夏の日の向日葵~君の笑顔~
もう会わないと誓った。
もう会えないと思った。
だけど、神はいたずらがお好きらしい。
俺なんかの考えは、全部お見通しなのだから。
幼い頃、二人で君と遊んだね。
男も女も関係ない。
君の長い髪を、俺はいつも結ってあげた。
気分によって変わるけど、君はいつでも喜んでいた。
その時の俺は、君の太陽のような暖かい笑顔を見るたびに、嬉しい気持ちになったんだ。
君と見た、満開の向日葵畑。
とても暑い夏の日に駆り出され、少し不機嫌だったけれど、すぐにそんなことは忘れた。
一面に広がる、美しい向日葵の黄色。
その一つ一つが、必死に太陽を向いている。
そんな光景に、俺は感動したんだ。
でも、その中で笑う君の笑顔に、胸が軋んだ。
そんな君といられる時間は、唐突に失われた。
突然の召集令状。
突然の、戦争。
別れを告げる暇さえなく、俺たち若者は集められ、戦地に送られる。
そこで俺は初めて見た。
人が人を殺す瞬間を。
その光景に、俺は恐怖した。
あり得ない出来事に体が硬直していると、突然頭を殴られた。
よろけた途端、頭の上をなにかが通りすぎた。
…後ろで、なにかがはぜた。
手紙を書けと言われた。
家族への遺書だそうだ。
生き残れば、返事も来るしそれに返事もできる。
でも、俺は何を書けば良いのかわからなかった。
憔悴しきった俺の心には、これは大きな事だった。
真っ白な頭の中で、書いたのは一言だった。
「ごめん」
震える文字で、誰に宛ててかも分からない。
そんな文章を上官に渡した。
一週間たった。
隊のみんなは半分ほどになり、みんな疲れきっていた。
そんな中で手紙の返事が来た。
皆、一様に泣いた。
暖かな家族の言葉に、泣かないものなどいなかった。
俺も、泣いた。
たった一言しか書いていないのに。
誰宛かも分からないのに。
でも、書いてあった言葉を見て、泣いた。
「待ってる」
特徴的な丸みを帯びた筆跡に、泣いた。
君からの言葉だとわかって、俺は泣いた。
もう会わないと誓った。
もう会えないと思った。
でも、神と言うのは残酷で素晴らしい。
だからこそ、決意した。
必ず、君のもとに戻ると。
必ず、生き延びると。
別に俺一人が頑張ったところで、この戦争は終わらない。
だけど、人一倍努力した。
終戦と言う言葉を聞くために。
静かな草原に、君が立っていた。
少し悲しそうな顔で、今はなにもない思い出の場所で、ただ立っていた。
終戦の知らせを、君は聞いていた。
だって、この血深泥の戦いが終わってから、三ヶ月が経っていたんだから。
でも、君は待っていてくれた。
戦争が始まって、一年と三ヶ月。
君は、いつまでも待っていてくれたんだ。
だから、これ以上君を悲しませないために、君に会いに行く。
ずいぶんと待たせてしまったけど、でもこれだけは言いたい。
「ただいま」
そして
「ごめん」
この二言を言いたい。
どんなに野次られても良い。
それで君の心が晴れるのなら。
でも、君は僕の大好きな、太陽のような笑顔でこう言ったんだ。
「おかえり。待っていましたよ」
その笑顔だけで、俺は救われた。
そんな気がしたんだ。
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