挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

無気力令嬢

無気力令嬢の悪友の話

作者:大門 霖
長いし、間が空いてしまいました。
無気力シリーズ短編をあげたいのにスランプと忙しすぎて書けない状況が続いてました。
何個かありますが先に書き終わったのであげちゃいます。
うう、稚拙すぎて…泣けます。手直しするかもしれません。
「お父様、かんがえなおすことをおすすめしますー。」


「いいやダメだ!かのご令嬢が処刑台に送られ逃げ出した今、お前には必要なのだ!」
「だからって、奴隷はないのですわあ〜」



ある人の国で押し問答している影が2つ。

そのうち一つが私、ルーツィア・リリノイ、リリノイ伯爵家の長女です。
今奴隷を売る店の前にいます。

なぜ私が、いや伯爵である父が、奴隷を買わなければならないかというと事情があります。
私達リリノイ家が懇意というか、家族ぐるみでおつきあいしていた家の、幼馴染であるご令嬢が処刑台に送られる事態になりました。

ええ、冤罪です。
頭がよわいバカ王子が性根の腐ったビッチに引っかかり、今まさに城が腐り落ちようとしています!

しかも腹立たしいことに、処刑されかけた令嬢の弟君、私の婚約者もそのビッチ巫女の取り巻きになりまして、さらに実の姉を手ずから貶めたようです。

極め付きに私との婚約破棄。

ファイアーボールを放ちましたよ〜、全く。

婚約者の家の父君は、この数日で面変わりしてました……。
お察しします。将来有望な娘が処刑台。バカ息子が取り返しがつかないバカをやらかしたのですから。

しかし、朗報もありました。
はらわたが煮えくり返り、王城を魔術で吹っ飛ばしてやろうとして家族全員に止められている途中、我が親友の公爵令嬢が脱走したと知らせが届きました。

一族全員で拍手喝采です。
父も母も兄も私もあの子が大好きなのです。

いやあ、流石です。
彼女が生きてればなんとかなるのですから。

すぐに助けに行こうとしました。
しかし、私達の家が彼女の家と厚いつながりを持ち、彼女自身と絆があるということは、周囲によく知られていました。

彼女が婚約していたのは王子です。
つまり私の家は自国の王家に睨まれてしまったのです。
ええ、監視されてました。
この状況で彼女を探すのは彼女の居場所を知らせるも同然。
泣く泣く諦め、私達は来るべき時、すなわち王家の崩壊に備え、動き始めました。

もし、バカ王子の父王がいたら、と思うのですが、病を患い療養中。
城に戻りたくても戻れず歯がゆい思いで、国外にいます。

ああ、なんでこうなってしまったんでしよう……私は、悔しかった。
本当悔しかった。
何のために前世の知識があったのか……。

私は、あまり詳しいことはおぼえてないけど、前世がありました。
日本という国で、女で、ある漫画にはまってました。
この世界は、その漫画の世界にそっくりだったのです。
その知識を使い、親友である彼女にできる限りのアドバイスをしました。
悪役令嬢のはずの彼女は思った以上にしっかりしたかっこいい女の子でした。
めんどくさいと言いつつ、多分人間としてかなり面倒な部類の私の友達やってたんだから、十分なお人好しです。

だから大丈夫だと思っていたんだけど……。

結果がこれ。


さらに、状況は悪くなるばかり。
私の家には、圧力がかかり、誰も彼も忙しく、そして不毛な争いが外からやってきます。
王子が実権を握ることに利益を得る者が、好き放題動き、収めるはずのものが罰せられます。
私はしがない魔術師です。
政治はわからない、だから偽名と変装で必死で魔法ギルドで依頼をこなす日々。
ひたすら資金を稼ぎます。

そんなある日、兄が帰り道に何者かに襲われました。
撃退したものの、兄は怪我をしてしまいました。
……まあ、襲ってきた方が重症でしたが。

これはまずい。

家族は、考えました。
そして、つぎに襲われるとしたら誰だと考えたら……。

そう、私です。

因みに私が襲われたらどうなるかというと、婚約破棄で結婚が不利になったうえ、暴漢に襲われたと噂が経てば不利どころじゃない。ただの襲撃でも色々尾ひれがつき、完全に不良物件扱いです。

まあ別に結婚なんて、今回の件で夢持てないんだけどね〜。

しかし、家族は違う。
私が結婚しなくて心配及び迷惑をかけるのは、家族です。

うん、本当申し訳ないですよね〜。
そもそも伯爵家の一員なのに、魔術師を志し、屋敷の離れで研究に没頭。
友達なんて、あの子しかいなかったし……。

今の私が権力的には一番弱いのです。
魔術でお偉いさんをぶっ飛ばしてしまえば、一気に国家反逆罪。

家族の認識ではぶっ飛ばすことができる前提でした。

うん、それについてはツッコミはしません。
もと婚約者に火の玉ぶち当て、全治1週間の怪我させましたしね!


