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【黄泉帰里編9】 夢の国

「泣くな泣くな。あんなのに比べたら魔物のほうがよっぽど怖いじゃないか」


「こわいものはこわいのぉ……!」


「お化けなんてキライですぅ……!」


ぽんぽん、と目を真っ赤にしたクゥとミルの頭をミナミは撫でる。

しばらくぶりに見るどこまでも清らかで明るい日差しが眩しかった。


ミナミたちは遊園地の悪夢──お化け屋敷から出てきたところだ。

二回続けての屋内アトラクションとなってしまったが、

都合よく空いていたため強行したのである。


お化け屋敷と聞いて、当然のことながら子供たちは怖がった。

イオはびくっと背筋が震えていたし、メルとレンは強がりながらも

隠せないほどに足が震えていた。

ミルはみんなの手前震えをうまく押さえていたが、

それでもぎこちない表情はミナミには隠せない。

もちろん、クゥは入る前から半べそ状態だった。


それでも、一人前になるためにはお化け屋敷程度鼻歌を歌いながら

突破できるようにならねばならない。半ば強制的にミナミは子供たちを

そこへ連れて行ったのだが、結果は予想以上にあっけないものになった。


「怖いのは最初だけだよな。よくよくみりゃハリボテだし」


「致死性のトラップもなかったもんねぇ……」


「むしろ、純粋に制御技術と駆動機構に興味がわきました」


特級冒険者たちはお化け屋敷程度じゃ驚かすことはできなかったらしい。

彼らは常日頃から本物の怪物と戦っているのだから。

ゾンビこそあっちのセカイにいないものの、

骸骨戦士や悪霊の類は見つけようと思えば割と簡単に見つけることができる。

血も骨もグロテスクなのも見飽きているのだ。

一体どうして一遊園地のお化け屋敷で肝を冷やせるというのだろう。


「ソフィはだらしないわねぇ」


「レ、レイちゃんがたくましすぎるだけだもん!」


一方、ソフィのほうは見事に恐怖のどん底に落ちていた。

どうやら日本の怪談独特の空気がとことんダメだったらしく、

物音一つに飛び上り、ぎゅっと目をつぶってミナミに抱き付く始末だったのだ。

海外の人は日本の怪談が苦手という話が多いから、

きっとそのタイプだろうとミナミは勝手に思うことにした。


ソフィは未だに震えながら、子供たちに問いかける。


「レンもイオもメルも、怖くなかったの?」


「んー、さいしょはこわかったけどぉ……」


「よくみればぜんぶつくりものだったし」


「あれならゴブリンのほうがこわくない?」


意外なことに、この三人は最初こそ怖がっていたもののすぐに順応してしまった。

子供故にお化け屋敷特有の空気にあてられず、

加えて怖いものやグロテスクなものはすでに王都大襲撃のときに

十分に見慣れてしまっている。死の危険がない以上、

ちょっとヘンテコな何かが変な動きをしているようにしかみえなかったそうだ。


たくましすぎるのも問題だな、とミナミは少し悲しくなった。

もっとこう、ソフィやクゥみたいに存分に甘えてほしかったのだ。


「とりあえず、午後は何に乗るか決めておくか」


適当に軽食を買い、広場で休憩しながらミナミたちは午後の予定を考える。

ハンバーガーやおにぎり、ポップコーンなんかに夢中になって

子供たちは大人の会話に気づいてすらいない。


「私としては、あの大きなトロッコが気になるのですが」


「食後に乗るもんじゃないぜ?」


「あの大きな歯車はぁ?」


「あれはメインディッシュですよ!」


五樹も一葉も何度もこのドリームアイランドに来ているからか、

その楽しみ方というものを熟知している。

パースとフェリカはそろってそういうものか、とパンフレットを見つめなおした。


バッキンガム宮殿を彷彿とさせる近衛兵の格好をしたスタッフが

風船をたくさん持ちながら行進をしている。

このドリームアイランドの有名人であるホイホイおじさんが

ホイホイいいながら巨大なオルゴールを回していた。


「あの人は?」


「この遊園地で一番有名なホイホイおじさん。

