第6章
その後、とんとん拍子に私の就職は決まり、3月1日からキャロライン皇貴妃殿下に私的な侍女としてお仕えすることに私はなった。
宮中に入る時、私は思わず震えた。
原作では、私は元皇帝ジェームズ付宮中女官に就職したのに、すぐにアン准皇后付宮中女官として仕えることになる。
でも、この世界では2人共、既に亡くなっている。
原作と違う世界で、私はうまくやっていけるのだろうか。
「アリス、ボークラールです。今日からよろしくお願いします」
私は、キャロライン皇貴妃殿下にお目通りを許されると、型通りの挨拶をまずはした。
「あなたが、アリス、ボークラールね。よろしくお願いするわ」
目の前にいるキャロライン皇貴妃殿下も型通りの挨拶をする。
私は、キャロライン皇貴妃殿下を生で見て、その美しさに感激した。
生母アン譲りの美貌で、私などとても敵わない美しさ、絶世の美女という表現がふさわしい。
だが、それと共に、キャロライン皇貴妃殿下の目の奥の影が気になった。
修道院付の孤児院で成長したせいか、私は人を見ることが多少できるようになった。
その経験からすると、この方の心には影があるようだ。
それは何だろう、侍女の私では触れてはいけないモノなのだろう。
原作知識からすると、この方は自らの出生を卑下しているはずだ。
チャールズ現大公殿下の長女とはいえ、表向きの生母は単なる侍女、愛人に過ぎず、それも男爵家の愛人の娘が侍女奉公中にチャールズ現大公の間にできた子ということになっている。
そして、表向きの生母は自らを産む際に亡くなっている。
だが、本人は知らないことだが、実はヒロインのアンがチャールズとの間に産んだ子なので高貴な生まれなのだ。
原作の中で、元皇帝ジェームズやマーガレット皇后が、キャロライン皇貴妃のことを侍女の娘の分際で皇貴妃とは、と陰で差別して、ヒロインのアンは、自分が実母と名乗れないことを嘆くシーンがあった。
そして、こういった悪意は自然と相手にも伝わるものだ。
原作中では、マーガレット皇后とキャロライン皇貴妃はそういったことから犬猿の仲だった。
この世界では、どうなのだろう。
「女官長の指示に従って、マーガレット皇后陛下のところに贈り物を持って行ってちょうだい。全く失礼な話、皇后陛下を差し置いて、私に贈り物をするなんて」
思わず自分の考えにふけった私に、キャロライン皇貴妃殿下は話しかけられていて、私はそのことと内容に驚いた。
この世界では、マーガレット皇后陛下とキャロライン皇貴妃殿下は仲良しなのか。
どうしてなのだろう。
そういえば、キャロライン皇貴妃殿下から産まれたトマス皇太子殿下は、子どものいないマーガレット皇后陛下の養子になられている。
第二夫人の皇貴妃殿下が産みながら、皇后の養子となる等、めったにないことと私のいた孤児院内まで噂になった。
これは気になる、それとなく調べてみよう。
私はそう思いながら、キャロライン皇貴妃殿下の御前を下がろうとしていると、男性の声が聞こえた。
「姉上、お久しぶりです」
「エドワード、よく来たわね」
その会話を聞いた私は慌てふためいた。
ええっ、エドワード殿下、原作の後編では実は同父母姉弟でありながら、紆余曲折の末に、義姉マーガレット皇后陛下にエドワード殿下は味方した程、キャロライン皇貴妃殿下とは仲が悪いはずなのに。
この世界では、この2人も仲が良いの。
原作知識がどんどん役に立たなくなっていく。
私は自分の将来にますます不安を覚えた。
すると、そこにエドワード殿下が現れた。
「お元気そうで何よりです。姉上」
この世界のエドワード殿下の姿に、私は仰天した。
原作と違う。
こんなエドワード殿下を私は決して認めない。