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Before

蓮は眠たげな目をパチクリさせ笑顔のお父さんを見ている。

私はお父さんの言葉を頭の中でゆっくり復唱したけど残念ながら何度繰り返しても意味はひとつでしかなかった。


「え?」


「なぁ母ちゃん、いいだろう?」


「あなたがよければ」


そう言ってニコッと蓮を見た。


「葵もいいだろう?兄ちゃんできたみたいで嬉しいよな!」


私は広角だけ上げて蓮を見て頷き、目が合うとすぐにそらした。

そんなわけがない。何がお兄ちゃんだ。

こんな不潔感MAXで歳も離れてて事故の相手がお兄ちゃんなんて呼べるわけがない。見れるわけがない。

絶対に。


「あのーそれはさすがにまずいですよ」


お父さんとは大きく離れたテンションで蓮はテーブルを見て言った。

これは期待できるかもしれない。断れ…。


「もちろん無理にじゃないけどよ。こんな家と俺らで良ければって話よ」


「そうじゃなくて。今日会ったばかりで家に上げてもらうだけでも大変なことなのに…一緒に暮らすだなんて…」


蓮は首をゆっくり大きく振った。

お母さんもお父さん側に回った今、最後の頼みの綱が蓮の遠慮だった。

もちろん話を聞けばかわいそうだと思うし悪い人ではないことはわかった。

でも…それとこれとは話が別だ。

心の中で両手でガッツポーズをして応援した。


「それならよ、何の問題もねぇよ。どこも行くあてがないんだろ?事故のお詫びってのもあるけどよ、俺は蓮くん、あんたが気に入ったんだ。だから好きなだけ居ろって話よ。もちろんいつ出てこうが好きにすりゃいい。困ったことでもあるか?」


蓮はお父さんを泣きそうな顔をして見ていた。


「俺なんか…居るだけ迷惑ですよ」


その声は小さくなっていきやっと聞こえるくらいだった。

なんかこのままこの人が断って出て行ってしまったら…そう考えてしまうほどネガティブな発言に聞こえた。


「今後の人生長いんだ。少しゆっくり考えてみる場所に使ってみないかい」


蓮は下を向いたまま固まってしまった。

たまにするまばたきの度に大粒の涙が汚い髭まで到着していた。


「ちょうど部屋も一つ余ってるの。好きに使ってもらっていいからね」


お母さんの言う余っている部屋とは二階の物置のような役割の部屋のことだ。少し片付ければたしかに1人部屋としては充分なスペースを確保できそうだし、さらに都合よく使っていないベッドもありすぐに寝られる。

大きな問題点は私の部屋の隣という事だ。


「なんていい方達なんだ…」


「んなことねぇよ」


久々に蓮は顔を上げて3人の顔をお父さんから眺めた。

私も今度は頑張って目を合わせた。

そして蓮は深々と頭を下げ少し大きめの声を上げた。


「じゃあ…少しだけ…本当に少しだけお世話になります」


完全アウェイの戦いは勝負ありだった。

怒りが表情に出ないように制御しながら負けの成り行き見るしかなかった。膝の上の二つの拳は自分の限界の握力を突破し震えていた。


「おお、よろしくな」


「部屋少し片付けて布団敷いてきますね。そしたらすぐ寝れますから」


蓮が礼を言う前にすぐさまお母さんは食べ終えた冷やし中華の皿をキッチンに持っていき二階へ上がった。


「疲れたろう、今日は早く寝たらどうだい?」


「あぁ、はい。ではお先に失礼します」


5分後お母さんが蓮の就寝準備を終えて二階から降りてきた。疲れていた様ですぐに予備の歯ブラシをもらい歯磨きを済ませお母さんに先導されフラフラと二階へ上がっていきドアの閉まる音がかすかに聞こえた。


