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ハートフルゾンビ  作者: ひょうたんふくろう
ハートフルゾンビ
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46 ホームパーティ


 孤児院《エレメンタルバター》はそんなに大きなものではない。いや、その性質上、そこそこの大きさはあるのだが、一般的なものと比べるとやっぱりちょっと小さめだった。


「やっぱりちょっと狭かったかな」


「いえ! こうやってみんなで固まるの、憧れてたんです!」


 質こそ良いものの地味な服を纏ったお姫様、ミルがいる。その隣に教育係の黄泉人、リティスがいる。そのちょっと後ろには、傍目から見ても緊張している護衛、ライカがいた。


 もちろん、本来の住人たちであるミナミ、レイア、ソフィ、それにメル、レン、イオ、クゥだっている。ごろすけも忘れてはならない。


「どうする? 飴作りとごろすけ、どっちいく?」


「ミルねーちゃ、ボクたちとあそばない?」


「そうだよ! ぼくのおみやげコレクションみせてあげるよ!」


「ううう、どちらも魅力的です……!」


 今日は前々から計画していた新築前祝いパーティーの日だ。先日パースからライカの休みの都合がついたという連絡が入り、飴作りを教えることもあってこうして集まったのである。


 子供たちもミナミたちがなにか準備をしているのはうすうすわかっていたのだろう。朝起きてパーティーをすると告げると、文字通り飛び跳ねて喜んだ。具体的に何をするかまでは分かっていないようだったが、なにかとても楽しいことをするということは肌で感じでいたらしい。


 お客さんとしてやってきたミルたちとも子供の無邪気さゆえか、すっかりと打ち解けてしまっていた。まだイマイチお姫様というものを理解していないようだった。


「あの、一応私は飴の作り方を教えてもらわないといけないのですが……。できれば、姫様を目の届くところに…」


「ああ、そうですよね……」


「ミナミくん、夕方から外でアレをやるんでしょ? 飴作りも外でやることはできないのかな?」


「そう……だね。じゃ、みんなで外に行くか!」


「おおー!」


「お、お待ちください姫様!」


「ライカさん、姫様はああしてときおり羽目をはずします。一応、覚えておいてください」


 ミルと子供たちが元気よく外に走りだしていったのをライカが慌てて追いかける。リティスも半ばあきれながらも優しそうな目をしてそれに続いた。


 そんな様子を見ると、ミナミもうれしくなる。やっぱり、楽しいことはみんなで楽しむべきなのだ。


「砂糖と鍋と、あとなんかいる? 私いまいちまだ覚えてないのよね」


「オレンジ、いちご、あと一粒ブドウが残ってたかな」


「わたし、取ってくるね」


 普段使っている鍋等をもって三人で外に出る。今日のために作って外に置いておいた大きいウッドテーブルにそれらを置くと、やはりこちらも事前に用意しておいた簡易のかまどに薪をくべる。


 きゃっきゃ、きゃっきゃとミルと子供たちはごろすけと戯れていて、こちらには見向きもしない。ライカがミルを視界に入れつつも薪を運ぶのを手伝ってくれた。


「な、なんかすごく緊張するな」


「いつも通りでいいんだと思いますよ」


 今更だが、ミナミとライカはそこまで親しいというわけではない。初めて王都へ来た時にごろすけの登録関連で話したことはあるものの、それ以外は依頼で外に出るときに軽く話す程度だ。


 だが、レイアは《クー・シー・ハニー》との繋がりで、ソフィは買い物の時間がライカの仕事帰りの時間とかぶるためによく一緒に買い物をするらしく、なかなか穏やかな空気が流れている。リティスはリティスで割とどんな人とでもうまくやっていけるタイプであったため、初対面が多い中でも和やかに過ごしていた。


「さて、飴作りを始めるとしますか!」


「はい、よろしくお願いします」


 子供たちが見える位置で早速飴作りを始める。教えるというのもそうだが、これはパーティーのごちそうの一つでもあるからだ。


 まずは水を適量。魔法で出したそれをとくとくと鍋に注ぐ。もちろん、すでに鍋は火に掛けてある。


「で、この中に砂糖をこれくらい」


「具体的にはどれくらいですか?」


「ん──勘?」


 リティスが驚いた顔をするが、まともな計測器具がないこのセカイで細かい数字を言ってもしょうがないことだろう。そもそも、ミナミ自身細かい数字を覚えていない。べっこうあめ程度なら、大雑把に作っても意外となんとかなるものだ。


「よかった。これなら私でも作れそうだな」


「まぁ、水入れて砂糖入れて熱するだけですからね」


「それだけなんですか!?」


 もう何度も作っているので流れ作業に近い。のんびりと温めていると、やがて三つのサインが来る。


 仄かに香る甘い香り。

 鍋一面に広がる泡。

 そして、見たものしかわからない微妙な粘度。


 これを見逃すと焦がしてしまうから大変だ。


「ほら、ちょっと色が茶っぽくなってきたでしょう? それとこの泡と粘り。こうなってきたら火からおろして形整えて完成……ソフィ」


「うん、まかせて!」


 ミナミが声をかけるとすぐにソフィが前に出る。その手には串に刺したいちごとりんご。慣れた手つきでくるくると飴を掬いとり、そのままミナミに渡した。


「まだ熱いから、本当ならある程度冷まさなきゃいけないんだ」


 ソフィからもらったそれを、ミナミは魔法でそこらに浮かべた。なんだかんだでこうしたほうが効率がいいし形もよくなる。ソフィが飴を絡めている間にもミナミはその鍋から魔法で作った風の手で飴を掬いとり、丸いべっこうあめを浮かべて並べる。お日様の光に当たって輝く宝石が、五人の周りをくるくると回っていた。


