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【黄泉帰里編8】 遊園地にて

「ふぉぉぉ……!?」


「なにこれ……!?」


「おっきなはぐるま……?」


「……かわいい」


「ステキな音楽ですね!」


賑やかな音楽。きらびやかな衣装を纏ったスタッフ。デフォルメされたキグルミ。

そこは家族連れでいっぱいであり、銀色の風船を持った子供であふれている。

どの子もお出かけようの動きやすい服装をしており、

そして嬉しそうに大人に手を引かれていた。


ぐるりと見渡せば──いや、見渡さなくてもそこにはいろいろなものがある。

一番最初に目につくものといえば、やっぱり目の前にどんとそびえる歯車だろう。

観覧車と呼ばれるそれは、異世界のみんなにはよほど珍しいものに映ったらしく、

子供たち全員、ついでにソフィもぽかんと大きく口を開けてそれを見上げていた。


──きゃぁぁぁ!


「なんか……叫んでる……」


「スリルを楽しむ乗り物だからな」


遠くからジェットコースターに乗る若者たちの絶叫が聞こえ、

近くからはキャラメルポップコーンの甘い香りが漂っている。

数年ぶりに感じたその空気に、ミナミまでもが心を躍らせた。


そう、ここは今日の目的地。

子供の誰もが憧れる夢の楽園──【ドリームアイランド】と呼ばれる遊園地だ。

ミナミ達はその大きな入場門──設定上は夢の国への国境検閲所の前にいるのである。

ご丁寧にも、受付のお姉さんまでバッキンガム宮殿の近衛兵をモチーフとした衣装を纏っていた。


ドリームアイランドは規模こそ最近のものに比べて一歩劣るものの、

昔ながらのアトラクションやシンプルなイベント、

そして交通の便が良いことなどが相まって近隣区域の人からは絶大な人気がある。


この辺の幼稚園や小学校の遠足といえば決まってここだし、

ここらの子供たちはこの遊園地とともに育っていったといっても過言ではない。

ミナミ自身、最近はめっきり訪れなくなっていたとはいえ、

ここには両手を使っても数えられないほど訪れている。


ミナミの最寄駅からはだいたい三十分程度、

家から直接車で行けば一時間もかからない距離にそれはある。


「全員分のチケット買ってきたぞー! なくさずにきちんと持っとけよ?」


「「はーい!」」


五樹が子供たちにチケットを手渡した。

昔っからずっと変わっていないそのデザインにミナミの心がなんとなく温かくなる。


「すみません、わざわざ買ってもらっちゃって……」


「いいっていいって。並ぶのは一人で十分。それより車は大丈夫だった?」


ミナミ、ソフィ、そして子供たちとお姫様は五樹の運転するワゴン車で

ここへとやってきていた。さすがに全員は車に乗れないし、

こんなに大勢の子供たちを連れて電車で移動するのも難しい。

必然的に車に乗るメンバーは決まり、そして残りの冒険者組と一葉は

電車でここに来ることになっている。


ひそかにミナミは心配していたのだが、幸いなことに乗り物酔いするのは

一人もいなかった。むしろ、はしゃぎすぎてうるさかったくらいだ。


「あ、兄ちゃん!」


迷子にさせないように気をつけないとな、とミナミが考えていると、

駅のほうから目立つ外国人の集団がやってくる。

もちろん、一葉とレイアたちだ。


「ミナミ……あんなの聞いてないぞ?」


「なんかあった?」


いつもの剣がなく、そして薄着のエディがどこかそわそわとしながらミナミに愚痴る。

こんなときでも冒険者印だけはちゃんと首元にぶら下げていた。


「この世界って、ミスリルウォームを移動手段に使ってんのな」


「それも何十匹もの数を、かなりの広範囲で」


「あんなにスピード出るしぃ……

 レールから飛び出しちゃうんじゃないかって生きた心地がしなかったわぁ……」


地下鉄のことらしい。長さといい太さといい似てないこともない。

車両の内側に鋭い牙を何枚も付け、車輪を取り除いて本体を回転するようにすれば

まさしくミスリルウォームの日本エディションになるだろう。


「エディさんたち、電車が来る瞬間にものすごい顔して戦闘態勢に入っちゃってさ。

 やっぱりプロって違うんだなってすっごく身に染みたよ……」


苦笑いする一葉。その後の顛末がある程度予測できるあたり、

ミナミは車で来て正解だったと心の底から思っていた。


「レイアは大丈夫だったか?」


「んー、そこら辺は大丈夫だったけど、人の多さに驚いたわ!