「兄ちゃんできたみたいだな」


私はテレビを見たまま固まり答えなかった。

お母さんはみんなの食べ終えた食器を運びながらも葵の方をチラチラ見てきて様子を伺っていた。

もう、限界だった。


「話が違うんですけど」


「何がだ?」


お父さんの寝ぼけた様な顔…。

こんな酔いが進んだダメおやじに話すよりお母さんに聞いてもらいたい。


「お母さん!」


洗い物をしていた母親はすぐにテーブル越しに正面に座った。


「はいはい」


「どうしてこんなことになってるの?」


お母さんは苦笑いをしてお父さんを見た。

自分と同じようにあの人を気に入ったとでも思っていたのだろうか。


「おめぇこそ話が違うじゃねぇかぁ。さっきは兄ちゃんできたみたいで嬉しいって頷いてたじゃねぇか」


「本人を目の前に出てけなんて言えるわけないでしょ!」


一段と私は声をあげるとお母さんは慌てて人差し指を口元に当てた。

お父さんは舌打ちをした後崩れ落ちる様に溜息を吐いた。


「はぁ…お前なぁ…」


「そんな毛嫌いしないで少し話してみたらどうかなぁ。色々経験してる人だし葵も勉強になるとお母さん思うよ」


「別に毛嫌いしてるわけじゃないよ。さっきの話もかわいそうだとも思ったよ。家族でもない人と、しかも男の人と一緒に暮らすことがあり得ないって言ってるの」


冷静さを取り戻し、はっきりとした口調で断固反対姿勢を保った。

お父さんは目が合うと少しだけ眉間にしわを寄せ静かに語り始めた。


「いいか?葵はまだ中学生だから分からないだろうけどな、事故なんて車も自転車も同じなんだぞ。だから怪我したなんて言われちゃえば治療費だの慰謝料だの全部こっちが面倒見なきゃいけない。大げさじゃなくてな、百万だの一千万だのって単位のお金に話になるんだ。だから親切すぎるくらいでちょうどいいんだよ」


