして、出航準備を開始するため部屋を出た。
出航までの間、学生達はブリーフィングルームで待った。今回、この宇宙艦乗船訓練に、士官学校から参加したのは、6名である。宇宙艦の乗船訓練は、必須科目である。その他にも、各専門職の卵達も訓練を受けていた。
「あの艦長で大丈夫なのか?」
サザビーは、他の学生に問いかけた。
「優しそうな人じゃないですか?」
ガウディは、自分の赤い髪の毛を直しながら答えた。
「けど、現役の輸送艦の艦長でしょ。」
紅一点のダニカ・シモンズは、話に加わった。
「ダニカ、輸送艦の艦長に、実践的な攻撃が教えられると思うかい?」
「どうでしょうね。」
この「潜水艦」の重力があるのは、コロニー内のドックにある時だけだった。出航とともに、無重力状態になる。ビリーフィングルームの椅子のシートベルトを外すと、体は宙を舞った。
安定航行に入ると、館長が部屋に入り学生達に指示書を渡した。ブリッジには、赤毛のガウディと紅一点のシモンズが向かった。
演習空域まで、ガウディが艦長を、シモンズが、副官を務めることになった。艦長シートに座るとガウディは、制服の襟を指で直しながら、移動命令を出した。ガウディにとっては、責任よりも嬉しさの感情の方が優っていた。
カザミは、仮に置かれたシートに座って彼らを見守っていた。
ダニカ・シモンズは、座標位置を手元のスクリーンで確認した。
「艦長、演習空域に到着しました。」
ガウディは、自分が呼ばれていることに気づくのが遅れた。
「了解。」
間を置いて、言葉を発した。
「演習領域に到着した。停船する。繰り返す、停戦する。」
操舵手は、その言葉に反応した。
船が停船すると、カザミは、ガウディに声をかけた。
「よし、いいだろう。次は、艦長をサザビー、副官をレイニに交代。1時間後、仮想攻撃訓練を行う。」
ガウディは、役目を終えてとりあえず、ホッとした。次の担当者を呼ぶために、慣れない無重力空間を移動した。