59 斬れども斬れども
エディはバカだ。そして面倒くさがり屋でもある。
旅の道具を揃えるのだって全部人任せだし、冒険の途中で得た魔物の素材──冒険者の報酬として少なくない割合を示すそれも、基本的にはまとめて鬼の市に持っていって向こうの言い値で売る。
依頼を受ける時だって報酬の欄くらいしかろくに見ていない。目に付いたものの中で一番報酬が良くて近場のものを手に取るようにしている。
駆け出しの頃はそれで何度も失敗した。
ろくに準備をしなかったせいで死に掛けたことだってある。依頼内容を良く見ていなかったせいで苦労が水の泡になったこともある。
それでも彼は、わずか数年で特級まで上り詰めた。
頼りになる仲間と出会えたというのも大きいだろう。運がよかったというのもあるだろう。
だが、それよりも遥かに大きな、そして決定的な理由がある。
「どけよコラァァァァァ!」
血の匂い、獣の匂い、鉄の匂い。
乱れる呼吸と汗と汚れ。
怒号、罵声、絶叫。
多種多様な魔物とこれまた様々な人種の冒険者が入り混じる闘争の中、エディはその水色の大剣を無造作に振るった。
ギャァァ──……
悲鳴を上げる途中で、ウルフゴブリンの首がかなたへと吹っ飛んでいく。水色の軌跡がいまだうっすらと残る中、エディは大地を強く踏みしめた。
ぐん、と体全体をバネにした彼はそのまま跳躍し、頭上をうろちょろとしていたフォルティスガルーダの脳天に大剣をたたきつける。
彼の身長と同じくらいの長さを持ち、太くて厚く、そして重い大剣。その見た目と反するかのように、まるで蝶のようにひらひらと舞い、羽のように軽やかな挙動をとってそれは吸い込まれていく。
それは美しく紅い羽根を持つ怪鳥に真っ赤な化粧を施した。ぼてっと、醜くなったそれが地面に堕ちる。
このときすでにエディの意識からこれは外れてしまっていた。覇気に満ち、猛る心を隠そうともしない彼の瞳は、次の獲物を定めていた。
「邪魔だコラァ!」
全身に根を張り巡らせた異形の巨人。盛り上がった筋肉の鎧が根の下からのぞき、その頭上には帽子のように真っ白の花が乗っている。
月歌美人だ。
エディは大剣を腰の低い場所に構え、大地を舐めるようにして疾走した。一歩、二歩と足を動かすたびに月歌美人の肌の汚れまでがくっきりと見えてくる。
風切音ともに繰り出された豪腕の一撃を足を止めることなくかわし、そして驚愕の表情で棒立ちになった月歌美人の懐へと迫る。
どん、と一拍遅れて後ろの地面が吹っ飛んだ。
ひぃぃっ!?
「邪魔っつったろうがっ!」
大地から空に向かって雷が走った──そう形容するにふさわしい切り上げ。生半可な刃物では傷一つつかないはずの筋肉の鎧はその意味をまるで成さず、月歌美人はとろけたバターのようにすっぱりと両断された。
切られたことに最後まで気づけなかったのか、月歌美人の大きな目は不思議そうにお別れした自らの半身を見つめ、白くにごっていく。
剣を振り上げた格好のままエディは血飛沫を全身に浴びる。それでなお彼の表情に変化は訪れない。
そんなこといちいち気にするなんてバカらしい。闇雲に走って、目に付くものを片っ端から叩き斬っていく。
センシングウルフを袈裟懸けに切る。アイスクラッシャーの首を跳ね飛ばす。スケアリーベアーの脳天をカチ割った。
スラッシュホースの胴を両断し。グリーフサパーの四肢を切断し。ロックゴリラの上と下をお別れさせた。
ぶん、と彼の大剣がうなりをあげるたびに血飛沫が誰かの視界を染め、断末魔の叫びが戦場に木霊した。
それでもなお、彼は走り、切り刻み、首を跳ね飛ばしていく。彼が走った跡は、どこかが無くなった魔物の死骸で溢れていた。
エディはバカだ。そして面倒くさがり屋だ。だから、なにもかもを切り飛ばしていくことしか出来ない。
そうしたら、いつのまにか特級にまでなっていたである。
逃げ惑うゴブリンの首をすっ飛ばし、彼はにぃ、と唇を歪めた。
「おい、なんだこいつら!?」
「死体が消えていくぞ!」
「死体だけじゃない! 血も、臓物も、全部消えてる!」
エディがそれに気づいたのは、百匹ほど魔物を叩き斬ったあたりだ。自分が殺したはずの魔物の死体が見えないなと思ったら、周りの冒険者が口々になにやら叫んでいるではないか。
ぷぎゃっ!
