第25章
あの後、エドワード殿下と馬の検分を一緒にし、キャロライン皇貴妃殿下の下に戻ったのだが、その後は私は半分、上の空になってしまい、何度も周囲から注意される羽目になった。
まさか、エドワード殿下が私のことを好きだと言ってくださるとは思わなかった。
何しろ、お互いに親の仇と思ってもおかしくない関係なのだ。
だが、私はその点では、エドワード殿下に言ったように割り切っている。
確かに世間的には汚名を私の父は被っているが、大公家の政略からすれば、ある程度は仕方ないことだ。
それに私や兄はきちんと世間から日の当たる立場に出してもらえている。
大公家の意向で、私や兄から復讐されないようにということで、修道院から出してもらえなかった可能性すらあるのだ。
今の大公家の権勢をもってすれば、それくらい何でもないことだ。
帝国の国教として大勢力を持つ真教の教会と言えど、大公家から私達兄妹を修道院で飼い殺しにしろ、と言われたら、それ位のことで大公家と揉めたくない、と黙って従うだろう。
下手をすると、トラブルの種として、教会の方から私達兄妹を放り出したかもしれない。
そうなったら、下手をすると貴族の兄妹としてたつきの道を知らない私達は野垂れ死ぬのがオチだ。
だから、本来は兄は私と同様に大公家を恨むべきではないのだ。
もっとも、そんなふうに割り切れるのも、私が前世の記憶持ちのためなのかもしれない。
私にとって、この世界の両親は共に私が4歳までに亡くなってしまったこともあり、私が両親の顔としてまぶたに浮かべる際に先に出てくるのは、前世の両親の顔なのだ。
更に、原作でも私はアンやエドワードのファンだった。
そういったことから、大公家からの恩義を、兄とは違って、素直に私は受け取れるのだろう。
それにしても、前世の記憶があるのだから、この世界でバリバリそれを生かして、と私は行かないのがつらいところだ。
私は更に想いを巡らせた。
20代半ばで事故死した私の前世は、原子物理学を担当する某国立大学の助手だった。
中世のこの世界で役立つものではない。
20世紀後半以降の世界なら、ニューでクリアな兵器を造って、エドワード殿下にプレゼントできるけど、とかなり危ない発想を、ついしてしまう。
研究の合間に行った設計では、120キロの重さで、5万トンの威力を発揮できるものとか、いろいろとコンピュータシミュレーションで、私は作ってみたものだった。
120キロなら、この世界でも充分に運べるものだ。
だが、この世界の技術レベルでは、原材料の採掘段階から問題がありまくりで、そんな兵器の製造が出来るわけがない。
それに実際にそんなものを使ったら、帝国がえらいことになる。
帝都で使用すれば、帝都が更地になってしまうだろう。
夜になって、侍女の仕事を終えた後、私は、エドワード殿下の忠告に従い、兄への手紙を書いた。
私は兄の下へ行かない事、女騎士に叙爵され、キャロライン皇貴妃殿下付の宮中女官として仕えることになったので、私はその職務に精励する事、これ以上、私の仕えるキャロライン皇貴妃殿下や大公家の一族を貶めるようなことを手紙に書いてくるなら、兄とは絶縁することを手紙には書いた。
私の悪い噂を鎮めるために周囲に知らせる必要もあるし、明朝、手紙を送るのに何とか国の逓信を使えないか、周囲に相談することにした。
国の逓信は、国務関係の公用しか使えないのが大原則だが、貴族間の私信を便乗させることは半分、黙認されている。
兄の場合は、地方に土着していることやその内容から国の逓信を使えなかったのだろうが、私の場合は、キャロライン皇貴妃殿下がバックにいる。
何とかなるのではないだろうか。




