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クレーター  作者: 朧塚
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#002 守る者と壊す者……。 3

 シゼロイからボロ布を渡されて、それを身に纏って、彼からクレーター内を案内して貰った。布で姿を覆い隠すのは、ベレトの容姿が余りにも目立ち過ぎるからだ。


 血と腐臭の臭いが、鼻に入り込んでくる。

 所々で、レッサー・トロールと住民が呼んでいる者達は、屍を食べていた。どうやら、彼らには縄張りがあるらしくて、そこに近付かなければ襲ってこないみたいだった。

 他の場所も眺めてみた。


 ドラム缶に火が焚かれて、色々なものが放り込まれて焼却処分されていた。

 遠巻きに見ると、色々な構図が理解出来た。

 白い肌、黄色い肌、黒い肌、髪の色、瞳の色、色々な人種達同士での縄張りがあるみたいだった。どうやら、この場所においては、縄張り意識というものは強いみたいだった。彼らは時折、街中で銃撃戦を行っていた。


 死体は、レッサー・トロールのいる地区へと投げ捨てられる。

 どうやら、住民は変異した怪物達と、なるべく共存するようにしているみたいだった。

 というよりも、共存の道を探っているように見えた。


 シゼロイは基本、自給自足だが、買い出しも行っているらしかった。

 此処の地区は、物々交換が基本みたいだった。

 どうしても、金が無い者は酷い労働に駆り立てられる。男女共に、売春を行っている者達も多いみたいだった。働けない者達は、必死で物乞いをしているみたいだった。

 その反面、物乞いの近くでは、人の肉らしきものが吊り下げられている。

 暗い空を見ながら、椅子に座って、ぼうっとしている者がいた。

 重い精神病を抱えている者の瞳だった。


 このクレーターは、元々、精神病患者を捨てる為の場所でもあったのだろう。

鬱症状の顔で、空を見ながら、幻聴と幻覚に苛まれている者達もいた。推測するに、彼らは、日々、仲間達から、しなびた料理を貰って生かされているみたいだった。眼が見えなかったり、両脚が無かったりする身体障害者もいた。意外にも、そのような者達も、丁重に生かされているみたいだった。

 ベレトは少し感心する。


「弱肉強食だけだと思ったら、そうでも無いな。もっとも、仲間以外は敵、って感じに見えるが」

「うん、なんか派閥がとても強いんだよ。此処では略奪も当たり前だから、気を付けてね。それから、良い部分もあるけど、小さな権力を持って、取り仕切っている勢力が日々、変わっていくんだよ。精神障害者や、俺のような子供が殺される勢力が権力を持てば、俺は死ぬと思う」

 結局は、住民達の気分次第って事か。

 ベレトは鼻を鳴らす。


「約束してやるよ。ベリーアとトゥルーセと言ったか? 名前、覚えているぜ。殺してやるよ」

「他には関心が無さそうだけど、名前覚えるの得意なの?」

「標的に関してのみ、はな……」

 ベレトは、シゼロイの所有物である畑をまじまじと眺めていた。



 ベレトは、シゼロイから色々な話を聞いていた。

 このクレーターの混沌は、日々、景色のように移り変わっていくのだとも聞かされた。


 そして、この少年は、ひたすらに彼に対して、自分の事を知って欲しいみたいだった。きっと、話す人間がいなかったのだろう。何故、こんなに強い好意を持たれているのか分からなかった。

 他人の事なんて考えるだけ無駄だ……。


「お兄さん、ベレトさん、貴方、本当に強いんだね」

「そうでもねぇよ。俺は負けている。栄光の手から敗走した事があるからな。奴らが此処に来るのを踏まえて、俺は此処に来たんだ。此処がどういう場所かどうかなんて関係が無い」

「人権が無い場所だよ」

 シゼロイは笑顔で言った。

「何故笑っている」

 少年は頭をぼりぼりと掻いた後に、しばし沈黙して答えた。


「ねえ、お兄さん。苦しい事が起こり過ぎると、悲しい事が起こり過ぎるとね。…………、もう笑うしかなくなるんだ。笑って過ごすしかないんだよ。他の人は違うかもしれないけど、俺はそうなっちゃったんだ……」

