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第27章

 翌朝、私は周囲の宮中女官に、兄への手紙を送るのに、国の逓信を使えないのか相談した。

 兄のいる州に送る逓信に便乗してという形になるので、何日後に発送になるか分からないが、それでもいいというのなら構わないということだったので、私はお願いすることにした。

 そもそも、私には兄の所へ行ってくれる知人等いないのだから、しょうがない、と私は考えを巡らせたところで気づいた。

 兄は私が事情を話しに自分の所へ来ることを期待していたのではないか?


 私が兄の下へ行ったら、何のかんのと言って、私を軟禁して、自分の手元に置く。

 帝都には長旅で私が体を壊したとか、やはり、兄と一緒に暮らしたいと私が言っているとか、書いて送ることで、私と帝都の縁を切る。

 兄はそんなことまで企んでいたのではないか。


 エドワード殿下と、昨日、話をする中で、ふと私の頭を過ぎった兵乱が起きたのか、という不安を私は更に思い起こす。

 そして、私のボークラール子爵本宗家が軍事貴族の双璧の一つと何故、かつて呼ばれていたのかまでも考えあわせていく。

 色々な考えが絡み合い、おぼろげな不安が私の心の中で呼び起される。


 下級貴族は大きく分けて2つに分かれる。

 専ら州長官等を務め地方を回る貴族と、基本的に帝都で実務官僚を務めて、その合間に地方を回る貴族である。

 何故、地方に下級貴族が出たがるかと言うと、地方の方が裏収入があり、収入が多いからだ。

 帝国上層部も、それを暗黙の了解としている。

 軍事貴族は、専ら地方を回る貴族の一部だ。


 帝国が現在の領土を確立した後、平和の中で軍事力が駄々下がりになる中、私兵が跋扈しだし、その頭領が金を出して、騎士に叙爵されたり、逆に没落貴族が地方で私兵団を作る例が増えるようになった。

 そうしたものを騎士団というのだが、軍事貴族はそういったものと関連が深いものを特に指す。

 軍事貴族の当主が声を掛ければ、主従関係を結んだ騎士団は当主の下に駆け付ける。

 他の軍事貴族が、精々500騎の騎士をかき集めるのが精一杯なところ、ボークラール子爵本宗家とマイトラント子爵家の両家は他とは格が違う威勢をかつては誇った。


「ボークラール子爵本宗家が一声掛けて、ボークラール一族が結集すれば、騎士1万が集まるかもしれぬ」

「マイトラント子爵家の一族が集まれば、その数は軽く数千騎を超えるだろう」

 という俗語がかつてはあった。

 共に両家の軍事貴族の力を示すものだ。


 これは代々の当主の能力の高さと、その血筋(ボークラール子爵家は帝室の傍流、マイトラント子爵家は大公家の傍流)から来る権威からもたらされたもの。

 地方の騎士団同士の争乱等、地方の州が乱れるとボークラール子爵家の当主やマイトラント子爵家の当主はその州長官に赴任し、武力鎮圧をしたり、調停を行ったりすることで、地方の騎士団を配下に収めて雪だるま式に力を蓄えた。


 帝室と大公家の対立が武力衝突まで至ったのは、こういった軍事貴族の存在を無視できない。

 お互いの手足となる私兵があったので、「帝都大乱」まで至ったのだ。

 だが、その時のトップの力量に差があり過ぎた。


 帝室側の事実上のトップは、元皇帝ジェームズ。

 大公家側の事実上のトップは、大公家次期当主のチャールズの妻メアリ。


 メアリは数年前から武力衝突を覚悟して、準備を入念に練っていた。

 一方、ジェームズは、帝室の権威をもってすれば、大公家はすぐに腰砕けになると舐めており、私が母や兄から聞いた話だと、父からの、せめてボークラール子爵家の私兵を少しでも帝都に呼ぶべきだとの忠告すら無視して、帝都在住の私兵だけでの挙兵を決断してしまった。

 確かに表面上は、大公家は油断していたが、罠だったのだ。 

長くなったので、続きます。

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