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クレーター  作者: 朧塚
12/26

#005 宿命の決戦 1


「ベリーアには、エーイーリーの名前は迂闊に出せなかったわねー」

「ああ、もう一度、奴に会って、交渉を進める必要があるな」

 ゴードロックは、軍帽を脱いだ後、ビールをあおっていた。

「お前は酒は飲まないのか?」

「私は焼酎がいい。此処には無いみたいだし」

二人はバーのテラスにて、話し合っていた。


 二人の会話は、住民達に筒抜けだったが、誰も聞き耳を立てる者はいない。住民達にとっては、意味の無い情報なのだろう。

 ベリーアとの交渉を終えた。

 数日後に、武器は調達出来るだろう。


 自分はクレーターの住民達が武装する事を考えている。そして、彼らが外にいる傭兵達の包囲網を突破出来れば僥倖物だ。

 このクレーター自体の存続を許してはならない。

 それは果たして正しい事なのだろうか?


「なあ、俺は正しいのかな?」

「…………。迷っているのね」

「ああ、分からない。解決方法が分からない。どうすれば良いのだろうな……」

 未だ、答えは見つからない……。


 ベリーアに届けたものは、この街の武装勢力達に行き渡るだろう。……だが、それも失敗に終わるかもしれない。ベリーア個人は此処に留まるだけに終わるかもしれない。……なら、ゴードロックのやった事は、このクレーターという社会システムによって廃棄された場所において、なお更に酷い格差社会を強化させるだけの行為に過ぎない。


 だが、ベリーアと交渉する事によって、エーイーリーの信頼を勝ち取れる。

 ベリーアを通じて、ゴードロックの事は、既にエーイーリーの処に向かっている。

 自分の意思によって、行動した事の責任を果たす為には、更に、行動するしかないのだろう。


「やはり、エーイーリーと会う必要がある……」

 そう、このクレーターの王である、エーイーリーと会わなければならない。

 調査は終えている。

 ベリーア個人は教えてくれなかったが。


 住民達からの聞き込みを行い、エーイーリーのいる場所は調べ終えている。その事に対して、ベリーアはゴードロックに不信感を抱いていない。

 何故なら、エーイーリーの場所は、多くの住民が知っているのだから……。


「後はリクビダートル・スーツが二着必要ね」

「ああ、それも注文を終えた。到着を待っている」

「スーツはどれだけ汚染物質を、防備出来るのかしら?」

「完全では無いだろうな。だが、最新式らしい。俺達はこの指令を終えた後、病院で癌検査などをする事になるが……。覚悟は必要だろうな……」

「此処に来た時点で、覚悟は出来ているわ……」

 エーイーリーは、クレーターの最奥に住んでいる。

 数多くの住民が知っている、日々の生活の雑談にも、その場所の情報は入ってくる。

 そう、その場所は、ある種、この人間廃棄場の象徴的な存在にもなっていた。

 数十秒立っているだけで被曝死する、放射能汚染地帯。

 そんな場所に、エーイーリーは宮殿を構えていた。


 汚染耐性があり、口から、人間を土へと変える吐息を吐くカリス・ビーストという巨大な化け物が番犬をしているらしい。

 ミュータントの大群も巣を作っているらしい。

 それだけの危険区域に住んでいる為に、誰もエーイーリーに反逆を企てようとは思っていない。だからこそ、みな、このクレーターの王の居場所を知っているのだ。

「それにしても、此処は慣れないな」

「私もね、でも、此処の異常性に麻痺してくるんでしょうね」

 当然、此処も、程度の差こそあれ、放射能汚染区域だ。


 つねに、相当数のベクレルの放射能が漂っている。

 食べているものも、飲んでいるものも、核廃棄物レベルの汚染物なのだ。

 


 ベレトはパラディアから借りたスコープを手にしていた。

「巨大カジノで何をやってきたんだろうな?」

 ベレトは、パラディアに訊ねる。


「ああ、あそこの頂上にベリーアが住んでいる。交渉事でも進めたんじゃないのか?」

 つい、昨日の事だった。

 バーのテラスにて、標的である二人は酒を飲み、夕食を口にしていた。

 ベレトは、スコープを相棒に渡す。

 彼からは、相当数の憎悪が滲み出ていた。以前、ゴードロックのせいで、ベレトは自ら片腕を切断し、能力によって接合し、家を破壊された事がある。それを忘れた事は無い。


「今だな」

 先に口にしたのは、パラディアだった。

「ああ、今だな」

 ベレトも、同じように口にする。

 パラディアは楽しそうだった。口笛すら吹いている。


「俺は奴を殺しに行くぞ」

「隙を見て、援護する」

 殺人鬼は、長めのナイフを取り出す。

 ベレトは崖を降りて、走りながら、手にしたナイフで、クレーターの住民達の首筋に切り込みを入れて回る。ボロ布を纏った中年男の首が飛び、売春婦の上半身と下半身が分断され、皮膚が変色した老人の臓物がこぼれ落ちる。彼らはしばらくの間、ベレトの“命を固定する能力”によって、“死ねず”に、破壊された肉体のまま、自分に起こった事態を理解出来ずにいるみたいだった。能力の効果は自然と解ける為に、彼らはいずれ死ぬ事になる。


