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ハッピーエンドじゃ終われない。  作者: くりゅー
第序章 はじまり
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第六話 結末は居候


とりあえずは通り魔事件が落ち着くまで……ということで、空倉の家に住まわせて頂くことになった。

命をかけて守ってもらった命を、また危険に曝しては、恩を仇で返すようなものだし……。

他意はない。……本当に。



まあ、あのまま空倉の家に行くのは危ないので、一晩は学園で過ごした。


そのおかげで色んな空倉を見ることが出来た。こんな話しを桟原にしたらまたうらやましがられちゃうぜ。






空倉家に初めて訪れたのはその日の放課後だ。

いつもは一人で帰るか、ルカや湊さんを待って一緒に同じ東区方面へと帰るのだが、その日は空倉と一緒に北区方面へと帰った。



空倉家はかなり金持ちと聞いたので過ごい豪邸を想像していたのだが、案外普通の家だった。

普通っていってもデカイ。アパート暮らしの俺からしたらデカすぎるくらいだった。



まあ、ルカの家以外の女の子の家の敷居を跨ぐなんて初めてだし、ルカはまあ内面が肉食動物みたいな奴だから意識していなかったが、空倉は内面から既に女子女子していて一緒の歩幅で歩くことすら緊張してしまう。



そんな空倉家に入ってまずはじめに迎えてくれたのは、空倉空の妹の空倉からくらそら。話には中学一年生の妹がいるとは聞いていたが、思ったより幼い感じだ。

姉よりも短い髪だが、姉に似てとても可愛いらしく……


「お姉ちゃんお帰り〜!あれ……この娘お姉ちゃんのお友達?」


姉とは違い朗らかな……


「あぁ……俺は、お姉さんのクラスメートの時崎廻です。……あのこの度は……」


「あ〜!クラスメート!…………クラスメートっ!?……ってことは、高校生なんですか!?」


……それでいて失礼な娘だった。

まあ、俺を小学生や中学生に間違えるのは初対面ならしょうがない……妥協した。

「あの……すみませんでした… あの、私空倉空の妹で、空倉宙っていいます」


「いやいや……良く間違われるし、慣れっこだよ」

まあ、これから住まわせていただくのにこんなことで文句なんか言わないさ。



「宙ちゃん。この人としばらく一緒に暮らすことになってるの」

「ええええっ……!!!」

当たり前だよね。驚きますよね。そりゃどこの馬の骨か解らない男が居候するなんて言われたら。


「……やっぱり、迷惑だよね……」

宙ちゃんの反応をみて、流石に迷惑だと再認識したが。



「いやいやいや!そうじゃないんです!!……お姉ちゃんにこんなに仲良しな友達が出来たなんて知らなくて!!」

とは言うが、空倉だってクラスで浮いているわけじゃない。女友達からは可愛いがられてるし、交流もあるようだし。……まあ、本人が楽しそうに友達といる所は見たことないから、友達に一線を置いて接しているのは知っていたが。


「迷惑だなんて!そんなことないです!寧ろこんな家で二人暮らしだから廻さんが来てくれれば賑やかになって私としても嬉しいです!」


ほんと、朗らかで良い子だ。それが無理をしていってる風にも見えないし。

気をつかってくれてるのだろうか?


ただ男が居候するってのにこの無防備さは、すこし世間知らずが見え隠れしている。



「……ってあれ!?二人暮らしっ!?……お父さんとかお母さんは居ないのっ!!?」


俺にも居ないが……、いやそういうことじゃなく。

だって空倉家は金持ちっていうくらいだから父親は少なくとも居るんじゃないかと思っていた。

だから、居候させてもおうと思ったのだ。



「あぁ……それは……」

と宙ちゃんは悲しそうに俯く……。


あれっ。 タブーなの?この話……。

両親が他界してるとかそういう感じ……??