伯爵家としては、私に護衛を雇うべきだと思いますが、しかし、現状では敵が多すぎる。

金で雇った人間は、より金のある人間につくでしょう。
だから、魔術で逆らえない奴隷が出てくるのです。

「本当に考え直して〜お父様あ。」

「ダメだ。外聞は今更気にすることでもないし、状況を知る家々は、何をしたいかわかるだろうよ。ただ、お前は放置するには危険すぎる。」

私の腕をむんず、と掴み引きずって行くお父様。

「いーや〜」

マジで助けて〜。

「お待ちしておりました。」
「すまない、娘が駄々をこねてな。」
「ふふ、お客様のような身分の高いお方のために、選りすぐりを揃えました。お嬢様もきっと気に入るでしょう。」

にやあ、と笑う、怪しい黒いメガネの年齢不詳な感じな男。
あ、 怪しい!これぞ奴隷商って感じだわ〜。

我が国には、奴隷というものがある。

国レベルで、獣人やら、エルフやら、ドワーフやらと仲悪いのです。
東の樹海にいるらしい魔族は流石にないけれど、隣の国にいる、獣人やエルフたちが、捕まったり、借金のカタにとかで、人間が優位な我が国にながれて、奴隷として売られるらしいです。
元日本人としては、獣人やらエルフやらドワーフとか萌えるんだけどねえ。
奴隷はなんか一線超えます。やめてほしい。


「お父様、私は……」
「さあ、えらびなさい、家にも2人買うからな。お前のと合わせて3人だ。」
「…………」

逃げられそうもありませんでした。

「こちらの檻になります。何か希望はありますか?」

ニヤニヤしながら奴隷商は檻を示す。

檻には、4人の獣人とエルフがいた。

第一印象、目がしんでる……
しかも全員男か、残念〜。

「こちらが当店で1番まっとう……いや、上等な奴隷です。」

まっとうって……、
つまりこれがギリギリか。

「はあ、しようがありませんわ〜、彼らは何ができるのですかぁ?」

腹はくくりましょう。
もう従者が増えるものと考えるだけです。

その言葉に首を傾げる奴隷商。

「ううん、珍しい、大抵は見た目で選ぶものですが。」

「我が家を取り巻く状況は知ってるでしょうに、見た目だけのやつ入りませんわ〜、まあ、それを含めてこの4人ですのよね〜。」

「ええ、その通りでございます。お嬢様。」

にやあ、と不気味に笑う奴隷商。
うわ〜こっち見てる。

「私も自分のは自分のお金で買います。お父様は予算内の3人買ってくださいませ。」

「わ、分かったよ。ルーツィア。戦力は多い方がいいものな」

「はい。なので、私につけるものをこの場で選定いたします。奴隷商、プロフィー……紹介していただけますか?」

うん、ちょっと前世が出てきました〜……。
この世界の言語は、カタカナ系?英語系が不思議とわからない部分があるみたいですね。
テーブルとかストーブとか、家事や家具とか日常で使う道具とかはわかるんですけど〜。未だに法則がわからないんですよ〜。

「ええ、お嬢様から一番近いエルフが24歳、地の魔術を使います。
隣は猫獣人、21歳で暗殺術と雷の魔術を使います。
その隣が犬獣人、22歳、剣術と炎の魔術を使います。
最後は、その、申し訳ないのですか……引き立て役と言いますか……熊獣人。27歳で、その、魔力なしのため魔術を使えません。」

「魔力を持ってないんですかあ⁈それは最高ですわ〜!」

「ええ、すみません今すぐ変えま……はい?」

嬉しそうに笑う私に、奴隷商は不思議そうにまた見る。

この国は、魔術が使えれば使えるほど優位。
そもそも魔力を持たない人間の方が少なく、そのため、魔力を持たないものは働くにしても結婚するにしても不利な傾向があります。