 ああ、あとであの人の受け持つアトラクションに行くからな。

 あれだけは外せないんだ」


うーん? とレイアは首をひねった。

まぁ、よほどこの遊園地に来る猛者か地元民でなければわかるまい。


「なぁイツキ。このゴーカートってのは?」


「自動車ってあったろ? あれを娯楽用にしたやつだな」


「俺、それいきたい」


「ねぇミナミくん。このメリーゴーラウンドってステキじゃない?」


「じゃあ、そっちに行ってみるか」


そんなわけで、ここからは男子と女子とで別行動をとることにした。

女子組がメリーゴーラウンド、男子組がゴーカートである。

屋外アトラクションだし、食後に行っても問題ない格好の選択だった。


「ほへー……」


「……きれい」


「作り物のお馬さん、ですね!」


なぜかミナミもメリーゴーラウンドへと引っ張ってこられた。


お姫様のミルでもびっくりするような豪華な装飾の施された作り物の馬が、

優雅な音色とともに上下しながらくるくると回っている。

どことなくエレガントでなんとなくロマンチックだ。

白馬のほかにも馬車や天使も回っており、

それ一つが巨大なカラクリオルゴールと言われても不思議はない。


しかも、珍しいことに二層式のメリーゴーラウンドだ。

一階部分と二階部分とに分かれていて、

二階部分は一回部分よりも馬の数が少ない代わりに

装飾がちょびっと豪華になっていて、そして景色もよい。


聞くところによると、フランス式の由緒正しいものらしい。

道理で電飾や馬の顔立ちもロイヤルな感じがするはずである。


「あれ! あのしろくてかっこいいおうまさんがいい!」


「クゥはあかいおうまさん!」


「はいはい」


せがむお姫様二人を抱っこして馬の首にしっかりとつかませてやる。

本物のお姫様は一人で鞍にまたがり、そしてぽんぽんとその後ろの部分を

叩いて手招きしていた。


「兄ちゃん、もてもてじゃん」


「だろ?」


ひらりと飛び乗り、ミルの体をミナミは後ろから支えた。

気分はすっかりナイトである。

ただし、この世のものではないゾンビナイトではあるのだが。


「私、王子様と一緒に白馬に乗るのにすっごく憧れていたんです!」


「悪いなぁ、こんな冴えない王子様で」


「いえ! ミナミさんは私の王子様ですから!」


~♪


オルゴールのようなゆったりとしたメロディとともに全体が動き出した。

同時にさざ波のように馬自体がゆっくりと上下する。

刺激的な乗り物ではないが、女の子にはこれくらいがちょうどいいのだろう。


「結構こういうのってステキね……」


「なんだ、レイアも女の子らしいところあるじゃないか」


「ホント、あなたって変なところで失礼よね!」


ソフィと二人乗りしているレイアはミナミなんかよりもはるかに王子様っぽい。

実際ごろすけにも乗り慣れているし、エレメンタルバターの中では

彼女が一番乗馬が得意なのだろう。


まるでおとぎ話の中にいるかのように、ステキなメロディとともに

景色が切り替わり、きらびやかな光の中で体を揺れに任せる。

そのうちミルは完全にミナミに寄りかかり、

うっとりとその格式高くも見える装飾を見つめていた。


「私としてはもっと速さが欲しいわねぇ……」


「まぁ、女の子向けですから」


天使にちょこんと腰かけた一葉と馬車に乗るフェリカが話していた。

ミナミはふと、幼いころの一葉とメリーゴーラウンドに乗ったことを思い出す。

まさかこの年で再びこれに乗ることなど思いもしなかったが、

こうしてみるとなかなか乙なものである。


「てなわけで、こっちはそれなりに楽しめたぜ」


「ぼくたちもすっごくすっごくたのしかったよ!」


「にーちゃにボクのハンドルさばきをみせたかったな」


メリーゴーラウンドから降り、そして再び合流する。

男子組も各々唸るドライビングテクを披露していたらしい。

どの世界でも男の子の感性は共通なのか、

エディやレンはもとより、イオやパースまで興奮しきって

それのいかに素晴らしいかをとくとくと語っていた。


車に憧れないオトコノコなんていないのだ。


「すっげぇ楽しいのな、あれ! 