 ……あと、痴漢されかけた」


「あー、でも問題ないんだろ?」


「そこ、普通は『大丈夫?』って聞くところじゃない?」


ぷっと口を膨らませながらレイアはミナミをぺしぺしと叩く。

が、ミナミはそんなことでごまかされたりなどはしない。

いくら可愛らしい仕草をして見せたところで、レイアは特級冒険者なのだ。


「で、実際どうしたの?」


「やられる前にやったわ!

 しばらくはナイフの一本も握れないでしょうね!」


「……」


詳しい話は聞かないことにした。たぶん指の三本くらいは折られたことだろう。

異世界ならば腕を切り落とされていても文句は言えないので、

これでも随分良識的な対応だったりするのだ。


「それよりも、さっさと中に入りましょ!

 あの子たちもうずうずしているみたいだし!」


「そうだな!」


一同はそれぞれ子供の手をしっかりと引いて入場門をくぐり、

受付のおねえさんに夢のチケットをパチリと切ってもらう。

門を開けたそこには、素晴らしい場所が広がっていた。








「遊園地ってのは、いくつかのアトラクションにちょっとしたイベントで

 成り立っていることが多い。どうしても乗りたい奴を押さえて、

 あとは乗れそうなやつを片っ端からめぐっていくってのが鉄板だな」


ミナミは遊園地の楽しみ方をみんなにレクチャーする。

ただやみくもに回っているだけでもおもしろいことにはおもしろいのだが、

どうせなら効率的に回ってなるべく多くのアトラクションを楽しめたほうが

お得だろう。


幸いなことに、このドリームアイランドには遊園地が持つべき

だいたいのアトラクションがある。


「俺たち、適当についてくからチビどもの意見を優先させてやれよ」


「ぼくあれやってみたい!」


エディがそういった瞬間に間髪入れずにレンがあるものを指さす。


それは巨大なカップだった。

赤、青、緑と様々なカップがぐるぐると回りながら、

さらに直径25メートルほどのエリアをぐるぐるとまわっている。

軽快な音楽が流れ、そして歓声といくばくかの悲鳴に包まれていた。


「コーヒーカップか……最初としては無難なところだ」


俗にいうコーヒーカップという回転するアレである。

絶叫マシンというほどではないが、そこそこのスリルも味わえる優れものだ。

大人はともかく、子供たちなら十分に楽しめるに違いなかった。


さっそくミナミたちは列に並び、その瞬間を今か今かと待ち続ける。

幸いなことに十分ほどで順番が回ってきた。


「当アトラクションはカップ一つに五名様までとなっております♪」


さて、いざ乗り込もうとしたところで係のお姉さんが笑いながら告げてくる。

ミナミたちは合わせて十三人。旨い具合にばらけないとまずいだろう。


「これ、保護者同伴じゃないとダメですかね?」


「いえいえ! そんなことはありませんよ!」


と、なれば話は早い。


「お前たち、五人で乗ってみな」


「「うん!」」


子供たちはたたっと走ってカップを物色する。

ロイヤルな感じのものからシンプルなデザインのものまで、

結構バリエーションがあるため、だいたいの子供はここで選択を迫られるのだ。

子供だけで乗せるのは少しだけ不安のあるミナミだったが、

コーヒーカップはそこまで危険ではないし、お姉さんぶっているミルもいる。


「じゃ、おれたちはどれに乗る?」


