【黄泉帰里編12】 夏祭り
久しぶりの三作同時更新。
例によって例のごとく、スウィート、園芸部とクロスしているのでもしよかったらそちらもどうぞ!
園島西高校は生徒数約900の普通科高校だそうだ。ベッドタウンである蔵庭に比べてやや田舎よりの場所に位置しており、その周囲は豊かな自然に囲まれている。
「あっ、見えてきた」
「おお……なんかすっげぇ本格的だな」
薄暗くなった黄昏の中、ミナミたちはそのやや古びた校舎を見つけた。バス停から高校に至る一本道の時点ですでにいくつもの提灯の明かりが浮いており、なんとも幻想的で、そしてどこか不思議な空気を醸し出している。
もうすでに祭りは始まっているようで、太鼓の低く重い音と、横笛だろうか、高くてよく通る音が聞こえてきた。なんとも祭りらしい、趣きのある音色だ。
「お祭りってやっぱり人がいっぱい集まるのねぇ」
「なんだかわくわくしてくるな!」
「いいなぁ……みんな可愛いの着てるじゃない」
「浴衣っていう民族衣装だ。また来年着ればいいさ」
校門に近づくにつれ、浴衣姿の人間の姿も増えてくる。この高校の生徒であろう少年少女はもちろん、近所の子供たちの姿も見えた。まさしく老若男女の姿を確認することができたことから、この祭りが想像以上の規模を持っていることが簡単に想像できる。
「はい、とーちゃく!」
「わぁ……!」
いくらかの人ごみをかいくぐり、校門を抜けるとそこに幻想的な光景が広がっていた。薄暗く、されど活気に満ちた空間の中で、浴衣姿の人間が嬉しそうに笑っている。これぞ日本の祭り! と声を大にして叫びたくなるような屋台では、捩じり鉢巻をしたおっちゃんが煙にまみれ、汗を流しながら焼き鳥を焼いていた。
レンやメルと大して変わらないくらいの子供たちがお面を被ってはしゃいでいたり、水風船のヨーヨーをぼんぼん打って遊んでいる。こんなステレオタイプともいえる光景、むしろ珍しいと言ってもいいくらいだろう。
おぅ!
ききぃ!
黒い中型犬に化けたごろすけとフェリカの肩につかまっているピッツが短く吠える。焼きそばやお好み焼きの安っぽいソースの香りや綿あめやリンゴ飴の甘い香り、そしてあちこちでも燃え盛る火と煙の匂いが、ここをお祭り会場だと突き付けてきた。
「迷子になるなよ?」
「「うんっ!」」
ミナミたちは子供たちの小さな手を離さないようにしっかりと握る。明かりは正真正銘、提灯の仄かな灯だけで、正直言ってちょっと薄暗い感じがする。
そのくせ、人は普通のお祭りと同じようにいっぱいいるものだから、見失ったらそう簡単に見つけだすことはできないだろう。
おまじない程度とはいえみんな《絆の灯》のブレスレットをつけているから、迷子になっても最悪の事態にはならないだろうとミナミはなんとなく思う。
~♪~♪
「なんかアレだな。お祭りっていうからもっと華々しいのを想像してたんだけど、いい意味で期待を裏切られたって感じだ」
「そりゃ、準備する人が準備する人だから」
ミナミはてっきり花火大会のように騒々しい感じを想像していたのだが、このお祭りからはそんな感じは全然しない。派手な不良っぽい人たちは全然見かけないし、なんかこう、上品な感じだ。
見た限り、提灯やその他もろもろの装飾は全部手作りっぽいし、さっきからひっきりなしに聞こえる太鼓は獣の皮で作られた由緒正しそうなものだ。
さらに、自然が豊かなせいか、敷地内から外の様子をうかがうことは一切できない。森の中の秘密の村のお祭りに迷い込んでしまったかのような錯覚に陥ってしまう。
例えるなら日本古来の昔からある祭事としての神秘的なお祭りと、近代の娯楽としてのお祭りがうまくマッチングしたかのような感じだ。この微妙な薄暗さと、浴衣姿の子供たちが駆け回る姿がよりその印象を強くしている。
「えっと、とりあえず概要を説明するね」
一葉がパンフレットを読み上げた。
園島西高校夏祭り、通称『島祭』にはいくつかのルールがある。その最たるものがペット同伴可能エリアと不可能エリアの存在だ。
というのも、この屋台群は中庭から校庭にかけて構成されているが、食品の衛生やその他公共上のマナーの観点から、ペットの同伴が許されているのは中庭の一部のエリアだけなのである。