 ようやく、分かった。

 この少年は、死と共に生きているのだ。死が身近過ぎて……。覚悟し過ぎてしまっている。……だから、ベレトの殺意ごときでは、もはや感覚が麻痺してしまっているのだろう。


「俺、お兄さんの事が好きだよ。優しいから」

 人懐っこい顔だ。

 ベレトは少年の煤などで汚れた顔をまじまじと眺めながら、しばし考えていた。

 そして、訊ねる。


「貴様、一体、何を考えてやがる」

「何、って……?」

「一体、何を思い付いたんだって聞いている。貴様とは二日の間、此処での色々な事を教えて貰ったが。貴様自体は俺に対して、一体、何を考えてやがるんだ?」

 シゼロイは、本当に困ったような顔をする。

 そして、思い切って、言った。


「お兄さんになら、喋ってもいいかな、って。……うん、それ処じゃないよ。お兄さんなら、最初の相手でいいかな、って」

 ベレトには、彼が何を言っているか分かった。

 ベレトは首を横に振る。……本当に困った。

 シゼロイは窓を閉める。

 そして、ズボンを脱いでいく。


「見て貰っていいかな?」

「なんだよ…………」

 少年のやる事は理解不能だった。

 ベレトは、しばし言葉を失っていた。

 少年は下着も全部脱ぐ。


「それ、どうなってやがる……?」

 ベレトは、思わず、まじまじと、少年の股の付け根を眺めて、首をひねっていた。

「お前はオトコなのか? それともオンナなのか? この露出狂がっ! 何を考えて俺にこんなもの見せやがる?」

「何度でも言うよ、放射能だよ。俺はこういう風に生まれた……、俺もどっちの性別なのか分からない。フリークスだよ…………」

 シゼロイは泣いていた。

 そして、瞼を指でこする。


「初めて、お兄さんを見た時に思ったんだ。ああ、この人が最初がいいな、って」

「………………、馬鹿じゃねぇの?」

「俺は売春宿で働く事を考えている。地区の権力者達に身体を提供する仕事さ」

「何故だ?」

「借金があるからだよ。それも随分と。俺が自給自足が出来たのは、此処の持ち主がかなり溜め込んでいたからさ。汚い仕事で。でも、それも無くなった」

 ベレトはやはり嘲笑し、首を横に振る。

「俺は凌辱した女は、殺して作品にする事に決めている。そういうポリシーなんだ。これが俺の美意識だ。俺が強姦するのは、支配の為だ。……なあ、俺はお前を殺害する事に興味が無い。少なくとも、今は、だがな」

「お兄さん、……愛する事を知らないんだね」

「知らんな。俺が歌うラブ・ソングは、そいつが死ぬ事によって完成されなければならない」

 シゼロイは泣き続けていた。


「好きだよ。お兄さん、俺を抱いて欲しい」

 そう言うと、少年は、ベレトのドレスをめくり、白い肌を強く抱き締める。

 ベレトは、彼の顔を軽く蹴り飛ばす。


「やかましい、豚どもに掘られていろ。俺は女にしか、興味が無い」

 少年は……、少女の半身を持つ、両性具有の子供は、とても悲しそうな顔をしていた。



「何で、この俺の事が好きなんだ?」

「一目惚れ。お兄さんの美しさが好きになったんだと思う」

「俺の美学は、犯した相手は殺さなければならない。お前も同じだ。犯った後は、合意だろうが、お前を殺害して、解体する。アートにする。俺のこれからにとって、お前は必要だろう。だから、俺はお前と行為に及ばない」

「本当は怖いんでしょう……? 俺が」

 ベレトは黙った。

 この黙示に対して、こいつは何を思うのだろう?


「とにかく、俺はブチ殺してくるぜ。愛の詩篇にしてやる。肉片でメロディーを作ってやる。二人の全身を削いでやる。もう、それは本当に楽しいだろうな」

 そして、ベレトは人差し指をシゼロイに向かって、突き付ける。

「いいか、俺は放射性物質なんて怖くないぜ」

 殺人鬼は鼻歌を歌い始めた。

「もう、今まで何を聞いていたんだよ。……とにかく、ガイガー・カウンターだけは持っていってね?」

「あー、分かったよ。分かった」



 ベレトは、少し興味があった。


 自分の『マスター・ウィザード』は、放射性物質を防御する事が出来るのかをだ。それから、ドーンの主であるメビウスの能力にもだ。彼女の『ウロボロス』は、どんな物質も遮断すると聞く。光だろうが、熱線だろうが、細菌だろうが、電気だろうが、冷気だろうが、何だろうが、だ。

 マスター・ウィザードという、この力を、極限まで成長させたい。

 そうすれば、ドーン中枢、栄光の手を操っている、メビウスを倒す資格が得られる筈だ。

 いつかは、メビウスを倒したい。

 その野心は、彼の心の底には渦巻いていた。


 ……リクビダートル・スーツ並には、防御出来るかな?

