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クレーター  作者: 朧塚
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#002 守る者と壊す者……。 2


「以前、フルカネリの遺産を、自宅として使っていただけで奴らに狙われたんだ。途中、異次元から、モンスターが大量に入り込んでくる仕掛けみたいだったからな」

 ウェディング・ドレスのような服に、黒いビスチェを身に付け、美しい顔をした薄い化粧の男は、腰元まである金色の髪を櫛で弄っていた。


 コンピューター・ルームだった。

 赤いバンダナを巻いた、男が、コンピューターを熱心に弄っていた。


「僕もフルカネリの遺産を狙っていた為に、栄光の手の別の支部から狙われた。奴らの抹殺対象は、フルカネリの創造物だけじゃなくて、フルカネリの遺産を使う者、狙う者も該当しているみたいだ」

 彼は椅子をくるくると回す。

 そして、煙草をふかし始める。


「個人的に、ゴードロックって男には恨みがある。ベレト、喜んで手を貸すぜ。俺は戦闘じゃ無力だが、ハッキングとクラッシャー専門の仕事は出来る」

「奴らは何を嫌がると思う? 親兄弟、この俺が殺してやろうか?」

「…………。クレーターを乗っ取ってしまおう、それが理想だ。奴らは、俺達のような人間が、フルカネリを利用する事を酷く嫌がっているんだ。だから、妨害し、殲滅したがる。ふざけてやがる」



 巨大廃棄金属によって、いくつも壁が作られているクレーター。


 窪地になっている為に、金属廃棄物が無い場所は、急斜面の山によって塞がれている為に、此処を出る事は困難だ。

 あらゆる場所に、ドローン(無人爆撃機)などが設置されていて、脱出ルートは封じられていた。


 ベレトは、その場所を歩いていた。

 地面には、地雷やそうでなくても、排気部品の山などでいっぱいだが、サンダルをはいている彼は、特に気も留めなかった。特に怪我もしない。

 まるで、物見遊山で、この場所に訪れたような格好をしていた。

 初老の傭兵が、彼を呼び止めた。


「おい、クレーターに入ろうとしているのか?」

「悪いか?」

「…………。俺の仕事はクレーターに流刑した奴らを銃で撃ち殺す事だ。俺個人は入ってくる奴らは問題にしない。しかし、門番が許すかな?」

「門番? 知るか」

「…………一応、言っておくぞ。俺、個人は外部の奴らが入ってくるのは自由だと思っている。しかし、お前が出る場合、お前を撃たなければならない」

「俺に殺されたいのか?」

 傭兵は、少し穏やかな口調だった。手を開け閉めするジェスチャーをしている。

 ベレトは、そのジェスチャーの意味がよく分からず、少し怒り始める。

「おい、この俺は殺人怪盗ベレトだ。夜の陰の魔人だ。お前、解体されたいのか?」

「…………。ビジネスの話をしよう。俺は傭兵としての顔がある。お前が実力者だってのは、すぐに見て分かった。俺達じゃ束になっても適わない。だが、俺に、そのなんだ、少しだけ渡してくれていい。人は盗まずに何を必要としている?」