「……あのごめん……。なんか、聞いちゃいけない感じだったのかな……?」


「え?何言ってるんですか?両親は健在ですよ?」

ケロッ……とまた明るい顔に直る宙ちゃん。……っつーか笑っていた。



「お父さんが社会勉強の一環だって言って、実家から出て二人で暮らしてるんです。お母さんもお父さんも健在ですよ」


「じゃあ紛らわしい反応しないでよっ!」

てへぺろっ☆ってな感じで笑う宙ちゃん。……姉と違ってお茶目な娘だった。


ってか……女子高生と女子中学生と、健全な男子高校生が一つ屋根の下ってまずくない??


「お父さん、私達が世間知らずだからってうるさくて〜。」


「まあ、一緒に住んでなくても空倉さんのお父さんには、俺が居候することを許可とらないとだよね?」

まあ、俺は変な気を起こす積もりも無いし長期の居候でも無いし。自分の人畜無害さをアピールする自信はあった。


「…………もう、言ってあるの」

と一言、空倉姉。

でも挨拶も行ってないし、お父さんだって顔も知らない男と娘を同居させようとは思わないだろう。


「……あ、ああ。でもせめて電話ででも挨拶しとかないと……」

「……お父さんはいいって言ってたよ」


「マジっすか……空倉さん……」

ってかいいのかよ!空倉父。


コクりと頷く空倉姉が言うにはいいらしい。


「良くオッケー貰えたね……」

「空が良い人だって言うなら、良い人だろうからって」


空倉父。あんたも大概世間知らずだよ!

そんな世間は良い人ばっかりじゃないよ!渡る世間は鬼だらけだよ?

とくに男は。



「それじゃあ今日は廻さんの歓迎会しようよー!私ケーキ買ってくるから〜!」

「私はお料理つくる……」


宙ちゃんも空倉もなんだかやる気満々だ。


「いや、そんな……お構いなく」

居候なんていう生産性のない家畜を飼うのに、歓迎会なんて大仰だ。

だが、多分こういうことは祝わなきゃ気が済まない人種なんだろう。

もう既に祝う気満々な二人だった。










豪華絢爛……とは言わないが、かなり綺麗で二人暮らしにしては広すぎる家だ。

二階建てだが、屋根裏部屋があるらしい。

そして家全体が女子の部屋見たいなモノだからリビング、台所、風呂場、トイレ、玄関に至る全ての場所がなんだか女子女子している。

ピンクを基調にしたデザインが多くみられるのと、ぬいぐるみがそこらじゅうに飾られているのが、女子女子した雰囲気を醸し出しているのか?

或は、家中に蔓延る二人の女子のフェロモン的な何かのせいか?


「すぐに買ってきますから!廻さんは待っててくださいね!」


と言われて、リビングに通されたものの言いようのない緊張感に見回れて……辺りをキョロキョロ見渡すしかない俺。


一呼吸ごとに香る、健全な男子高校生にはたまらない良い香りが脳を麻痺させる。

心なしか、呼吸の回数が増えている気がする……


…………やばい、俺変になる……。



「…………はぁ……はぁ……」


やばいやばいやばい……俺ハァハァ言ってる……ただの変態だ……


…………まあでも、今誰も居ないわけだし……


ああ……いいにおい……

ずっと嗅いでいたいような……これが女の子の匂い……なのか?


