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クレーター  作者: 朧塚
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#003 フレイム・ドッグ 3



「携帯している武器は何も無いみたいですね」

 金属探知機などに、引っ掛からなかった。


 ゴードロックとズンボの二人は、クレーターの中に入る事になる。

 しばらくして、何羽もの鳥達が足首に小さな箱を括り付けて、二人の下に降下してきた。ゴードは箱をポケットの中に入れていく。小型化した、彼の武器だ。


 ズンボは使い魔である鳥を手にする。

 鳥達は、彼女の手の中に収められて、只の折り紙へと変わっていった。

 箱の中には、ゴードロックの武器となる、銃火器、手榴弾などが『リトル・プリンス』の能力によって、小型化されて収められている。


 その後。

 しばらく、クレーターの中を、二人は散策していた。

 強い悪臭が、周辺に漂っている。

 しばらくして、ズンボは忌憚のない意見を、彼に尋ねる。


「ねえ、ゴード。貴方、何かやろうとしているわね」

 彼女は、少しだけ、彼の暴走を懸念する。

「私達の命令は、エーイーリーを始末する事。此処の住民の避難じゃない」

「……知ってしまって、黙ってられる程、俺は冷酷な人間じゃない。……だが、安易に避難勧告を出す程、粗忽な人間でもない」

 彼は迷っているみたいだった。

 苦悩している。


「ズンボ。聞いてくれ。俺は辛いんだよ。戦場で何名も仲間を、同僚を、よくしてくれた上司を、可愛がっていた部下を失った。栄光の手に入ってからも、仲間を失った……。俺は今、偽善で構わないから、殺人犯に殺された人間のメンタルケアや、フェミニズム運動、性暴力被害、虐待被害、AV出演によるPTSD被害者達の心のケアをする団体に携わっている…………」

「貴方が個人的にやっている事は、そうみたいね」

「日々、勉強が足りないのと。しくじり、結果として暴言や不遜な言葉を吐いてしまう事も多い」

「ゴード、人に出来る事は限られている」

 巫女は、元軍人の肩に手を置く。そして、少しだけ、強く握り締める。


 エーイーリーと、可能ならば、その配下であるベリーアとトゥルーセの二人も始末するつもりでいた。それがメビウスからの命令だ。


 だが……。

 栄光の手、グレート・オーダーのリーダーは悩んでいるみたいだった。

「此処の者達は放射能汚染につねに、晒され続けているんだよな……」

 そう言うと、ゴードロックはリクビダートル・スーツを脱ぎ始める。


「何を考えているの?」

「此処の住民と同じ目線で、同じものを見たい」

「そう。私もそうするわ。スーツの下は巫女装束だけど、目立たないかしら?」

「俺の軍服で、充分だろうな。小奇麗だし、どうする?」

「流石に、草履じゃ歩きにくいから、ブーツを手に入れてから脱ぐわ。この辺りの通貨は持ってきているし」



 汚い食堂だった。

 壁の表面が剥げ落ちて、苔などに浸食されている。


 二人は此処で夕食をとっていた。

 料理が運ばれてくる。

 ゴードロックは、ビールの瓶を開ける。

 ズンボが料理を先に口にする。

 彼女は少しだけ不快そうな顔をした。


「放射能数値が高いわね。遺伝子を組み替えた製品を入っている。此処の住民はこのままじゃ、フリークスになっていくわよ。既に身体中に病気を持っている人達も多いんじゃないかなあ。それから、この肉は魚と言っているけど、ワニと……、変な変異怪物の肉ね」

