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ハートフルゾンビ  作者: ひょうたんふくろう
ハートフルゾンビ
7/88

7 ゾンビVSウルフゴブリンパック

「なぁおまえ、どっか安全な寝床知らない?」


 ある程度の腹ごしらえを終えたミナミは先ほど自らの配下にした魔物にダメ元で尋ねてみた。


 ここがどこだかはわからないが、近くに人家があるわけがないだろう。見渡す限りでは木しかなく、ジャングルというほどではないがそれでも大自然のど真ん中ということにはかわりはない。


 この中で無計画に野宿するのは今のミナミにとっては危険だった。早急に──具体的には日が落ちる前に安全な寝床を確保する必要があった。


──ガゥガゥガゥ!


 その魔物は嬉しそうに吠えて鼻先をついとある方向へ突き出した。どうやら心当たりがあるらしい。魔物と直接の会話ができなくても、意思の疎通はある程度ならできるようだ。


「よっし、そこへ案内してくれるか?」


 しゅたっと一瞬敬礼したかのような動作をすると、彼(?)はちょこちょこ歩きだした。ある程度進むととこちらの様子を確認してくる。ちゃんとついてきているか確かめているようだ。見た目の割にはかなり賢いようだとミナミは心の中だけで褒めておく。


 これだけの知能があるのだ。きっといい場所を教えてくれるだろう。ミナミは期待に胸を膨らませて彼の後を追っていった。




 森のけもの道をずんずんと進んでゆく。ミナミ自身はそこら中に魔物の気配を感じているが、魔物がこちらを襲ってくるようなことはなかった。


 彼の知識か本能かはわからないが、意図的に魔物と合わないルートを選んで通っているらしい。ときおり何かを確かめるように吠えているのは獣だからだろうか?


「あ、なんかいい感じ」


 ある程度進んだところで視界が開けた。今までに見たことがないくらいに澄んでいるきれいな川がある。


「どんなところなんだろうなぁ」


 彼はその川沿いを進んでゆく。今まで吠える以外は無口だった彼がふんふんと鼻歌らしきものを歌い始めた。これから行く場所はそんなにいい場所なのだろうかと、ミナミはわくわくしながらついていく。


「やっぱ、魔物おすすめってことは相当ワイルドなかんじなのかな?」


 やがて湖に出た。ここまでわずか一時間ほどしかかかっていない。


「……ちょっとまて」


 彼の鼻歌は次第に激しくなっていた。唸り声と言ったほうが正しい気がする。彼は湖のわきにある茂みのほうへと進んでいく。


 ミナミはここで背中にいやな汗が流れるのを感じていた。


 ──たしかさ、こいつは最初に会ったとき二人組で行動してだったよな。ということは、二人組であることのメリットを理解しているってことだよな。行動なんかも全体的にみて普通の獣よりも知的だったよな。


 彼は茂みの中に向かって大きな声で吠えた。それに共鳴するかのようにその中から獣の鳴き声が帰ってくる。


──たしかさ、イルカってさ、鳴き声で連絡取り合うんだよな。猿なんかにもそんなことができるやついたよな。


 ミナミの感覚は一斉に群がってくる生命の気配を感じ取っていた。ここらへん一体の生命すべてが考えられないスピードで近寄ってくる。今目の前に見えないのが不思議なくらいの数だ。


──たしかさ、群れとかそういうのって水の近くに拠点を作るんだよな。五大文明も川の近くでできたし。


 ちなみにミナミは世界史が得意科目だ。


──ガゥッ!


 敬礼のようなしぐさをして、彼は満面の笑みでミナミを見つめた。


 ミナミのお願いは『安全な寝床』だった。実際、そこは安全なのだろう──彼にとっては、だが。


 百匹近くはいると思われるウルフゴブリンに囲まれたミナミは生きた心地がしない。


 もう魔物どもは姿を現している。中には群れのボスだろうか、二回りは体格の大きいものもいた。ご丁寧にも蔦で作られた王冠と思しきものをかぶっている。


 そう、ゾンビの彼はよりにも寄って彼自身の棲み処へと案内してしまったのだ。


 きっと先ほどからずっと連絡を取っていたのだろう。彼らは棍棒のようなものを装備して迎撃準備はばっちりだった。


 おそらく、鼻歌を歌っていたウルフゴブリンゾンビはあったことを全部そのまま報告していたに違いない。『ホウレンソウ』とやらは重要だと父が言っていたのミナミは思い出した。


「あのー、平和的に寝床を提供して貰いたく……」


 彼らの目は血走っていて、とても話し合いが通じるようには思えない。いや、そもそもゾンビ化させた魔物が特殊なだけであって、ミナミ本人に魔物とコミュニケーションをとる技術があるわけではない。あったとしても、今この場では意味をなさないだろう。


 ──ガヴ


 ボスがちょっとばかりグレートな感じのする棍棒を振り下げながらなにか命令した。


 あれならミナミでもわかる。『殺れ』だろう。


「ちくしょうがぁぁぁぁ!」


 ──後で絶対あいつクビにする!


 初めてできた部下の処遇を決めたミナミに、何匹ものウルフゴブリンが飛びかかっていった。




「片っぱしから傷を負わせろ!」


 ミナミはそう命令を出しながら自らも襲ってくる魔物をゾンビ化させていった。傷さえ付ければ味方になるのだ。ひっかけばそれでもう終わりである。


 最初は二人だったが、すぐに数匹がゾンビになり、そのゾンビがまた別のゾンビを生み出していき……。勝負はミナミが思っていたよりもずっと早く、ずっと簡単に終わるはずだった。


──グヴァァァァッ!