「…………。この辺りの紙幣でいいんだな?」

 鈍感な性格のベレトも、ようやく、傭兵のジェスチャーを理解する。


 そして、彼に数枚の紙幣を握らせる。

「少ないがいいんだな?」

「ああ、面子さえ保ってくれればいい」

 傭兵は紙幣を一瞬のうちに、懐にしまい込む。口元は愉悦を含んでいた。

「まあいいや。門は何処だ?」

 傭兵は、丁寧に場所を教える。


 彼は、途中、ベレトに対して、散々、中の人間に対する差別感情丸出しの言葉を吐いていた。いかに、彼らが生きるに値しない命であるか、など。

「俺が許す。好きなだけ楽にしてやれ」

「お前、本当に、中の奴らが嫌いなんだな」

「俺はミュータント共が、特に反吐が出る。それから、俺の友人は国家テロリストに殺された。俺の部下は難民に仕事を奪われている奴らばっかりだ。せいせいする」

 初老の傭兵は立ち止まる。


「じゃあ、俺は此処でオサラバするぜ。門番と俺達は管轄も、依頼主も違うしな」

 そう言うと、彼は鼻歌を歌いながら、ベレトの下を過ぎ去っていく。

 ベレトは数百メートル程、歩く。

 すると、中へと入る門らしき場所が見つかった。

 門番二人は、除染作業にあたる為のスーツに身を包み、銃を構えていた。リクビダートル・スーツとでも言うのだろうか。


 汚染物質から、肉体を保護するスーツだ。

 ガスマスクらしきものを身に付け、頭から手の爪先、足元まで、隙間なく完全に身体はゴム製に見えるもので覆われていた。


「立ち止まれ、それ以上、近付くと撃つ」

「撃てばいいだろ? その門を通せ」

 門番達は、問答無用で、銃の引き金を引く。

 銃弾は、空中で停止していた。

 不自然な事に、弾丸は何かに命中したように、破損していた。

 門番達は、威嚇射撃を止めて、ベレトを殺害するべく銃を乱射する。全て、空中で停止していた。止まった銃を、ベレトはすり抜けていく。

 そして、門番二人の銃に触れる。

 彼は困惑していた。


「う、う、うご、動かない?」

「命を助けてやってもいい。俺は中に入ってから殺す。そう決めてあるから。お前らはまだ外にいるからな。……質問があるが、お前らはこの中の住民か……?」

 門番の一人が、思わず、混乱しながら話す。

「俺達は、中から特別に門を管理する者として、政府から選ばれて、此処にやってきた者達だ。政府から金を貰ってな…………」

 ベレトは二人から、銃を取り上げる。


「門は高いな、二十メートル以上ある。しかもご丁寧に粒子鉄線まであるのか」

 そして、彼は、地面に足を置く。すると、彼は地面の上に立っていた。そのまま、彼は何も無い地面を階段のようにして歩いていく。

 彼はそのまま、空中を地面にして、門の中へと入っていく。



「さて、どれだけ壊してやろうか?」


 民家があった。

 中の人間の何名かは、殺気立っている。

 銃で武装しているのが分かる。

 彼が入り込んできて、露骨に警戒……、いや殺意を持っている。


「俺は殺したくて仕方が無いんだ。いいよ、やってこいよ」

 ベレトは、懐から、二本の小刀を取り出す。

 彼の眼は、血に飢えていた。

 小屋の一つから、蛇が飛び出してきた。

 ベレトは、意表を突かれる。

 緑色に光っており、肌や鱗は漂白されたように白く、瞳は赤く、頭が二つあった。

 ベレトは、即座に背後に飛ぶ。

 蛇は二つに分かれた、赤い舌を伸ばす。


「そいつはラルドって言うんだ。此処の区域の守り神をしている」

 綺麗なソプラノの声だ。

 子供が出てきた。

 ボロボロの服を身にまとっている。

 顔は怯えと、哀しみが滲み出ていた。


 ベレトが攻撃性を削がれる人種…………。自分では無い、別の何かに怯え続けている顔をした人間……。しかも、子供……。

「なあ、あんたに頼みがあるんだ」

「何だよ?」

「あんたの眼はよく分かる。殺人鬼だろ? 外の傭兵達も同じだよ。ただ、あんたの場合、少しだけ毛色が違うみたいだけど、殺人鬼なんだろ?」

「そうだよ。それがどうした?」

 ベレトの声は裏返っていた。

 小刀で、首をはねる事に戸惑ってしまっている。意味が分からないからだ……。


「なら、依頼したい。殺して欲しい奴が二人いるんだ。俺達は少しだけ自由を獲得したんだ。でも、奴らは自由を与えてやる、って言って、住民達の多くを、さらっていった。俺達の区画も、もうじきやられる、時間の問題だ」

 子供は懸命で、そして、真剣だった。

 彼の瞳は、今、此処でベレトの気まぐれで殺されても構わないといった表情をしている、それよりも憎い存在がいるのだ、と。そして、その表情は、ベレトにとっても、もっとも苦手な態度の一つだった。


 ……殺しても、あまり面白そうじゃない……。

「ベリーアとトゥルーセの二人を倒して欲しい」

 子供は、ベレト刃物を持った手を握り締める。

「怪物退治を行って欲しい、奴らは…………、本当に人間じゃないんだ…………」



 ベレトが人間を殺害する目的は、自身のアートを創造する事だ。

 以前、栄光の手のメンバー達によって破壊された展示場は新たに作っている。

 人間の骨を収集して、それを加工する。

 そして、部屋に飾り立てる。

 それが、彼にとっての至上の喜びだった。


「何で、あんたに依頼したかは、あんたは本物の悪人じゃないって思ったからさ」

 十にも満たない子供は言う。

「節穴だな。俺は女を拷問も強姦もする。解体して凌辱する。何人もだ。人の命を何とも思っていない」

「何か目的がありそうだね」

 少年は、酒を進めていた。

 他の食べ物は、申し訳なくて、客人には上げられない、との事だった。

 ベレトは酒を飲む気分にはなれない、と答えた。


「お前には分からないかもしれないが、俺は最高の芸術品を創りたい。その素材が人間だってだけだ。だから……」

「ねえ、聞いて」

 少年はベレトの言葉を遮る。


「ベリーアとトゥルーセの二人は、最初、俺達、というか、別の区画の奴らを、高級奴隷にする、衣食住を保障する、って言ってきたんだ。でも、実際にはそうじゃなかった。見方によっては、確かにそうとも言えるかもしれない。でも、対価として、改造手術を要求してきたんだ」

