第11章
「春の園遊会は、4月3日に正式に決まりました。準備がいろいろ大変ですが、皆で協力し、頑張りましょう」
キャロライン皇貴妃付の宮中女官長からお言葉があり、宮中女官や私達皇貴妃付の侍女はいろいろとその準備に取り掛かることになった。
園遊会というと大したものに思われそうだが、要するに、この世界では宮中の春のお花見会のことだ。
爵位があり、帝都に住まれている方全員に皇帝名で招待状が送られた。
そして、招待状を受けた全員が配偶者同伴の上で出席するのが原則なのだが。
「◯◯伯爵夫人から体調不良で欠席とのお手紙が」
「大方、お財布が体調不良なのよ。あの伯爵家は気位が高いのに、お金がないから」
先輩の宮中女官達の容赦のないひそひそ話が私の耳に入ってくる。
何でキャロライン皇貴妃が、春の園遊会の準備をしているのか?
理由はキャロライン皇貴妃が入内された年の春の園遊会以前にまでさかのぼる。
本来は宮中で最も高位の女性が、こういった春の園遊会等の宮中行事の仕切りをするのが帝国の慣例だった。
皇帝の母の皇太后陛下が健在だったら皇太后陛下、皇太后陛下がいない場合は皇后陛下だった。
ところが、ジョン皇帝陛下が即位され、ジョン皇帝陛下の祖母の太皇太后陛下が崩御されたことから慣例が崩れ去った。
なぜなら、ジョン皇帝陛下の生母スカーレット殿下は皇妃に過ぎず、皇太后に成れなかったからだ。
皇妃という称号は、帝国では皇帝の愛人に与えられる称号に過ぎず、皇太后に成れるのは、皇后か、皇貴妃だけだ。
普通なら、皇妃が産んだ皇子は皇后陛下の養子となり、皇太子になることで、そういった事態を回避するのだが、ジョン皇帝陛下の実父、元皇帝ジェームズ陛下は諸般の事情(大公家との対立等)から、皇后を冊立できなかった。
更にジョン皇帝陛下の父、元皇帝ジェームズが帝国への反乱罪で流罪になり、自裁したことから、スカーレット殿下は周囲の無言の圧力に耐え切れず、宮中から下がられ、修道院に入られてしまう。
ご実家の父親が、元皇帝ジェームズの反乱に加担したと告発され、侯爵位剥奪の上、全財産没収という刑を受けてしまい、ショックから急死されては、ご実家に戻ることもスカーレット殿下はできなかったというのも大きい。
そして、マーガレット皇后陛下が入内され、宮中行事の仕切りをされるようになったのだが。
これが、まるでダメだったのだ。
私が侍女となって約1月、マーガレット皇后陛下のご様子を見聞きして、分かったことがある。
緩い、緩すぎる。
例えば、宮中女官が愛人を持つのはあくまでも黙認なのに、マーガレット皇后陛下付きの宮中女官は半公然と愛人を持っている始末だ。
そんな緩い人が、宮中行事の仕切りをするととんでもないことになる。
何だかんだ言っても、サポート役では無くトップが判断しないといけないことがどうしてもあるものだ。
最初の1回でダメなのが丸わかりになり、慌ててマーガレット皇后陛下の後見人のメアリ大公妃殿下が宮中行事を事実上取り仕切ることになったのだが、大公妃に過ぎない以上、越権行為もいいところである。
キャロライン皇貴妃殿下が入内され、キャロライン皇貴妃殿下が義理の従姉で姉同然のマーガレット皇后陛下に助言し、マーガレット皇后陛下の全面委任を受けて、キャロライン皇貴妃殿下が宮中行事を取り仕切ることになった。
このことで、宮中の面々は全員が少し正常化されたとほっとしたのだが。
そのことを、マーガレット皇后陛下は、のほほんと義理の従妹が気を遣って難しいことを引き受けてくれた、と本当に思っているらしい。
キャロライン皇貴妃殿下が強くなるわけだ、と私は思っているところに声が掛けられた。