なぜ私がそんな人に喜ぶかというと……ふふ〜諸事情があるのですよ〜諸事情が。

「その方とお話ししたいのですが、お部屋借りられますか〜?」





奥の小さな部屋に私は通された。
そこに彼がいた。

「はじめまして〜、ルーツィア・リリノイと申します。」

黒い硬そうな毛並み、2mを超える背丈、そして腹に響く低い、声。
でかい熊がボロいズボンを履き、椅子に座っています。
上着は入らないみたいですね……。近くで見ると思った以上にでかいです〜。


「……グレアジアだ。……熊の獣人で、元傭兵だ。奴隷に丁寧に話さなくていい。」

まあ、声が渋くってかっこいいです!
目の前の椅子に腰掛けています。
拘束されていないのは、奴隷紋が体に入ってるからでしょう。

「あら〜。じゃあ遠慮なくー。単刀直入に言って、私個人の護衛を求めていて、貴方は条件の一つに合うので、面談させてもらってるの。」

「……他を当たれ、魔力がない俺には無理だ。」

暗い、顔。
多分そうやって引き合いだされ、迫害されてたんでしょう。
しかし、私は笑います。
そんなもの関係ないんですから。


「そこなの。私は、魔術師だから、自宅の離れで魔術研究してるんですけど、最近我が家は物騒で、刺客がたまにいらっしゃりまして、自衛のための魔術を屋敷中に張ってるの。だけど〜私の研究部屋には張りすぎてしまって〜」

そもそも魔術師を多く排出する家だし、元々仕掛けは多いのだけど、この度の出来事で私の趣味が爆発し悪化しました。
まあ、お父様もお兄様も魔術師であり騎士だし、お母様は要領が良い人なので家族は平気なんですがね。
でもまあ私の研究室には入りたくないみたい。
危険と判断されました〜。

「……まさか、下手に魔力があると……」
クマの顔なのに青ざめたことがわかりました。

「そうそう、私以外の魔力の自然放出や魔術を使うと爆発するのよ〜。それで昔元婚約者を怪我させてしまってから、魔力が少ない友人しか訪れてない場所なの。けれど、屋敷の防御の要でもあるからね〜」

元婚約者が5年くらい前その件でやらかしましてね。
あの方私に対して大抵やらかします。婚約破棄ってむしろよかったかも。

あそこがなくなるとついでに張っている国の結界も無くなるのでやばいんですよ。
本来ならお父様の役なんですが、私の方が研究者として成果をあげてるからってことで押し付けられました。

「それで、魔力なしの俺を……」
「ええ、私の魔法で死なれてしまうのは寝覚めが悪すぎですし。何より魔力なし!つまり魔力がある人と別に特化せざるを得なかった、ということは私たち魔術師の元で働くのに強みなの。誇っていい!」

おっと、力が入ってしまいました。

私がここまで魔力なしにこだわるのは友人のこともあります。

あの唯一の友人も、魔力が少ない体質だったのです。
通常生きるのに不利なのだけど、持ち前の性格の悪さ……じゃなくって効率の良い人身掌握術で、王子の婚約者としての勤めを果たしていましたからね!
まあ、めんどくさがりなので荒っぽいことはお兄様や私に押し付けてましたけど〜。

そこまで思ってると熊獣人、グレアジアが目を丸くしているのが見えた。

「なによ〜、文句あるの〜惚れたとか言わないでね」

「……いやそれはねぇけど」
ないんですか。残念。

「ただ、お前に奴隷をつける親御さんの気持ちがわかった。」

親視点……?

「うん、お前に買われてやる。つーかお前が犯罪を犯さないよう見張るのが俺の役目な気がした。」

あんまりな言葉に魔術放ちたくなった。
失礼な人!

しかし、グレアジアがお父様と話した結果、なぜか父が泣き、「よく言ってくれた!娘をよろしく頼む‼︎」と握手していた。

私ってそんな危険〜?と聞いたらグレアジアは
「あの家族の元に生まれてなかったらマジで犯罪者だ。」
と真顔でいわれた。






「とまあ、それが旦那との出会いなわけですよ。リ……フィリエル。」

目の前で大爆笑する女性に私はうっかり前の名前を呼びそうになる。

先ほど5年ぶりの再会で呼んだらデコピンくらいました。今はセーフっぽいです!

