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第16章

 そんなことを思っていたので、つい、たたずんで動かずにしばらくいた。

 すると、それを目ざとく見つけたキャロライン皇貴妃付きの宮中女官から叱責の言葉が私に掛けられた。

「アリス・ボークラール、何をしているの。いろいろとすることがあるでしょう」

「すみません。つい、馬上弓射に見入ってしまいました」

 私は、頭を下げて、本来の侍女の仕事に戻った。


 それにしても、こういった場に出ると、キャロライン皇貴妃の美が懸絶しているがよく分かる。

 原作でも、ヒロインのアン准皇后と母子(もっとも、原作中では母子ということを周囲は知らないので、美人というものは似るものだ、ということで流していた。)で貴族一の美人の座を競い合っていた。


 ジョン皇帝陛下の左をマーガレット皇后陛下が、右をキャロライン皇貴妃殿下が占めて座られているのだが、明らかにマーガレット皇后陛下の方が美人という点では見劣りする。

 だが、ジョン皇帝陛下の寵愛は、マーガレット皇后陛下に注がれている。

 その一端が、このような席でも表れている。

 キャロライン皇貴妃殿下は下がり過ぎていて、却ってジョン皇帝陛下を疲れさせているのだ。


「キャロライン、もう少し横に並んでもいいよ」

「いえ、皇后陛下より格下の私が横に並んでは秩序を乱します。お気になさらずに」

「キャロライン、あなたは私の義妹です。そこまで卑下しなくても」

「姉上、宮中の格式を乱すような言動は慎んでください」


 ジョン皇帝陛下とマーガレット皇后陛下が、もう少し前へ出るように勧めても、キャロライン皇貴妃殿下は下がるばかりだ。

 もう少し空気を読むというか、人の好意を素直に受けるべきではないだろうか。

 こういった言動をしていては、ジョン皇帝陛下がキャロライン皇貴妃殿下の傍では寛げず、また、それによってキャロライン皇貴妃殿下にジョン皇帝陛下が寵愛を注がれないのも無理はない、と私は思う。


「キャロラインが、そこまで言うのなら、仕方ない。気の済むようにすればいい」

 ジョン皇帝陛下は、あらためて園遊会の行事を見ることに関心を戻した。

 マーガレット皇后陛下もジョン皇帝陛下に寄り添われた。

 本当にお二人は仲が良いことだ。


 気が付くと、お二人の飲み物が空になっている。

 私が別の飲み物をお二人に差し上げようと考えて、慌てて近づいたら、キャロライン皇貴妃殿下が私に声を掛けた。

「アリス・ボークラール、皇帝陛下のお側に近づけるのは、宮中女官のみです。下がりなさい」

「すっ、すみません」

 私は慌ててお側を下がった。


 そういえば、そうだ。

 私はこの世界では宮中女官では無く、単なるキャロライン皇貴妃殿下付きの私的な侍女だ。

 原作で、ジョン皇帝陛下にお茶を自分が差し上げるシーンがあったので、やってもいいと思っていたが、あれは宮中女官だから許されたことだった。


 あれ?

 ジョン皇帝陛下の顔色が変わった?


「キャロライン、アリス・ボークラールとこの侍女を呼んだか?」

「ええ、どうかなさいましたか?私が私的な侍女として雇いました」

 キャロライン皇貴妃殿下は平然としているが、ジョン皇帝陛下の顔色は悪いままだ。


「あのボークラール子爵本宗家の生き残りですわ。大公家が過去の事を水に流したいと思っていることの証しとして雇いましたの」

「それは素晴らしいことだね」

 キャロライン皇貴妃殿下とジョン皇帝陛下の会話は続いているが、空気が微妙に重くなった。


「皇帝陛下、園遊会の行事を楽しまれては」

 空気が読めないマーガレット皇后陛下が、ジョン皇帝陛下に声をかけて空気を変えてくださった。

「そうだね、そうしよう」

 ジョン皇帝陛下は慌てて取り繕われた。


 私が雇われては、まずいことがあったのだろうか?

 ジョン皇帝陛下の顔色が悪くなった理由は追々明かします。

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