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きょうきや

きょうきや ver.invidia

作者: Irene

人は何で楽園(エデン)を追われたか知ってる?



..._来る

何かが来る

何かは分からない、でもそれはきっと【良くないもの】だ

逃げろ、逃げろ、

アレに捕まったら俺は_




「チックショウ!!」


雨の中俺は拳を壁に叩きつける

思い浮かぶのは先ほどの光景

中睦ましく寄り添いあう男女


......片方は俺と付き合っているはずの女

そしてもう一人は......

俺の弟だった_


いつもそうだった

子供の頃からあいつは俺の欲しいものを奪っていった

それまで何の興味も示さなかったのに俺が欲しいと思ったりそういう素振りを見せたら欲しがる

そして俺から奪う


......何でももってるくせに


『お兄ちゃんなんだから我慢なさい』


いつも言われた言葉


......やってらんねー



「おいおい、ずぶ濡れじゃねーか」

「...?」


誰だ?

蛇みたいなヤツ......


「へ~いい感じに【濁って】んな、親父が悦びそうだ...

店に来いよ、雨が止むまで【保護】してやるよ」

「え?え?」

「はい、一名様ごあんな~い」


そういって青年が俺を連れて行ったのは古びた小さな店だった

アレだ、田舎の雑貨屋

そのうち人の良さそうな婆さんが出てきたら完璧だ

看板の文字は擦り切れていて読めなかった

何の店だ?此処

薄暗い店内、様々なブースに分かれてるみたいだ

見かけによらず広いな

フ、と奥の方に目が向いた

気がついたら足が勝手にそっちの方に行っていた


歩を進めた先には大小様々なガラスケースがあった

店内が薄暗いから近くによって見てみようと覗き込もうとしたら_


「ようこそ!きょうきやへ!」

「うわ!!」


び、吃驚した

何時の間に人が..?あれ?誰もいない?


「こっちだよオニーチャン!」くすくす


声のほうを向く

其処には小さなカウンターがあった

さっき見たときは無かったような...

其処にいたのは小さな...男の子、か?

中性的で綺麗な顔立ちの子供がいた


「ようこそ!きょうきやへ!」


再度その子が言った


きょうきや?

この店の名前か?

なんて書くんだ?

強記(きょうき)屋、とかか?


「アハハ!ずいぶんと物覚えの良さそうな名前だね!

でもザンネ~ン!違うよ!」


...俺今声に出してたか?


「ふふふ、出してないよ?

改めまして、

ようこそ!此処はきょうきや

お客様によって意味が違うお店」くすくす

「お客様が訪れるブースによって意味が変わるお店」

「お兄さんは此処を選んだんだね?」

「でも可笑しいな、

ま だ 誰 も 来 な い 筈 な の に 」

「ヒッ」


なんだ...これ?

ナンダコレナンダコレナンダコレ?!

目の前に居るのは只の子供のはずなのに

目を合わしている今は身動きが取れない

まるで蛇に睨まれたカエルの気分だ

背筋が凍る、体が震える

これは雨で濡れたからと言うだけじゃない

冷や汗が出る

この感情を例えるなら

そう、無邪気な子供が残酷に生き物を嬲る様を見たときのような__


「おう、親父」

「あれ?ヨルムンガンド?何で居るの?」

「んあ?客にタオルを渡しに来た」

「いや、そうじゃなくて...」


ほっと息を吐いて気づく

無意識下で呼吸を止めていたことに

青年が来て明らかに空気が変わったことに安堵する

さっきのは一体なんだったんだ?


「んふふふ~じゃあ、僕に会いに来てくれたんだ~」

「キモイ、ちかよんな」

「お、お~い..?」

「嗚呼!ごめんね~オニイチャン、てっきり泥棒さんかと思って威嚇しちゃった!」


てへっ!って感じで言われても...


「それで?」

「はい?」

「オニイチャンはどうして此処に来たの?」

「あ、俺が連れてきた。面白そうだったから」


面白そうって...


「本当に?」

「おう」


?なんだ?人のことじろじろ見て


「そっか~うん、うん、僕の息子が似てくれて嬉しいよ!」


変な奴等だ雨が止んだら直ぐに帰ろう

このまま此処にいたら変な宗教にでも勧誘されかねない


「そんなに疑わなくてもいいんだよ? アールカイン・ヘルザーおにいちゃん?」


何で俺の名前を?!


