第7章
原作のエドワード殿下は、もう美少年というよりも美少女という方がふさわしい美形で、その体形もそれに近いものがあった。
もっとも、それも当然で、源氏物語の主人公の光源氏や薫大将が筋肉ムキムキの男性になるわけがないように、恋愛少女漫画で雅やかな貴族同士の恋愛なのに、登場してくる主人公格の男性が筋肉質では読者も冷めてしまうだろう。
私は目にしたことは無いが、いわゆる「薄い本」ではエドワード殿下は実は男装女性とか、女装男子として描かれる方が多いという噂が立つくらいの方だったのだ。
それなのに、それなのに。
この世界のエドワード殿下は、それなりの筋肉質の体の持ち主なのだ。
どう見ても、スポーツでは無かった、武芸に通じた体だ。
その一方で、顔だちは美少女系なのだ。
このアンバランス、絶対に間違っている。
原作ファンとして、エドワード殿下をこんな方にした人は絶対に死刑だ。
私は内心で絶叫した。
そんな私の内心を無視して、エドワード殿下とキャロライン皇貴妃殿下は私の前で会話を始めた。
「エドワード、もう少し礼儀というか、立場をわきまえなさい。確かに私とあなたは養父母を同じくする姉弟です。しかし、実際の血縁でいうならば、私の父があなたの従弟という極めて遠い関係です。幾ら人目があるとはいえ、下手な人に私達の関係を誤解されてはお互いに困ります」
キャロライン皇貴妃殿下は、エドワード殿下を諭されたが、エドワード殿下は平然としている。
「本当に姉上と結婚したかったですよ。私としては。姉上はそれなりに自分の幸せを掴まれたようですが、私の結婚は微妙ですからね」
エドワード殿下がそういうと、キャロライン皇貴妃殿下は複雑な表情を浮かべながら、更に諭した。
「私の夫でもあるジョン皇帝の姉妹、キャサリン皇女があなたの妻なのです。不平を言ってはなりません」
「分かっています。ですが、彼女が心を開いてくれないのです。どうしても、実父が私の養母に自裁に追いやられたということが心から拭い去れないみたいで。私の方は何とか割り切ろうとしているのに」
エドワード殿下はこぼした。
ああ、そういえば、そうだ、と私は思った。
エドワード殿下とキャサリン皇女は、先日、正式に結婚されたが、当初から2人の結婚生活がうまく行くかどうか、周囲から心配の声が挙がっていると私の耳にまで届いていた。
何しろ、エドワード殿下の実母アン大公妃殿下は、キャサリン皇女の実父元皇帝ジェームズ陛下の命令で焼き殺された(ことになっている)。
一方、元皇帝ジェームズ陛下は、アン大公妃殿下の実姉メアリ現大公妃殿下の報復によって、最終的に自裁に追い込まれている。
ちなみにエドワード殿下は、両親を失った後、大公家後継者であることを明らかにするためにチャールズ現大公とメアリ大公妃の養子に正式になっている。
更にエドワード殿下はまだ15歳なのに、キャサリン皇女は既に27歳なのだ。
それだけの因縁がある上に、女性の方が12歳年上の結婚がうまくいく方が不思議だ。
私がそう思っている内にも、2人の会話は進んでいる。
「ちなみに夜の関係はあるの」
キャロライン皇貴妃殿下は、冷やかすようにエドワード殿下に言った。
「ありますよ。私がダメ男だと」
「そんなことはないわよ」
キャロライン皇貴妃殿下は、エドワード殿下の気持ちを変えるためか、軽口に徹しようとしているが、エドワード殿下はそれに乗る気になれないらしい。
「何となくですが、キャサリンが新しく雇う侍女が私と同い年くらいの侍女ばかりの気がするのです。侍女を私の召人にすることで、キャサリンは私と関係を持ちたくないのではないか、と」
召人、その言葉に私は驚いてしまった。