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第8章

 召人、原作のファンの間でささやかれていた噂があった。

 女主人公のアンを物語冒頭近くで結婚したいとチャールズは口説くのだが、単なる侍女を初対面で結婚したいと口説くのはおかしい、これは口説き文句で、本当は召人にするつもりではなかったのか、と。

 原作自体が、源氏物語的世界と中世欧風文化を融合させたものなので、そこからのファンの憶測だった。


 源氏物語の登場人物で言うと、明石君や浮舟みたいなものだ。

 明石君の場合、明石中宮の生母なので、周囲からも重んじられているが、原作中に明石中宮がいなければ待遇は全く変わっていたろう。


 原作中でも、アンの乳母ソフィアとアンの父がそういう関係らしいことが暗示されている。

 屋敷の侍女に男主人がいわゆる手を出して召人にするというのが、当たり前の世界ではないのか、とファンは憶測していたのだ。

 実際、私が転生して周囲を見聞きすると、上流貴族の家庭では召人がいるのが珍しくないのが分かり、前世の一夫一妻が当然と思い込んでいた私には当初、ショックで仕方なかった。


 だが、この世界的には愛人や召人は必要悪とも言えるのが悩ましいところだ。


 この世界、医学が進歩していないし、帝国の国教の真教が殺人を禁忌としている(まあ、殺人を禁忌としない宗教が稀だけど)ために、私の前世でも19世紀までは男女調整がなされない社会ではそうだったように成人すると男女比がアンバランスになるのだ。

 男性100人に対して女性120人といった感じになる。

 では、余った女性はどうなるか?

 庶民なら、最悪、自分の身体を売ってでも、という話になる。

 だが、貴族の女性となるとそういうわけにはいかない。


 更に困ったことに、貴族の男性の結婚率は意外と低い。

 伯爵以上の上流貴族なら、大抵、結婚するが、子爵、男爵と言った下級貴族だと体面を保つための出費がかかるし、収入はそんなに多くないし、ということで、それなりの男性が生涯独身を保つことになる。

 貴族の女性がますます余る訳である。


 そこで、愛人や召人という道を選ぶ貴族女性が出てくるわけである。

 上流貴族の愛人として男を通わせたり、侍女となり召人になったりする。

 男の子どもを産めば、それなりの待遇も受けられることになるのだから、と割り切るのだ。

 貴族の妻が怒らないのか、と言われそうだが、貴族の家が絶えては、と言う声が強い以上、特に子どもができない妻だと黙って耐えるどころか、むしろ愛人や召人を夫にもっと勧めろといわれるくらいである。


 ちなみに女性が宮中女官とかになると、どっちが愛人なのかと思う。

 女性の方が手取り収入が多いことがあるからだ。

 そうなると、女性の方が結婚を嫌がり、愛人関係のままという例まで出てくる。

 宮中女官は表向きは独身と言うのが前提となっているからだ(もっとも、男性が秘かに通ってくるのは目をつぶるのが大人の常識と言うことになっている。)。

 皇子皇女の乳母ですら、そういう女性を探すくらいである。

 結婚して宮中女官を辞職し、収入を失うのが嫌だということになるのだ。

 私がそんなことを想っている内にも、目の前の姉弟の話は進んでいた。


「ともかく、キャサリン様は、私から見ると二重の義妹になります。私の夫の異母姉妹ですし、弟のあなたの妻なのですからね。私の義妹を不幸にしないで」

 キャロライン皇貴妃殿下は、エドワード殿下を懸命に諭していた。

「分かっていますよ。でも、彼女が心を開いてくれないと」

 エドワード殿下はこぼした。

「まあね。確かに難しいわね。歳の差もあるし、親同士の因縁もあるし」

 キャロライン皇貴妃殿下はため息を吐いた。

 私は、やっと原作との違いを思い出して慌てた。

 何で2人が結婚しているの?

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