 少年は喋り続ける。

「俺達は生きるのは苦しいけど、自分達で人生を勝ち取りたい。この前、ここの裏側にリンゴの木が生えたんだ。放射能汚染塗れで、きっと奇形の果実になるだろうけど。それでも、一歩、進めたと思っているよ」

 そして、突然、少年は発狂したように泣き始めた。

 ベレトは、彼の挙動が理解出来なかった。


「ねえ、お兄さん。放射能は怖くないのかい?」

「知らん。俺は銃だろうが、この辺りに撒かれていた地雷だろうが怖くも無い。そんなものは、この俺に届かない。能力を何重にも張り巡らせているからな」

「気を付けなよ、放射能は眼に見えないし、臭いも無い。それから、内部に滞留する。適切な処置を行う方法は発明されていない。能力者やモンスターはちょっと分からないけど、少なくとも、俺達普通の人間には対処不可能の毒物なんだ」

 少年は訴えるように話続けていた。


「ミュータント達は、放射能によって進化した人類らしい。全貌は分からないよ。だからこそ、気を付けて欲しい。それから、これ上げる。みんな持っている」

 ベレトは、変な機械を渡される。

 何か、まるで分からなかった。時計や体温計に似ているが……。


「なんだ? これは?」

「ガイガー・カウンターだよ。危険な場所には近寄らないでね。此処では一時間立っていただけで、死亡する区画だってあるんだよ」

「立っているだけで、一時間で死亡する場所だと?」

 さすがのベレトも、それに関しては、強い関心を持つ。

「此処はどんな場所だ? 俺はある組織の奴らが、此処を探査しようとしていると聞いて、そいつらを返り討ちにする為に、此処に潜入する事に決めたんだ。そいつらは俺の創った芸術品を奪ってブチ壊してくれたからな」

「…………よく分からずに来たのかい?」

「俺には関係無いしな」

「ムチャクチャだね…………」

 少年は、薄く呆れたように、それでいて、物悲しげに笑っていた。

「政府の連中は、どうも此処にミサイルか核爆弾を落として、スポーツ・スタジアムを作りたいらしいんだ。あんたは悪人かもしれないけど、この世の中には、あんたが理解出来ない程の悪人が存在するんだよ。あんたは女を凌辱する、って言ったけど、俺達は日々、政府の奴らから凌辱され続けている」

「俺は人間が屠殺場の豚にしか思えない」

「政府の奴らは、多分、村単位、国単位、人種単位でそんな事を考えている」

 ベレトは、苛立ちながら、黙る。

 この少年が、一体、何を考えているのか理解が出来ない。


 魔人は深呼吸し、心を落ち着かせると、あくまで自分のスタンスのみを話す事に決めた。

「俺は芸術品を創れればいい。栄光の手の奴らがそれを邪魔した。ミュータント共の骨には興味がある。どんな骨格をしているんだろう?」

「ねえ、後はカリス・ビーストに気を付けて、四足歩行の化け物で、口から毒物と炎の吐息を吐く。そして、もう一つ……おぞましい能力を持っている。奴はベリーアとトゥルーセ達の王様である、エーイーリーに忠誠を誓うモンスターで、番犬であり、乗り物らしいんだ」

 彼は、ベレトのドレスのすそをつかむ。

 どうしても、見せたいものがある、という素振りだった。

 男の子が、小屋へと案内する。


「カリス・ビーストの餌食になって、送られてきた人達だよ。エーイーリーが見せしめによく使うらしいんだ」

 ベレトは、中の人間を見て、息を飲む。

 みな、身体が土の人形へと変わっていた。

 どんな攻撃を受ければ、このような状態になるのだろうか?