 パラディアも便乗する形で、バイクに跨りながら、腰元から取り出したビーム・サーベルによって、クレーターの住民達の首をはね飛ばしていく。

 このライダー・ジャケットの男も、愉快犯的な無差別殺人鬼の素質があるみたいだった。

 そうやって、二人は殺戮を繰り広げながら、突如、軍服姿の男と、巫女姿の女の前に立ちはだかった。

「久しぶり、軍人野郎、殺しに来た」

 ベレトは、血塗れのナイフを舐める。

 ゴードロックは、驚いた顔をしていた。


「お前は…………」

 突如現れた訪問者に、標的は言葉を失っていた。



 ベレトは何故か、切り離されても、動き続ける舌や眼球や心臓を手の中で転がしながら、怨敵へと、その中の一つを放り投げる。

 それは、未だ動き続け、何かを喋ろうとしている少女の生首だった。


 ゴードロックはバスケット・ボールのパスように、それを受け取って、数秒の間、困惑し、そして激昂し始める。

 猟奇殺人犯は、せせら笑っていた。

 ゴードロックは生首を静かに地面に下ろす、少女は混乱していた、次第に発狂の表情へと変わっていく。未だ、生きている。……死ねない。死ぬべき筈が、死ねない……。


「ベレト…………っ!」

 マスター・ウィザード、それが彼の能力だった。

 あらゆるものを空間に固定する。

 そして、命も、死にゆく筈の命も、終わるべき苦痛も、彼の能力によって“固定”する事によって、維持され続けるのだ。


「ベレト、俺はお前を“悪”として、その象徴として、決して赦す事が出来ないんだ。俺は、お前を始末する事ばかりを考えてきた」

 軍服姿の男は、声高に叫ぶ。

 少しだけ精神のバランスを崩しているかのようだった。

 ベレトの顔を見ると、ありとあらゆる怒りがこみ上げてくるのだろう。


「はあん? 愛の言葉をありがとう。くくっ、嬉しいな、嬉しいよ? なあ、軍人崩れ野郎、テメェは戦争で人を殺してきたんだよな? 何故お前が良くて、俺が悪い? 俺が悪でテメェらは善人なんだ? 俺には理解が出来ねぇ、言ってやるよ、テメェは鏡を見るように、俺を殺してぇんだ、愛しい愛しい自分の顔を塗り潰すんだ、鏡の自分に接吻するようなものだぜぇ?」

 猟奇殺人鬼は哄笑する。


「ゲスが。クズがっ!」

「お前自身も、本当はそうかもな?」

 くるくる、と、美しき猟奇殺人鬼は、小刀を回していた。

 軍服姿の男は、声にならない慟哭を上げて、拳銃の安全装置を外す。


「『リトル・プリンス』」

「『マスター・ウィザード』」


 お互いに、自身の能力を行使する。

 ゴードロックは、アサルト・ライフルを何処かから取り出していた。

 対する、ベレトは、空中の何も無い空間に、小刀を置いていく。


 クレーター。

 そこが、両雄の決戦の舞台になる事になった。

 周りの者達は、二人の異様な雰囲気に飲まれ、観戦を決めようとする者と、巻き添えを食らわないように、その場から逃げる者の二つで分かれた。

 ゴードロックの方は、そんな観客を見て嫌そうな顔をしていた。


「互いに全力で戦おうぜ? 殺し合おう、愛し合おう、抱擁するんだ。この俺は以前よりも、より自身の能力を使いこなせるようになっているぜ? つまり成長してやがるんだな!」

「俺も貴様を始末する為に、全力を持って挑むっ!」

 ゴードロックは、アサルト・ライフルをベレトのこめかみに向ける。

 殺人鬼は露悪的に笑っていた。


「そんなオモチャじゃ、この俺を殺せねぇよ!」

 ベレトは、小刀をくるくると回していた。そして、ゴードロックとの距離を測っているみたいだった。どの距離で踏み込めば、致命傷を与えられるのか、と。

 軍服の男は、何か種のようなものを空に向かって投げる。

 それは、彼の手を離れて、元のサイズへと戻る。

 グレネードだった。


「みな、離れろ。俺はこいつを……殺すっ!」

 ゴードロックは叫ぶ。



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