もちろん、そのエリアにもお祭りの鉄板である屋台がいくつもそろっているため、ペット同伴の人でも十分に楽しめることは保証されている。さらに、係の生徒を見つけることができれば一時的に預かってもらうことも可能だという。
「そっちのエリアはペットカフェとかと同じ扱いでいいんだって。逆を言えば、そこ以外の場所にペットを連れて行っちゃいけないみたい。お互い、その辺は協力し合いましょうだって」
「ふーん。じゃあ、ごろすけとピッツは交代で見ておくか」
「あと、あの校庭にある大舞台では時間ごとに催し物をやるみたい。最初がカラオケ大会、次に腕相撲大会、最後にかくし芸大会。飛び入り参加大歓迎で、優勝者には豪華景品も!」
「よっしゃ、やるか!」
「ミナミさんも出ますよね!?」
「いや、おれが出たらさすがに反則だよ」
カラオケには自信がないが、腕相撲だったら今のミナミは負ける気がしない。力自慢の月歌美人を腕力でねじ伏せられるし、巨体のディアボロスバークを身体能力だけで吹っ飛ばすことができるのだ。そんな中で本気を出してしまったら、相手の腕がもげるのはもちろん、勢い余ってあの大舞台でさえぶっ壊してしまうだろう。
「それじゃあ、適当にブラブラするか」
「にーちゃ、ぼくあれやりたい!」
「あたし、あっちの食べてみたい!」
ミナミたちはまとまって、適当に屋台をひやかしていく。焼き鳥、焼きそば、イカ焼きなどメインの食べ物系の屋台の種類もさることながら、あちらの屋台には存在しないヨーヨー釣りや金魚すくいと言った娯楽系のものまでかなりバラエティがある。
「すごいね、今どき型抜きなんかやってるんだ」
「型抜き? カズハちゃん、それってどんなやつなの?」
「ええと、薄い……なんだろ? おせんべのようなお菓子を指定の形にくり抜くって遊びです。成功したらお金とか景品とかもらえるんですよ!」
ひょいとソフィがその屋台を覗き込む。中では数人の子供たちが真剣な表情で削りだしを行っており、人が後ろに立ったことなど気づいてすらいないようだった。
「……」
「……」
そこだけ妙に静かで、ミナミの耳には針がそれを削るカリカリという音が聞こえた。屋台の番だろうか、浴衣姿のどこか文学的なおさげの少女が子供たちの様子をにこにこしながら見守っている。
「できたっ! ねーちゃん、これでどうだっ!」
「うーん、残念だけどもうちょっとですね。ほら、この串とお団子の間のところがまだまだですよ?」
「えええ……これ以上やったら壊れちゃうよ!?」
「でも、お手本はもっときれいに抜けてますよ?」
「くっそう……ああっ!?」
パキッと嫌な音がして男の子が持っていた型は崩れ去ってしまった。焦って無理に針を通したためだろう。
「……結構難しそうだね」
「まぁな。もらえるお金も微々たるものだし、どうしても時間を喰っちまう。はしゃぎすぎて本命までお金を持たせられなかった子供が最後の手段で来るのがこの屋台なんだ」
「うふふ、お姉さんもどうですか?」
「き、気持ちだけ受け取っておきます」
残念、とおさげの少女はつぶやいた。なんでも最初のお手本として削られたあの一枚を除いて難しい型を成功させた人間は未だに現れていないらしく、挑戦者を待ち望んでいるそうだ。
「そうだ、レイちゃんならできるんじゃない?」
「そうねえ……一回だけやってみましょうか」
レイアは懐からちゃりんと硬貨を出して、受付の少女に渡す。今まで暗がりにいたからか、ここで初めて少女はレイアとソフィの顔をはっきりと確認したようだった。
「……あら? もしかして組合の方ですか? 私、あのときのキャンプにいた栗栖です」
「……? いえ、違うと思いますけど」
「す、すみません。知り合いの人たちとよく似てらしたからてっきり……」
なんだかわからないが、おさげの少女は赤くなって謝ってきた。レイアとソフィは不思議そうに首をかしげつつ、渡された表を確認する。そこには型のタイプと賞金、および景品が記されていた。
「簡単なので小金をとるか、難しいので大金を狙うか、ね」
「レイちゃん、これ成功したらお菓子の詰め合わせだって」
「……クゥ、それがいいな」
そんなわけでレイアが選んだのは難しいタイプのチューリップの型だ。茎と葉の分かれめ、そして花びらのギザギザが鬼門となっている。
