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第15章

 エドワード殿下は競馬、馬上弓射と2つの競技に参加された。

 宮中行事なのだから、そんなに大したことは無い、と私は始まるまでは思っていたのだが、参加者全員が鎖帷子を着込み、実戦同様の勢いで参加者は競い合っている。


 そうはいっても、財力というのが出ることもあるものだ。

 特に競馬は、よい馬を予め購入できた参加者が大抵、勝っていたような気がする。

 実際、競馬でエドワード殿下は、あっさり勝たれた。


 だが、馬上弓射はちょっと勝手が違った。


 私の目測なので、少し違うかもしれないが、前世の単位で言うと50メートル程は離れた所にある水上の船の上の的に、馬上の騎士が馬を走らせながら、弓を射るのだ。

 水上の船なので、そもそも的は揺れている上に、その的は直径が50センチ程しかない丸い物だ。

 それを約1.5メートルの高さの棒の先に止めてある。

 参加者は、馬を走らせながら、その的を射るのだ。

 私には正気に思えない難しさだ。


 実際、参加者の多くが馬をゆっくりと走らせながら的に当てるか、馬を走らせるも的に当たらないか、のどちらかだった。

 それなのに、エドワード殿下は、平然と馬を走らせながら、弓を的に当てて見せた。

 当然、それを見ていた人全員が、歓声を上げた。

 私も感激して見惚れてしまった。

 他の参加者の何人かも、同様の事をして、歓声が上がった。


「さすが、マイトラント伯爵家の一門、軍事貴族筆頭の名家だけのことはあるわね」

 先輩の宮中女官の声が風に乗って聞こえてきた。

 私は、その家名に覚えがあった。

 確かキャロライン皇貴妃殿下の乳母ジュリエット様のご実家が、マイトラント伯爵家だ。

 私の一族、ボークラール(元)子爵家と対照的な家で、かつては同格で競い合っていた。


 ちなみに原作「暁星に願いを」にはマイトラント伯爵家は出て来なかった。

 それをいえば、我が家も私以外出てはいないのだけど。


 帝国の貴族社会は家格にうるさい。

 皇后、皇貴妃になれるのは公爵家以上の娘、皇帝の愛人の皇妃ですら侯爵家以上の娘等、そこまで言うかという家格の差がある。

 貴族の家は一般に約400家と言われている。

 その内、男爵家が約300、子爵家が約60家で、この2つが下級貴族を構成する。

 残り約30家余りが上級貴族で、大公家が当然単独であり、公爵家が5つ前後、侯爵家が8つ前後、伯爵家が20前後ある。

 前後と曖昧な言い方になるのは、帝国の貴族は大公家当主以外は、一代貴族が表向きは原則だからだ。

 実際、大公家次期当主のエドワード殿下でさえ、伯爵に別途、叙されている。

 公爵家当主の長男であっても、男爵止まりということが表向きはあり得るのだ。

 実際は、公爵家当主の長男はほぼ公爵まで叙爵される等、世襲貴族社会になってはいるけれども。


 軍事貴族は、大抵、男爵家で、「帝都大乱」以前は伯爵家以上は存在せず、帝室の傍系たるボークラール子爵家と、大公家の傍系たるマイトラント子爵家が軍事貴族の双璧と謳われていた。

 だが、「帝都大乱」がそれを変えてしまった。


 ボークラール子爵家は族滅の惨状となり、ボークラール子爵本宗家で生き残ったのは、私と兄だけだった。

 一方、マイトラント子爵家は大公家の勝利に多大な貢献をした。

 そのために、マイトラント子爵家当主が、伯爵に叙せられ、参議任官という恩賞を新政府から受けたのは、ある意味、当然だった。

 今では、「マイトラントの血を引きし者以外は、軍事貴族の本流に非ず」と言わないばかりの勢威を、大公家をバックに就けることでマイトラント伯爵家は誇っている。

 私の実家、ボークラール子爵家が再興することがあるのだろうか。

 私はため息を吐く思いを、マイトラント伯爵家の活躍を見て思ってしまった。

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