 彼は小屋の扉を閉じる。


「もうお前の話はいい。さっさと先に進ませて貰う」

 ベレトは男の子の手を振り払う。

 少年はベレトが歩いて向かっていく方角に気付いて、叫んだ。


「あ、そこから先の地区に行くと危ないよ」

 ベレトは少年の話に耳を貸さないように決めた。


「レッサー・トロールって、俺達が呼んでいる住民達に会う事になるよ」

 猟奇殺人鬼は、しばらくの間、車のスクラップなどが積まれた場所の間を通り抜けていく。割れたガラス瓶なども敷き詰められている。

相変わらず、足にはサンダルを履いていた。

 壊れた電子部品などが積み重なるように山になっていた。


 地面には尖った鉄骨などが姿を覗かせている。

 サンダルのような靴をはき、剥き出しの素足をさらけ出しているベレトだが、そんな事は関係が無かった。地面に何があろうが関係が無い。


 突然。

 何かの群れが、何処からともなく、姿を現していく。

 そいつらは、全身にコブなどが生えて、顔や皮膚が醜く変形した灰色の肌をした住民達だった。彼らは獣の瞳になって、ベレトへと襲い掛かっていく。


 ……何だ? こいつら? 現地住民か?

 全身の灰色の肌から、青と赤の血管が脈打っている。

 走る速さは、犬程度だったが、人間だったような者達が、四足歩行で走り、歯茎を剥き出しにしていた。中には、女や老人らしきものも混ざっている。


 ベレトは、ナイフを一本取り出すと、それを宙に投げて、くるり、と、回す。

 かつて人間だった者達らしき怪物の首が、次々と飛んでいく。

 全部で何体いたのか分からない。少なくとも、ベレトは数十体は確認した。彼らはベレトが強い脅威であり、勝てないと分かると、すぐに身を引く。


 そして、首を切られたり、落とされたりした仲間達の死体へとむかっていく。

 そして、彼らは次々に仲間達の死体をつかんでは、取り合いをしながら、貪っているみたいだった。

 さすがの殺人犯も、この見た目のグロテスクさと、行為に対して、口元を押さえる程の、言い知れない、生理的嫌悪感に襲われる。


 おぞましい……。

 ベレトは、直感的に、これ以上、進む事のヤバさに気付く。

 少年の処に戻る事にした。

 気付けば、二千メートル程度は歩き続けていた。

 何度か、岩場を飛んだり、下りたりして、少年のいた小屋に戻る。

 少年は彼を待っていた。


「おい、何だ? あいつらは……?」

「放射能で頭に腫瘍が出来て、独自に進化を遂げた住民達……。俺達は近付かないようにしている。見たでしょう? 仲間の肉も平気で食べていた」

 ベレトは彼ら自体は、大して脅威に感じていなかった。

 問題は……。

 これから先、進んでいくと、一体、何がとび出してくるか予測がまるで分からない、という事だ。こういう場合は絶対に対策を立てなければならない。

 能力者同士の戦いをやってきたから分かる。

 対策を絶対に立てないと、簡単に死ぬ。

 油断慢心をしてはならない。特に自分の性格は、そういう部分がとても強いから、なおさらだ……。

 この場所は、このクレーターは、自分が想定している以上に、危険な領土なのだ。


「分かった、分かったよ、なあ、一通り、教えてくれ。お前が知っている、このクレーターの知識をだ。全部だ」

「うん、分かった。喜んで」

 ぼさぼさの頭をした少年は、満面の笑顔を浮かべていた。

 きっと、話を沢山、聞いて欲しいのだろう。

 ずっと、聞いてくれる相手がいなかったのだろう……。



「レッサー・トロールは可哀想な人達だよ。あんただって、しばらく高濃度汚染地帯に入れば、頭が熱くなって、思考能力が停止する筈だよ。彼らはもっと悲惨な形で頭や色々な箇所にダメージを負って、独自に進化を遂げた奴らだよ」

「…………、仲間の臓物も漁っていたぞ、取り合いしていた」

「そういう“種族”なんだよ。もう、人間じゃないんだ」

「そうか」

 ベレトは、男の子の自宅にて、ソファーの上に座っていた。小汚い場所だな、と思った。だが、マトモな清掃員も少なそうだ。


「正直、俺も腹が空いた。マトモな食べ物は無いのか?」

 彼は酒は飲まない、と断った。

「そうだね。何か食べるかい? もっともどれもこれも汚染されていて、セシウムとか、プルトニウムとかストロンチウムとか色々、身体に溜まるけど。外の世界の人には口に合わないかもしれない」