下を向いて下唇を噛んだ。


「暮らすっていっても、そんなに何ヶ月もってことはないと思うよ」


「いやだよ…お兄ちゃんなんて絶対見れない。子どもは私1人でしょ?こんなにいやだって言ってるのに…娘が可愛くないの?」


自分でも何言ってるのかと思った。

それだけ必死になっていた。


「可愛いよ、親バカです。だからこそ、ね?蓮さんと仲良くできれば葵にもプラスになるって思うから」


口下手なお父さんはいつの間にか腕を組んで静かに聞いていた。

それに変わりお母さんが説得する。

厳しい口調もなければ時折微笑みながら話すお母さんの目をまっすぐに見つめた。


「どうしても嫌だったら言いなさい」


「だから嫌だって言ってるでしょ!自分の子供のこと一番に考えてくれないならもういい!」


これ以上は無駄だと悟って自分の部屋に駆け上がり第2ラウンドは終了した。話しても状況が変わらなければ自分の意思も変わらない。

なんとも、やるせなかった。

最終手段として勇気を振り絞り本人に直撃し自分の意思を伝えようかとも考えた。

両親がなんと言おうと自分が本当の子供でこの家の住人。それくらいの権限はあるはずだ。


1時間後にお風呂に…浴槽には入らずシャワーで済ませ、歯を磨いた。ハブラシ置き場も蓮と隣だったので自分の場所を一番端にやった。

布団に入って電気を消しても目と頭が冴えてしまった。

こんな精神状態でしかも昼寝までしてしまいダブルパンチだった。


~~~~~


日曜日ー

松永家で一番の早起きはお母さんだった。

朝6時半にもなると昼間と変わらない明るさになり、鳥の鳴き声と遠くから虫の大合唱が聞こえてくる。

お母さんは庭に人影を見つけ慌てて窓を開けた。


「あら、早いのね〜」


「あ、おはようございます。いえいえぐっすり寝れましたから。ありがとうございます」


蓮がメルと遊んでいた。

人懐こいメルはすっかり蓮に懐いてしまい顔を舐め回したり飛びかかったりして常に尻尾を振っている。


「朝ごはん、もう少し待ってくださる?」


「いいんですか!ありがとうございます」


「もちろん。もうすぐお父さんも起きてくるし」


蓮が笑顔で頭を下げるとメルの頭を優しく撫ではじめた。


「かわいいですね。なんて名前ですか?」


「メルよ。すっかり懐いちゃって」


今度は仰向けになりお腹をさすってくれと手招きをしていた。

お母さんは蓮の動物好きと扱いの上手さに感心していた。


「メルかぁ。あの…僕散歩行ってきますよ」


「え!ああ…実はね、散歩は娘…葵の仕事になってるの」


「あぁそうですか。娘さんが一番なんですね」


「そういうわけでもないんだけどね。あの…よかったらなんだけどね、娘と、葵と一緒に散歩行ってもらえないかなぁ。迷惑じゃなかったら」


苦笑いを浮かべながら話すお母さん。


「え?…僕は構いませんけど…娘さんが良ければ」


「本当に?今の時期は涼しくなった夕方に行ってるんだけど、その時はよろしくお願いしますね」


お母さんは丁寧に頭を下げた。


30分後、お母さんは3人分の朝食を完成させ数分前にのそのそと起きてきたで食卓を囲んだ。

メニューはトーストに乗ったベーコンエッグ、コーンフレークにマシュマロを溶かしたお菓子に牛乳だった。

初めて食べたコーンフレークのお菓子に蓮は大きな感動を覚えた。


「うま!」


お母さんは嬉しそうに目を細め自分も食べ始めた。


「葵が大好きでね、よく作るの」


「あ、そういえば娘さんは」


「土日はいつも10時くらいまで起きて来ないの。部活終わってからこんな感じでね…まぁ普段寝坊しないからいいんだけど」


「それに比べて蓮くん早起きだなぁ!」


お父さんは朝の声とも思えないトーンだった。

味のあるどら声が一瞬テレビの音を掻き消す。


「よく寝れましたから」


「蓮くん今日一日忙しいんだけど大丈夫かぁ?」


お父さんはニヤリと若干悪そうな顔をしながら蓮を見た。


「え?僕がですか?」


「おうよ、よく寝れたんなら大丈夫だな」


嬉しそうに話すお父さんを見て蓮は悪いことではないと笑顔で返した。


「はい」


