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第1章

 帝都の冬の朝は寒い。

 この修道院付の孤児院に私が入ってから10年以上になるが、未だに冬の朝に起きるのは、私にとってつらいことだ。

 だが、修道院にとって、日の出と共に行う朝の勤めは大事なことだ。

 14歳の私は、毎朝、勇気を振り絞って、寝床から起き上がることになる。


 礼拝堂で行う神の礼拝等の朝の勤めを終え、私は朝食を食べるために食堂へ移動した。

 孤児院の皆と私は朝食を食べる。

 前世で言うところのジャガイモが中心の質素な食事だ。

 仮にも下級とはいえ貴族の娘の私が孤児院住まいを何故して、質素な食事をいつも摂っているのだろう。

 本当なら、蝶よ花よとまではいかないまでも、貴族の娘として私は安楽に成長できたはずなのに。

 だが、仕方ない。

 この世界は、前世の記憶と違い、超展開をしてしまったのだから。


 本当なら、私は下級貴族とはいえ、子爵家の次女として安楽に成長し、宮中に女官として仕えることができるはずだった。

 そして、紆余曲折はあるものの、それなりにモブとして安楽に暮らし、うまくいけば恋愛を楽しめるはずだったのだ。

 でも、今の私には、そんなことは夢の世界だ。


 平和な恋愛少女漫画の世界のモブキャラに転生していたはずが、いきなり内乱が起きて、本来のヒロインが焼死するわ、私の父親は内乱に加担したとして亡くなるわ、という超展開が起きてしまった。

 源氏物語の世界に転生したはずなのに、平家物語の世界に転生したようなものだ。


 私の母は私を含む子ども達と共に、教会へと逃げ込んで庇護を求めた。

 罪人と言えど、教会の庇護に入れば一時は護ってもらえるという教会の特権にすがったのだ。

 夫である私の父を失った私の母にとって教会しかすがれるところは無かった。

 私の一族、私の父や父方の叔父、私の母方の伯父等、多くが内乱に加担して戦死するか、罪人として処刑されてしまっている。

 あの内乱の混乱時、教会の庇護特権が無かったら、私の命も無かったろう。


 内乱が収まり、私の母は伝手を頼って、自分で子ども達を育てようとしたが、とても無理だった。

 私の一族で大人になっていた人は、軒並み亡くなり、辛うじて生き残っていた少数の人も、私達とかかわりを持とうとしなかった。

 私の父は内乱の主導者の一員にされてしまっており、私たち家族を育てることは、内乱を鎮圧した現政府に睨まれることを覚悟せねばならなかったからだ。

 私の母は、夫や一族の多くを失い、財産まで政府に反乱者として没収され、辛うじて生き残った一族からも見捨てられたことで、内乱鎮圧後1年ほどで主に心労から急死してしまった。

 私たち兄弟(私以外には兄と姉が1人ずつ)は、教会が斡旋してくれた修道院付の孤児院で暮らすしかない身になった。


 それから、10年余りが過ぎた。

 私の2つ上の姉が流行り病で亡くなったのは、4年前だ。

 15歳で成人するまでに半分近くが亡くなるこの世界では珍しくない話だが、その時は私の4つ上の兄と私は姉の枕もとで泣き喚いた。

 最早、私の家族と言えるのは、4つ上の兄しかいなくなり、兄妹2人きりになってしまったのだ。


 そして、兄は15歳の成人になった際、皇帝の特別な慈悲により、男爵に叙せられ、とある州長官の部下として、地方へと下って行った。

 職務に精励し過ぎて、その州の有力者から娘婿にしたいと望まれ、そこに兄は土着してしまった。

 没落貴族とはいえ、地方では貴族と言うのは娘婿として垂涎の的だ。

 お蔭で私は帝都で1人きりだ。

 

 どうして、こうなったのだろう。

 何としても自分の運命を切り開かねば、前世の知識をフル活用して。

 私は、前世の記憶が甦った瞬間を思い起こした。

 そう、あの時から、既にこの世界はおかしかったのだ。

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