「あれ?驚かせちゃった?う~んこわがらせない様に名前を言ったんだけどな~

なんかますます警戒しちゃった?」


何時もこれで失敗するんだよね~


って何時もかよ?!


「ごめんね~

僕はロキ、こっちの蛇顔君はヨルムンガンド



僕の息子だよ」

「蛇顔言うのヤメロ」


「は?」


むすこ...息子?!

いやいやいやいや、

ナイ、それはナイ

だって如何見たってこいつガキだろ?!

......ああ、ごっこ遊びか

たぶん名前に因んだやつだろう

たしかロキとは北欧神話最大のトリックスター

悪戯好きの神の名前だった筈だ

そして巨人アングルボザとの間で儲けた彼の子の名前が

強大なる毒の大蛇ヨルムンガンドのはず


「へえ?見かけによらず神話に詳しいのか?」

「偶々映画で見たから知ってただけだ」


ってあれ?俺今声に出してたか?


チリーン


「あれ?お客さんかな?僕見てくるね~」


パタパタと足音を経てて子供が入り口の方に行った

ブルッ


「あ~ちょっとトイレに行っていいか?冷えたみたいだ」

「お~其処出て左な~」






あれ?確かさっき此処を曲がってきたよな?あれ?此処何処だ?

暗いし......使われてないとこなのか?

お、あっちの部屋から明かりが漏れてる

話し声も聞こえるし、従業員か誰かいるんだろ

帰り道教えてもらおう


「で?..さん..如何..?」

「カイン..しに..こ..」


?俺の名前?


「へえ?そんなにお前に惚れてんの?」

「そう!あれ近いうちにプロポーズでもするつもりじゃない?」

「俺の読み道理って事か」


何で..ここに..あいつらが..


「ふふ、一年前貴方がもち掛けた時は上手く行きっこないって思ってたけど......案外いけるのね~」

「当たり前だ何年アイツと兄弟やってると思ってる

女の好みからなんからいやでも熟知できるっての」

「怖い弟ね~」クスクス


部屋にいるのは俺と付き合ってるはずのジナ、

そして俺の弟   レイアベルがいた__



その後のことは正直あんまり覚えてない

只がむしゃらに廊下を進んでいた

頬を伝うのは悲しみの涙かそれとも__



チリーン


何処からか季節外れの風鈴の音がした

さっき聞いたものだ

俺はその音を聞いてふらふらとその発信源の元に(おもむ)いた

まるで街灯に吸い寄せられる羽虫のように

暗闇の方へと歩み始めた


ついたのは最初にロキに会った部屋

あのいくつものガラスケースがあった部屋

そして思い出すあの子供の言っていた言葉たちを

何故だろう?今は色々納得できるような感じがする


「それはね?」             何処からか響く声

「時期が来たからだよ?」        この部屋のあらゆる所から響くような声

「今なら分かるんじゃないかなぁ?」   愉しそうに部屋の中に木霊(こだま)する


何だ?何が起きてる?

...シュル


「ウワ!」


い、今足に何か


「ヒッ」


俺の足元に蛇がいる!


「は、放せ!このっ!」

「ごめんねおにいちゃんヨルムンガンドが吃驚させてみたいだね、

おいでヨルムンガンド僕の膝の上でお休み」


ヨルムン..ガンド?

さっきの青年と同じ名前?

気味が悪い..なのに..

足が、体が..ウゴカナイ


「そんなに警戒しないでよ、ボクはタダ、アールカインおにいちゃんを助けたいだけだよ?」

「助ける?」

「許せないんでしょう?レイアベルが」

「何言って..?!」

「許せないんだよね?君の家族の愛情を独り占めするだけじゃなく

女の人をつかっておにいちゃんに絶望を与えようとする彼が」

「違う!違う!そんなこと思ってない!」

「思ってないじゃなくて...思いたくないんだよね?

だっておにいちゃんは信じたかったんだよね?!

デモネ?さっき見たこと総てが本当のことなんだよ?

アレが事実さ!」

「...」

「哀しいよね?苦しいよね?

憎いよね?」

「..ッ!!」

「本音を言っても良いんだよ?此処にはボクしかいない

お兄ちゃんの言いたいこと全部言えばいいんだよ」


まるで波紋のように広がる言葉達

毒のようにゆっくりと俺の心に染み渡る

ああ、もう

         ら

                 が

   え

                           な

             い


 

「..んで」

「ウン?」

「何でだよ?!

「何でだろうね?」

「..ッ!