 こう、動きにくせがあるんだがそれがまたいいんだ!」


「あの係員、言い値で買うって言ったのに首を縦に振らなかったんですよ!」


もちろんそんなことができるはずもなく、

五樹が内燃機関と振動工学の教科書を貸すと約束することで

ようやくパースは落ち着いたそうだ。


なければ作ればいいと考えるあたり、この人も大概である。


「じゃ、この流れでジェットコースター行くか!」


ドリームアイランドにはジェットコースターが二つある。


一つは大人向けのシャトルコースター。

ωを慌てて書いたみたいな形のコースが特徴的であり、

ものすごいスピードで発射し、ぐるりと空中で一回転する。

その後、垂直に駆け上がってそのまま止まり、

今度は後ろ向きに進んで一回転するという絶叫マシンだ。


これを三回往復するという、大人もビビる代物である。

さりげなく、入り口には大きめのトイレがあり、

なぜか下着類が売られている売店があったりする。


ちなみに、高度は最大で45メートルにまで達する。

このドリームアイランドそのものが高台にある遊園地なので、

数字以上の絶景と恐怖を味わうことができるだろう。

最高速度は時速90キロにもなり、確実に70度以上は傾いているので、

ループ以外のところもものすごく怖い。


曲がりくねったコースこそないものの、

シンプルなそのコースは今までに何人もの人間を

絶叫の渦に叩き込んでいる。


そしてさりげなく今から三十年以上前に設置された、

シャトルループの中では日本一の古株という別の意味で怖いステータスを

持つものだったりする。


もう一つは子供向けのキッズコースター──通称いもむしコースターである。

その名の通りいもむしの形をしたコースターで、

こちらはあまりスピードは出ず、絶叫するほどコースも怖くない。

幼稚園児でも身長制限に引っかかる子がほとんどいない、と言えば

それの実態がだいたい想像できるだろう。


せいぜいがコース同士がぶつかりそうになったり、

急カーブで外側に引っ張られる感覚が味わえる程度だ。


大人にとってはあまり味気ないが、

どうしてなかなか、子供には絶大な人気があったりする。

子供たちの中では、このドリームアイランドで好きなアトラクションの

ベスト3に入ることだろう。


「どっち、乗る?」


これは流石に綺麗に分かれた。

大人はシャトル、子供はいもむしである。

ミルならばシャトルでも身長制限にぎりぎり引っかからなかったのだが、

猛スピードで一回転するのは怖いらしい。


「懐かしいなぁ、あれ」


ミナミたちの目の前で子供たちが不細工な顔のいもむしに乗り込み、

きゃっきゃとはしゃぎながらガタガタと揺れるそれを楽しんでいる。

まだ全然スピードが出ていない序盤であるが、

そこに乗っている子供たちはみな大歓声を上げていた。


──きゃぁぁぁ!