おもむろに立ち上がり、その身体に出来るだけこの香を染み込ませようと深呼吸を試みる。


「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁ」


これが性フェロモンってやつなのか……

なんかめっちゃ興奮する……


そして次に目についたのは……コタツだった。

あの中に、いつも二人は入っているのかぁ……

俺はベッドと同じくらい魅力的に見えるコタツの中に頭を潜らせて、




「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………」


さっきよりたくさん……二人の女子の匂いを吸い込み…………そして……




「にゃぁぁ」


「……っ!!!ごほっ……げほっ!!!」

「にゃぁぁん」


コタツの中からこんにちわをしたのは、一匹の三毛猫だった。



「なんだ……猫か……。ってか猫飼ってたんだな。……てっきり誰かに見られたと思っ……」


……心無しか……猫が俺を見る目に、軽蔑の念の視線を感じる……。

「……な、なにみてんだよ……!」

そう言うと気のせいか、やれやれ……ってな顔で、俺から視線を逸らす。

「……なっ!…………今のは、違うんだ……。ホントに!」


にゃあともにゃんとも鳴かずに、猫はすたすたと俺に尻を向けて、二階にでも行くのかすたすたと階段に向かって歩いて言ってしまった。


「……お、おい!……無視すんなよ!……ホントに……」





………………猫相手に何やってんだろ……。


皮肉にも猫のおかげで正気を取り戻した。

コタツをくんかくんかし終わったら、便座でも舐めてこようかな。なんて考えていたけど、それが実行に移ることはなかった。

多分ここで便座を舐めていたら、俺は二度と正気を取り戻せなかっただろう。

その点は猫に感謝だ。


すっかり冷や水が入り、大人しくなった俺が何気なくテレビを見ていると



「ただいま帰りましたぁ〜」


と空倉姉と空倉妹が帰ってきた。



女子の家に、男子一人置いていくからあんな変態行為を行っちゃったんだぞ。

別に俺はホントそういう感じの?トラブル的な?そういうエロいこととか考えてないんだよ?


とりあえず、あんな変態的な過去はさっさと忘却の彼方へとすっ飛ばす。



「さっきから思ってたんですけど、廻さんは何で学ラン着てるんですか?」

空倉妹はエアコンを入れながら俺に尋ねた。


……似合わないってことか?

なんだろ、ところどころ失礼な娘だなあ。

「コスプレですか?」


「え……っ?……いや、そういうわけじゃ……。ま、まあ、最近寒いから……はははは」


コスプレって言われて胸に針金が刺さる思いだ。

低身長で童顔だから、よく小学生に間違われて学ランを着てると可笑しくみえちゃうのは理解してるが……流石にコスプレとは言われたことはなかった。

何かショックすぎて、自分が高校生だと再度主張することもできなかった。


「あ、寒かったらおこた付けますよ?入ります??」


おこたって……コタツのことか?なんか可愛いな。

まあそのおこたはさっき既に潜ってくんかくんかしたコタツなんだけどね。



「あ、ありがと」


コタツに入るならいらないだろうと学ランを脱ぎ、有り難くコタツにインするが…………



トン トン トン


ジャぁぁぁ


トン トン トン



ってな感じで、生産的な良い音が台所から聞こえてくる。

ご馳走を空倉姉が作っているらしい、ひどく家庭的な、俺では中々嗅ぐことの出来ない家族の香が家中を満たす。


最近はルカんちに行って御飯をご馳走になることはしなくなったし、

俺の育て親は、小学三年の時には他界した。


懐かしいようで、珍しいその家庭の香を嗅ぎながら……



……さっきまでの俺の変態行為に対して自己嫌悪した。



コタツからは直接台所が覗けるようになっていて、エプロンを付けた空倉姉がせっせと家事を熟してる姿が、すごく新鮮で……男心をくすぐられまくった。



ただそれを見ると、居候風情が何で家主に家事させて何一人で暖まっているんだ!って俺の中の良心が騒ぐ。



一度気にしてしまうとそれを発散するのは難しく、しかたないので俺も手伝いに台所に行くが……



「何か……手伝うことない?」

「……!……うーん」

こちらを向いて首を傾げる空倉姉。

どうぞ何なりと申し付けてくれよ!ってアピールするのだが……

「……包丁を使うのは……危ないし……。……火も……危ないし……」

「いやいやいやいや!!子供扱いするなよ!!」

「……でも……。……じゃあ……味見して?」


味見……か……。それって手伝いに入るのかなあ?