「そうか」

 ズンボの舌は毒見が出来る。

「俺が食べていいものなのか?」

「……覚悟があるなら…………」

 ゴードロックは息を飲み、料理を口にする。

「あ、それから、貴方が開いた、ビールだけど。薬品に不味いものが入っている。瓶の蓋が閉まっていたからって、油断しない事」

「……分かった。迂闊だった」

 小さな破壊音が聞こえた。

 外が騒がしかった。

 何か、抗争が行われているのだろう。

 二人は聞き耳を立てていた。

 どうやら、住民同士のいさかいらしい。

 ゴードロックは、その中に、介入する事に決めた。

 目の前で問題が起きている事を看過出来る程、彼は割り切れていない。


「おい、奴らを『井戸』に放り投げてやったぜ。お前達はどうする?」

 もう一人の男達が、手に鉄パイプやナイフを持って、いきり立っていた。


「お前達は晒し刑だ。ふざけやがって、俺達の仲間を井戸に放り込みやがって」

 今にも、殺し合いが始まりそうだった。

 ゴードロックは、有無を言わせなかった。

 背後に回り、鉄パイプとナイフを持っている男達の武器を、次々と、叩き落とし、取り上げていく。

 男達は突然現れた強面の男を、剣呑な眼で睨み付けた。


「あのなぁ、俺達は余所者だが。今、食事中だ。揉め事は止めて貰おうか?」

 軍服の男は、眼の前にいる、斧などの農耕道具を手にした男達に告げる。


「あーあ? 余所者。こいつらはな、金を滞納していたんだよ。俺達はベリーアの使いをしている。この借金漬けどもから巻き上げないと、ベリーアに殺されちまう。……金を出し渋るなら、こいつらの隠し持っている医薬品などをブン取れってさ」

「つまりなんだ?」

「ベリーアは、P地区のカジノを所有者だ。俺達は雇われのボディーガードってわけだ。……拳銃も持っているぜ。あんまり俺達に介入するな、迷惑だ」

「だよな、俺の悪い癖だ」

 ゴードロックは、頭をかいた。

「で、こいつらの借金はどれくらいだ?」

 ベリーアの使い走り達は、利子も含めた金額を言う。

 ゴードロックは、ズンボに訊ねる。

「彼女が払ってくれるそうだ。今すぐ、現金でな」

 ズンボは茶袋から、此処の紙幣を取り出して、ゴードロックに渡し、ゴードロックは、彼らにのし付けるように渡す。


「ああ、……………、これで俺達の首が繋がる。ありがとうよ、余所者。なあ、仲良くしようぜ? 俺達だって、博打狂いの奴らを取り立てるよりも、すんなり金を上納出来た方が、安全なんだ、ありがとうよ」

 そう言うと、斧や、拳銃を隠し持っていた者達は、この場から去っていく。

 後には、ゴードロックから武器を叩き落とされた男達が、彼に対して手を合わせて拝んでいた。

「お人好しね」

「お陰で情報も聞けた」



 ベリーアを何らかの手段によって強迫して、エーイーリーとの謁見を許可させるべきか。

 それとも、別の手段を用いた方が良いのか。果たして、その手段は有効なのか。


 軍人と巫女の二人は、その事について、話し合っていた。

 出来れば、余り多くの血は流したくはない。

 中枢であるメビウスからの命令(オーダー)による、抹殺対象は、あくまでも、エーイーリー、ただ一人なのだから。その障害となる、トゥルーセとベリーアは副次的なものに過ぎない……。


「ねえ、奇妙な情報が入ってきているの」

 巫女は、何かを手に入れてきたみたいだった。

「売春窟とドラッグを扱っている、トゥルーセは、屋敷に侵入されて。彼と、彼の部下達が躍起になって、くせ者を探しているみたい」

「そうなのか?」

「ええ、似顔絵が出回っている。女装した、女のような姿をした、長い金髪の男と……」

 そう言って、ズンボは、出回っている似顔絵を、ゴードロックに見せた。


「何者か知らないけど、あたし達が付け入る隙をくれるかもしれないわね。なんでも、トゥルーセの部下達を何名も返り討ちにしているらしいわ」

「こいつは……」

「…………。お知り合い?」

「ああ…………、少しな。何故、こいつが……?」

 ゴードロックは、その似顔絵を、まじまじと眺めていた。



 ゴードロック達は、巨大カジノへと向かう事にした。


 住民達の心は荒廃していた。

 娯楽に飢えているのだろうか。

 みな、数少ない銭をマシーンに投資していた。

 情報によると、出玉操作などが出来る機械が使われている。ある程度の金額まで溜まると、良い暮らしが出来る。そうやって、みなギャンブルにのめり込んでいるみたいだった。


 スロット・マシーンなどには、何処かで見たようなアニメキャラや、ハリウッド映画のキャラクターなどが絵柄として使われていた。この機械達は、外の世界から廃棄されて、この場所で使われているらしい。