「鉱山のトロッコを娯楽用に改造したってところでしょうか」


「そんなかんじ」


ゴォォォ、とそれなりのスピードでいもむしがコースを駆け巡っている。

上下にうねり、急カーブを突っ切り、止まったかと見せかけての急発進。

乗り物、という観点で見ればこれ以上ない経験ができたことだろう。

なんせ、異世界に乗り物はほとんどないのだから。


「楽しかったか?」


「「うんっ!」」


出口から降りてきた五人の子供たちはみな嬉しそうに笑っており、

未だにその興奮が冷めやらぬ様子だった。

懐かしさのあまりミナミも乗ってみたくなったが、

残念ながらこれを大人だけで乗るのはなかなか勇気がいる。

それに、あくまで子供向けのアトラクションである故か、

セーフティーバーが大人だとちょっと心もとないのだ。


「さて、心の準備はできたか?」


次はいよいよ、大人のジェットコースター──シャトルループである。


かんかんかん、と無骨な階段を上り、受付へとミナミたちは赴く。

子供たちが下で見ている以上、ここで変に臆して無様な姿を見せるわけにはいかない。

すれ違う少年少女の中には半べそをかいているものが少なからずいる。

大人として、それだけは避けねばならなかった。


「絶叫マシンは隣が誰かで結構変わってくる。

 今のうちに誰とのるか決めておけよ?」


このジェットコースターは一列に三人まで乗れる。

どこか一番怖いかはその人次第だろう。

自然と男、女、家族組で別れた。


「なんか心臓バクバクしてきた……」


「ちょっとミナミ、なんであなたが真ん中なのよ?」


「そりゃ、可愛い女の子に挟まれたほうが嬉しいからに決まってんだろ?」


ミナミの両隣にソフィとレイアがすとんと腰かけ、安全バーが降りる。

がっちり食い込んでくるとはいえ、割とすっきりしたデザインなので

上半身の解放感が半端ない。加えて、しっかりと握れる手すりのようなものもない。


『それではみなさん、心の準備はできましたか♪』


マイクの音声が広がる。

おう、と心の中で応えようとした瞬間、唐突に前に引っ張られた。


「うぉっ!?」


「きゃぁっ!?」


加速する視界。轟々と風を切る音。

強烈な風がソフィの髪を後ろへとたなびかせ、

そして反射的にレイアがないはずの腰のナイフを抜こうと手をさまよわせた。


「思ってたより速いぃぃぃ!?」


「ねぇ!? ホントにこれ一回転できるの!?」


「もっと景色を楽しもうぜ?」


機体はどんどんスピードを上げ、そしてレールを駆け上がってゆく。

すい、と視線を横にずらせばドリームアイランドを一望することができた。

──聳える壁のようにレールが反り上がっているのが正面に確認できる。


「きゃぁぁぁぁぁ!?」


「ひゃぁぁぁぁぁ!?」


「ぶつかります!?」


「離せ! 安全バーいらないから自分の力で掴ませろ!」


どうやら冒険者は安全バーなどに自分の命を預けたくないらしい。

身動きの取れないそこで、必死に安全バーを解除しようと無駄な抵抗をしていた。

実際、エディなら安全バーがなくても素の身体能力だけで

なんとかなってしまうから怖いものである。


大絶叫の中、やがてミナミの正面にどこまでも青い空が広がった。

ループ中盤の、ちょうど角度が90度になったところだ。


「いぃぃやっほぉぉぉう!」


「ひゃっはぁぁぁぁぁ!」


ミナミと五樹は思いっきり叫ぶ。

これぞ絶叫マシンの醍醐味だ。

この体がふわっと浮いて引っ張られる感じがたまらない。


「ほら、二人も!」


気分がよくなったミナミは隣の二人の手を取り、

半ば無理やり引っ張ってバンザイさせる。


「バカぁぁぁぁぁぁ!」


「いやぁぁぁぁぁ!」


足元に空が、頭上に町がある。

頭が引っ張られ、息ができない。

ぐるりと反転したその世界の中、ミナミは心の底から叫び続けた。

前の席では同じように冒険者の二人が手を掴まれてバンザイさせられている。

コーヒーカップの時の恨みを今ここで晴らしているのだろう、


「離して! ホント離して!」


「片手空いてるからいいじゃん?」


「そういう問題じゃないのぉぉぉぉ!」


絶叫マシンで両手を離さないやつはチキンだとミナミは思っている。

せっかくの体験を安全なところでぬくぬくと眺めるのはあまりにもったいない。

コースターが一回転し、視界が元に戻ったところでようやく

ミナミは手を放してあげた。


「ううう……ミナミくんのばかぁ……!」


「お、降りたら覚えときなさいよ!」