「わかった。……何を味見すれば……?」「これ」


そう言って、おたまから小皿にスープを注ぎ、俺に渡す。


「……まって、まだ熱いから……」

一度渡したくせに小皿を俺から取り上げて、ふぅ……ふぅ……と冷ましてくれた。


「だから、子供扱するなってば!!」



そんな感じで、終始子供扱いされただけで何も手伝いらしい手伝いも出来ず結局ご馳走は完成した。






ご馳走として並んだのは、七面鳥の丸焼き、サラダ、ローストビーフ、シーフードスープ。……そして、ホールケーキ。

これまた高級そうな逸品だった。

こんな風に何かを祝って貰えるのなんていつぶりだろう。


「泣いてるの……?」

少し俯いて珍しく幸せを噛み締めていると、空倉姉が除きこむ。


「そ、そういうんじゃないよ……。」

「……なら食べちゃいましょうか!」

空倉妹に関しては、全くもって風情がない。早く食べたくてしょうがないらしい。 普段こんな良いもん食えない俺からして見れば、旨い料理は食べる前が1番おいしいのだ。

どんな高級な食べ物も食べたら終わり、後は身体が消化して、最終的には排泄するんだ。つまり食べる前……食品が食品であるその時が1番旨くて美しい時なんだよ? なんて回転寿司行ってネタを見ながら、ガリとアガリを食べている俺の心の言葉は届かないだろう。


「それじゃあ……乾杯しよ?」

そう言って俺にオレンジジュースを注いだコップを差し出す空倉姉。

まあ、子供扱いしないで欲しいが酒は飲めないし……しかたないか。


「えっと、じゃあ……廻さんの……」

「あ、お世話になるんだし“さん”なんか付けなくていいよ。呼び捨てで!」

年齢差からは“さん”付けで会話されてもオッケーなのだが、この家に関しては俺はただの居候で、彼女達は家主だし呼び捨ての方がしっくりくる。


「じゃあ、私のこともソラって呼んでくださいね?廻」


ちゃん付けは、子供扱いされた気分なのだろうか?まあ、善処するとしよう。

「……私も……。……私もクウって呼んで?」

空倉姉も便乗してきた。

いやでも学校でクウって呼ぶと周りに勘繰られないだろうか?

ってルカは下の名前で呼んでるんだから良いか。


「……うん。わかった!……それじゃ乾杯しよっか……」

「はい!」

「うん」



ソラもクウはマグカップを、おれはガラスのコップを手に取り……


「…………。」

「…………。」

「…………。」


…………フリーズ。


「あ、……あれ?……なんて言って乾杯すればいい??」

別段祝うこともないし、てか歓迎会に乾杯とか必要?

『廻、居候おめでとう!!』

みたいな乾杯は流石にありえないし……。


「えっと、……廻をウチに歓迎するんだから……えっと…………」

必死に思考を巡らすソラだが……。だから祝うことじゃないんだってば。


「居候おめでとう……は?」

まあ、クウがそういうんなら俺は文句無いんですけどね。


「じゃあ、廻!……居候おめでとう!」

と高々と二人はマグカップを持ち、前へと出す。

「お、おめでとう」

仕方なく俺も、コップを前に出してマグカップにカツンッとぶつけてやる。


日本人は祝うことが大好きだという民族らしいが、ホントのようだ。

乾杯なんて、何か大きな物事を終えた時に労う為の儀式と思っていたし、

祝うなんて、幸せなことがあった時にしかなしないと思っていた。


ソラがとても幸せそうにご馳走を頬張る姿を……

クウがにこりともせず、ぼうっとご馳走に箸を伸ばす姿を……

見比べて俺はなんだか“幸せ”の定義について、何か詩人見たいに考えてしまう。



この風景を“幸せ”と思うか、“普通”と思うか、“不幸”と思うかなんて人それぞれだ。


だから案外、幸も不幸も同じものなんじゃないかなんて…………少し詩人になり過ぎかもしれないが。


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