第23章
私の知識は、この世界について原作漫画を読んで覚えた知識と私が生まれ育つ中で覚えた知識が入り混じっている。
そのために困った事態をしばしば引き起こす。
私が生まれ育つ中で覚えた知識と思って話すと、原作漫画の知識によるもので、あの人は変な人ね、と周囲の人に思われることが、時々起ってしまうのだ。
原作漫画では、エドワード殿下は御生母アン大公妃殿下の下で生まれた時から育たれていたが、この世界では違っていたのか。
「私は難産で産まれてね。出産後、アン母さんは半分寝たきりで暫く過ごす羽目になった。それで、メアリ母さんがヘンリー父さんに進言して、私とマーガレット姉さんを引き取った。完全にアン母さんが元気になったら、私たちを引き取る予定だったけど、アン母さんは妊娠出産を繰り返してしまった。アン母さんが元気になる前に、ヘンリー父さんが亡くなり、「帝都大乱」が起こり、アン母さんは亡くなった。それで、キャロライン姉さん達と一つ屋根の下で私はずっと育ったんだ」
エドワード殿下の少し長めの独白が終わった。
私は少し考え込んでしまった。
原作では、キャロライン皇貴妃殿下は生後すぐに、メアリ現大公妃殿下ではなく、チャールズ大公の母親が引き取っている。
私が周囲にそれとなく聞いて回った話だと、この世界ではキャロライン皇貴妃殿下は、生後すぐにメアリ現大公妃殿下が引き取ったらしい。
エドワード殿下の話はそれを裏打ちするものだ。
やはり、メアリは、私と同様の転生者で、自分が生き延びるためにキャロライン皇貴妃殿下を生後すぐに引き取ったのだろう。
そして、メアリとチャールズが仲良くなり、本来のヒロインのアンは自分から身を引いて、ヘンリーに嫁ぐことになったのだろう。
そのために、アンは原作と違い、醜聞に塗れずに済んだが、そのことが大公家と帝室の確執を原作よりも激化させてしまい、「帝都大乱」が起きたわけか。
私は物事をそう推察していったが、自分で思ったより、考えにふけっていたようだ。
「どうかしたのかい。随分、長い間、考え込んでいるけど」
エドワード殿下が、あらためて自分に声を掛けられた際に、私は慌ててしまった。
「どうも、すみません。エドワード殿下が、御生母の膝下で育ったと思っていたので、まずい話をしたと思って考え込んでしまいました」
私は取りあえず取り繕った。
「いいよ、私の周囲なら誰でも知っている話だから」
エドワード殿下は、私に気にしないで、と微笑まれた。
「それよりも、アリス、君は兄に返事を書いたのかい。兄からあんな手紙が届いているのを読んだ、姉の周りの宮中女官や侍女が、どう思っていると君は考えている?」
あっ、いけない。
兄に腹を立てる余り、私は返事を書かずに済ませるつもりだったが、兄からの手紙を読んだ周囲の反応の事を失念していた。
あの手紙を読んだ宮中女官や侍女が、私の悪い噂を広めるのが目に見えている。
返事を書かないのは、兄の意見に内心では同調しているからだ、とか心無い噂が立つ可能性が高い。
ここは、きっぱりと兄に絶縁を匂わせたきつい返事を書いて、それを周囲にきちんと読ませておかないと大変なトラブルになりかねない。
私は背中に冷や汗が流れるのを内心で感じた。
「忙しくて兄に返事を書いていませんでした。私から、兄に自分は兄の下へは行かない事、キャロライン皇貴妃殿下を貶めることは言わないようにする事、また、そんなことを書いて私に寄越したら、兄とは絶縁する事を書いた手紙を出しておきます」
「それがいいよ」
私の言葉に、エドワード殿下は肯かれて言った。
私の手紙はどうせ検閲のために周囲に読まれる、こうすれば問題は無くなるだろう。