涙目でにらみつけてくる二人の表情に、ミナミのいじわるな心が拍手喝采を送る。


「おっと、まだ終わりじゃないぞ?」


スピードを保ったまま、コースターはレールを駆け上がり、そして止まった。

やっぱり90度を保った、そして非常に高い場所でだ。

椅子に座っているというよりかは、むしろ寝っ転がっているかのような心持で、

背中は引っ張られているし目の前には青空が広がっている。


体感的には、空中に放り出されて止まっているように思えなくもない。


「ね、ねえ。止まっちゃったけど……」


「このまま、なんてことないわよね?」


「どうだろうなぁ?」


高高度とはいえ、止まっているからそこまで怖くはないのだろう。

二人は声を震わせながらも落ち着きを取り戻し、ミナミに問いかけてくる。

風がびゅうびゅうと吹き荒ぶ中、唐突にそれは鳴り響いた。


『お客様にお告げします♪』


非常に軽いノリの声だった。


『このジェットコースター、故障しちゃいました♪

 そのままの状態で、直るまでしばらくお持ちください♪』


「「いやぁぁぁぁぁっ!?」」


がくん、と次の瞬間には後ろ向きにコースターが落ちていく。

体が浮き上がり、内臓をぐっと掴まれたかのような浮遊感が襲った。

嬉しそうに叫んでいるのは現代日本人だけで、

異世界人のメンツはみな呂律が回っていない。


「ほらほら、楽しもうぜ!」


後ろ向きでループを上るのもなかなか乙なものだ。

傾いていく視界が本当に不思議で面白い。

ちらりと両隣に視線をずらせば、二人とも風で髪型がすごいことになっていた。






──結局、ジェットコースターを降りるころには異世界人はみな

ぐったりと疲れ切っており、五樹、ミナミ、一葉の三人はそれぞれ肩を貸しながら

子供たちの元へ帰ることになってしまった。








「ふぅ……。異世界でも夕日はきれいなのね……」


ドリームアイランドには名物観覧車がある。

設置当時は世界一の大きさを誇っていたといわれる、

高さ75メートルほどの観覧車だ。


もちろん、これだけでは名物になれるはずがない。

なんとこの観覧車のゴンドラの半分は揺れるのだ。


観覧車の外周上にレールが存在しており、

回転による上昇に伴い、ゴンドラがそれに沿って動くのである。

割と大きくがしゃんと揺れるので、子供の中には泣き出す者もいる。

が、これはある意味大人への第一歩であり、

【揺れるゴンドラ】への赤い通路に並ぶことは地元の子供の中では

英雄視される行動なのだ。


ちなみに、どうせ大したことなかろうと高をくくっていると

かなり怖い目に合う。外から見た以上に揺れは大きく感じるし、

安全バーもゴンドラ内にないから本当に振り落とされそうな感覚に陥るのだ。

中にはシャトルコースターよりも怖いという人までいる。


ミナミ、レイア、ソフィ、一葉は揺れないゴンドラだ。

逆に、子供たちと冒険者、そして五樹は揺れるゴンドラに乗っている。


傾く夕日が描く夕焼けはとてもきれいで、レイアはほうとため息をついた。


そろそろ観覧車も一番上に差し掛かるころだろう。

ジェットコースターの時よりもゆっくりと景色を眺めることができる。

一つ隣のゴンドラががしゃんと大きく揺れ、中から子供たちの歓声が聞こえてきた。


「なんだろ、このうれしいような悲しいような不思議な感じ……」


「遊園地だからな」


観覧車はいつも最後の締めに乗ると三条家では決まっている。


「ホイホイおじさん、変わってなかったな」


「あの人、生涯現役を謳っているからね」


「確かに、面白い人だったわよねぇ……」


ジェットコースターのあと、すなわちこの観覧車に乗る前、

ミナミたちはこのドリームアイランドで外してはならないアトラクション、

すなわち【ホイホイおじさんのミュージック・リミテッド・エキスプレス】に

乗ってきた。


ホイホイおじさんとはこの遊園地の有名人で、

派手な衣装と帽子、そしてノリの良さと優しさが特徴的な

ミュージック・リミテッド・エキスプレスの係員だ。


このミュージック・リミテッド・エキスプレスというのは

コーヒーカップと小規模なジェットコースターを足して二で割ったような

アトラクションで、コースターにのってひたすらぐるぐると回るものである。


名前にミュージックがついているくせに音楽要素がまったくないのだが、

ここでそのホイホイおじさんは活躍している。


というのも、このおじさん、すごくノリがいい。

ぐるぐる回っているときに子供たちが『ホーイホイホイ!』と声を上げると、