「ああ、おっかしいです!まさかルーツが結婚してるとかびっくりです!」
「そういうフィリエルさんも魔王(裏)だし〜、髪と目の色変わってるし〜、婚約してるし〜びびったんだから〜。」
「あー、聞こえない聞こえないー、しかも、元奴隷!イケメンですし!」
「最初は熊の顔してたんだけど〜、人化したらびっくりしたわ〜」

グレアジアはイケメンでした!
黒髪と同色の瞳、褐色の肌、筋骨隆々、高い背。鼻筋が通っている、整った顔。

なんであんた奴隷やってんの〜⁈と叫びましたよ。

しかし、うるさかった。
あんたは私の母ちゃんか!と言いたくなった。
いやお母様いるんですけどね!

「もう、危ないものはつくんなとか、安全確認してから使えとか〜、めっちゃうるさいのです。」
「当たり前のことです。て言うかまだ魔術道具作ってるのですか?」
若干顔を引きつらせながら、フィリエルは私をみる。
「まあ、流石に今は一時的にですがやってないよ〜。あなたが手紙で依頼して来た、新しいタイプの奴隷紋はグレアが来てから研究していたものですし〜。」

ぽんと優しく膨らんだお腹をさわります。
そう、今は新しい家族ができたのですから無茶はしません。


グレアジアは、よくやってくれてました。
むしろ、私が作った魔道具とかで怪我する機会が多かったんですが、嫌がらせでやってくる奴らから守る…じゃなくてそいつらを私が破壊しないように内々に処理したり、単独で特攻仕掛けたり……もう有能すぎてる。
他の奴隷さん、エルフのイグリスさんは執事見習いでもあるし、ハインくん、レイくんは魔力もあって父や兄や母の護衛をやってかなり有能です。そんな彼等に並べて遜色ない位に有能な熊さんですよ。

あまりに有能すぎて、魔力ないからって何もできないわけじゃないよね〜。
って思って言ったら超つねられました〜。解せない。

まあ、そんな有能で声が渋くて人化したらどストライクのイケメンがずっとそばにいればもう惚れてしまいますよねえ。

出会って1年経つ頃には、冗談交じりでプロポーズしては玉砕を繰り返してましたね!

「冗談交じりはともかく、玉砕しても諦めないとかルーツらしいですね。」
「うふふ〜でも一番は家族が、中でも兄が乗り気でしてねえ。」
「それはそれは……面倒なやつに目をつけられましたね。さぞストレスがかかったでしょう。」
「うん、まあ、普段の生活から私の無茶で色々ボロボロだったせいもあるんだけど。だから私の権限でしばらく休んでもらいました〜。けれどその時にタイミングを見計らったかのようにもと婚約者の……フィーの弟がやって来て……」



全く不愉快なことですが、家族がほとんどで払っていた日です。

「ルーツィア・リリノイ!」
「あら、久しぶりですね〜傷は治っちゃいましたかあ、ゼアルベガ・フィンネル。」

かつて婚約破棄され、ファイアーボールをぶち当てた我が悪友の弟がやってきました。
悪友に良く似た金髪碧眼と鋭い瞳、しかし態度は相変わらず最悪で屋敷の客間で踏ん反り返ってます。
確か漫画ではツンデレキャラですが、実際はただのイヤミヤローですわ〜。

悪友のお兄様は、最初は血迷ったみたいですが、2週間ほど寝込んだら目が覚め色々大変だというのに、この馬鹿は頭がお花畑ですわね〜。まだあのビッチ巫女の取り巻きの分際で何の御用でしょう?

「それで、用件は?」

「姉上はどこだ。」

またそれですか。

「知りません〜。何度も言ってるじゃないですか?」
「嘘をつけ!知っているだろうが、あの大罪人の居場所を!」
「知りませんてば、うるさいですね〜。」

流石にしつこい。

ここ最近こんな風に問い詰めにいらっしゃって非常に迷惑です。
大抵は他の家族があしらってくれますが今日は皆いません。

彼女の居場所は私の魔術ですら痕跡を見つけられないのです。
彼女の居場所は私の方が知りたいよ。

「姉上を見つければ、また、また戻れるんだ!前みたいに。」
「……は?」

何を言って……ああ、こいつ、取り巻きの中で、だいぶ浮いた扱いの様ですね。
兄は取り巻きのバカ王子に批判的だし、姉は処刑されそうになって国外逃亡してるし、取り巻きのなかでも序列があるらしく、順位は最下層らしいです。

いやいやいや、何言ってるの?
て言うかお前でしょ!あの子が処刑台まで追い詰められたのは‼︎


あの子はあの子なりに、と言ってもかなりひねくれていたけど、それなりに弟を可愛がってました。
私と弟との婚約が決まったときもなんやかんや言ってはいてもで嬉しそうでした。