足元でぴくぴくともがくゴブリンキッズの胸に大剣を無慈悲につきたて、エディはその様子を周りを警戒しながらも観察した。
なるほど、先ほどまでは大して気にもしていなかったが、この魔物たちは死んでから一定時間たつと、空気に溶け込むようにして消えていってしまうらしい。
ぐったりとしたゴブリンキッズは跡形もなく消え失せ、ミスリルの大剣にべっとりとついていた鮮血もいまはその影すら見えない。
「上等!」
それならば何の問題もない。邪魔な死体がなければ動きやすい。それだけだ。
飛び交う矢と魔法をかいくぐり、エディは再び前線に突っ込んでいく。
前線で戦う精鋭の騎士たちは上手く連携をとり、常に複数人で魔物を屠っている。やや格式ばった、エディからみればきれいすぎる動きだったが、それで一人のケガ人も出していないことは純粋に賞賛されるべきことだ。
「私たちはいい、別のやつを!」
「おうよ!」
短く声を発し、大剣を引きずるようにして走り出す。
今回の戦いにおけるエディの役割は遊撃だ。もとよりこれだけの量を一人で相手取ることなんて出来ないし、それにパーティーメンバーもそろっていない。
必然的に誰かと野良パーティーを組むしかなくなるのだが、別にエディはそうしなくても問題ないほどの実力を持っている。
なんたって特級であるのだ。例えソロであろうと、そこらの冒険者とは比べ物になるはずがない。むしろ、言い方は悪いが格下と組むとその実力を十分に発揮できなくなってしまう。
なら、一人で走って戦ったほうが良いに決まっている。
「お前らもっと下がれっ!」
「ありがとうございます!」
ジャイアントラーヴァに苦戦していた中級冒険者の援護に入り、ミスリルの大剣でそいつを一刀両断する。さすがに溶岩の巨人を一撃で仕留めることはできなかった──それでも体の大半を断ち切っている──が、その水色に煌く大剣は傷つくことなく、今なお日に晒されて明るく輝いている。
「おまけだクソ野郎っ!」
ジャイアントラーヴァが怯んだのを好機と見たのか、魔法使いの少年が撤退しながらも強力な水撃をお見舞いする。エディという心強い助っ人が来てくれたからこそ放てたその一撃は灼熱の巨人の頭上に炸裂し、文字通り体全体を冷やし固めていった。
「ばかっ! 余計なことするんじゃないのっ!」
「いいだろっ! やられっぱなしでたまるかよっ!」
「俺のことも考えろ! 俺の力じゃ、あの溶岩からお前たちを守るの大変なんだぞ!」
弓士の少女と戦士の少年に引っ張られながら、魔法使いの少年は退いていく。戦士のほうはなんだかんだいいながらも去り際に溶岩の巨人に一撃入れていた。今まで苦労させられて、いい加減鬱憤がたまっていたのだろう。
──そういうの、キライじゃないぜ!
心の中でそうつぶやきながら、エディは跳んだ。体全体のバネを限界まで使い、大剣に回転の威力を伝える。少年の水撃により動きの鈍くなったジャイントラーヴァはその動きについていけず、なす術もなくその暴虐の一撃を全身で受け止めてしまった。
ブバァァァァ!