 仮説はそうだ。

 自分の能力の成長の果てには……。

 最終的には、核攻撃でも防御出来るようになれるのが理想だ。

 だが、現状、マスター・ウィザードは、硬い盾程度にしか機能していない。



 ゴードロックは、クレーターへと入る事を考えていた。


 この奥に、エーイーリーがいるのだろうから。

 グレート・オーダーとしての使命を果たしに行くのだ。

 バーバリアン支部のズンボ。

 彼女の事を考えると、胸が苦しくなる。

 彼はいつだって、胸が苦しかった。

 きっと自分一人では背負いきれないものを、荷物にしてきたのだ。望んで。

 それが、自らの宿命だと信じ込んで……。

 出来る限りの情報を持って、クレーターの中には入る事になった。

 此処には、医療が殆ど存在していない。


 マトモな医療を受けられずに、核物質の粉塵や、病原菌、遺伝子組み換え食品などによって、此処の者達が蹂躙されているのだ。此処は世界の廃棄物特区だ。

 あらゆるものが捨てられている。

 あらゆる、……命が捨てられていっている……。

 情報によると、軍産複合体のメンバー達は、此処を平らにして、スポーツ競技場にしようと画策しているらしい。


 人間の想像力の欠如は、彼の理解を完全に超えている。

 それが、ゴードロックが頻繁に思い知らされる事だった。

 そして、自分自身さえ、等身大は惰弱な精神を有している個人に過ぎない。

 弱い者を守りたい、を当たり前にしたい。


 この世界は餓えている者達を、簡単に切り捨てていく。弱いマイノリティーを簡単に踏み潰していく。

 それが生命の本能なのだろうか?

 理性よりも、欲望の方が勝るのだろうか?

 理想よりも、不条理の方が正しいのだろうか?

 人間らしく生きる生き方を模索しなければならない。


 戦場に行って、戦場に慣れなくて良かったと思う。

 この軍服は勲章でもなんでもなく、罪の十字架として身に付けている。

 嫌悪する者も多いだろう。

 それでも、彼は退役軍人として軍服を身に纏う。そうでなければ、見えない世界があるだろうから。

 この世界は美しいのだろうか?

 何も分からない、自分の戦いは、殺す事や壊す事だけを解決にしたくない。

 違う可能性を探りたい。

 弱い人間、人よりも劣っている人間、多種多様な才能、可能性が認められる社会であって欲しい。人は生まれる場所を選べない、それは否応にも自覚せざるを得ない事だった。


 自身の可能性も、選べない……。

 ………………。

 彼の能力では、医薬品を届ける事が出来ない。

 あくまで、銃火器限定だ。

 応用すればいい。


 たとえば、銃器に包帯を巻く。爆薬に医薬品をくくり付ける、そうすると、能力が適応される。

 自分の能力で、どこまで銃器と判断されるのか?


 たとえば、注射器なども、麻酔銃などと共に小型化する事が出来た。しかるべく相手に渡して、使って貰えればいい。


 部品単位にまで分解して、他の武器と接合すれば、医療品などを小型化して持ち運ぶ事が出来る。それはゴードロックにとって、自身の才能への大いなる希望になった。


 それから問題となるものは、まず、荷物検査を潜り抜けなければならない。

 それは、ハッキングによって可能になった。

 何重底にした、いくつかの小型の箱の中に、それらは詰め込まれて、運び込む事になった。内部の人間に届けるのは禁止されている。

だが、権力を牛耳っている側なら違う。


 自分も“武器商人”側、そう権力に思わせる必要があった。

 表向きは権力交渉と生じて、内部に入る必要があった。


 やるべき事は、ただ一つだけだ。

 栄光の手の任務は、エーイーリーの始末。

 ゴードロック個人の使命は、可能な限り、人々のクレーターの外に出す事だった。



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