そんな彼女は家族に裏切られどんなに悲しかったでしょう。

そう思うと私にしてはつい珍しくカッとなって魔術じゃなくて口が出てしまいました。

「自業自得です。あなたは家族を売るような人間が信頼されると思ってるのですかあ?しかも、証拠をでっち上げたあなたが!
ちゃんちゃらおかしいです。あんな恋愛のことしか考えてないような色欲の塊の巫女にまとわりつくだけありますね!」

かああ、と元婚約者の顔が赤くなります。

あ、まずい。

この方結講短気でした。

私が思った瞬間、が、と襟元を両手で掴まれからだが持ち上がります。

「ぐぅ……!」
「黙れ黙れ黙れ!僕を、アリレアを、馬鹿にするな!」

何か喚いていますが、ガクガク揺さぶられ息が出来ずそれどころじゃありません。

まずいのがこの部屋が客間ということです。魔法防御の紋章がこの部屋自体に施され、魔術は普段の半分以下の威力しか発揮されませんし、コントロールもむずかしくなります。

魔術師というのは、魔術の才能がある代わりに身体能力が低いものが多く、兄のようにバランスがよくどっちもある程度特化してる人間はかなりめずらしいのです。
私は極端に魔術に偏ってるから特に体は弱いです。

ていうか女の身体能力じゃ、この男の手を振りほどくなんて無理!

や、ば、意識、が……

わが身の脆弱さに呆れて、軽く絶望しながら意識を失いかけるその時。

「……っにやってんだああ!」

聞き覚えのある低い声が部屋に響きました。

あれ?

衝撃を感じ、何かに受け止められた。

「ルーツ、大丈夫か?」
「に、兄様。なんで?」

私を抱えてくれたジークライ兄様が笑う。
ふらつく私を立ち上がらせると、先ほどまで私の首もとをつかんでぶん回していた男の方をむかせました。

うわあ……

思わずドン引きました。

でかい熊(完全獣化)のグレアジアが元婚約者殿にのしかかっています。

うわあ、前世知識のヒグマよりでかい……

って死にますよ!

「グレア、ストップ〜」
これ以上はダメだと思って静止の命令をします。
が、と急に停止するグレアジア。
奴隷ですから。でも久々につかいました。

「ああ?なんでだよ!」
それでも元婚約者の腕をガジガジしながら、人間の言葉を話すグレアジア。

おー、血が流れないように加減をしてるようですが、絵面的によろしくない。

「どうどう、そのまんまだと彼が窒息してしまいます。」

「……元婚約者には優しいんだな。」
いじれたようにいうグレアジア。
のそ、と元婚約者の上からどきます。

かわいい。じゃなくて。

「何を言ってるのですか〜?これでも我が悪友の弟ですよ。勝手に再起不能ばダメ。
っていうかお兄様、貴方この方を見張っていたんじゃないですか〜?」

私は自分の兄、ジークライ兄様を睨みます。
何時もの笑い顔。この笑顔常時装備なので身内としては胡散臭いです〜。

「あはは、うんイーヴァンスと一緒にね。いずれ来たるあのバカ王子達との対決のためにこれを駒にしようとしたんだけど揺さぶりが過ぎちゃったみたいだ。ごめんね?」

イーヴァンスは悪友の兄です。現在は長い髪を切りスポーツ刈りのお兄様なのですが、原因は私だったりします。
妹に対してかなり反省したイーヴァンス様に私が異世界式?の反省及び謝罪方法を仕込んでます〜。
いずれは土下座も仕込む予定です。

「しかし、まさかルーツに行くとは。昔はかわいい奴だったのにね。あの巫女、じゃなくて背後の神殿連中に関わってからだんだん腐敗しちゃった。」
「まあ、そうですね〜。将来有望な貴族の子女軒並みやられましたねえ。」
「本当、今すぐ王都の腐った神官たちに隕石降ってこないかなあ〜。」

お兄様地がでてる〜。
割と柄悪いんですよね。
お兄様達は絶賛暗躍中です。その一環で元婚約者にも接触していたことは知ってましたが、元婚約者、予想以上に愚かしかったようで、外見的に弱い私に向かうとは、愚かなり。