「時間制限はないので、ごゆっくりどうぞ」
「ねーちゃ、がんばれ!」
子供たちの声援を受け、どっしりと座ったレイアは慎重に針を動かしていく。一流の冒険者だけが持つ特有のオーラを無意識のうちにはなっていることから、相当集中しているのだろう。
「すげぇ……あのおねえさん……!」
「もしかしてプロなの……?」
自然に、その場にいた子供たちの視線がレイアに集中した。その圧倒的な存在感に気づかないというほうが無理だろう。なぜだかイオやクゥが自慢げである。
「……」
「さすがですね。今のところは何の問題もなく削れている。このままいけば、すぐに抜けるんじゃないでしょうか」
「いやいや、そう甘くはないぜ? ここまでは誰だってできる」
初めて見るパースと、その神髄を知っている五樹が各々意見を言う。実際、型抜きの本当に恐ろしいのはあらかた削った後なのだ。
「……」
じりじり、じりじりとレイアはチューリップの花びらを仕上げていく。指先一つに全神経を集中させているのか、こめかみに汗がつうっと流れた。緊張のあまり、誰かがごくりとつばを飲み込む音が響く。
そして──
パキッ
「「……あああっ!」」
「はい、残念でした」
やっぱり駄目だった。いくら器用とはいえ、初めてやった人間に攻略されるほど型抜きは甘くない。最後の最後、茎のところでそれはぽっきりと砕けていた。
「あとちょっとだったのに!」
「惜しかったな、嬢ちゃん」
「残念賞はこちらになります」
残念賞として大粒の飴玉をくれたあたり、この屋台は良心的だ。レイアは悔しげにそれを受け取って、ミルの口にぽんと入れた。突然のご褒美の不意打ちに、お姫様は目を白黒させる。
「どうします? もう一回やりますか?」
「うーん、それもいいけど、回る時間もなくなっちゃうのよねぇ……」
「そうだ、フェリカならどうだ? あいつ、カギ開けでこんな道具使い慣れてたろ?」
大儲けできるぜ、とエディが振り向いた先にフェリカはいなかった。どうやらいつの間にか、一人でどこかへ行ってしまったらしい。
「あいつ、肝心な時にいねえのな!」
「……ッ!?」
ゾンビの生命探知でフェリカを探そうとしたミナミは、そこでぴしりと固まった。
「あら、酷いこと言うのねぇ?」
全く別の方向からフェリカがやってくる。なにやら悪巧みが成功したかのようにニコニコ笑っており、片手に大きな袋を持っていた。
「あっちにぃ、射的って言う面白そうなの見つけたのよぉ。やってみたら、こんなにいっぱいもらっちゃった♪」
くぃっと指で向こうを指す。ポニーテールの女の子と、穏やかな顔立ちの男の子が慌てて景品を陳列していた。その隣では、外国人らしき少年がハラハラした顔で地団駄を踏む少女をなだめている。
「簡単な銃で景品を撃ち落とす奴だったんだけどぉ、さすが私ってかんじぃ?」
「いやいやいや……いくらトレジャーハンターって言っても取り過ぎでしょう。フェリカさん、銃もったのって初めてですよね?」
「もちろんよぉ。でも、コンセプトは弓と一緒じゃなぁい? イツキ、私が弓も使えるって知らなかったのかしらぁ?」
「えええ……」
「それでぇ、輪投げってやつもやってきちゃった♪ あのくらいなら、目をつぶってでもできるわぁ!」
フェリカはトレジャーハンターだ。当然、その冒険には普通の冒険者が使わない様々な道具を使う必要が出てくる。
ありとあらゆる状況に対して瞬時で適した道具を選択し、時には既存の道具を今までにない使い方で使用するうちに、自然と器用さが高くなってしまうのである。
輪投げについては、マッピングのために輪をくくったロープを投げる技術をそのまま流用したそうだ。射的については天性の才能だろう。
「お菓子、いっぱいもらっちゃったからあなたたちにもあげるわぁ」
「「やったぁ!」」
子供たちが我先にとその袋に群がり、中身を物色し始めた。昔懐かしのお菓子が数種類に、ビードロや水笛なんて珍しいものまである。ここの屋台は相当良心的で豪華であるという証だった。
「じゃあ、次はどこ行く? ミナミくん、なんかおすすめ教えてほしいな!」
「あー、悪いんだけど、ちょっと用事ができちゃったんだ。一葉、ちょっとソフィと子供たちを見ておいてくれないか? ごろすけとピッツもつけるから」
「……えっ?」
おぅ!
