エピローグ
普通に本気で怒っている。
僕は目の前に立つ天使をまじまじと見つめた。背格好は中学生くらいか。コスプレのような白いひらひらのミニスカートからすらりと伸びる白くてきめの細かいふとももがまぶしい。両腕は腰に回し、怒っているんですと全身で表現するかのように反り返っている。華奢な肩の上に乗っかった首は細く、完璧な顎のラインと切れ長の目はまるで天使のようにかわいらしい。そして肩の下まで伸びる艶やかな金色の髪は左右をツインテールに結わえてある。
僕たち三人はしばらくなんともいえない意味不明な沈黙の中にいたが、
「ごめんなさい」
と、真奈美が言うと、天使は少し表情を和らげた。
「あなたたち、私を何だと思ってるの?」
天使だろ? 怒った顔をしていても見ているとつい微笑んでしまうような究極のバランスが保たれた美しさ、まさしく天使だ、と僕は思った。
「真奈美ちゃん」
「そ、それって本物ですか?」
真奈美は天使の頭の輪っかを指して恐る恐るたずねた。天使はおもむろに頭上のリングを二つに分けると、
「これ?もちろん本物。結構便利なのよ。真奈美ちゃんにも一つあげるわ。ブレスレットにでもしなさい。ほらこうすると、輪っかが小さくなったり大きくなったりするでしょ。それからあなた。あなたにも特別にあげるから、首輪にでもしてなさい」
「と、思ったけどやっぱりやめるわ。返して。おもちゃじゃないんだから軽はずみにあげちゃだめよね。それに、人間に干渉しすぎるのもよくないし。代わりに祝福をあげる」
天使はふわりと近寄ると、白くてやわらかい腕で僕を包み込んだ。暖かい感触。
「あなたの孤独が癒されますように」
天使は真奈美にも同じように、
「あなたの願いが叶いますように」
と、抱き包んだ。
「光が見えたら、あなたたちは私のことを忘れます。じゃあね、お幸せに」
天使の背後から、まばゆい光があふれ出し、大きな光の玉となって上空へ駆け上った。
僕たちはそれきり天使のことを忘れた。
僕と真奈美は、たまに音楽の話をするようになった。話をしてみると、意外と面白い子だった。相変わらずなんとなく過ごす毎日だったが、少しずつ何かが変わっていくような気がした。