~~~~~


眠い目をこすってスマホの時間を確認した。

数分間昨日の出来事を思い出しながら天井を眺めた。

夢じゃないんだよな…。

よく眠れたわけもなく寝不足からか微頭痛がした。

隣の部屋を恐る恐る覗くともう蓮の姿はなく綺麗に畳まれた布団が中央に置かれていた。

足音を立てないように階段を下ると居間にはテレビを見ながら洗濯物を畳むお母さんだけがいた。


「あ、おはよう」


無音で降りてきたはずなのに気配を感じ取られてしまったのかすぐ気づかれてしまった。

襖からキョロキョロと居間を見渡したがやっぱりお母さんだけだった。


「あの人は?」


「お父さんが髪切りに床屋さん連れて行ったよ。ほら、蓮さん髪の毛ボサボサだったから」


「ふ~ん」


今日一発目の溜息をついた。

もしかしたら帰ったのかと思ったのに。

何も言わず母親が用意してくれた朝食の前に座り虫除けの網ドームをどけた。


「いただきます…」


「傷はどう?」


それどころじゃなくて怪我したことなんてすっかり忘れていた。掌と膝の幹部を見ると思い出したように痛みが走った。


「大丈夫」


「あとで絆創膏変えてあげるから今日だけそうしておきなさい」


いつもの半分しか味のしない朝食を食べるといつものように歯を磨きシャワーを浴びて着替えを済ませ、また居間に戻りお母さんの隣に座った。

ろくに乾かさない髪の毛の雫が畳を濡らした。

お母さんは晴れない娘の表情を時折確認しながら絆創膏を貼り直し包帯を巻いてくれた。


「はぁ…」


今度はわざと大きな溜息をついたのにお母さんの反応はない。


「今日ね、午後みんなで買い物行こうって思ってるの」


「みんなって?」


「だから4人でよ」


がっくり肩を落とした。


「私行かない」


「えぇ〜そんなこと言わないの。葵にも来て欲しいなぁ」


タイミングがいいのか悪いのか聞き慣れたエンジン音が聞こえてきた。


「あらもう来たみたい」


お母さんは外の方を向きながら器用に掌の包帯を巻き終えた。


「ねぇお母さん!早くして!」


「え?ちょっとどうしたの?」


蓮と顔を合わせたくない。

コミュニケーションは必要最低限にして部屋に引き篭もる。

もう口で言ってもダメなら態度で伝えるしかない。

自分がどれだけ嫌か、両親か蓮に分かってもらうのを待つしかない。


「早く!2階行く!」


急な慌て様にお母さんは急ぐどころか手を止めてしまった。

そして玄関の開閉音がして数秒後に襖が開いてしまった。


「ただいまぁ」


父親が襖を勢いよく開ける。


「おかえりなさい。早かったのね」


「ちょっと見てくれよ〜」


お父さんは歩いてきた蓮の肩を急に組みながら居間に入場した。


「ど、どうも」


少し猫背になっても蓮の方が遥かにでかい。

…え?


「あら…カッコよくなったね〜」


目を丸くして初めて蓮の全身を眺めて固まってしまった。

その変わり様に驚きを隠せなかった。

あれだけ繁殖していた乾燥したワカメは完全に駆除されていた。

前髪は少し立たせ気味で両目がはっきり見える。

襟足やもみあげも首まで覆っていたのに短めに整えられクセ毛を生かされた今風なショートヘアになっていた。

眉毛はキリッと整えられもちろん髭も綺麗さっぱり無くなっていた。

肌もお母さんなんかよりよっぽど綺麗だった。


「あ、おはよう」


いつの間にか目が合っていて慌てて逸らす。


「お、おはようございます」


「傷大丈夫?」


「はい、…ありがとうございます」


「えらい男前になったろ!」


「ええとっても…」


お母さんは目をキラキラさせながら蓮に見とれていた。


「なあ葵!」


小刻みに頷いて精一杯の笑顔を作った。


「う、うん」


「いやいやいや…いやいやいやいや」


照れて頭を掻く蓮を両親は笑った。

たしかに、それまでの印象とは全く違った。

眠たげな目はそのままだがよく見ると悪い顔はしていない。やる気があるのかないのかわからない顔だが真面目で優しそうで年上の男の人にこんなこと言えないがどことなくかわいい系の顔にも見えた。

それまでの不潔感は無くなっていた。

昨日までは会話どころか見るのも嫌だったが今はそこまでではない。

身だしなみでここまで印象が変わるのかとひとつ勉強になった。


「あとは服だな」


お父さんは一歩下がって腕を組み蓮の全身を見た。

お父さんの家着に使っているこれ以上ないくらいラフな半袖半ズボンはウエストを除いて二サイズは違いそうなくらいにピッチピチだった。


「えぇ、午後ね、買い物行くからそのとき買いましょう」


「葵、服選んでくれよな」


「え?は?」


予想外過ぎて思わず は? と出てしまった。

そんなの自分の服なんだから自分で選べばいいしそもそも買い物に自分が行く必要性すらわからなかった。


「おし、飯まで時間あるし蓮くんのんびりしててくれや」


「あ、はい」


「葵は宿題やってないんでしょ?やっちゃいなさい、午後楽だよ」


お母さんはそう言うと昼食の準備へ台所へ向かった。


「うん」


蓮は立ったまま庭の方を向いてお父さんはドカンといつもの定位置に座った。

私は駆け足で自分の部屋へと向かった。

言われた通り机に座り扇風機をつけ、カバンからノートと数学の問題集を取り出すもどうも身が入らなかった。

蓮のビフォーアフターが頭に焼き付いて離れない。


「うーん」


本当なら蓮が家にいる限りは部屋に引きこもるつもりでいたのに、どうも蓮の事が気になってしまう。あ

の見た目…もしかしたらかっこいい部類に入るのでは?