「一応、あの子たちの隣ので」


ミナミ、ソフィ、レイアは子供たちの隣のカップに乗った。

カップ内は大人にとっては少々狭く、ミナミは奥に詰めるのに少し苦労する。

二人の手を引っ張ってなんとか乗り込んだものの、身動きがとりにくい。

ついでに、尻がはまりそうだった。


「ちょっと狭い……かも?」


「本来は子供のためのものだからな。ふざける大人も多いけど」


少し向こうのほうでは一葉とフェリカがオシャレなカップに乗っていた。

はて、どうしてその組み合わせなのかとミナミは首をかしげたが、

その向こうに大の大人の男が三人も乗ったカップを見つけてしまい、

なんとも珍妙な気分になる。


そのうちの一人のアゴヒゲが特徴的な男と目が合う。

妙に闘志が燃えているのが気にかかった。


~♪


「お」


やがてカップはゆっくりと動き出す。

ミナミの視界から人や建物が横に流れていき、そして再び戻ってきた。

緩やかで明るい音楽が耳に届き、子供たちのはしゃぐ声も聞こえてくる。


「この真ん中についている丸いのを回すとカップ自体が回るんだ」


「あら、好きなだけ回していいものなの?」


「うん。でも、その分速くなるから酔いやすくなる」


「レイちゃん、加減してよ?」


「わかってるって」


レイアはハンドルを握り、そっとそれを回し始めた。

ぐる、とカップが回転し、ミナミの目に子供たちのカップが映る。


「きゃぁぁぁぁ!?」


「うぉぉぉ!?」


「ひゃぁぁぁ!?」


なんか、ものすごい勢いで回転している。

ミルとクゥが互いに寄り合い、カップのふちをしっかりと握りしめている。

イオはぐるぐると目を回し、焦点が合ってなかった。


それもそのはず、メルとレンがものすごい勢いでハンドルを回しているのだから。


「メル! もっとはやく!」


「レンこそほんきだしてよ!」


髪が遠心力に引っ張られ、ふわっと浮いている。

エレメンタルバターの中でも運動神経の良いこの二人ならこの程度問題ないらしい。

身体能力そのものが現代日本人より高いからか、

ほかの子供たちのカップよりも数段上の回転を誇っていた。


「……ああなるのね」


「ちょっと、やってみたい……かも?」


「よしきたまかせろ!」


「きゃぁっ!?」


ソフィがやってみたいといった瞬間、ミナミは全力でハンドルを回し始めた。

疲れ知らずの超強化された腕力はすぐに子供たちの回転を追い越し、

カップの根元からギチギチガタガタといった音が出るほどに

勢いが増していく。


「とめっ! ミナミくん、止めてぇぇぇ!?」


「そんなにきつい? 私、割と余裕だけど」


真っ青になるソフィとは対照的にレイアは顔色一つ変えなかった。

このくらいなら普段の冒険のほうがよっぽどきついのだ。

ソフィが本気で肩を叩いてきたので、ミナミは手を止めることにした。


「うう……ひどい……」


「まぁまぁ。こういうのも遊園地のお楽しみの一つだ。

 あとでキャラメルポップコーン買ってあげるから、な?」


「……大きいサイズじゃないとダメだからね」


──♪・♪!


目が回らない程度の回転を維持しながら楽しんでいると、

やがて音楽のテンポが上がり、カップそのもののスピードが速くなってくる。

ハンドルを止めていても体が外側に引っ張られ、スリルも少し出てきた。


──うぉあぉあぁっ!?


