第18章
何がお気の毒か、というとキャサリン皇女もエドワード殿下も、お気の毒な気がする。
私がいろいろ宮中の噂話を聞いて分かったものが多いので、間違っている情報も多々あるかもしれないのだが。
キャサリン皇女からしてみれば、最も多感な十代半ばに父、元皇帝ジェームズが自裁に追い込まれたが、そう追い込んだのが、大公家なのだ。
大公家にしてみれば、「帝都大乱」を引き起こし、アン先代大公妃を焼き殺したのは、お前の父ではないか、という反論があり、キャサリン皇女もそれは分かっておられるとのことだ。
だが、皇帝は罪に問われないという大原則を半分、覆してしまい、しかも名目上は格別の恩典の上、流罪刑といいながら、自裁に追い込むことで、大公家は皇帝殺しの汚名を着ない、という汚いやられ方をしては、キャサリン皇女の胸に澱のような物が溜まるのは無理はない。
そして、尊貴な皇女の身でありながら、父の仇の家に嫁げ、と異母兄弟の皇帝に言われて、その通りにしなければならなかった、という屈辱を味わされている。
キャサリン皇女が老け込むわけだ。
原作中で、チャールズ大公の妻、大公妃として輝くような姿をチャールズ大公に寄り添って披露し、ヒロインのアンに、本当ならあのように私もチャールズ大公に寄り添って輝いたものをと内心で言わせたような姿は、今のキャサリン皇女には全く見られない。
エドワード殿下にしても、3歳にして事実上、結婚相手を決められてしまっている。
保育園の男児と中学3年生の女子生徒を事実上婚約させるのはどうか、と私としては思わざるを得ないが、政治的には止むを得ない話なのだろう。
ちなみにエドワード殿下が、そのことを知ったのは、12歳の時で、この時に一悶着があったそうだ。
エドワード殿下としては、おませなことにキャロライン皇貴妃殿下を将来の伴侶にと思い定めておられたので、キャサリン皇女との婚約を破棄し、キャロライン皇貴妃(この時はジョン皇帝陛下と結婚される直前だったけど)と結婚したい、と養父母のチャールズ大公とメアリ大公妃に懇願された。
だが、皇女との婚約破棄等、決して許されるものではない、と養父母に説得されて、泣く泣くキャサリン皇女と婚約続行、15歳で結婚ということになったのだが、結婚式の際に見たキャロライン皇貴妃より遥かに劣るキャサリン皇女の容姿に、エドワード殿下は深いため息を吐かれたらしい。
本当のところ、キャロライン皇貴妃殿下とエドワード殿下の結婚が、チャールズ大公に許されていた可能性は0なのだが、宮中の噂雀達は、もし、そうなっていてお2人が夫婦として並んでいたら、どんなに素晴らしい光景になっていたことか、と惜しんでいる。
お二人が実の姉弟ということを私は知っているので、それは有りえない光景ですね、と内心でいつも突っ込む羽目になる。
それにしても、お二人は血縁関係があることを、お互いに全く知らないのだろうか。
いけない、いけない、手や足を動かさないと、私は気合を入れ直して、動き回ることにした。
それにしても、エドワード殿下はいける口のようで、水のようにお酒を呑んでいるが、顔色が全く変わられていない。
エドワード殿下と親しくなろうと酒を勧めに来る人の方が、どう見ても酔われていることが多い。
「アリス、済まないが、この方を何とかしてくれ」
エドワード殿下に声を掛けられ、私はとある子爵を休憩の間に半分かつぎ込む羽目にもなった。
当然のことだが、そんなことをしていたので、参加者の合奏等、楽しむ間等、全くなかった。
後で、エドワード殿下が素晴らしい笛の音を披露されていたと他の宮中女官から聞き、私は本当に聞きたかったと内心で泣いた。
第2部の事実上の終わりです。
他者視点の幕間を2つ、挟んだ後で、第3部に移ります。