プロローグ
プロローグ
三月、冷たい雨が降りしきる山中を、レラは走り続けていた。
もう何日も彼女は睡眠はおろか、まともな食事もとっていない。そのせいで体力は限界まですり減り、意識は朦朧としている。
しかし、どんなに体がぼろぼろになっても、彼女は仲間から託された使命のため、足を止めようとはしない。
(みんな……)
レラは自分を逃がすために、敵に立ち向かっていった仲間のことを考えた。
あの後、彼らはどうなったのだろう。上手く逃げることができたのだろうか? 大きな怪我をして苦しんではないだろうか? それともすでに敵に捕まり――
(っ!? 違う! そんなわけない!)
頭によぎった最悪のイメージを、レラは必死に振り払う。
(絶対にそんなことあり得ない! みんな私なんかより頭も良いし足だって凄く速い。きっと上手く逃げて、どこかに身を隠しているに決まってる。大丈夫、大丈夫、大丈夫)
自分に言い聞かせるように、心の中で大丈夫と繰り返す。
そして、ふと自分の足が止まってしまっていることに気づいた。
(こんな事をしてる場合じゃない。急がないと)
疲れ切って重くなった体を、レラはまた前へと進ませる。
「!?」
だが三歩ほど進んだところで、ぬかるんだ地面に足を滑らせて転けてしまった。
普段の快調な体ならこんな事で転んだりはしなかっただろう。しかし今の彼女には、反謝的に対応できる体力すら残ってはいなかった。
(くっ……早く行かないと)
レラは急いで立ち上がろうとするが、上手く立ち上がることが出来ない。足はただ地面の泥を掻くだけだった。
(そんな、なんで……あともう少しなのに)
彼女の目的の場所はもう目の前だった。
しかしどんなに足掻いても、痛みを訴える足に上手く力が入らない。
段々と彼女の心に焦りが見えてくる。そんな気持ちとは逆に、体からは足掻く力すらも消えていった。
(お願いだからもう少し、あと少しだけで良いの、だから動いて!)
何度言い聞かせても、彼女の体は糸の切れた人形のように動こうとしない。
今朝方から降り始めた冷たい雨は、動けなくなったぼろぼろの体を打ち続けて、少しずつ体温を奪っていった。
レラの重くなった瞼は、ついに視界を狭め始める。
(誰か……助けて)
このまま気を失えばきっと無事では済まない。だからといって雨宿りすることも、立ち上る体力すらない以上できそうにない。声も出ない体でレラは助けを祈るが、こんな山の中で助けが来るわけがなかった。
レラは自分がここで死ぬのだと確信した。
(ああ、みんな……ごめんなさい)
仲間達が自分を頼ってくれたというのに、レラはそれに答えられなかった。彼女は心の中で仲間達に謝罪を繰り返す。
段々と視界が闇に飲まれていく。
そしてレラはゆっくりと意識を失った。