 外の世界と同じように、此処のギャンブルの支配人も、胴元のみが儲かるように仕掛けている。そうやって、知識が無い者達、依存症になった者達は搾取されていくのだ。


 カジノには、何名ものボディーガード達がいた。

 数少ない金を、マシーンに吸われて、機械を叩き、唾を吐いている男もいた。ボディーガードの方は、特に気にもせず、その男を眺めていた。


 三階に行くと、酒を飲みながら、ルーレットに興じている者達がいた。

 一階と二階は、パチンコとスロット・マシーンばかりがあった。三階から上に登るには、ある程度の許可がいるらしい。ゴードロックはそれを聞いて、すぐに勘付いた。


 だが、おそらく、三階以降にある、ルーレットなどにも何か仕掛けがあるのだろう。

 ゴードロックはさり気に、機械を叩いている男を気にとめないのか? と、ボディーガードに訊ねた。すると、丈夫に出来ているから、あの程度では余り壊れない、壊せば、それはそれで、その分の借金が、彼に加算されるから構わない、と、ガードは答えた。……そして、ああいう客に限って、更に高額を出してくれるから、つまみ出す事はまず無い、と。


 下調べによれば、このカジノは臓器売買業者とも繋がっているらしい。

 そして、幹部達は、元自警団のボスなどをやっていた者達なのだと言う。つまり、エーイーリーの支配される前にも権力があった者達が、このビルの中でも良い地位にいるのだ。

 ガードの中で、一番、古株そうな顔をしている者に、ゴードロックは訊ねる。


「ここらを仕切っている、ベリーアさんに会えないだろうか?」

「何か用ですか?」

「私は“外側”からの派遣員だ。名刺もある」

「少し、お待ちを」

 ガードは名刺を隅々まで見た後に言う。

「ええ、ロッキー氏ですね。××工業の××国支部の重役ですね。そちらの女性は?」

「私の秘書だ。祓い師をしている。ビジネス・スーツでなくてすまない」

「構いませんよ。此処の者達より、余程、身繕いが整っている」

 エレベーターによって、二人はカジノの最上階へと向かう事になる。

 最上階の窓からは、クレーターの街並みが見えた。

 どこもかもが、汚らしいスラム街のように見えた。


「私はベリーアです」

 サメのような顔形の男が、椅子に座って、煙草を吸っていた。

 彼の隣には、銃器を持った男が何名か佇んでいた。

「××工業の者だ。必要な書類を持ってきた」

 そう言うと、ゴードロックは、懐から書類を取り出して、ベリーアの机に置く。

 ベリーアは書類を見ながら、舌舐めずりをしていた。


「ふむふむ。パイナップル700個。シュガーケーン1200本。ポテトが850。メロンが130個。……ああ、良い値段ですね。いつ頃、届きますか? 今日中には銀行に振り込んでおきますので」