「うっせえな」
冷やし固められたおかげで剣の一撃が効果的なものとなる。溶岩が飛び散り、近くの魔物の毛皮を焦がした。冒険者は当然のように数歩下がっており、それに怯んだ魔物の首を容赦なく槍で突き刺し、そしてナイフで掻き切った。
戦場の喧騒の中、ほんのわずかばかりの勝鬨が上がる。
「よっ。さすが特級じゃん。まだまだ余裕ってか」
「ヴェルか」
ちょっとだらしない身なりのトレジャーハンター、ヴェルが気軽に話しかけてくる。その夕食のメニューでも聞くかのような軽い態度とは裏腹に、二人は示し合わせたわけでもなく背中合わせになり、互いに武器を構えた。
「エディ、さすがにちょっと多くねえか? 俺たちは大丈夫だが、低級冒険者のほうがけっこうヤバい」
「騎士たちもいるから大丈夫だろ? 俺もめんどくさそうなのは率先して減らしてるぜ?」
大剣が舞い、短剣が空を滑っていく。さすがは上位の冒険者というべきか、まるで長年連れ添ったコンビであるかのように二人の連携は洗練されたものだった。
ギャァァァ!
ひぃぃぃぃ!
ルゥゥゥゥ!
その暴力の渦に飲み込まれたものは体中をバラバラにし、赤くて汚く、柔らかくて臭いものを撒き散らしながら地面に伏して行く。最後には何事もなかったかのように消えていった。
「そっちの状況はどうなってる? 俺、あんま戦況わかってねえんだ」
「イザベラんとこが頑張って戦線を上げてるな。騎士団は守りを固めて、冒険者の討ち漏らしを始末してるってところだ」
動き回ってやたらめったらに魔物に切りかかっているというのに二人の呼吸は乱れることはなく、また集中が途切れることもない。
「補給物資がいいかんじに準備できたみたいで、矢や薬の補給を促す拡声があったな。いまんとこは大きな問題は起きてねえ」
「そっか」
ぴぎゃっ……
エディはわき見しながら大剣を薙いだ。視界の端で何かの魔物の首が三つまとめてすっ飛んでいく。
「なぁ、この魔物は何なんだ? 特級のおまえなら知ってるだろ?」
「悪ぃ、そういうのはパースに聞いてくれ」
死体を残さない魔物についてヴェルも不思議に思っていたのだろう。エディはそれを理解しつつもその質問を振り払った。こういう面倒くさいことは考えるのもいやだった。
ヴェルは器用に短剣を引いた一瞬で肩をすくめ、そして再び魔物に切りかかる。無駄に洗練されて綺麗な動きだった。
「そうだろうとは思ったよ。ま、短剣の切れ味が落ちねえのはラッキーだな。血も脂も全部消えるから、装備の調子がすっげぇいい」
「マジで?」
エディの大剣は霊鋼蚯蚓の甲殻モデルを参考にして作られたものだ。すなわち、細かく鋭い粒状のミスリルが層を成して獲物を切断すると同時に、切れ味が落ちれば自然と表層粒が剥がれてその下の鋭粒が浮き出るという、理論上切れ味の落ちない仕組みになっている。
「俺の剣、切れ味落ちねえんだよ」
「へぇ。いいもんもってるじゃん」
二人は魔物と切り結びながら敵の大軍の中へと突っ込んでいく。周りには冒険者はほとんど見かけられず、ともすれば孤立したともいえるが、この乱戦の中それは些細なことではあるし、動き回るスペースは十分にある。ついでにいえば、この程度のレベルだったら囲まれてもまず負けない。
「よっ!」
ヴェルが飛び掛ってきた二匹のマッドモンキーの胸をナイフで突いた。ぴぎゃっと小さな断末魔を上げたそいつらは、そのまま地に落ちて後続の魔物に踏み潰されてしまう。ボロボロの雑巾みたいな状態になってから掻き消えた。
「……余裕そうだな、二人とも」
ひゅうう、と風を切って茶色い影が振ってくる。その影には翼があり、槍が生えていた。
