激突
あと少しで前線にたどり着く距離をレッドベアは航行していた。
「僕なら、この辺りで狙うな。」
ハイデック艦長がポロリと声を漏らした。
その瞬間、熱源反応が現れた。円を描くようにミサイルが飛行し、レッドベアのエンジンを狙った。
「予想通りだ。デコイ発射。」
打ち合わせ通り、レッドベアからデコイが発射された。デコイの尾をピースメーカーから放たれたミサイルが追っていく。
「ミサイルを先に撃って、外れたら負けだ。」
ハイデックの顔がほころんだ。
「思う存分、ミサイルを叩き込め。」
レッドベアのミサイルハッチが開き、大量のミサイルが飛び出した。目標は、さっきミサイルが発射された位置。
ピースメーカーとレッドベアの中間にミサイルがさしかかったとき、急にミサイルが爆発をはじめた。
宇宙機雷・・・。
散りばめられた機雷にミサイルがぶつかった。さらに誘爆が起こり、激しい光と熱を伴う状態となった。
「しまった。罠か。」
ハイデックの顔が、苦痛に歪む。追い詰めたつもりのはずだったのに・・・。
光と熱が収まるまで、探索危機は稼働しない。
2時方向から12時方向に移動して、レッドベアの目の前に、ピースメーカーは姿をさらけ出した。
攻撃をするべきかハイデックが悩んでいる短い間に、先ほどと同じように艦の後ろからミサイルが迫っていた。
あの激しい爆発の間に、ピースメーカーから放たれたのだ。
「デコイ準備次第、発射」
ハイデックの声は、いつもより大きくなっていた。
デコイは、先ほどと同じように発射された。ただ、このミサイルは、追っていかない。コースをプログラミングされた誘導ミサイルだった。
「艦の出力を上げろ。ミサイルを避ける。」
レッドベアは急加速した。レッドベアに接近すると、ミサイルが勝手に爆発した。
艦の頭を押さえていたピースメーカーは、すでにミサイルを発射していた。
後方のミサイルから逃げるため、ピースメーカーに接近して狙い撃ちされることになった。
すでに避けられる距離ではなかった。
「乗組員は、全員、ショックに備えろ。」
歯を食いしばった艦長は、揺れを感じた。しかし、ミサイルが当たったにしては、軽傷だった。
またしても、ペイント弾だった。艦橋が真っ赤に染まる。
続けざまに、ミサイルが飛んできた。今度は、ぶつかる手前で爆発した。電磁チャフと呼ばれるものが、バラまかれた。
電磁チャフは、通信機器、レーダーを沈黙させた。
これで、ゲームオーバーだった。目も耳も使えない。外の様子がわからなくなった。
しかし、最後のあがきで全てのミサイルを当てずっぽうで、発射することを思いついた。
「一矢報いる。ミサイル全弾発射。」
ハッチが開いて、大量のミサイルが目的もなく撃たれた。
ただ、そのミサイルが当たることはなかった。なぜなら、ピースメーカーは、すでにその空域から離脱していたからだった。
トドメを刺すために近くにいると思ったハイデックの考えは、無効になっていた。
この空域には、ただ戦闘力をなくした無力な艦が存在するだけだった。