「四、五日後に発注だ。しかし……、今回はパイナップルの収穫が少なくてね、すみません」

「いえいえ、ポテトの方が良いんですよ。みな好きですから」

 ゴードロックと、ベリーアのやり取りを聞いて、ズンボは心の中で悪態を付いていた。

 野菜やフルーツの比喩を使っているが、全部、銃や爆弾の事だ。

 書類の表記にも、フルーツの名前などが記されている。

 ポテトは地雷の事だ。

 一体、何を考えているのだろうか。


 …………。

 パイナップルは手榴弾。

 メロンは大型の爆弾だ。

「では、私はこれで」

 ゴードロックは立ち去ろうとする。

「ああ、そうだ」

 ベリーアは笑顔だった。

 ゲスな性根の顔だった。


「ポテトを、後、三千個程、追加出来ませんか? みな食糧難になると思いますので」

「……本部に伝えておきます」

 ………………。

 約三カ月後には、ミサイルによって、クレーターは平らになる。


 ベリーアとトゥルーセ、そして彼らの部下達は、それまでにクレーターを離れる予定だろう。……地雷は……、脱出しようとした住民達の両脚を破壊する為に使われるのだろう。



 パラディアの使う、フレイム・ウルフ達は、次々と、トゥルーセの兵隊達を喰い殺していった。


「悪魔型をした奴らは、お前が倒してくれないか?」

 灰騎士を名乗る、この男は、相変わらずつかみどころが無かった。

 敵なのか? 味方なのか?

 敵だとすれば、途中で裏切るかもしれない……。


「トゥルーセの怒り狂っている姿が想像出来るぜ。なあ、ベレト、お前が奴の悪魔型生体兵器を倒すんだっ!」

 彼は高揚しているみたいだった。

 何処か、楽しそうだ。快楽犯的だ。

 ベレトも、その部分がある。

 だが、面白くないのは、ベレト自身が、彼のネタにされている処だ。


「しかしまあぁ、俺達が正面から戦ったら、負けないにしても、重傷は負うな、面白くない結果になる」

 彼は小さく欠伸をする。


「しばらく潜伏して様子を見るしかないかもしれないなあ」

 パラディアはスコープを覗きながら、悪魔兵達の狂乱ぶりを楽しんでいるみたいだった。

「なあ、お前の目的はなんだ?」

 ベレトはライダー・ジャケットの男を上から、足のブーツまで、まじまじと眺めて、何処から解体してやろうか、と、そんな事を考えていた。


「エーイーリーに会ってみたいんだ。理由は無いぜ? 俺は自由人だからな。だからこそ、造物主フルカネリには近付いてみたいんだ。エーイーリーは、奴の創造物だ。だからこそ、会ってみたい」

「成る程」

 この男は、造物主フルカネリに対して、強い憧憬を抱いているのだ。

 そして、それは、何らかの取引をした事に起因しているのだ。

 その事に対して、少しだけ興味が湧いたが、ベレトにとっては、どうでもよい事だった。ベレトが、本当に憎悪している相手は、ゴードロックと栄光の手だ。


 トゥルーセなど、取るに足らない相手で、このクレーターがどうなったって構わない。

 ベレトは、核心に迫るような事を聞く事にした。


「お前にとって、造物主フルカネリってのはなんだ?」

 ベレトは率直に訊ねた。

「俺の人生の救世主だ」

 パラディアは断言する。

 彼の瞳の奥には、確かな狂信があった。


「お前、栄光の手の抹殺対象にされるだろうな」

「ああ、そうだろうな」

「なら、俺達は利害が一致しているわけか」

「そういう事だ」



 パラディアは無邪気に、廃墟の上から、レッサー・トロール達をライフルで撃ち殺していた。ベレトは、それをぼうっとした顔で眺めていた。


 一、二キロ離れた先にいる怪物達の頭にも、弾丸の低速も考察して、正確に命中させていた。

 ただのライフルだ。スコープは付いていない。

 彼は自身の腕をベレトに見せて喜んでいた。


「眼が良いんだな。多分、正確に急所に命中している」

「トゥルーセとベリーアの暗殺を考えているんだ、俺は」

 パラディアは、更にクリーチャー化した住民達を、一方的に狙撃していく。

「いい考えだ。俺は必要か?」

「奴らは二人共、銃弾に反応する反射神経を有している。戦ったお前が分かるだろ?」

「まあな。しかし、お前程の腕前なら狙撃出来そうなんだけどな」



「あいつ……っ!」

 ベレトはスコープで、よく知った軍服の男を見た。

「なんだ? 知り合いか?」

「俺は、この俺は、奴を探しに、こんな場所に来たんだ」

「ほう?」

「殺してやる、解体してやる……」

「まあ、待てよ。お前の敵なら、おそらく栄光の手だろう? なら、俺の敵だ。加勢してやる。だが、奴らの行動を見張るのも面白い」


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