第22章
兄からの手紙を私が受け取り、それに怒りを私が覚えてから数日後、相変わらず侍女の仕事に私が懸命に励んでいたら、エドワード殿下がキャロライン皇貴妃殿下を訪ねてきた。
それにしても、お二人は本当に仲が良い。
実父のチャールズ大公殿下や養母のメアリ大公妃殿下でさえ、キャロライン皇貴妃殿下を訪ねるのは月に1回程度だ。
エドワード殿下は最低でも10日に1度は訪ねて来る。
「お久しぶりです。姉上」
「いらっしゃい、エドワード。何かあったの」
「ちょっと手が空いたので、この合間にと思って、挨拶に来ただけですよ。ところで、贈り物は相変わらず届いているようですね」
「本当にね。義姉のマーガレット皇后陛下にも同じように届いているでしょうけど。私が受け取った贈り物の目録は、マーガレット皇后陛下に全て渡しているわ」
「気を遣い過ぎでは」
「こういうことは、礼儀もあるし、後宮の取締りは皇后陛下のお役目なので、きちんとしないといけないものなの」
姉弟の会話がそれなりに弾んでいる。
「ところで、また、馬が届いているようですが、アリス・ボークラールと一緒に見に行ってもいいですか」
「いいわよ」
私の意向は聞かれずに、お二人に勝手に私が一緒に行くことはいつの間にか決められた。
「アリス、兄のダグラスから自分の所に来るように、と手紙が届いたのは本当かい」
「えっ」
この前と同様に私が先に立って案内をしだしてすぐ、エドワード殿下は声を潜めて、私に尋ねられた。
私も思わず声を潜めた。
「ええ、本当です。でも、どうして、ご存知なのですか」
「キャロライン姉さんが、手紙を書いてよこしたのさ」
ああ、私への手紙は他の宮中女官に読まれているから、そして、宮中女官からキャロライン皇貴妃殿下に報告が行き、更にキャロライン皇貴妃殿下は、エドワード殿下に手紙を書いて知らせたのだろう。
あれ、何で、わざわざそんなことを?
「この前の話、自分は満更嘘でもない。だが、君が僕を憎んでいるのではないか、と思ってね」
エドワード殿下は、声を潜めたまま、話を続けられた。
この前の話、エドワード殿下が私を気に入っている、というあのこと。
えええ!
私は失神しそうになったが、懸命に意識を保とうとした。
エドワード殿下の話は続けられた。
「だって、君のお父さんは世間的には冤罪を大公家に着せられたままだから。君は僕を憎んでも仕方ないことだ。実際、手紙で、君のお兄さんは、大公家を恨んでいると書いていたそうじゃないか」
「わ、私は」
息を懸命に整え、頭の中の考えをまとめながら、私は声を紡ぎだした。
「私が大公家を全く憎んでいない、というと嘘になります。でも、私は憎み続けることに疲れました。それに、憎むのなら、チャールズ大公殿下やメアリ大公妃殿下です。キャロライン皇貴妃殿下には、私を雇いいれて公平に扱ってくださっており、むしろ感謝しているくらいです。エドワード殿下も憎んで等いません」
私は一息に話した。
エドワード殿下は、ほっとされたようだ。
だが、続けて、私は反問した。
「それに、エドワード殿下こそ、私の一族を憎んでいるのではありませんか。エドワード殿下のお母上、アン先代大公妃殿下を結果的とはいえ、焼き殺したのは、私の父の配下なのですから」
私の言葉に、今度はエドワード殿下が固まられた。
エドワード殿下は、暫く沈黙された後、言葉を紡ぎだされた。
「確かにそうだね。だが、私は、そんなに深く、そのことについては憎しみを持てないんだ。何しろ、私は生まれてすぐに母から引き離されてしまったから。そのせいなのだろうね」
「そうなのですか」
私は原作通り、エドワード殿下はアン先代大公妃の膝下で育ったと思い込んでいた。




