第9章
原作では、キャサリン様は、エドワード殿下の父であるチャールズ大公殿下と結婚されていたはず。
チャールズ大公とエドワード殿下の歳の差は21歳の筈だから、それなら男性の方が9歳年上でそんなに違和感のない結婚になる。
私は原作知識を懸命に少しでも思い出した。
確かキャサリン様が15歳になられて、元皇帝ジェームズ陛下が、チャールズ大公の家庭を完全に崩壊させようと動かれたのだった。
原作では、メアリ大公妃とチャールズ大公の家庭は、メアリ大公妃の妹にもなるヒロインのアンとチャールズ大公が秘密の関係を以前持ったことから、当時、崩壊寸前になっていた。
本来なら、アンとチャールズが不倫関係なのだから、メアリに読者の同情が集まりそうなものだが、漫画の主人公がアンだったし、メアリの性格が悪かった(はっきり言って気位が高すぎ、チャールズを尻に敷くような行動等が見られたし、主人公のアンを虐めていた)ために、メアリは読者の間の嫌われ者だった。
だから、チャールズとキャサリンが結婚することに読者は好意的だった、と私は覚えている。
そして、キャサリンとチャールズは結婚、メアリは以前のチャールズとアンの不倫関係に加え、キャサリン皇女が降嫁してきたことで、第二夫人に落とされてしまったことから、プライドがずたずたにされてしまう。
そのためにメアリは、精神を病み、狂死への道を歩むのだが、この世界のメアリは「帝都大乱」で元皇帝ジェームズが自裁しために、未だにチャールズの大公妃のままだ。
そうか、おそらくメアリのせいだ、と私はようやく気付いた。
この世界が原作と違う世界になったのは。
メアリが原作とは違う行動を執ったために、この世界はこんなことになったのだ。
おかげで、ヒロインのアンは焼け死ぬ羽目になるし、元皇帝ジェームズは自裁する羽目になるし、帝都の住民数万人が亡くなることになった。
メアリ、本当に怖ろしい女性、まさか、自分が生きる為に、陰謀を巡らせて、血を分けた妹や元皇帝、帝都の住民数万人を殺してしまったのだろうか。
考えが飛躍しすぎかもしれないが、私と言う実例がある以上、メアリも私と同じ転生者の可能性もある。
そして、そのために原作と違い、キャサリン様はエドワード殿下と結婚ということになっているのだ。
ともかく、せめて真相を知りたい。
今の私では、メアリに私が二人きりで会うのは困難なことだ。
そう私が思いを巡らせるうちにも、目の前で姉弟の会話は続いていた。
「そういえば、新しい侍女を私的に雇ったそうですね」
「ええ、もう一人くらい侍女が欲しいと思ったのだけど、宮中女官に空きがなかったから。あっ、ちょうどよかったわ。彼女がそうよ。アリス、ボークラールというの」
えっ、いつの間にか私が話題になっている。
「ボークラール?「帝室の剣」と謳われたあの子爵の血筋ですか」
「そうよ」
キャロライン皇貴妃殿下は平然とされているが、エドワード殿下は少し嫌な顔をされた。
「彼女に咎は無いかもしれませんが、あの子爵に私の母は」
エドワード殿下は思わず言ったのだろうが、キャロライン皇貴妃殿下はそこで遮った。
「そういうことを言うから、キャサリン様もあなたとの間の関係を打ち解けようとなさらないのです。それが分からないのですか」
キャロライン皇貴妃殿下の叱責に、エドワード殿下は頭を下げられた。
「申し訳ありません」
「そうだわ。アリス、エドワードとの取次役をしてちょうだい。あなたが取次役になれば、すぐに宮中のあなたの名が広まり、大公家が過去の「帝都大乱」を完全に水に流そうとしている証しになります」
キャロライン皇貴妃殿下の次の言葉に、私やエドワード殿下、周囲は驚いた。