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第28章

前章の続きになります。

 大公家は速やかに帝都から脱出した。

 本当はアン先代大公妃殿下も一緒に脱出する予定だったのだが、アン先代大公妃殿下は夫ヘンリー大公の死の衝撃で心身を病んでおり、脱出を共にできなかった。

 もっとも大公家側も、まさか帝室側の私兵が帝都に火を放つようなことは無い、アンは先代大公妃の上、ジェームズの従妹でもあるのだから、監禁程度で済むと踏んでいて、チャールズ夫妻の脱出を優先したとのことだ。

 だが、その結果はお互いに破滅的なことになった。


 主にマイトラント子爵家(当時)の私兵、数百騎を予め集めた帝都近くの荘園にチャールズ夫妻をのせた馬車がたどり着いた際、アン先代大公妃を帝室軍が焼き殺したとの報告が届いたのだ。

 それにメアリが激怒、報復としてその私兵を直ちに帝都に向けた。

 帝室側は慌てふためくことになった。

 まさか、数百騎の騎士がすぐに集まり、帝都に攻め込めるような用意周到な準備を大公家がしているとは思いもよらなかったのだ。


 メアリは、何れ帝室と大公家が武力衝突になる事態が起こると考え、わざと帝室側に先制攻撃を加えさせることで、大公家を被害者と周囲に思わせ、同情を買うことで、帝室を徹底的に叩こうと謀略を巡らせていたのだ。

 メアリの唯一の誤算が、血を分けた妹、アンが焼き殺されたことだった。

 そして、「帝都大乱」は鎮圧され、帝室は無力化し、元皇帝ジェームズは表向きは破門の上、流罪という温情を受けたが、実際には自裁するしかない状況に追い込まれ、実際に元皇帝ジェームズは縊死する羽目になった。

 また、我がボークラール本宗家も爵位を剥奪され、庶民に落された。

 だが、貴族や帝都の住民の間では、大公家は何と寛大な処分で済ませたのだろう、と称賛されている。


 実際は、アン先代大公妃を元皇帝ジェームズは焼き殺すつもりは毛頭なかったのだ、

 本当に事故としか(言っても詮無いこととはいえ)言いようがない。

 だが、アン先代大公妃が焼き殺された以上、大公家も帝室に落とし前をつけてもらわないと、拳の振り下ろしようがない。

 その結果が、こういった事態を招いている。

 帝室側にしてみれば、大公家の謀略にしてやられたと叫びたいが、そんなことを叫んでも、負け犬の遠吠えにしかならないし、自らの無能をさらけ出すようなものだ。

 だから、却って腹の中に不満がたまる一方と言うことになる。


 私の実家というか生家、ボークラール一族は「帝都大乱」の結果、多くが逼塞のやむなきに至った。

 だが、帝都内では力が失墜したとはいえ、皮肉なことに元皇帝ジェームズが私の父の忠告を無視したために、地方ではボークラール一族の力は温存されている。

 だが、ボークラール一族の本宗家が壊滅したことが更なる問題を起こしている。


 元々、軍事貴族は内輪もめが多い。

 地方の騎士団複数を軍事貴族は配下に置くが、その騎士団同士も姻戚関係や土地争い等で複雑な利害関係をいろいろと持っているから、どうしても内輪もめが生じるのだ。

 当主が利害関係から生じる内輪もめを裁断して統制するのが大原則だが、どうしてもその際に不満が生じるのは避けられないことで、下手をすると当主の一族内の争いまで惹起する。

 そして、ボークラール一族の名目上の今の当主は私の兄ダグラスだが、「帝都大乱」のために権威も力も失墜しており、今のボークラール一族はまとまらず、バラバラな状態だ。

 だが、明確な敵が出来れば、ボークラール一族は結束するのではないか。


 私は、自分の考えを推し進める内に、背筋が冷たくなった。

 私の兄ダグラスは、帝国に対する反乱を企んでいる。

 その背後には、皇帝ジョンの影がちらついている。

 私の妄想だ、だが、私は足下が揺らぐのを感じた。 

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