「知らねぇーんだけど、放射能ってそんなに危険なのかよ?」

 ベレトは溜まらず訊ねた。


「やっぱり……、事情は分からないけど、貴方は下調べをせずにやってきたんだね。この一帯の汚染数値は年間200ミリシーベルトくらいかな。比較的安全な場所である筈だよ。貴方は外の世界の人だから、言う義務を感じているんだよ。汚染物質を食べると、徐々に放射性物質が堆積していくから、癌や白血病、他のもろもろの病気にかかる確率も増える」

「実感ねぇな。毒ガスとかと違って、臭いも何もねぇぜ。車の排気ガスの方が、よっぽど気持ち悪い」

 子供は、困った顔になる。

 そして、必死の形相になった。

 何かを伝えたい、けれども、伝わらない、といった表情だ。


「甲状腺癌で半分近くの子供は死ぬ。癌は全身に転移しまくるし。みな、覚悟はしているよ。俺はクレーターの子だ。クレーターで生まれた奴らは、俺も含めて、運命を受け入れている。人は自分の運命を受け入れるしかないんだよ」

「それはお前の言葉か?」

「父がよく言っていた」

 ……自分以外の誰が死のうが、自分には関係が無い。


 ベレトは、面倒臭そうに、少年から、汚染物質の説明を聞いていた。ベクレルが放出量で、シーベルトが被曝量だと丁寧に説明していく。

 おそらく、彼の根底には、外の世界の者達に、話を聞いて欲しい部分があるのだろう。

 ベレトは、欠伸混じりに、彼の長い話を聞いていた。


 ああ、カメレオンの舌よりも長い……。

 こんな子供の話なんて、聞いていられない。ただ、それでも聞かざるを得ないのは、所謂、”ヤバさ”を感じ取っているからなのだろうか。

 無知は死を意味する。


「おい、ガキ。いいか? 俺は無政府主義者だ。お前らが敵視している、軍事産業の経済利益とやらにも、興味が無い。此処が絶滅収容所の一モデルだとか、俺には関係が無い。俺は他人の死には、何の興味も無いからだ」

 殺人鬼は吐き捨てるように言う。

 ぽつり、ぽつり、と。

 雨が降り出している事に気付いた。

 核の雨だね、と、少年は言う。

 ベレトはおとなしく、外を眺めていた。

 このクレーターの中は、やはり異常なのだろう。その異常さが分からない……。


「何が食べられる?」

「ウサギの肉はどうかな? 無頭ウサギの肉だけどさ。ねえ、図鑑で見たんだけど、外の世界のウサギは耳や眼があるんだってね」

「…………、おい、マジで何だか分からないから、止めておくぜ」

 そして、ふと、彼は思い至って、訊ねる。

「お前……、本当は外で育っていただろ? なんか不自然だ」

「…………、ははっ、やっぱりバレちゃった?」

「ガキ、お前の名前はまだ、聞いていなかったな。なんて呼べばいい?」

 少年は、満面の笑顔を見せた。

「シゼロイ。白蛇のラルドが無二の親友だよ」

 そして、少年は語り始める。

 外は少しずつ、闇に包まれていく。


「俺の親父は俺が産まれてから、此処を脱獄したんだ。でも、それから数年逃げ続けたけど、捕えられて、此処で公開処刑された。俺も此処に放り込まれた。親父は政治犯として此処に放り込まれて、政治犯として死んだんだ。母親は此処で出会った人だった、母の方は最後は悪性腫瘍が全身転移して死んだよ。俺は生まれて数年間は、世界を見れた。外の世界だよ。安全な食品も水も空気も手に入る。そういう場所だ。さっきは嘘付いてごめん。本当は本来のウサギの姿を見た事もあるし、牛があんなに何本も脚があったり、ニンジンやジャガイモがあんなに巨大でブドウみたいじゃないのも知っている」

 シゼロイ……、この少年の言葉は長い。

 今まで、誰にも聞いて貰えなかったのだろう。


「放射能に対抗する手段とか無いのか? 効く薬とか」

「残念ながら、人類が未だに開発していないっても聞いている。ミュータントになるとか、モンスターになるとか、サイボーグとかどうだろう? とにかく人間を止めるしかないって聞いているよ」

「とにかく、化け物になるしかない、ってわけか」

 此処にいる人間が、順化して言った姿は凄惨だ。

 だが、自分はあくまで自分だ。

 だから、自分の思考をする事にした。


 彼らの骨を、骨格を覗き見て、並べてみたい……。

 ベレトは、クレーターにいる人間全員をバラバラに解体するのに、どれくらいの日にちと労力がいるのだろう? というような事を考えていた。

 生きた汚物は消毒しても構わないだろう、別に。

 少しだけ、気分が高揚してきた。


 此処で、何を破壊出来るのだろう?



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