「ジーク様、こいつ、どうすんだよ?」
イライラしたようにグレアジアが気絶させた元婚約者をつつきます。
兄はにっこり笑いました。

「あー、僕と妻とイーヴァンスで……躾をして使うから大丈夫。僕の妹に暴行を振るったんだ、色々断われないよ。だから、グレアはルーツのそばにいてよ〜?」

うん、躾の前に間がありましたね〜?
関わるのやめとこ。兄のお嫁さんがいるならやばいことにはならないでしょう。まあ、物理的には。

「さあ、イーヴァンスのとこに行きますか。じゃあまたね2人とも。仲良くね〜?」

にやにやしながら私の元婚約者を抱えて去っていく兄。
なんだろう、気持ち悪〜。

兄が去った後に私はグレアジア話しかけようとして、
「はあ、グレアってわあ⁈」
ひょいっと抱え上げられて背中に乗せられた。


熊状態なのでふかふか。
……いや、どういった状況?金太郎?鉞とか斧とか必要?

そのままスタスタ歩き始めるグレアジア。
離れに向かってる?

「グレアジア?何事〜?」
「…………」

おや、無言。

そのまま無言で離れの研究室のある部屋の隣、私の自室にはいっていきました。

「……グレア?」

「いいか?ここから動くなよ。」

そう言い残して、部屋をでる。
と思ったらすぐ戻ってくる。
っていうか……
「上着は着なさいよ〜?」

ズボンのみを身につけた手にシャツをもった人間状態の上半身裸のグレアジア。何故?着なさいよ。

「逃げるだろ。」

むしろその筋肉に見とれそうで、いたたまれない。

「……逃げないよ〜?なんでそんなこと考えるの?」
「だってしばらく謹慎だったろ。つまり俺と離れたかったんだろ。」

え?いや、それはあなたが疲れた顔してたから。

「そばで守れと買われたのに……それに、最近冗談交じりに嫁にこいとか言うし。」

いや、本気で言えません。
だって、本気でいったら奴隷紋が働くし。
冗談挟まないと言えません。
奴隷紋不便〜。改造したい。

流石に本人の意思がないのに男女の関係になるのはダメです。

家族とも相談したけど、奴隷さん達は国の混乱が収まり次第、奴隷紋を解除し個人の希望に沿った場所に送ると決めました。
まあ、奴隷と言ってもみんな普通の従者扱いされてます。
単純に奴隷の扱いが家族みんなよくわかってないからです〜。
祖先の関係で奴隷になんか抵抗があったんですよね。

「親友の無気力な令嬢の話しかしねえし。」

それは、しょうがないです。
先祖の代から共に国を守る一族同士であり、無二の親友ですからね!
あとあの他者に対する観察眼、個性を消し完璧な他者に合わせた振る舞い。そして容赦の無い交渉術。魔術に傾倒し対人が苦手な私にとって憧れなのです。

「スキンシップ過剰だし。なのにほとんど命令しないし。なんでもやってやるのに……」
「人体実験も?」
「それはやらん。」

なんでもやるって言ったじゃん〜。
おや、グレアジアがげんなりした顔になった〜。
何が言いたいんでしょう、本当に。

「何を言いたいかわからないよ〜?」

私の問いかけに、鋭い視線で答えるグレアジア。

「……ルーツは、婚約者のことが好きなのかよ。」

その言葉に盛大に固まる。

「はい⁈何を言ってらっしゃるんですか〜?私が何回魔術をゼアルベガにぶち当てていると……」
慌てて否定します。
しかし、グレアジアは続けます。

「……じゃあそれとも、婚約者の兄貴……イーヴァンスってやつが好きなのか?」

いやいや……なんでそうなるの〜?

「はい⁈なんで?現在進行形で謝罪を仕込み、髪を切らせて辱めてる方を〜?」

イーヴァンス様は婚約した方いらっしゃいますし。
まあ、あまりに国がやばいんでしばらく結婚は無理でしょう。
「じゃあ!その、親友のことが好きなのか!男じゃ、俺じゃ無理なのか!」

「はい⁈何言ってんの〜?」

本当にわけがわからない。
確かに親友のことは大好きですが、恋愛的な好きではないのです。
友人として、戦友(?)として、部下として、尊敬の念を抱いています。

「違いますよ〜。流石にあの子と恋愛とか寿命がけずれてしまいます。というか私の家自体が忠誠を誓ってるんですよ。…………あれ?」

ちょっと待って?
これはあれじゃないかな?


「ヤキモチ、ですか〜⁈」

ぷい、とそっぽを向くグレアジア。
顔が赤いです。

「え〜〜‼︎‼︎グレアジア、私が好きなんですか?」
まあ、私もですが〜。
うわあああ、心臓がばくばくいってる!