ミナミの言いたいことが伝わってしまっていたごろすけは、自分から一葉のほうへと足を進め、すりすりとその体をこすりつける。その眼はどこまでも真剣で、ミナミにさっさと行けと言っているようであった。
「にいちゃん、いきなりどうしたの?」
「……なにかあったのか?」
平常を装ったつもりであったが、一葉と五樹にはミナミがおかしいことが伝わってしまったらしい。
「聞かないほうがいいと思うぜ? 冒険者組だけで、ちょっと用事が出来たんだ」
「冒険者組? 私たちの力が必要ってことですか?」
この一言でぴんときたのは五樹だった。
「……ありえるのか、そんなこと?」
「わかったの?」
「可能性はそれしかない。……一葉、マジでソフィさんと子供たち連れて祭りを楽しんどけ。暗がりにはいくな、絶対に人ごみの中にいろ。ごろすけとピッツから離れないようにな?」
「まぁ、いいけど……。じゃあみんな、あっちのほうへ行ってみようか!」
一葉はそういって、子供たちを引き連れてその場から離れていった。ソフィが少しだけ不安そうにこちらを振り向くが、しっかりとうなずいて子供たちを引っ張っていく。上手い具合に子供たちの注意をミナミたちから屋台へとひきつけ、ゆっくりと人ごみの中へと掻き消えていった。
「ねえミナミ、結局なんなのよ?」
しびれを切らしたレイアがミナミに問い詰める。ミナミはこっそりと、他の誰にも聞こえないように呟いた。
「……この学校に、魔物がいる」
「……は?」
「一匹だけだけど小型から中型の、ゴブリンとかグラスウルフくらいのやつ。たしかにこの気配は魔物のものだ」
先ほどフェリカを探そうと生命探知を行った時に気づいてしまったのである。ミナミは無数の生命の気配の一つ一つを判別できないと言えど、人間とそうでないものの気配の判別くらいはできる。
最初は気のせいかとも思ったが、さすがに間違えようがない。変な生徒がたくさんいるとは聞いていたが、よもや魔物が潜んでいるとは誰が想像したことだろうか。
「まさかとは思ったけど、マジでこの日本に魔物? 妖怪じゃねえの?」
「いや、魔物だよ」
魔物であろうと妖怪であろうとこの際そんなに関係ないが、いずれにしろさっさと片付けないとまずいだろう。あたりには小さい子供たちが何人もいるし、老人だっている。この人ごみの中で暴れられたら被害が大きくなるのはわかりきったことだ。
「あっちのほう。何でいるのか知らないけど、誰にもばれないうちに仕留めないと」
幸いにも魔物の気配の近くに人の気配はなく、おまけに中庭のさらに奥の、明かりのまるでない暗がりのほうと来ている。
「……そうだな」
「俺も行くぜ。なんかあったときに役に立てるかもしれない」
瞳の色を変え、冒険者は戦闘態勢に入った。ミナミはその身体能力を生かし、人と人の間を縫うようにして疾走する。周りから見れば、ふざけた大人たちが全力疾走しているように見えたことだろう。ちょっと意外だったのは、冒険者の走りに五樹が追いついていることだ。
「ミナミ、どうやって魔物を倒すんだ!? 死体の処理とか結構面倒だぞ!?」
「おれがゾンビ化させて塵にする! エディたちは逃げないように囲っててくれ!」
三分も走れば屋台の明かりなどはるか遠くに過ぎ去り、暗く、虫の音だけが響くその空間にたどり着くことができた。
自然豊かとは思っていたが、とても高校の敷地内とは思えないほどに閑散としていて、ミナミは一瞬、ここが異世界なのではないかと思ってしまう。遠くのほうに見える体育館の屋根とお囃子の音だけが、この場が日本であるという証だった。
「くっそ、暗くて見えないな……。三波、本当にここに魔物がいるのか?」
「……ほら、いるよ」
冒険者はとっくに気づいていた。魔物の気配がこれほどまでに近くにあって、気づかないはずがない。
「……どこだ?」
「あの草むらの中。もうこっち見ている」
「……あれか」
五樹はようやく気付いたようだった。緑を通り越して黒く見える草むらの中に、半身をひそめた獣がいることに。