「まわせまわせまわせぇ!」


「まだです! まだまだ臨界まで達していません!」


子供たちだけがふざけていると思ったら、それ以上にふざけている大人がいた。

カップの根元がギシギシいってるし、もはや拷問器具みたいなことになっている。

明らかにその勢いはミナミの比ではなく、

うっすらと残像すら出てくるレベルである。


「止めろ! エディ、マジで止めろ!」


「イツキ、いいこと教えてやる。冒険者ってのは冒険したい生き物なんだ」


「パース! お前もなんとか──!」


「さすが異世界! 耐久性能もピカイチですね!」


「お前も同類かぁぁぁぁ──……!」


大人三人の重量。特級冒険者の肉体。

大学生の男が絶叫するレベルの回転なんてそうそう見れたものじゃない。

ぎゃあぎゃあわめく兄を見て、ミナミは次は少しソフトなものにしようと心に決めた。










「たのしかったぁ!」


「みてた!? すっごいはやかったでしょ!?」


「酷い目にあった……」


さて、いろいろ感想はあれどコーヒーカップはつつがなく終了し、

ミナミたちは次にどこに行くかの算段を立て始める。


ふらふらしているのが何人かいたため絶叫系でないものを選びたいところだ。


「あれなんてどうだろう? 乗り物じゃなくて変わった迷路なんだけど」


「あら、面白そうじゃなぁい?」


ミナミが指さしたのはミラーハウスだ。

文字通り、中の通路の全てが鏡張りの迷路の一種である。

鏡張りである故、本物の通路と鏡の区別が非常につきづらく、

四苦八苦しながらゴールを目指す……という内容になっている。


中は暗いとはいえないまでもものすごく明るいというわけでもなく、

人のまるで見受けられない中で写し身の自分ばかりが何重にも広がるため、

少しホラーっぽいと言えないこともない。


幸いなことに子供たちはこの手のものに免疫があるらしく、

反対するものは一人もいなかった。

一葉は昔は嫌がったっけ、とミナミはふと思い出した。


ちなみに、ここのミラーハウスは子供は保護者同伴じゃないと入れない。

そこそこ広いために迷子になりやすく、泣き出して出てこないケースがあるためだ。


また、同時に入る人数にも制限があったりするが、

これは迷路ならどこでもあるルールだろう。


「私、ちょっと本気で行きたいからお先にどうぞぉ?」


「じゃ、遠慮なくいかせてもらうぜ!」


「いちばんにクリアしてみせるもんね!」


「中は走らないほうがいいぞ?」


最初に入ったのはレンとエディと五樹だった。

大人二人に子供一人の構成だが、実質的に子供二人に大人が一人である。


「じゃあ、私たちもいこっか!」


「はい!」


次に入ったのはレイアとミルだ。

どうやらこのお姫様、こういった冒険は初めてらしく、

今にもスキップしそうなほどうきうきとしている。


「つぎはあたしがいく!」


「一緒に行こうね、メルちゃん!」


「私も一緒に行っていいかな?」


「もちろん! 女の子パーティ結成しちゃいましょう!」


その次に名乗りを上げたのがメル、一葉、ソフィだ。

女の子パーティ結成だのなんだのいっているが、全員非戦闘員である。

もとより、迷路といえど迷宮ではないので、魔物も現れないから安全だ。


「では、そろそろ私たちも行きましょうか」


「うん。めいきゅうをせいはするのはまほうつかいってむかしからきまっている」


銀髪魔法使いコンビが堂々とその中に入っていった。

本物の迷宮なら侵入して三時間と経たないうちに全滅するような編成だ。


「よし、じゃあ次はおれたちが──」


「申し訳ありません。既定人数に達しましたので、しばらくお待ちくださいね!」


そろそろ行こうとクゥの手を引いたところでストップがかかってしまった。

運がいいのか悪いのか、ミナミたちが入るときは中に誰もいないことになる。

子供の時のミナミなら膝がガクガクプルプルしていたことだろう。

本当に中に誰もいないミラーハウスほど怖いものはないのだから。


「にーちゃ、つぎはいるときってクゥたちふたりだけなの?」


「おう。まぁそんなこわいもんじゃないから大丈夫だって」


「……ホント?」


「私も一緒に入ってあげるわぁ。それならいいでしょ?」


「……うんっ!」


怯えるようにミナミの服の裾を握るクゥを見て、

フェリカも一緒についてきてくれると言ってくれた。

いいお姉さんのようにも見えるが、

ただ単に先に誰もいない迷路を楽しみたかっただけだったりする。


「これって一周するのにどれくらいかかるのかしらぁ?

