禁じ手!その6!トキトメ!!
「なんのためにー生まれてー.」
そんなことを問いていたアニソンがあった。子供のころは何気なく口ずさんでいたあの歌詞が、今では重くのしかかる。
「俺は何のためにここにいて、何のために生きているのか…」
こんなことを考えている俺のことを世間は高2病と呼んだり、意識高い系とか言ったり、バカにするみたいだが、そんなことを気にできないほどに、俺はこの問いから逃れられないでいた。
そんな風に考えながら、俺は退屈な教科書を眺めた。傍らでは先生が怒鳴っていた。
「おい!宿題忘れるとは何事だ!こないだも忘れたような!?お前は!」
怒鳴られているクラスメイトの九条は、肩をすぼめながら今にも泣きそうな情けない顔をしている。
「す、すいません….兄弟の世話をしていて….」
「そんな言い訳するじゃない!! これはお前のために言ってるんだぞ! 勉強して、いい成績を取って、いい大学に行くためにな!良い大学、良い就職!大学で人生が決まるんだ!人生の幸と不幸が決まるんだぞ!!」
俺はこの言葉に聞き飽きていた。程度の差こそあれ、多くの大人がこれを繰り返していた。その先に何があるのか。
俺は少しイライラしていたのかもしれない。思わず席から立ちあがった。
「先生。ちょっといいですか?」
「なんだ!渋崎!今、説教中だ!」
「だからですね、先生。それ、俺は納得いかないんですよ。勉強するのはいい大学に
入るためって…本当にそうなんですか!?」
教師の浜崎は嫌悪感を明らかにする。
「学年一位だからって調子に乗ってのか!?渋崎! 良い仕事をとっていい収入を得て、やっと安定した幸せな生活をだな…」
「それが間違ってると思うんですよ!だから俺は…」
そこまで言って言葉に詰まった。奴らが間違ってると思っても、その先の言葉が見つからない。いつもそうだ。いつも頭の中で繰り返している問答を口にしただけだ。
「おい!渋崎!お前にも説教が必要みたいだな!」
教師浜崎がずかずかとこっちに向かってきた時だ。
「禁じ手!その6!トキトメ!!」
クラスの中心でその美少女、安中は叫んだ。まるで自分が魔法使いでもあるかのように。
前から変な奴だとは思っていたが、ここまでの変人とは…
俺が安中のほうを向くと、黒いきれいな長髪をなびかせて笑顔をこちらに向けて、舌を出した。
「時!止めちゃった!」
その時、周りを見ると、クラス全員と教師を含めて全員が動作を止めていた。
「え…これってどういう…」
「じゃあ、行こうか!こんな退屈な世界を抜けて、異世界に!!」