「おっかねえなあいつ!」


 しかし、なかなか決着はつかなかった。ボスがなかなかいい動きをするのである。彼は個体としての能力もさることながら、その指揮能力も目を見張るものがあった。


 もともとウルフゴブリンは集団戦闘のプロである。そのなかでも、この個体の指揮能力はずば抜けていた。


「わーお、なんて冷静な判断力」


 味方に的確な指示を送り、自らもその怪力でゾンビの頭を潰す。かまれた味方は完全にゾンビ化していなくても即座に潰すといった冷酷な判断もして見せた。


 おそらくミナミと一対一なら問題なく勝利していただろう。奴とミナミの間には経験と度胸の差があった。


「いつまでもつかな!?」


 ミナミもできる限りのことをしていた。ゾンビを完全に信頼することは今の段階では危険だと判断し、自ら積極的に攻撃に参加していたのだ。


 襲いくるウルフゴブリンを見様見真似のテレフォンパンチで撃退し、ひるんだところでさっとひっかく。後ろから噛みついてきた奴は無理やり腕を引きちぎり、逆に喉笛に噛みついてやった。


 飛沫を上げる鮮血に頬をべったりと染め、生きてるやつの胸ぐらを力づくでつかみ、肉ごと掻き毟って肋骨を日の下に晒す。


「いっただっきまーす!」


 ──ギャァァァァァ!


 体中が噛みつかれているのにも関わらず、ミナミは腹──もしかしたら胸かもしれない──の中に頭を突っ込み、もはや原形をとどめていない内臓をブチッと噛み千切った。


 生きたまま体を開かれ、そして内臓を噛み千切られたウルフゴブリンは激痛に悶え、ぎょろりと目をひん剥きながら暴れだす。思わず目を覆ってしまいたくなるような痛ましい光景だったが、ミナミはそれを力づくで押さえ、無造作に投げ捨てた。


「おまえも、今度は食べる番だ」


 肉片のこびりついた爪をぺろりとミナミが舐めた。はらわたをずるずろと引きずりながら、食べられていたはずのウルフゴブリン──いや、ゾンビとなったそいつが今度は同胞の腕に噛みつきだす。


 もちろんミナミの動きはそれで終わらない。


 そろそろ自信がついてきたこともあって、痛まない体を無茶苦茶に使って眼を覆いたくなるような殺戮劇を繰り広げる。生きたまま体を開いて食べるのはもちろん、積極的にゾンビ化させてどんどん味方の数を増やしていった。


 虚ろな瞳をした悍ましい怪物たちは瞬く間に数を増やし、想像しうる限りで最も残酷な方法をもって、ただただ食欲のために同胞だったものを喰らっていく。


 身動きの取れない生者を数任せに押え込み、殴られ、引掻かれながらもじわじわとその四肢にかじりついていた。


 咀嚼音が生々しい。そして、恐怖か、あるいは苦痛の叫びが森にいつまでも響き続ける。


「ふぃ……いい運動した」


 ミナミのがんばりもあったからだろうか。もはやゾンビ以外で立っているものはボス一匹となっていた。


 味方のゾンビは六十匹ほどしかいないが、これは相手もがんばったからだ。およそ四十匹ものゾンビを潰したボスの力量に、ミナミは拍手をおくりたかった。


「ま、ここまでだよ」


 ミナミの命令とともに六十のゾンビがボスにむらがる。疲弊しきったボスには抵抗する力は残っていない。彼もまた、圧倒的な質量に押さえつけられ、恨めしげな視線をミナミにぶつけた。


 ミナミはその視線を真正面から受け止めたのち、渾身の力でボスの首の骨を折る。丸太を砕いたような、鈍く、重い音がした。


「それじゃ、いただきます」


 あれだけ激しく動いて腹が減らないわけがない。そりゃ、確かにつまみ食いは何度もしたものの、あんな慌ただしくては食べた気にはならないのだ。


 周りは血まみれの遺骸であふれていたが、今更そんなことは気にならなかった。


「っとぉ、その前に……。君ら全員、有用なとこだけ残して消えてくれ。お仕事お疲れ様でした」


 このまま六十もの部下がいるのは正直邪魔だ。それにゾンビなんて必要な時以外はいらない。なにより自分が喰おうとしているとこを涎たらして見られるのはミナミはすごく嫌だった。


 彼らは本当に毛皮や牙などを残して霧散する。風化した体が一斉に散っていく様は、ある種の芸術性すら感じられた。


「それじゃ、今度こそ……いただきます!」


 もうまちきれない。早くこの肉を喰らいたい。


 ミナミはゆっくりと動かないボスの体に口を近づける。わき腹あたりがうまそうだったので、首をくい、と動かして跪くように食事の体勢に入った。


 最後まで激しく動いていたからだろうか、それともボスだから体が熟成されているのか、さっき食べた固体とはちょっと違う深い香りがする。クセはかなり強く、ともすれば汗クサイともとれてしまうが、不思議とひきつけられてしまう香りだ、


 きっと発酵食品なんかと一緒なのだろうと、ミナミはその犬歯を突き立てて……



「ちょっと、あんた! 一体なにしてんのよ!?」


 最高の瞬間を妨げる誰かの声が、背後から聞こえてきた。




20150425 文法、形式を含めた改稿。

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