「違う違う」


小刻みに顔を横に振った。

あまりにもビフォーが悪すぎたから今がよく見えるんだ。

昔悪いことをしていた人が今はまともになったらすごくいい人に見えるあの原理だ。

元々蓮の事は嫌いではなかったわけで一緒に暮らすという両親の決断が許せないんだ。

もちろん今日の蓮を見たって意思は変わらないし昨晩を思い出せば怒り蘇る。

言っても駄目だったからさらに言い続けて態度で示す作戦しかない。

それか本人に直接は…さすがに難しい。

ベッド横の網戸から箒のはく音が聞こえてきた。

今お母さんは昼食を作っているしお父さんはやるわけがない。

玄関、そして庭へと箒の音は移動して行く。

薄いカーテンからそっと庭を覗き込むとスラッとした人影が箒を持っていた。

その影は箒を突然立てかけるとメルの方へ歩いて行った。

よく聞くとメルのクゥ〜ンクゥ〜ンと鼻を鳴らす音が聞こえた。


「よしよし」


いつの間に懐いたんだろう。

それにメルまで蓮にいて欲しいの?

唇を噛み締め目を細めてそれを見ていた。

なんだか、悲しい。


「葵ー!ご飯だよ!キリのいいところで食べよー」


12時半、階段からお母さんの甲高い声が部屋まで届いた。

昨日も少し手をつけていたから小一時間もすれば宿題は終わっていた。

椅子に座りスマホを手に取って昨日の南海とのメッセージを開いていたところだった。

南海に一部始終を話そうと思っても踏み切れないでいた。

昨日行けなくなった事故までは話すつもりでいるけれどそれからの経緯はとても話せなかった。

知らない男の人と暮らしているなんて変な誤解を招きそうでやっぱり言えない。


「はーい」


いつもより低いキーとトーンで返すとゆっくり起き上がり部屋を出た。

階段を二段も降りるとまたお父さんと蓮の談笑が聞こえてくる。

しかもまた…


「あれー、蓮くんと同じくらいじゃあねぇかなぁ」


「えー、そうなんですか」


「お、葵葵!」


二度も連呼され右手を上げて手招きをされたが返事もせず軽蔑の目でお父さんを睨み食卓に座った。

ご丁寧に四つならんだ玉子チャーハンは誰も手をつけていない。


「さくら先生っていくつだっけ」


昨日の話の続きならぜひ2人でしてほしい。


「25歳だけど」


「おー!2つ蓮くんの方が上かぁ!いいじゃねぇかぁ、美男美女カップルでお似合いだぜー」


「いやぁそんな美人なら俺なんかにはとても」


どうやらお父さんは蓮に会ったこともないさくら先生を勧めていたらしい。

冗談じゃない。さくら先生となんてとても釣り合わない。綺麗で可愛くてお洒落でみんなからも愛されるさくら先生と蓮が?

たしかに真面目そうで優しそうでほんの少しだけかっこいいけど住む世界が違い過ぎる。


「俺はよぉ…そこらのチャラチャラした奴に取られるのは我慢できねーが、蓮くんなら納得だ!お似合いだと思うし、安心して任せられるぜ」


「あんたさくら先生のなんなの?またバカなこと言って…ほんとごめんなさいねぇ」


お母さんはおかずを運び終えると蓮の隣に座った。

蓮は苦笑いをしながら頭を下げながら首を振った。


「バカなことあるか。真面目な話だ、なぁ蓮くん」


全員揃ってチャーハンを食べ始め、考えた。

さくら先生に限らず蓮が誰かと付き合ったり結婚なんて話になれば嫌でもここは出ていくわけだ。

だからってさくら先生の彼氏や結婚相手が蓮なんて絶対嫌だけれど、かといって他に知り合いの大人の女性なんて居ないし、どっちにしろすぐというわけにいかない。何かいい方法は…。


全員が食べ終えてお父さん以外食器を運び、お母さんがお茶とお菓子とフルーツを並べてまた全員が定位置についた。


「昼寝する前に蓮くん、大事な話がある」


お茶を一口飲むとお父さんはいつになく真剣な顔で蓮を見た。

これは仕事の時の顔だ。何を言う気だろう。


「あ、はい」


蓮も感じ取ったのか、崩していた足を慌てて正座に座り直しお父さんを見つめ返した。


「ふふ、まぁなに、ひとつ提案があるんだわ」


お母さんはその提案を知っているのか何も言わず全員のお茶を汲む。

どうせまたロクなものじゃないに決まっている。

私はお父さんを半分睨むような目で見た。


「俺と一緒によ、働かないか?」

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