たくましい豪腕に抱えられたその槍はどこまでも鋭く、その落下の一撃は着地点にいたブルータルスクイッドを大地に縫い付ける。ズドン、と衝撃が広がるのもそこそこに茶色の影は槍を引き抜き、無抵抗の哀れなイカの眉間を何度もメッタ突きにした。
その間、約二秒。実に容赦のない連撃だ。
「あっちにもっと大物がいるぞ」
どぉ、とブルータルスクイッドが崩れ落ちる。顔の厳つい鳥の獣人──ランベルはギラつく目で地平を見つめた。
「そういやおっさん、飛べるんだよな」
「……鳥だからな」
エディとランベルは知人と呼べる間柄だ。ランベルはかなり昔から王都を拠点にして冒険者をしていたし、同じ上級冒険者同士での交流もある。最近はほとんど会っていなかったが、鬼の市でばったり会ったときなどはそのまま一緒に酒場に行くことだってあった。
「変な魔物たちだ。殺したら消えるし、阿呆のようにひたすら王都に向かっている。……上からだとよくわかるが、冒険者を無視して進むのも少なくない」
ランベルもまた空から遊撃を行っていたため、全体の状況を良く把握していた。冒険者として活動した長い期間で培ったそのカンや経験も、今回の魔物や戦況を分析する一助となっている。
「弱い魔物が先頭を突き進んでいる。強い魔物はもっと後ろのほうだ。……そして、未だに終わりが見えてこない」
「マジかよ。……ツいてねえ」
ヴェルが愚痴た。それでもなお、無意識で魔物の首を切り裂いている。ランベルやエディもまた、話しながらも槍で喉を突き、大剣で胴を両断していた。
「一匹、気の早いやつがいるようでな。それを知らせにきたんだ」
ドシン、と一歩ずつそいつが近づいてくるのがわかる。完全に戦闘範囲に触れる前に、三人とも出来るだけ周りの雑魚どもを片付けておきたかった。
ずん、ずんとそいつはゆっくりと、されど足を止めることなくやってくる。どこか遠くのほうにいる冒険者たちが、こぞって悲鳴に似た叫び声を上げているのが聞こえた。
黒曜石のように煌く黒い鱗。ちょっとした小山と見間違えんばかりの巨大。背中には不釣合いに小さな翼が生え、そして太く力強い尾っぽがある。縦に長い瞳はギラギラと剣呑に輝き、そしてぎざぎざの牙が生えそろう口元からは黒のような、紫のような、あきらかにアブナイ色の瘴気じみた吐息が漏れ出ている。
「フォーリンドラゴンだな。……いささか面倒くさい」
「面倒臭いってレベルじゃねーぞこれ! くそっ! とことんツいてねぇ!」
「この面子なら大丈夫だろ。特級試験で一回倒したことあるし」
「俺たちは特級じゃねえよ!」
グルァァァァ!
叫びと同時に三人は散り散りになった。ランベルは空を飛び、ヴェルは大地を駆け、そしてエディは正面に立つ。
「どーすんだよこいつ!」
「任せろ、秘密兵器使う!」
エディは大剣を地面に叩きつけ、邪龍の注意を自らにひきつけた。ギロリと殺気を放って相手の存在そのものを殴りつけ、彼のものの視界に他の誰もが映らないような立ち回りを取る。
「むぅん!」
ランベルは尾っぽをよけつつ翼を串刺しにする。力強くたくましい肉体から放たれた一撃は強力であったが、それに負けないくらいフォーリンドラゴンの肉体も強靭であった。
「俺こいつと相性悪いんだよ! やるなら早くしてくれっ!」
大剣のエディ、槍のランベル。それに対してヴェルの短剣ではフォーリンドラゴンとはいささか相性が悪い。鱗は硬くて短剣じゃ威力不足だし、そもそもリーチが違いすぎる。短剣のメリットである手数の多さだってこの巨体の前ではあまり意味がない。
「3、7、11、20のどれが好きだぁっ!?」
「んなもんどれでもいい!」
「いいから!」
ルァァァァ!