同じように『ホーイホイホイ!』と返しながらスピードを上げてくれるのだ。

叫べば叫ぶほどスピードを上げてくれるし、

運がいいと搭乗時間をちょびっとだけ伸ばしてくれたりもする。

時には勝手に逆回転にしてくれたりと、サービス精神が旺盛だ。


身長制限に引っかかってしまう子供がいても、

こっそり最低速度で様子を見ながら乗せたりなど、

その操作技術と実力、優しさも伴って大人気だったのだ。


正直、このホイホイおじさんがいなければこのアトラクションの人気は

全然でなかったことだろう。


もちろん、すでに十分大人であるミナミたちも腹の底からホイホイ叫んだ。

というか、あそこに行って叫ばない人間なんていない。


ホイホイおじさんは笑いながら、スピードアップ、逆回転、時間延長の

スリーコンボを決めてくれた。


「なんだかんだであの子たち、あれが一番気に入ってたみたいよね」


ゴンドラに差し込む夕焼けが眩しい。

そして、このなんとなく終わってしまう感覚がミナミは好きだった。


「遊園地、かぁ……あっちにもあったらいいのになぁ……」


「異世界は異世界で面白そうだと思いますけど……」


「そう? こんなにすごい場所、あっちにはないよ?」


「いや、遊園地の中ではここはせいぜいが中堅どころだぜ?」


ドリームアイランドは遊園地らしい遊園地だ。

言い換えれば、目新しいものがなく、全国から人を集めるほどの

大きな目玉はない。純粋に遊園地を楽しみたいのならともかく、

今のご時世だとちょっときつい。


二流では決してないものの、一流かときかれたら首をひねらざるを得ない、

そんな遊園地なのだ。


「あそこにでっかい変わった形の塔が見えるだろ?

 あれ、ホテル……大規模な宿なんだけど、客は全然いないって話だ」


五重塔のようにも見えるそのホテルだが、

ミナミが中学生になるころには客が全然いなくて取り壊される、

なんてうわさが流れていたくらいだ。

それでもなんとか持っているのは、入園料のほうで儲けを出しているからだろう。


「へぇ……あ、ハズレの迷宮を改築すれば結構面白そうじゃない?」


「掃除するのがダルそうだなぁ……」


「いいなぁ、私も冒険とかしてみたい!」


だんだん近づきつつある地上を眺めながら四人は気ままに言葉を紡いでいく。

黄昏時の遊園地が放つ独特な雰囲気に、

ミナミはなんとなく感傷的な気分になった。


「また、来年もみんなで来れるといいわね」


「そう、だな」


夕焼けに照らされながら、とうとう観覧車は終わりを告げる。

はしゃぎつかれていくらか眠そうにしている子供たちを抱きかかえ、

ミナミは今日の思い出とその表情を心のアルバムにしっかりと刻み付けた。




20150214 誤字修正


さぁ、どこの遊園地か分かったかな?


名前をぼかしたりはしているものの、詳しい説明があるのはだいたい事実に沿っています。もうだいぶ古い話だし、記憶と違っているところがあるかもしれないけれど。ネットの資料もほとんどないんですよね。古いサイトにファンの人の日記みたいなのはちょくちょく見かけたんですけれども。


あの遊園地は本当に楽しかったなぁ……。

できた直後に売りの一つだった交通の利便性がつぶれて大変なことになったんだっけ? 設計者はいったい何を考えていたんだか。


結局シャトルループは怖くて乗れなかったや。

でも、いもむしコースターはすっごくすっごく好きだった!


あ、そういえばリアルにある某海の夢の国のせんたーなあーすのコースターってさ、安全バーが隣の人と共通だから、体格違うとリアルな恐怖体験できるよね。こう、クライマックスで体が浮いて飛ばされそうになるの。


なおモデルとなった遊園地は今では本当の意味で【夢の国】となっています。

廃墟マニアの方々にも好評だったらしいですが、その廃墟すら一部の名残を残して消えてしまいました。


閉園直前。休止中』の札がかかったたくさんのアトラクションに、開き直ったはっちゃけトークをするインストラクターのおにーさん。いろんな意味で、本当に思い出の場所でした。アルバムには今でもあのころの写真が残っています。


もし、あの懐かしい風景を少しでも分かち合えたのなら、それほどうれしいことはございません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お姫様多くて素敵。 [一言] ωの方は、その形状から子どもには手の届かない場所に置いておくべきですね……。
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