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クレーター  作者: 朧塚
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#004 聳え、高く見下ろす空の上で。

 高いビルが聳え立つ、街並みだった。


 栄光の手・グレート・オーダー支部の花鬱と、栄光の手・バーバリアン支部のガス・カル、そして、ゴードロックの友人カディアは、あるビルの一つに入る事になった。

 その人物は、面会に対して、快く受けてくれた。

 椅子に座っていたのは、髪を短く刈り、ぴっちりとした背広姿の男だった。


「此処は更なる建設を予定しているんですって」

 そう言って、C電子工業、ウェブ会社の若社長である、ウキヨは、柔和な笑みを浮かべていた。


「僕、投資しているんですよ。原発には、ね。あ、それと、僕の創ったSNSが今、大きな収益を上げていて、広告代理店からよく仕事の依頼が入ってくるんです」

「はあ、成る程。私もそのビジネスに乗っかりたいですね」

「いつでもご参加をお待ちしておりますよ」

 カフェテラスだった。

 三人の男達が、コーヒーを手にしていた。

 武器商人であるウキヨと、ゴードロックの友人であるネゴシエーターのカディアは、他愛の無い雑談を行っていた。


 部屋の外には、それぞれのボディー・ガードが待機していた。

 ウキヨ側は、腰元に拳銃を押さえているスーツ姿の男が佇んでいた。

 栄光の手側は、花鬱が赤い着物姿でキセルを吹かせていた。

 ビルの62階だった。

 此処のテラスからはプールが見え、ブランド物の水着を付けた男女が遊泳を楽しんでいた。

 ウキヨとカディアの二人が、和やかに雑談をしているのを見て、面白くないと思ったのか、同席していたもう一人の男は話に割り込む。

 その男は、ギラギラと、他人を見ていた。眼の奥に深淵を抱えていた。


「率直な意見なんですがあ。ウキヨさんは原子力プラントに関してどう思われます? 俺は火力発電の方がコスト的に優秀だと思いますが」

 バーバリアン支部のNO2である、ガス・カルは、単刀直入に訊ねる。

 この男は、支部において、もっとも危険な存在だ……。


「ガス・カルさまですね。僕は貴方の著作を読んでおります。U大学経済学部卒業。元エコノミック・ヒットマンで、その後に、コミュニストに転向したと……」

「まあ、今は更に裏稼業をやっておりますよ」

 五十に手が届く男は、二回りも下の男に、くだけた口調で、牽制するように話し掛けていた。


「僕は原子力は必要だと思います。何よりも儲かりますし、各国が核武装も出来る。我々にとって良い事ばかりですよ」

「TL国の原子力発電所のメルトダウンと、SI国のメルトダウンに関してはどう思われますか?」

 ガス・カルは敬語だが、何処となく言葉に獰猛さを孕んでいた。

「大丈夫ですよ。制御可能ですし。石棺で封じられる。それに抗癌剤の開発も行われていますし、それで更に医学界が儲かる。良い事づくめですよ」

「あー、そうか。とにかく金儲けが好きなんですなあ。市民が何百人、何千人単位で苦しんでいるそうですよ。暴動も起きている」

 ウキヨの言葉にも、心にも感情が見えない。

 ただ単に、事実を伝えているだけのようだ。

 カディアは心の中で、冷や汗をかき始めていた。

 あまりにも、ガス・カルは、露骨に聞き過ぎる。聞き過ぎている。

 此処から、帰れるか分からない……。

 いつ、銃の引き金が引かれてもおかしくない……。


「全然、問題ありません。それらの国の政府は、我々が資金を投じれば、メディアを使って汚染を隠してくれましたし。市井の人達が僕達を憎悪する事なんてありませんよ。その国の政府や首相を憎みますから。とても良い事尽くめです」

 ウキヨは、まるで一人息子の誕生日パーティーを祝うかのような口調で、話を続けていく。

 それを聞いて、ガス・カルは大笑いを始める。

 そして、砕けた口調になる。


「あー、そうか。俺はなあぁ、貴兄のような人間は好きだぜ。俺と同じような人でなしの臭いがしてなー」

「まあ、苦しむのは、我々じゃありませんから。とても良い事です」

 カディアは、心臓が鳴りっぱなしだった。

 この二人は、本当にまったく、心を微動だに動かしていないのだ。

 人間を何とも思っていない。……あるいは、自分よりも下の階級の存在があって、当然であるという思考を持っている。……サイコパス。そんな言葉が頭に浮かんだ。

 カディアは、人の心の感情の動きを読む能力を持っていた…………。

 この場にいる者達の心境が、ダイレクトに彼の脳の中に、周波として、あるいはイメージの映像として入り込んでくる。


「僕の方から貴方にご質問があります。何故、政府公認の殺し屋から、共産主義革命のテロリストに転向したんですか?」

「社会的に抹殺したり、毒殺したりするよりも、爆弾で殺す方を気にいったからだよ。堂々と銃や手榴弾を持つ方が、俺の性分にあった。その快楽に比べれば、どっち側に付いたって、どうでもいいじゃねえか。俺はより楽しめる方に付く。それだけだ」

