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床井学園 仮装部!

床井学園 仮装部!

作者: 廿楽 亜久

 ステージで軽音部が、最近流行りの音楽を弾いている。音楽はあまり得意ではないから、入部の候補には入っていないが、こういったパフォーマンスや演奏を見るのは、やはり楽しい。

 床井学園ゆかいがくえんは全寮制の中高一貫校だ。しかも、部活動には強制参加。無所属を希望するようなら、先生からの救済処置として“放課後7限部”に所属が決まる。文字通り、毎日1時間の補習が入る、楽しい楽しい部活だ。

 過去に1年間所属した人が、最高記録らしく、本当に1時間ちゃんと授業をするということで、それを避けるべく、幽霊部員でもなんでも生徒は何かしらの部活に入る。

 もちろん、考えるための材料はたっぷり用意されている。入学から3日かけて、各部活動のステージを見て、気になる部活を決める。その上で、その後、1ヶ月間、仮入部および見学し放題。部活動も、4月だけは毎日、必ず誰か1人はいるようになっている。

『楽器が弾けなくても、優しい先輩が教えてくれるから、安心して来てね!』

『あとかわいい先輩もいるから、おいで!』

 もはや定型文となりつつある最後の締めの言葉。今日は、次で最後かと、部を確認しようとすれば、何故か周りの中学から上がってきた友達が、ざわついている。

 それだけではなく、中高の1年だけの部活紹介のはずだが、入口に1年生ではない人たちが立っている。

「なんかあったの?」

 隣のクラスメイトに聞けば、最後の部活を指さされた。

「仮装部……?」

「あ、お前、外進だっけ」

 高校から入学した俺には、この学校で有名だとしても、その仮装部のことは知らない。

「まぁ、うん。超有名ってか……見てればわかるよ」

 そんな投げやりな言葉を返され、仕方なくステージに目を向ければ、軽音部の片付けに何故か茶色いそれが手伝っていた。

 くまの着ぐるみだ。

「……ぇ?」

「あ、アレだよ。仮装部の部長」

 平然と言っているクラスメイトに、仮装というよりも着ぐるみなのかと、妙な納得をしていると、今度はくまがテーブルをセッティングしている。マジックでもするのか、いろいろな道具が置かれ、最後に上に向かって手を振ると、ステージの電気が消えた。

『これより、本日最後の部活紹介を始めます。文化系“仮装部”です』

 司会の生徒のアナウンスが入ってから、数秒。

「レディース&ジェントルマン!今年度入学した、ニューフェイスたち!」

 ホール中に響く声と共に、ステージの一部がライトアップされる。そこに立っていたのは、タキシードを着たウサギ。先程のくまは後ろに控えている。

「我ら仮装部から、マジックショーのプレゼントだ」

 すると、何もないところからステッキを取り出し、クルクルと回し出す。そして、指を鳴らすと、その先から花を出した。

「おぉ……」

 自然と拍手が沸き上がる。意外にも、見た目のインパクトとは違い、普通のマジックショーだ。変わっているのは、やはりマジックを披露しているのが、タキシードの上にウサギの顔だけの着ぐるみを着てしていることと、後ろで先程のくまの部長が微動だせずに立っていることだろう。

「ラストは、このシルクハットからハトを出してみせよう!」

 ウサギは頭に乗ったシルクハットの中に、何もいないことをハッキリと示すと、またシルクハットを被る。そして、指を立てながらカウントを始めた。

「1・2・3!!!」

 シルクハットを上げれば、そこには白いハトがいた。

「おぉぉぉおおお!!」

 歓声と拍手が湧き上がった。その音に驚いたのか、今までおとなしかったハトは、その場から逃げ出そうと飛び上がってしまう。

「あ」

 その瞬間、ウサギの素の声がマイクに拾われ、ホールにいた全員の視線が飛び立ったハトに向けられた。どこに向かって飛んでいくのか、それを唖然と眺めていると、そのハトは茶色いそれによって挟まれた。しばらく逃げようと暴れていたハトは、落ち着くとそのくまの小脇に抱えられた。

「以上、仮装部によるマジックショーでした!部室は――」

 そのまま何事もなかったかのように、部室の場所、活動日時など普通のことを部長が簡単に説明する。ハトを脇に抱えたくまが。

 白いハトを脇に抱えられたくまが。

「よっ!さすがダソク!!」

「今日はダソクじゃなくてよかったな!」

 妙な野次が入口の方から、つまり上級生から飛んでくるが、それには手を挙げて答えていた。

「ダソク?」

「蛇の着ぐるみのことがあるんだけどさ、その時に腕は隠してるのに足が出てるから、蛇足」

「へ、へぇ……」

 なんとも珍しく個性的な部だから、有名なのかと、その時はまだ思っていた。

 それが思い込みが変わるのに、そう時間はかからなかった。

 そりゃそうだ。朝、放課後、昼休み、しかも毎日必ず着ぐるみが4月以降も歩いているのだから。

「……な、なぁ、アレって」

「バケモノ部のこと?」

 この学校では仮装部はバケモノ部とも呼ばれている。それは単純に着ているきぐるみが、かわいらしい物以外にもあるから。ではなく、いつ着替えているのかわからず、授業以外の時には必ずきぐるみになっていることと、きぐるみの状態で相当、運動ができるかららしい。

 あの部活紹介の、ハトの空中キャッチも含め、ついこの間、ランニングしていた陸上部がハンカチを落とした時に、後ろからくまが全力で追いかけてきて、しかも追いつかれたらしい。その追いかけてくる様相が恐ろしく、全力で逃げたそうだが、それでも追いつかれ、息も切れていなかったという。

 そんな逸話があるから、あいつら人間じゃないんじゃないかってことで、バケモノ部。そう呼ばれている。

「中の人、すげぇな」

「中の人はいないから」

「え、いや、でも」

「本名なんて絶対わからないし、バケモノ部に入ってる人は全員わかんねぇよ?」

 部活動なのだから聞けば教えてくれるだろうし、名簿にだって載っている。なのに、謎とはいったいどういうことなのだろうか。

「調べようとした人は、みんな部室ファンシーボックスに連れてかれて、おとぎ話を聞かされるらしい」

「なにそれ、こわい」

「やってみればいいんじゃね?陸上部に追いつくようなバケモノが、全力でお前を追いかけるとかおもしろそうだし」

「いや、うん。やめとく」

 逃げ切る自信もなければ、そんな恐ろしいおとぎ話を聞くのはゴメンだ。


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