その毛皮は草むらと同化しているかのような見た目をしている。例え昼間であったとしても、発見することはかなり困難であったに違いない。輝く瞳が時折瞬くその瞬間を見なければ、とても気づけないことだろう。
「……グラスウルフ。草原とかに身を隠す狼型の魔物」
「強いのか?」
「一匹一匹はそれほどでもない。奴らは集団で草むらに隠れて不意打ちする。その時は驚異的。魔物使いの使い魔としてポピュラーって聞く」
グルルルゥ……
グラスウルフが伏せながら唸っている。半身が隠れているとはいえ、大きさは通常のものとさして変わらない。もしかしたら異常個体かもしれないと危惧していたミナミは、少しだけ安心することができた。
「兄ちゃん、下がってて」
ミナミは指輪、《精霊の抱擁》への魔力の供給を断つ。うっすらとミナミの体表を覆っていた魔力の膜がなくなり、久しぶりに彼の爪が本当の意味で外にさらけ出された。
冒険者組は等間隔に広がり、万が一にもグラスウルフが逃げないように目を光らせる。五樹はちょっと離れたところで、ちらちらと魔物を気にしながらも人が入ってこないかどうか、屋台の方向を見張った。
「悪いな。一瞬でケリを付けてやるよ」
ミナミは腰を低くし、右手を前に構える。一瞬でとびかかり、さっとひっかけばそれでおしまいだ。生肉を貪りたいと本能が疼くが、それを理性で抑え込む。
血を楽しむのは、異世界に帰れば好きなだけできる。
「はぁっ!」
跳ぶ。
バッとミナミの足もとに土煙がたち、虫の音が止まった。生ぬるい風がミナミの頬を撫で、グラスウルフの瞳がどんどんと迫ってくる。
「もらったっ!」
アオオオオオン!
刹那。
時間が止まる。
そのグラスウルフが、ミナミをその鋭い瞳で睨みつけた。
大きく腕を振りかぶるミナミ。ひゅっと何かが空気を切り裂く音が聞こえ。
振り下ろそうとした右腕に、尋常じゃない衝撃が走った、
「みィィィィつゥゥゥゥけェェェェたァァァァ!!」
「がッは!?」
「ミナミ!?」
闇夜を切り裂いてやってきた何かに、ミナミの腕が弾かれた。想像以上に鈍い音があたりに響き、反射的に腕を押さえようとしたところで、腹をけりあげられて吹っ飛ばされる。
草が擦られる音とともに、ミナミは無様に地面に叩きつけられた。
「な、なんで……」
異世界でも感じたことのないほどの、強力なプレッシャー。決して痛まないはずの体に、耐えがたいほどの痛みを感じる。
「なんで痛みを感じるんだよッ!?」
弾かれた腕と、蹴り上げられた腹がものすごく痛い。じんじんと、熱を持った唸りの様にそれが体に響く。
言葉を紡ごうとするたびに、表現し難い不快感が全身を襲った。ミナミは未だかつて、これほどまでの痛みを受けたことがない。
「くひひ……! よォやく見つけたぞおいィィィ……?」
「なんなんだアイツ……?」
眼を爛々と輝かせ、ぐにゃりと顔を歪ませた──至って普通の男子高校生がいた。ちょっと変わったところと言えば、指ぬきグローブを付けているところくらいだろう。その顔を見て、ミナミのゾンビとしての生命本能が、うるさく警鐘を鳴らす。
根源的な何かが、こいつはまずい、さっさと逃げろと囁いていた。
生物的な何かが、こいつはミナミの天敵だとがなり立てていた。
「……!」
「……ひひっ!」
──ぱちり、とそいつとミナミの目が合った。
「おまえゾンビだろ? なぁ!? 本物のゾンビだ! 正真正銘のゾンビなんだろう!? なあゾンビなんだろおまえ! おい! ゾンビだろ!? ゾンビって言えよ!! なぁ! なぁ! 隠すなよ! ゾンビって言えばいいんだよ!」
ミナミの答えを聞かず、その少年は狂ったように笑う。そして、腹の底から楽しそうに叫んだ。
「やぁぁぁぁっと見つけたぞゾンビィィィィ!」
20160802 文法、形式を含めた改稿。
数駅の距離で毎年夏にけっこーな規模のお祭り開かれるんだけど、人がいっぱい来るから行ったことがない。いつかきれーなおねーさんと一緒に行きたいものですわ。
かたぬきのお菓子って味がないと思う。あとさ、「かたなめ」っていう舐めて削るバージョンなかったっけ?
華やかタイプのお祭りと、祭事っぽいお祭り、どっちが好きですか?