 さすがに一日はないでしょうけど、数時間はかかるのぉ?」


「いや、せいぜいが十五分ってところですよ」


なんだかんだと話しているうちにやがて出口のほうから見覚えのある

はちみつ色の髪の人間が出てきた。


「ふぅ……楽勝だったな!」


「の、割には無様におでこが腫れてるけどねぇ」


「うっせ」


さらに、五樹に抱っこされたまま半べそをかいたレンもやってくる。

やっぱりおでこに大きなたんこぶみたいなものができていた。


「うぇぇ、にーちゃぁぁぁ!」


「ど、どした?」


「はしゃいで走って鏡に正面衝突した」


ミラーハウスはこれで結構事故が多い。

鏡と通路の区別がつかず、減速もできないまま頭をぶつける人間が後を絶たないのだ。

レンの場合は特に、足も速くて身軽だからその衝撃も大きかったのだろう。


結局、全くの無傷で帰還したのはパースとイオのペアだけだった。


「じゃ、ちょっくら行ってくる」


みんなに見送られながら三人はミラーハウスの中へと侵入する。

やっぱり中の構造そのものはあまり昔と変わっていないらしい。

妙に薄暗く感じる明かりも、雰囲気を盛り上げるピエロの絵も、

ミナミの記憶の中にあるものとほとんど同じだ。


すい、と手を動かすと鏡の中にいる何重もの自分が同じように動く。

微妙に角度でも変えてあるのか、反射の方向が全く持って違っており、

ぐるりと見渡す全ての視界から自分の横顔や背中を見ることができた。


「あら、結構面白いわねぇ……!」


こんこん、と鏡の表面を叩きながらフェリカは道を探す。

それを真似してクゥも鏡をぺたぺたと触り始めた。

ミナミはある程度の道順を知っているため、黙って二人についていくことにする。


「方向感覚も、視覚感覚も狂わせに来ている……。

 娯楽だからいいものの、本物の迷宮でこれをやられたらキツイわねぇ……」


「トレジャーハンターでも難しいんですか?」


「目印がないんだものぉ……。

 あと、単純にこんな場所に何日も居たくないわぁ。

 頭がどうにかしちゃいそうよぉ……」


それもそうだろう。

一人しかいないはずなのに、自分の視線に四六時中さらされるのだから。

それを考えると同じ鏡を用いた迷宮でも、

例のハズレの迷宮はかなり良心的だったと言えるだろう。


鏡の迷路はどこまでも、どこまでも無限に続いているかのように見える。

なんだかミナミも妙に薄気味悪い気分になってきた。


「もってきといてよかったわぁ」


「なんすか、それ」


「マッピングツールよぉ、見たことあるくせにぃ」


「どこから出したんですか」


「……女に言わせる気ぃ? 男ってこれだからやぁねぇ」


ずいぶんゆったりした服を着ているなと思っていたら、

フェリカはどこかに隠し持っていたのであろうマッピングツールを取り出した。

さすがにそれは反則なのでミナミは黙ってそれを巾着に放り込んだ。


「やん♪」


「真面目に行きましょう」


慎重に、ぺたぺたと鏡を触りながら三人は進んでいく。

トレジャーハンターとしての力なのか、それとも単にカンが鋭いのか、

フェリカはいとも簡単に正しい通路を見つける。

行き止まりにはまったりループする通路に出くわしても決して方向感覚を失わずに

進むべきルートを歩み続けていた。


「きゃんっ!」


やっぱり途中でクゥが鏡と正面衝突した。

フェリカの様子を見て油断したのだろう。

ぴすぴすと鼻を鳴らしながら抱き付いてきたので、

ミナミはゴールまで抱っこして連れて行こうと心に決めた。


「油断しちゃだめよぉ?」


「だってぇ……!」


ミナミの鋭敏になった耳では、ミラーハウス内で頭をぶつける人間たちの

悲鳴を聞くことができた。このミラーハウスはよくできているらしい。


ミナミはクゥを抱きながらフェリカの後についていく。

もういい加減慣れてきたのか、フェリカの歩みも早い。

流石は特級冒険者といったところだろう。


そして──


「出口、見っけぇ」


くるりと曲がり角をまがった先に外の日差しが輝いていた。

ゴールとかかれたアーチが掲げられており、

奇妙なピエロのキャラクターが手招きをしている。

ちょっと薄汚れて左ほおの涙のマークが剥げていたが、

それもミナミの記憶のままだった。


──いや、それより少しだけぼろくなっていたかもしれない。


「多分、私たちの中じゃ最速よね。

 案外あっけなかったわぁ」


ふふん、と笑いながらフェリカは出口に向かって走り出す。

ミナミも初めて来たときそうだったが、

ミラーハウスの中にいるとどこか不安な気分になってしまうのだ。

そんな中、明るい日差しの差し込む出口を見て走らない人間なんていないだろう。


別に、フェリカが子供っぽいってわけじゃない。

むしろ、冒険者の本能としてしょうがない部分があるだろう。

実際、初めてここに来た子供たちの大半が出口を見つけると走り出す。

ミナミ自身も家族でここに来た時に走った記憶がある。


「はい、とうちゃ──」


だからこそ、とっさにクゥの目を隠した。


「きゃんっ!?」


ぶべしっ! と何かが激突する音がした。

おそるおそる目を開けると、真っ赤になった鼻を涙目でさする赤毛の女の姿があった。


「う、うそぉ……? ま、まさか……」


「それ、おれも昔はひっかかりましたよ。新参者が受ける洗礼ですね」


フェリカの近くまで行き、ミナミはくるりとターンする。

その視界の先に、本物の出口があった。


「ここだけ微妙に角度ずらして鏡が置いてあるんですよ。

 出口を見つけて油断しきったところを仕留めるっていう罠です」


なんのことはない。

出口だと思ったそれは出口を映した鏡だったのだ。


「ほい、ゴールっと。

 クゥ、楽しかったか?」


「……まぁまぁ?」


明るい日差しが降り注ぐ出口のその先では、

はちみつ色の髪の男と銀髪の魔法使いが腹を抱えて笑っていた。

鼻も赤くなった赤毛の女が制裁を加える五秒前のことだった。







20150207 誤字修正


この遊園地、モデルがあります。

今の段階で気づけたらすごい。

いろんな意味で有名な、数奇な運命に翻弄された遊園地なのです。

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