第閑話 廻る世界を廻す者
『良い感じにまた始まったね逆神先輩』
ネットワークを利用する最近のピアツーピアをベースとして派生したテレビ電話を介して逆神戯言は会話をしていた。
「……。まあ、物語が始まる前の余興だよ……見込みもなかったしさ」
暗い部屋の中、逆神戯言はパソコンの液晶を眺める。
しかし、テレビ電話だと言うのに、画面に移るのはSoundOnlyの文字だけ。
『何回も繰り返して、飽きちゃったかい?』
「まさか。……毎回いくらか違って、結構楽しめてるよ」
暗い部屋の中、逆神を僅かに照らすのは液晶の明かりのみ。
『……そう?でも前回の物語じゃあ、結構入れ込んでなかった?……まだ前回のこと引きずってんじゃないの?』
SoundOnlyの画面を風情がないとでも言うかのように眉を潜める逆神。
「前回?……いいや初めから引きずってるよ。……だけどね、君もそうだろうけど僕だってあの子の為になら、何回でも繰り返すさ」
『……安心した。……なら、別に逆神先輩には関係ないかもしれないが……今回はちょっとおかしなことが起きてるみたいだぜ。
前回の終わりが上手く出来なかったからね、多分バグなんだろうけど……』
画面をクリックする逆神の手が止まる。
パソコンに写しだされたのは件の殺人鬼、切り裂きジャックが公園で言之原の学生を狙っている動画だった。もちろん相手から送られてきたモノだ。
『君は見込み違いとか言ってたけど、彼……能力者らしいよ?』
「……65人目ってことかい?……とんだ異常事態じゃないか」
『……能力者とは言ったものの、いやしかし彼の能力がシナリオファクターなのかは正直解らないが』
動画を閉じて、身体を伸ばし逆神はパソコンに向き直る。
『……もしかしたら変化の兆し……』
「ねぇ。……そんなことより、もう情報屋が動き始めてるでしょ?……君はそっちに気を回したほうがいい。前回見たいなのはゴメンだからね」
相手の話を遮る。まるで聞きたくもないように。
まるで何も見たくないかのように目を閉じながら。
『つまらないこと言うね……』
「つまらなくないよ。……干渉者は干渉者の仕事をしなよパラドックス」
『……ふむ。……まあ、仕事は熟すさ、そのうえの遊びなら文句ないだろう?』
「…………まあ、僕も彼に対しては、何らかのアプローチを考えておくとするよ。……それじゃあね」
相手の返答を待つ前に、ボタン一つで会話を強制修了させて逆神は席を立つ。
そして隣にあるベッドで横になっているまばゆいほどの白髪の少女の寝顔を頭を撫でながら拝む。
暗い部屋の中で逆神は白髪の少女の名前を呼ぶ。
小さく小さく。
小鳥にでも話しかけているかのように。
「……君には本当に、辛い思いをさせてしまったね…………いろはちゃん。
もう間もなく始まるから、終わるまで物語を書ききっておくれよ」
白い髪にキスをするように逆神は言った。