フォーリンドラゴンの攻撃をいなしながらエディはそんなことを口にした。
「じゃあ7で!」
ヤケクソになったヴェルは適当に応える。エディはにやりと笑い、腰元のポーチにしまってあったそれを取り出した。
そして、一瞬の隙を突いてそれをヴェルに投げ渡した。
「そいつの紐に火ィつけてヤツの口に投げ入れろ!」
「ああもう、わかったよ!」
ヴェルは渡されたそれ──拳大の黒く丸い何かをがっしりとつかんだ。それからはぴろっと一本、油をしみこませた短い紐がたれている。玉の表面は妙にてかてかし、またなにやら奇妙で不快な臭いを発することに気づいて握ったことを後悔したが、それでも顔をゆがめる程度に抑え、任務を全うしようと紐に火をつける。
「おっさん、合わせろっ!」
「言われるまでもない!」
ランベルの空からの強襲とエディの大地からの襲撃が同じタイミングでフォーリンドラゴンを襲う。太く鋭い槍が龍の背中に突き刺さり、水色の大剣が龍の胸を切り裂いた。
グルァァァァァ!?
「ほらよぉっ!」
あまりの痛みに悶絶し、口を大きく開いたところにヴェルがそれを投げ入れる。緩やかな放物線を描いたそれは、まるで吸い込まれるかのように龍の口に入り、腹の奥底へと落ちていく。
トレジャーハンターだからか、ヴェルはやたらとコントロールがよかった。もしくは、ものすごくツいてたというべきか。
グァァァァ!
「よし、逃げるぞ!」
「おい!?」
龍の口にそれが入ったのを見届けたその直後、エディは踵を返して一目散にその場を離れだす。あわててヴェルもそれにつづき、そしてランベルも悠々と空を泳いで後に続いた。
「どうすんだよ!? 全然効いてねえじゃん!」
「もうすぐだ!」
ブレスを身をかがめて避けながら二人は全力疾走する。流れ弾が近くをうろちょろしていたキュリオスバードにあたり、黄色い羽を持つ鳥は一瞬で黒くしなびた枯れ枝のような様相になる。
邪龍は怒り狂ったように二人を追いかけ、進路にいた魔物をなぎ倒していた。なにか不味くて臭いものを食わせたそいつらを許せなかったのだろう。
そしてうっとうしいそいつらを押しつぶそうと、飛び掛ろうとして足を踏ん張り──それは起きた。
ドォォォォン!
「うわあっ!?」
フォーリンドラゴンの腹が爆ぜた。ばふん、と巨大な空気袋が弾ける音と、爆発特有の轟音。巨体がゆっくりと倒れていき、近くの魔物を押しつぶす。
口からは黒い煙がもうもうと上がり、腹は裂けて赤黒い体液がドバドバととめどなく漏れ出てしまっている。もちろん、ここからもわずかに煙と、それに内臓の血腥さとは別の異臭がした。
「は、は……なんだよこれ」
当然、こんな状態で生きていられるはずがない。強大な邪龍のあっけなさすぎる最期にヴェルが乾いた笑みを浮かべながら漏らした。
「例のロックゴリラ程度なら簡単に吹っ飛ばせる秘密兵器」
「いやいやいや! ロックゴリラどころか永劫巨人だって吹っ飛ばせるほどの威力があるだろうが!」
「いや、これ試作品なんだよな。さっき番号聞いたろ? あれ識別番号で、物によってちょっとずつ威力が違うらしい。試行錯誤の最中らしいぜ?」
「……最低威力がロックゴリラを吹っ飛ばせる、か。フォーリンドラゴンは想定されていたのか?」
空から降りてきたランベルが、珍しく興味深そうな表情をして問いかける。それに対しエディは、自分が思ったことを素直に話した。
「うんにゃ、されていないと思うぜ。何回か実験見たけど、これほどの威力は俺も始めて見たな。きっとアタリのやつだったんだろ。……さっきの、7だっけ? ちゃんと伝えておかねえと」
「ってことはだ」
ヴェルが何かに思い当たったようにつぶやいた。魔物の叫びや剣の閃く金属音の中、その声は妙に大きく戦場に響く。
「俺、超ツいてるんじゃね?」
「さすがは《幸運の風》だな。この調子で勝利まで追い風を頼むぜ」
「……シャレたことを言うじゃないか」
わずかな軽口とともに、再び喧騒が戻ってくる。彼の幸運が勝利の女神の微笑を引き寄せられるのか、それは誰にもわからない。
20160809 文法、形式を含めた改稿。
なにげにエディが活躍したの初めてじゃね?




