第43章
キャロライン皇貴妃が、エドマンド皇子もマーガレット皇后の養子にされるという話はすぐに広まった。
さすがにエドマンド皇子も養子にという話は、周囲の方々からも、それはどうかと言う声が挙がり、皇子が1歳の誕生日を迎えた後で話し合うことになった。
とはいえ、実の兄弟と言うこともあり、マーガレット皇后が、しばしばトマス皇太子と共に、キャロライン皇貴妃を訪れられるようになった。
「可愛いわね。あなたの弟よ」
マーガレット皇后が言うと、トマス皇太子がこわごわとエドマンド皇子を見られる。
そういった光景等を見るにつけても、私たち宮中女官は何となく心温まる感じを受けた。
だが、私の視界に不快な人が一人入っている。
マーガレット皇后のお側に、フローレンス嬢も大抵いるのだ。
かといって、私の立場では何も言うことが出来ない。
もっとも、これは相手も同じらしい。
私がキャロライン皇貴妃のお側にいると相手も不快気な表情を一瞬、浮かべるのだ。
お互いにエドワード殿下を巡る恋敵と完全に認識しているのだが、皮肉なことに3人目をキャサリン皇女殿下が最近、妊娠したことが判明したことから、自然停戦が発効してしまった。
フローレンス嬢は、エドワード殿下が落ち着かれたら誘おう、と企まれていて、マイトラント伯爵もエドワード殿下に是非とも我が娘を愛人にでもと声を掛けて、側面支援をしていたらしいが、キャサリン皇女殿下の妊娠は、それを吹き飛ばしてしまった。
本当に、キャサリン皇女殿下とエドワード殿下は仲が悪いのだろうか?
どう見ても相思相愛の仲の良い夫婦なのだが、と私には思える。
だが、エドワード殿下の手紙によると、キャサリン皇女殿下の意固地はひどくなる一方らしい。
夫婦らしい暖かみのある会話もほとんどないそうで、エドワード殿下は手を焼いているらしい。
そして、7月の除目で、私は女子爵に叙せられた。
正式に叙爵されて、私はマーガレット皇后陛下に挨拶に赴いた。
「この度、女子爵に叙爵されたアリス・ボークラールです。どうか、今後ともよろしくお願いします」
「2年余り、良く頑張られたわね。今後も頑張ってね」
マーガレット皇后陛下は、いつものように微笑まれながら、私を励まして下さった。
マーガレット皇后陛下は、原作でも暖かみのある人柄だったのだが、キャロライン皇貴妃殿下が入内されてから対抗心を燃やされ、終にはキャロライン皇貴妃と宿敵とも言える関係になった。
そのことが大公家の分裂を招き、エドワード殿下とチャールズ大公が実の父子でありながら、敵対する事態を招来するのだが、この世界ではキャロライン皇貴妃と仲良しなこともあり、暖かみのある人柄を保たれている。
実際、この世界でマーガレット皇后陛下の人柄を悪く言う人は、まずいない。
私は、この状況が続きますようにと思わず祈った。
マーガレット皇后陛下の御前を退出した後、私はフローレンス嬢に呼び止められた。
フローレンス嬢は女騎士なので、私に敬語を遣う。
「一体、どういうつもりなのですか。何人ものボークラール一族の近衛軍への就職斡旋をなさるなんて」
「我がボークラール一族の復権を、本宗家の娘である私が図るのは当然では」
私とフローレンス嬢は会話した。
実際、この7月の除目でもボークラール一族の近衛軍への就職は続いており、いざという際はボークラール一族を活用して、私が近衛軍を掌握することも可能ではないかという有様だ。
同じ軍事貴族のマイトラント伯爵家は何をしていると言われそうだが、マイトラント伯爵の一族は、地方へ州長官等で出たがる者が多く、そのために帝都の近衛軍内の幹部の数ではいつの間にかボークラール一族が優勢になっている。
長くなってしまったので、分けます。
本当にすみません。