あい..つは 

がきのころからかわいがられてて!!

うまれてくるまではおれがいちばんだったのに!!

なのにうまれてからぜんぶもっていって!!

かあさんはあいつにつきっきりで!!

とうさんはあいつのほうがゆうしゅうだっていって!!

ほかのやつらはあいつとおれをひかくしてばかりで!!

それでもかぞくだからすきになるようにどりょくして!!

でもむりで!!

そんなおれにやさしくしてくれたのがかのじょだったのに!!

それすらあいつにうばわれて!!

いや、ちがうな、もとからおれのものでもなかったんだな

ハハッ!

舞い上がってプロポーズすら考えてた俺って......

道化師みたいじゃねえか......

苦しい..苦しいんだ..

あんなヤツ......

しねばいいのに......」


最後の言葉と共に俺の目から涙が一滴零れた__


「よく言えました」

「あ、俺......」

「良いんだよ?それで

言ったでしょう?僕は助ける為に居るんだって」

「ああ、少しすっきりしたよ有難う」

「如何いたしまして

で、これから如何する?」

「如何..か

如何するべきなんだろうな......

どこか遠くに..あいつらがいない所に行くのも良いかもな......」

「ホントウニソレデイイノ?」

「だって他にやりようが無いだろう?

もう、あいつらに会いたくないのが本音だ

正直殺してやりたいが......

そんな神をも恐れぬ所業をするほど俺は強くないし

それを実行する勇気もないよ」


「ボクナラデキルヨ?」

「オニイチャンニ【チカラ】ヲアゲル」

「オニイチャンハタダキョウキヲエラベバイイ」

「選ぶ..?」

「ソウ、ソシタラダレニモジャマサレズニフクシュウデキルヨ?

オニイチャンハタダカラスケースノナカニアルキョウキヲエラベバイイダケ!

カンタンデショウ?」

「それだけで、復讐出来るのか?

俺を嘲笑い続けたあいつを...」


...コロセルノカ?


「うん!如何する?」

「お前が何なのかこの際如何でもいい


口車に乗ってやるよ」

「ふふふ、ヤダナ~僕は只のコドモだよ?

さっ!!手伝うからこの中から選んで?

きっと君が気に入るものがあるよ」


ロキに導かれてガラスケースを覗いた

其処に飾ってあったのは大小様々な__


赤黒い道具達


「これは..血か?」

「そう!よく分かったね~洗っても落ちないんだ~困ったよね~」


言ってる事と表情が全然あってないぞ

ったくやっぱりへんなヤツだ


いや、一番変なのはこれらを見ても動じない俺..か

まあ、どうでもいいか

さて、どれを選ぼうか......

ハハッ!婚約指輪を選んだときみたいに、いやそれ以上にワクワクする


「この棍棒みたいなのは何だ?」

「あ、それ?

旧約聖書『創世記』第4章に登場する兄弟の内の一人

カインが弟のアベルを殺したときに使った凶器だよ!」

「アダムとイブの息子で人類最初の加害者..か」

「オニイチャン達の名前の愛称とおんなじだね~

それにするの?」

「いや、違和感があるからこれはいい

こっちは?この、試験管みたいなやつに入ってる羽虫」

「それはね~

ムラト1世って知ってる?

オスマン帝国の第3代皇帝なんだけど

君主の中で初めてスルタンの称号を用いた人物として有名だね

そして

最初に兄弟を殺した例として確実視されるのも彼

まあ即位前にって条件が着くけどね」

「兄弟殺しでは4代のバヤズィト1世だと思ってたんだが......

で、この羽虫は何に使われたんだ?」

「ムラトには兄が居たんだスレイマン・パシャって言ってね?

当時のオスマン帝国の後継者だったんだけど

不慮の落馬によって急死したんだ~

ところでさ、落馬の原因って何か知ってる?」

「 主なやつは

馬が躓いたり、障害を飛ぶときに踏み切りが合わずにバラけたり

何かにビックリし..て まさか?!」

「さあ?如何だろうね?それこそ神のみぞ知るってね?

