#005 宿命の決戦 4
「あったな、地下シェルター」
ベレトは、錠の鎖を切り付けて壊す。
扉は開いた。
そこは、冷たい死の臭いがしていた。
二人が地下シェルターと呼んでいたのは、トゥルーセの屋敷にもあった処刑場の事だった。何か問題がある人間を処刑する為の『井戸』へと通じる場所がある。此処はカジノ店だ。不正客や大きな問題を起こした客などは、地下へと処理されているだろうと、二人は踏んでいたのだった。
「『井戸』の中はどうだった?」
「トゥルーセのトコに侵入する時は、ミュータントや腐乱死体をいくつか見た。それだけだ。何か問題のあるものは、俺のマスター・ウィザードか、お前のフレイム・ウルフが遮断すればいい」
暗い洞窟へと続いていた。
「何かヤバイぞ、何かいる」
パラディアは、フレイム・ウルフを先頭に立たせて走らせる。
炎の狼は、即座に、二人のいる場所に戻ってきた。
二人は、息を飲む。
それは、巨大な口だった。
牙がびっしりと生えている。
眼球は見当たらない。
臭いや音で反応しているのだろうか。
唸り声だけを発していた。
そして、その音は確かに、一人の男の名前だった。
……ベリーア……。
「なんだ?」
直感的に、二人は理解する。
道を空けるように、この新たに現れた怪物は告げているのだ。
二人は洞窟の壁に張り付く。
その怪物は、二人の横を通り抜ける。
巨大な装甲に覆われたイモムシの怪物だった。
二人には興味を示さずに、何者かを追っていた。確かに、ベリーアと述べていた。怪物の正体は分からない。だが、その怪物は、この巨大賭博場のオーナーに何か遺恨がある事だけは分かった。
「どうする?」
パラディアが訊ねる。
「先に進んで、とにかく身を潜めよう」
†
ベリーアは、怒り散らしながら狼藉者二人を追っていた。
彼は人間離れした身体能力で跳躍して、一階のホールに戻る。
ベリーアは絶句する。
彼の楽園は炎上していた。
空からやってきた奇形の怪物が口から吐息を吐き、この建造物を炎の海にしていた。ホール内は火の海になっていた。
空飛ぶ怪物が翼を広げ、この場所を火葬場にしようとているのに、パチスロの催眠状態に掛かっている客の一部は、台の出す轟音の音と蛍光色の光の点滅によって、客達はパチスロを行い続け、まるで事態を把握出来ず、何事も無かったかのように台を睨み続けていた。くるんくるん、と、スロットの回転が店中で続いている。
炎が燃え移って、のたうち回っている男がいた、だが、そんな事態を気に掛ける事もなく、一部の者達は未だに台で打ち、他のものが何も見えず、スリーセブンが出るのを待っていた。更に、空の災厄が口を広げ、二撃目の火炎放射を放つ。
†
ベリーアは一人、外に出た。
彼の栄華は、空飛ぶ災厄によって焼き尽くされていく。
彼のボディーガード達も炭化していく。
ベリーアは泣き、そして笑っていた。
そして、同時に、自分の命がまだある事に気付く。空飛ぶ怪物は、彼を狙っていない。ベリーアはひとまず、この場から逃げようと走る。
「ああ、ひひひひ、あああ、ひひひひ。金庫、金庫も燃えちまったよなあ。沢山、沢山、金を金を貯めていたのに」
彼は泣きながら笑っていた。
空飛ぶ怪物は燃え盛る炎を眺めながら、辺りを巡回していた。何かを、あるいは誰かを探しているみたいだった。
突然。
炎の中から、新たなる怪物が現れる。
それは、巨大な装甲を纏ったイモムシだった。
イモムシは、ベリーアの方を向いていた。
「おい、なんだよ……?」
彼は地面に尻を付ける。
「一体、何なんだよ……?」
イモムシは、彼へと向かってくる。
ベリーアは涙と鼻水で、顔がぐしゃぐしゃになる。
†
ベリーアの胴体を食い千切った巨大イモムシは、しばらくして、役目を終えたとばかりに、元来た炎の中へと戻ろうとした。
それを見て、奇形のドラゴンは激情に駆られ、イモムシの怪物を襲撃する。
二対の怪物は、しばらく互いに尻尾や鉤爪などで激突していた。ドラゴンは炎を吐く、装甲を纏ったイモムシは耐熱の皮膚を持っているのか、まるで炎の攻撃を受け付けなかった。
だが、最終的に勝利したのは、ドラゴンの方だった。奇形の竜は、イモムシの身体をバラバラにした。だが、イモムシは死の間際に、全身から毒の腐食ガスを放つ。
それを浴びて、奇形のドラゴンは燃える炎の中へと落下していく。そのまま、ドラゴンは沈静化する……。