「…………ああ。」

「じ、女性、として?」
「ああ。」

おおおおおお!

両想い!両想いですよ〜!
まじか!うわあ〜
やったよ!我が悪友よ〜‼︎‼︎

しかし、いいのかなあ。
グレアジアも浮かない顔をしている。

「グレアは、私のお婿さんでもいいの?もう自由に動けないよ?」

私は魔術師として今国に属し、また、国の結界を守る一人のため他家に嫁に行くことは許されない。

故国に帰りたいと思っていても自由に行き来なんかできないし、制約も多くなります。

しかし、グレアジアはなんでもないように言います。

「いや、お前のような危険生物から離れる方がやばいだろ。」
「危険生物⁉︎」

いや、そばにいてくれるのは嬉しいけど、素直に喜べない!

「むしろ、ルーツはいいのか?俺はこの国で嫌われている獣人で奴隷だぞ。外聞とか…………」

グレアジアは気まずそうに言います。
え?そんなこと〜?

「またまた、何言いますか〜?普通の貴族ならともかく我がリリノイ家がその程度のことを気にするわけないじゃないですか。むしろ私は嫁き遅れないか心配されてますからね!逆によろこばれるのではないですかね〜」

「……本当に変わった貴族だなあ。」

しみじみ言うグレアジア。
だよねえ〜。

ぶっちゃけ魔術師家系は子供が授かりにくいから。子供さえできれば結婚は自由にしていいってところは多いですからねぇ。
その中でも我が家は研究バカが多いから特にぶっ飛んでるんですよ。

「つまりお父様さえ黙らせればよいのです!」
「黙らせるってなにする気だ。」
「魔術を…………」
「ぶち当てやがったらつねるぞ。」
「えー」
「えーじゃない。ったく、しょうがないやつだな。」

そういうとグレアジアは私を抱えて膝の上に乗せます。

「……なんで膝に乗せるのですか〜?」

「だってルーツは俺が好きなんだろ。」
「ひゃ!い、いやそうですが。」
「じゃあ、俺の女でいいんだろ。」

ひええええ?
グレアジアの言葉に硬直します。
うれしい!とは素直に言えないほど、残念ながら恋愛に耐性はないのです。魔術師ゆえ万年引きこもり研究職です。かなりパニックです⁈

いや、ちょっとまって、顔が、私の顔に近づいて……………!

綺麗な彫りの深い顔が近づいてきます。
で言うかグレアジア、上半身裸…っ
直に体温が伝わりますし、何よりあの声で!耳元で……!


ふにゃああああ!






「で、ファーストキスですか?」
「いやあ〜、寸前でお兄様が転移魔術で止めに入りましたねえ。『キスから先を耐えられるならいいんだけどね〜、父上に挨拶することをお勧めするよ〜?』と言われ、グレアジアは渋々渋々止まったのよ〜。」

「渋々が重なってる!我慢の程が伺えますね。あと弟はシメる予定です。」

不穏な言葉が聞こえた〜。
彼は私と貴女の兄に既に調教に近い再教育を施されスパイとして働いてます。
さらに、ざまあという罰イベントも受ける予定の二倍の責め苦を受けるのでほどほどにして〜。
もう兄たちの張り切りがやばかった〜。


しかし、まあ、本当にグレアジアは我慢をしていたのです。

父に挨拶して、いろいろめどが立ってそれから2年後、お父様が感極まって泣きながら(片付くと思わなかったものが片付いた喜びがあふれてました…)結婚を許可した後……途中途中で発散させておけばよかったと後悔したのです。

なかなか妊娠しにくいと言われる魔術師が妊娠を促進させる魔法なしに妊娠するほど……。
動けないプラス寝不足です〜。
しばらく魔術師の仕事がはかどらなかった……。

「う、魔族のハーフの婚約者を持つ身としては人ごとに聞こえない……」

二人で赤くなったり青くなったりしながらアワアワして、終いには笑あった。
いやあ、5年前はこんな風に笑い合うことができるなんて思わなかったわ〜。

「ふふー、ルーツの赤ちゃん楽しみですねえ。」
微笑んで私のお腹を見つめるフィリエル。
何気に子供好きですもんね。
割といいお母さんになるんじゃないですかね〜。

しかし、私には最初にやらなくてはならないことがあるのです!