その時使ったのがその中にある(アブ)らしいよ」

「でもこれは凶器にはならないだろ」

「それがなるんだよね~

相手がアレルギーがあった場合によるけどね」

「相手を選ぶ凶器ってとこか

駄目だな

こっちは......縄跳び用ロープと睡眠薬?」

「あれ?何で此処にあるんだろ?ブースが違うのに......」

「これは何処で使われたんだ?」

「え~っとどの国だったかな~

妻の不倫を疑った夫がいたんだけど

妻を睡眠薬で眠らせて携帯の中身を見て

相手の写真を見つけたから

妻を絞殺した事件があったんだよね~

これらはその時に使ったやつだよ

自分の所有物が己を裏切った事を許せなかったみたいだね!」


シックリとはこない......

けれど睡眠薬のふたに描かれているシレネの絵を見たら

ジナの顔が浮かんだ


「ちょっとこれ戻してくるね~」

「いや、それも貰う

置いておいてくれ

後何かお勧めはあるか?

こう多くては何を選んでいいのか分からない」

「じゃあこれは?君にぴったりだと思うよ!」


そういってロキが俺に見せたのは二本の登山用ナイフ

片方の柄にはポットマリーゴールドが描かれ

もう片方には刃の部分に片栗(カタクリ)が彫られていた

......俺に対する当て付けか?


「本郷兄弟決闘殺人事件ってしってる?」

「何だそれ?」

「日本って言う国でおこった事件なんだけどね、

1969年4月14日に発生した殺人事件でね

エリート大学生の兄が弟を殺害したもので、兄弟の父が代議士だったこともあって

有名になった事件だよ

ちなみに本郷って言うのは兄弟の苗字じゃなくって場所の名前ね!

お兄さんは物静かな人だったんだけど

弟さんが何かと彼につっかかててね?

まあ、性格が正反対だったからよく衝突してたんだ

お兄さんはとても負けず嫌いな人でね..って聞いてないか」

「これがいい、これは俺のための【狂喜】だ

きっとアベルによく似合う

さっきの縄跳びのセットと一緒にくれ

あっちはジーナにプレゼントするんだ」

「有難うございまーす!」

「いくらだ?」

「いらないよ!

強いて言うなら

その【凶器】を使って【狂気】を見せて?」

「も一つおまけに【狂喜】も如何だ?

芸術的な絵画を魅せてやるよ

もう行かなきゃな

時間が勿体無い」

「ウン!サヨウナラ!ガンバッテネ~!」


いつの間にか雨が晴れてる

まるで今の俺の心のようだ

急いで帰るとしよう

買ったばかりの凶器(ふで)を手に

最高の絵画ころしを描くために......


~~~~翌日~~~~


「おい、親父見てみろよ」

「ん~何々~


『昨夜遅く自宅でレイアベル・ヘルザーさんが刺殺されました

犯人の名前はアールカイン・ヘルザーさん、被害者の兄でした

犯行直前に彼は恋人のジナ・シュプルングさんを自宅にて睡眠薬を投薬した後縄跳び用ロープで絞殺

逮捕された時には重度の錯乱状態にあり

しきりに

凶器をもって狂気を(えが)こう!美しい狂喜を魅せてやる!

と叫んでいた模様

尚彼は今朝拘留場で謎の失踪を遂げている』


んふふ~大活躍みたいだね~」

「俺の目にとまったのってやっぱり客だったからか」

「うん!そうだよ~やっぱり君は僕の息子さんだね~」

「何だこの敗北感......

あ、そうそう、

お袋が帰って来いってよ」

「おやおや、義兄さんは今度は彼女を使ったのかい?

伝えておいておくれ、もう少し【人】と遊んでから帰る、と」

「は~、ヘイヘイっと

んじゃ、帰るわ」

「ウン、またね


さ~て、次はどんな人で遊ぼうかな?」くすくす



人は何で楽園(エデン)を追われたか知ってる?

それはね、蛇が(そそのか)したからなのさ!






ホラーです!文句とか言われそうですがホラーです!


ちなみに

ジナとは不倫の罪と言う意味で

片栗(カタクリ)とポットマリーゴールドの花言葉は 嫉妬

シレネは偽りの愛


感想やご指摘お待ちしております(ペコリ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 果たして真実はどうだったのか……深読みしてしまえば、あれが幻覚だった可能性もあるわけで、そこらへんを考えると非常に気になりますね。
[一言] えらく込み入ったホラーなので怖さより興味がわく。 そして続編を作りやすい構造。
[一言] 復讐物はゾクゾクして好きなのですがいきすぎるのをみるとちょっと…ってなります、しかしこの作品は丁度良いゾクゾクさでした!ナイスゾクゾク! 設定を少し弄れば連載も出来そうな世界観でしたね! と…
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