第47章
怒りの余り、言葉が出ない私の内心を事実上、キャロライン皇貴妃殿下が代弁して下さった。
「いつの間に隠し子を作っていたの、しかも3人も。母親は誰なの」
「手を出すのは、話を最後まで聞いてからにしてくれないかな」
左頬を抑えながら、エドワード殿下は立ち上がられた。
「母親はキャサリンに決まっているだろう」
エドワード殿下の言葉に私達は固まった。
は?
私達の頭の中に疑問が渦を巻いた。
「キャサリン皇女殿下を大事にするように、お前がわしの姪の子であるように、キャサリンはわしの甥の子なのだから。トマス教皇猊下に、アリスとの結婚に協力を求めに行った際に、そうトマス教皇猊下に言われたのは、キャロライン姉さんには言ったよね」
「それは聞いたわよ」
エドワード殿下の問いかけに、キャロライン皇貴妃殿下は肯定した。
「幾ら第一夫人とはいえ、他の女性と仲良くするのが、結婚協力の条件とは、アリスには言いづらかったから、秘密にしたんだ」
それは、そうだろう、私は納得した。
しかし、トマス教皇猊下の気持ちも分からないではない。
子どものいないトマス教皇猊下にとって、エドワード殿下もキャサリン皇女殿下も孫のようなものだ。
そして、結果的に自らも一方に加担したとはいえ、「帝都大乱」は甥と姪が戦い、姪の1人は焼死し、甥は自殺したという結果をもたらした。
真教の教義上、破門の上、自殺した者の葬儀を、司祭が執り行い、墓を建てることは許されない。
教皇自ら教義を破るわけには行かない以上、甥ジェームズ元皇帝陛下が墓が無い状態になったのは止むを得ないのだが、トマス教皇猊下の心の奥底にトゲとしてそういったことが刺さっておられるのだ。
だから、身内のエドワード殿下とキャサリン皇女殿下の結婚生活がやり直せないかと、トマス教皇猊下は動かれたのだ。
「でも、僕の働き掛けにもかかわらず、キャサリンの心は固まるばかりでね。自分のお腹を痛めた子どもなのに、あなたの子と思うと素直に愛せないとまで、キャサリンは言うようになった。かといって、離婚はできないし」
エドワード殿下の話は続いた。
真教の教義では、死が二人を分かつまで結婚は続くものだ(ヘンリー先代大公とアン先代大公妃のように最期の審判まで添い遂げることを誓う例まである。)。
だから、エドワード殿下とキャサリン皇女殿下は離婚できない。
私は段々事情が呑み込めてきた。
「それで、この間、長い時間、僕とキャサリンは話し合った。これからどうするのかをね。キャサリンが言ったんだ。あなたの第二夫人に子どもを全て預けて、自分は修道尼になりたいと。子どもを3人産んだ姥桜では、あなたと釣り合わないでしょうとまでキャサリンは言ってね。これはもう夫婦としてやり直せないと僕も腹をくくった」
私は、この間の園遊会の席のキャサリン皇女殿下の容姿を思い起こした。
続けざまに3人もお子を産まれたこと、それに数々の心労等々から、本当はメアリ大公妃殿下が12歳も年上なのに、そんなに年が違わないようにしか、キャサリン皇女殿下は私は見られなかった。
確か30歳になられたばかりのはずなのに、どう見ても30代後半のお姿だった。
そんなキャサリン皇女殿下と18歳のエドワード殿下が並ばれると、夫婦では無く母子に見えてしまう。
なるほど、キャサリン皇女殿下が、ますますエドワード殿下を厭われるわけだ。
「だから、キャサリンとの間の子、3人をアリスには引き取って面倒を見てほしいんだ。面倒を見てくれないか」
エドワード殿下は、頭を下げられた。
私は、18歳になって結婚して、すぐにいきなり3人の子持ちになるなんて、と内心でため息を吐きながら肯かざるを得なかった。