「そうですね〜でもその前にざまあですよ!」
私の言葉に、はあ?と目を剥くフィリエル。

「ま、まさか、あなた巫女断罪の場に立ち会う気じゃ……」

信じられないものを見るように震えるフィリエル。そんな彼女に私は笑います。

「当たり前じゃないですかあ〜!」
「当たり前じゃねーですよー‼︎‼︎なんて面倒な‼︎‼︎‼︎」

それからものすごいお説教されて、さらにその後グレアにも説得という名前の懇願をされました。
しかし、すみません、ざまあを見ずおわれません……!

きちんと自分に防護魔術を掛けますし万全にして行きます!
私の赤ちゃんは私が守る!
だけどざまあは譲れないのです!

「はあ、あんたって本当に無茶しますよね。胎教に悪そうな……変な子に育ったらどうするんです。」
「大丈夫大丈夫、私の家は大抵変人しか生まれませんから今更です〜。」
「確かに。めんどくさい連中ばかりですねえ。」

うんうんと納得するフィリエル。
失礼ですが正しい認識ですから何も言えません〜。

「あ、そうだ。全部終わったら魔族の国行っていい?移住移住〜。」

魔族の住む国、かなり興味深いです〜!
魔族とは元々女神の眷属だという説もあるのに全く手付かずの分野……!
魔術師として燃えます!
悪友もいますし、絶対楽しいはず!!!

フィリエルはさらにげんなりしました。

「はあ?国の結界を守ってるのあんたじゃないですか!バカですか!!」

なんでそこで真面目になりますかね〜。
自分を裏切った国の心配するとか、もう、だから私はあなたに着いて行きたいのよ〜?
私はにっこり笑います。

「お兄様に任せます〜」

まあ、どうせ騒動が終わったらフィリエルがいない国にとどまるつもりはなかったからね〜。
グレアジアが獣人ですから、ここでは生きにくいですし。

「また、めんどくさいことを!ジークが過労死するかもですよ⁈ていうか私のお父様も移住したいって言い出すし!まだできたばかりの国だから大変なのに〜!」

フィーのお父様、あまりの激務にやつれてましたしね……。それくらい許してあげなさいよ〜。

「私も手伝います〜。だから移住させてよ〜。ほら、フィリエルが子供産んだら同年代の子どもがいた方がいいじゃない〜魔族はなかなか子供が生まれないのでしょ〜?」

「こ、こここ、子どもはできるか、わからないじゃないですかー!」
動揺してます。恋愛に関しては私と同様で相変わらずですね〜。

「できます!あなたの婚約者はグレアジアとおなじにおいがします〜。3年後には2人目とかになってるはず!」

「具体的!しかもグレアジアさんとアズウィル初対面で意気投合してましたしね!なんか複雑です!っていうかそれはルーツもでしょう?」

「そうなんですよね〜。何人まで生むか正直悩みどころです〜」

「もう複数人生む気ですか!」

相変わらずの言い合いに思わず顔がにやけます。
うん、やっぱこうじゃなくちゃ張り合いがありませんもの〜。

頭が良くて、交渉が得意で、隙がないのに身内には甘かったりする魔族の国の未来の王妃様。
祖先の魔術師を救った少年騎士の子孫で、
我がリリノイ家の盟友の家の娘。

「またよろしくね〜。フィー。」
「はいはい、仕方ないですね。面倒にもほどがありますが、あなたのような危険人物を外に出す方が面倒です。悪友のよしみで許してあげます。」

我らが主君にして悪友。

色々変わってもそれだけは変わりません。

「家族みんなで一生ついてくわ〜!」
「めんどくさいからやめてください!っていうかまず無事に子供を産んでくださいー‼︎」

フィリエルの叫びと私の笑い声が響きます。

私は希望でいっぱいな未来に思いを馳せ、今を噛みしめるのでした。



リリノイ家の祖は様々な説があり、また、リリノイ家自身が外部に語らないため彼らと建国に関わった騎士との関係は未だ謎に包まれている。
ただわかっているのは、彼らと騎士の一族たちには強固な絆があるということだ。

祖先はともに戦災孤児であり、彼らは奴隷として扱われていたと考えられている。
戦いの中で共有する時間はアゼル王の一族ですら超えている。
代々共に国の表も裏も駆け抜ける一族たち。

かつては騎士とその部下。
今は将来の王妃と筆頭魔術師。

結婚したり、母親になったりしても一切変わらない絆を彼女たちは続けて行く。

彼女たちの子供たちが魔族の国ハナエルフィアで活躍という名の暴走をする未来はそう遠くない話である。


読んでいただきありがとうございます。
まだ先になるかもしれませんが、先祖の話をいつか書きたいです。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