輸送
最前線の補給に向かう艦に、アレックス・カザミ艦長が通常指揮をする輸送艦メッセンジャーがあった。クーデター軍に接収されたのだ。輸送艦の情報は、通信を傍受できれば理解できた。
輸送艦メッセンジャーの後ろから近寄った艦が停戦命令をかけた。しかし、輸送艦は、無視して目的地を目指した。
「よし、攻撃力を削ぐ。敵のミサイル発射口を潰す。」
艦長の言葉に、副官は反応した。
「ミサイル準備、輸送艦のミサイル発射口をピンポイントで狙え。」
艦のコンピュータの中には、輸送艦の設計図があり、どこを狙えばいいのかわかっていた。
発射されたミサイルで輸送艦メッセンジャーの攻撃力はゼロになり、停船した。
「よし、輸送艦に乗り込め。中の物をいただく。」
海賊のような展開だった。その艦が接近した瞬間、輸送艦メッセンジャーが爆発した。
「しまった罠か。」
戦艦アスカリは、爆風に巻き込まれてひどい損害を被り、動かなくなった。
隠れ潜む練習艦ピースメーカーにも、メッセンジャーが破壊されたことは、伝わってきた。味方になるかもしれなかった戦艦アスカリも戦闘不能に陥った。
「メッセンジャーを破壊するとは・・・」
カザミ艦長は、絶句した。
「完全な艦長への挑戦状ですね。奴らは、こちらのことをかなり調べてますね。」
副官のマテアスは、艦長へ告げた。
もし、攻撃を受けなくても、目立つところで派手にメッセンジャーを破壊されただろう。輸送艦の思い出が頭の中で交差した。カザミ艦長の黒い瞳は、どこか遠くを見ていた。しばらくすると、現実に舞い戻り、次の移動座標を指示した。
牽制するにしても、輸送艦一隻丸ごと犠牲にするこの方法は、異論が出てもおかしくなかった。
「これで輸送艦や補給艦は、狙えなくなっただろう。」
オペレーションセンターの中央の席に座ったホーネッカーは、立っていたハンスに声をかけた。
「今後、艦を襲えば、アスカリのようになる可能性がありますね。」
どの艦が爆弾を抱えた艦か本物の輸送艦かわからない。全ての輸送艦・補給艦を叩いて、前線の補給を断つにしても、叩くべき数が多すぎる。
「どのような優秀な艦でも、この情勢は変えられないよ。」
銀髪の奥で光る青い眼が、すごく恐ろしかった。