第17章
「アリス・ボークラール、◯◯をお願い」
私にひっきりなしに声が掛かってくる。
なぜ、ジョン皇帝陛下の顔色が悪くなったのか、私としては落ち着いて考えたかった。
でも、あの後すぐにいろいろ周囲から頼まれごとをしてしまい、それに対応する内に、今日の園遊会が済んでからでいいか、と私は無理矢理、割り切ることにした。
そうしないと本当に自分の仕事というか、頼まれごとが終わらない。
えーい、マーガレット皇后陛下はもう少し自分付きの宮中女官を鍛えるべきだ。
結果論とはいえ、このような宮中行事の仕切りのほぼ全部が、キャロライン皇貴妃殿下付きの宮中女官や侍女に掛かってきているではないか。
マーガレット皇后陛下付きの宮中女官に頼んでも、すぐに動いてくれない。
動くのを待っていては、園遊会が滞りなく進まない。
結果的に、キャロライン皇貴妃殿下付きの宮中女官や侍女が、積極的に動かざるを得ない状況が引き起こされてしまっている。
ちなみに、ジョン皇帝陛下に、今は皇妃が2人程、おられるが、こういった正式な宮中行事に皇妃は出席不可(皇帝の愛人に過ぎないので。)なので、皇妃付きの宮中女官はこういった場に出られない。
ジョン皇帝陛下に直接仕えている宮中女官は、2,3人しかいないので、こういった正式な宮中行事の場では、そう数に入らないということになる。
キャロライン皇貴妃殿下付きの私的な侍女に過ぎない、私達までもが積極的に動かざるを得ないということになるのである。
本当に勘弁してほしい。
気が付くと夜になっていた。
競馬等の行事は後片付けに入ってしまい、合奏や合唱、詩の詠いが行われる時になっている。
相変わらず、ジョン皇帝陛下の両脇にマーガレット皇后陛下とキャロライン皇貴妃殿下が揃われている。
慌ただしさに取り紛れて、私にはいつの間におられたのか、分かってはいなかったが、チャールズ大公殿下やメアリ大公妃殿下、それにエドワード伯爵殿下とその妻、キャサリン皇女が、皇帝のお側近くにおられるようになっている。
帝国でも最上級の女性4人が揃われているところを見た私は、ふーん、と内心で思わず唸ってしまった。
私の記憶に間違いなければだが、この中で最年長はメアリ大公妃で39歳、その次がキャサリン皇女で27歳、マーガレット皇后が24歳、キャロライン皇貴妃が18歳の筈だ。
だが、メアリ大公妃が若々しすぎるのもあるが、キャサリン皇女はどう見ても30歳過ぎで、メアリ大公妃とそんなに年が違わないように見えて仕方ない。
生まれてすぐに母を失い、父の元皇帝ジェームズを頼りにキャサリン皇女は成長されたが、15歳の時に元皇帝ジェームズは「帝都大乱」の結果、自裁に追い込まれてしまい、異母兄弟のジョン皇帝しか寄る辺の無い身に、キャサリン皇女はなられた。
ジョン皇帝は、「帝都大乱」の直後に、帝室の大公家への屈服を暗に示す証しとして、キャサリン皇女の降嫁を大公家に打診したが、大公家は大公家継承者のエドワードが相手でよろしければ、と暗に拒絶したらしい。
最もこの世界のチャールズ大公を弁護すると、メアリ大公妃と最後の審判まで添い遂げると誓約している以上、キャサリン皇女と自分は結婚できない、という事情があったと私は聞いている。
それでも構わないと、ジョン皇帝は言われて、当時3歳のエドワード殿下と15歳のキャサリン皇女は婚約された。
そして、エドワード殿下が15歳になられた際に、エドワード殿下が18歳になるのは待てないとして、ジョン皇帝の特別許可によりお二人は結婚されたのだが、それまでの心労のせいだろうか、キャサリン皇女は老けてしまわれたようだ。
お気の毒だ、と私は思った。