 そして、ガス・カルは、直球の言葉を口にする。


「クレーターの件について、噛ませてくれないか?」

 ガス・カルは訊ねる。


「ああ。すみません、そっちの方はもう”連合”の方で、決まってしまって。240.……いや、700とも聞いたかなあ? 実験用も含めてミサイルとナパームで窪地にする予定なのですが。連合がさっさと決めてしまって、汚物洗浄する事になったんですね。実は、僕も噛みたかったんですが。……僕の方では、クレーターを亡ぼした後に用意出来る、スポーツ選手を探せなくて…………」

「そうか、それは残念だったな」

 ウキヨは小さく溜め息を吐く。


「正直な話、面白くないですね。まあリアルタイムで花火の映像は見るつもりですが。僕は投資出来なかった」

「なあ……、情報によると、今、クレーター内部で抗争が起きていて、銃火器が大量に必要らしい。正直に話そう。俺の仲間は、クレーターの住民達に武器を売っている。それに関してはどう思う?」

 ウキヨは眼を輝かせていた。

「ああ、面白いじゃないですか。儲けられる時に、儲けるべきです。……もしよければ、僕も介入して良いですか?」

「正気か?」

「ええ、もちろん」

「世界中の大企業、経済団体連合を敵に回すかもしれないぞ?」

「面白いじゃないですか。僕の会社を大きくするビジネス・チャンスですよ! 是非、やりたいなあ。なんなら、クレーターの方々に、核兵器を売ってもいい」

「やはり、貴兄は俺と似ている。”面白き事なき世を面白く”。クレーターを平地に耕してやるのも良いが。それじゃあ、瞬間の快楽だもんなあ。残しておいた方にメリットがあると、俺も踏んでいる。なあ、俺はクレーターの奴らと経済連合の社長達の戦争の方を見たいんだ。そうすれば、もっと大きな花火が上がるかもしれないぜ?」

「ああ、とても良い事ですね。処でご不快でなければ、今、HG国内での内戦の映像を見ませんか? ドローンに取り付けたカメラからリアルタイムで観れると思うので」

「是非、観せてくれ!」

 カフェテラスの天井付近に付いてあった大型TVのスイッチが入る。

 そこでは、軍事ヘリから大量のナパームが市街地に撒かれている処だった。

 住民達が火達磨になり、蜂の巣にされていた。


「あれは、僕の会社が支援している部隊なんですよ」

「良い事をしているじゃねぇか。ほら、あの地面に這いつくばっている奴らの顔を見ろよ、旧装備で最新式に勝てると思っているぜ」

「愚かですね」

「ははっ、愚かだな。さっさと諦めちまえばいいのに」

 ガス・カルは濁った笑い声を上げていた。

 歓談は和やかに終わった。

 カディアは、他のみなに見えないように溜め息を吐く。

「処で、ガス・カルさん。貴方は癌に侵されて、転移も見つかっているとか……」

「煙草のやり過ぎでな。医者にはかからないよ。俺が最近、入信した宗教によると、病気を自然の恩寵と捉えて、ありのままに任せるっていう戒律なんだ。だから、その宗教のルールに従って、俺は癌を治療しない。病気で天寿をまっとうするつもりだ」

「そうですか……、僕としては痛ましい事ですが……」

 ウキヨが、本当に、ガス・カルの心身を労わっている事に、カディアは気付く。……この両面価値を、彼はまるで理解する事が出来なかった……。


 ……初めて会った、敵かもしれないガス・カルの命は、この若社長にとって、他国の、あるいは自国の数百万の市民の命よりも、はるかに重いのか……?



 カディアは蒼白な顔をしていた。

「まあ、正義なんかじゃ、世の中は動かないって事だな」

 禁煙中のガス・カルは、レモン味のキャンディを口の中に放り込む。

「わたしは、時折、貴方達のような人種を見ると、首をくくりたくなってきます……」

「気にするなよ。短い人生、もっと楽しもうぜ?」

 元殺し屋の、元革命家は不敵な笑みを浮かべていた。

 花鬱は、相変わらずキセルから煙草を吹かして、携帯灰皿に灰を落としていた。

 紫煙が灰色の空に溶けていく。

「本当に此処はバベルの塔ばかりねぇ」

 花鬱はふうっ、と、煙を吹かす。


 巨大な高層ビルが大量に並んでいた。


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