「なんていうか……きれいですね」


「本当に、宝石のようだ。……ちょっと食べてみてもいいか?」


「どうぞ。冷めてそうなやつにしてくださいね。火傷しちゃいますから」


 さっそくライカがべっこうあめを一つつまみ取って口の中へ入れる。もごもごと口を動かすと、やがて驚いたように目を見開いた。実際、驚いているのだろう。このセカイにまともな甘味なんてないのだから。


「これが砂糖から出来たのか……!?」


「私も、最初に食べたときは驚きましたよ」


 リティスもライカも感慨深そうに周りに浮かぶ飴を見つめている。ミナミとしては別段驚くことでもないのだが、ソフィやレイアに言わせると、これほどのものこんな簡単に作れるということは誰も想像すらできないことらしい。


「あ──っ! にーちゃたち、ずるい!」


「ミルねーちゃ、いそがないとにーちゃたちにぜんぶたべられちゃう!」


「え、ええ!? それはひどいです! ごろちゃん、急いでください!」


 飴の香りを嗅ぎつけた子供たちもわらわらと集まってきた。仲良く五人でごろすけに……と、ミナミはここで気づく。いったいどうして、全員がごろすけの背に乗れているのか。


 どうやらごろすけは自分にかかっている魔法を少し解いたようだ。いつもの大きさほどではないにせよ、子供五人程度ならなんとか乗せられるほどの大きさになっている。


「ごろちゃん、ああ見えて面倒見がいいのよね」


「……オウルグリフィンの成長はこんなに早いのか? そもそも、さっきまで小さかったと思うのだが」


「……内緒で。あとで好きなだけ抱きしめていいですから!」


「そうだな! 別に書類上何の問題もないしな! ああ……はやく全身で抱きしめたい……!」


 ライカはちょろかった。


 子供たちと入れ替わるようにしてごろすけに近付き、喉の裏をかきあげ、そして白い胸羽に顔をうずめてすりすりしていた。


 子供たちはそこらじゅうに浮いているあめを競うようにしてつかみ取り、片っぱしから口に入れていた。ミルもずいぶん楽しそうだ。こうやって遊ぶことだって、久しぶりなのだろう。


「おうおまえら、食べるのはいいけどほどほどにしとけよ? 別のやつ、食べられなくなるぞ?」


 そう一声かけるだけでピタッと全員が止まるから面白い。視線は釘づけになっているし、クゥとレンの耳はぴょこぴょこと動いてしまっている。みんな未練たらたらの表情だった。


「じゃ、リティスさん、ライカさん、やってみてください。ソフィ、あっちの準備もお願いできる?」


「もちろん! あ、でも中でやらないとダメかな」


「ミナミ、私は? なんかさっきから手持無沙汰なんだけど……」


「……エディたちが来るまで子供たちと遊んでてくれる?」


「なんだろ、このそこはかとない疎外感」


 なんていいながらも、レイアは子供たちとごろすけを連れていく。レイアも最近子供たちと一緒に遊べてなかったしいい機会だろう。庭の隅に置いてあったボールを持って、子供たちと投げっこを始めた。


 最初見たとき、ゴムでもないのに結構弾むボールだなとミナミは思っていたが、これはボルバルンという風船のようなタヌキのような魔物の皮で出来たものらしい。


「なるほど、果汁を入れて味を変えるのですか……」


「まだ試したことはないですが、他にもいろいろ応用ができそうなんですよ」


 ミナミはオレンジを絞って飴に入れる。リティスはそれを熱し、ちょうどいい塩梅で火から下ろした。初めてにしてはなかなかいいタイミングだったとミナミも思う。ソフィほどではないにせよ滑らかな手つきで飴を掬い、まな板に伸ばして形を整え始めた。


「あの風の手が私にもできればよかったのですが」


「難しいらしいですからね、あれ」


「……難しいってレベルじゃありませんよ。あんな細かな制御は特化している人でもなければ不可能です。魔法使いとして、そこだけは言わせてもらいます」


「あ、パース」


 いつのまにやらパースがやってきていた。それに気付いたライカもそばにやってくる。そこを、フェリカがにやにやと笑って見つめていた。


 ライカとじっと見つめあっていたパースだったが、フェリカが連れてきていたピッツのききぃ、という鳴き声で我に返りやがて眼を離してミナミと向きあった。


 なぜこの二人は人の目の前で二人の世界に入れるのだろうかと、ミナミは不思議に思わずにいられない。


「せっかくのパーティーですからね、私達の方でもいろいろ持ってきました」


「わ、こんなに」


 パースとフェリカが持っていた大きなかごには果物や野菜がたくさん入っていた。この季節にこれだけ用意するのは大変だっただろう。さすが特級冒険者、稼ぎはけっこういいらしい。


「飴作り、ですか? 話には聞いていましたが、実際に見るのは初めてですね」


「待っててくれてもよかったのにぃ」


「ごめん、遅かったからさ」


「そうだぞ、見ろ、こっちのなんて私が作ったんだ!」


 まだちょっと赤い顔をしたライカがフェリカにイチゴ飴を見せつける。いつの間に作ったのだろうか。ちょっと飴の形が歪になっているが、初めてにしては上出来である。もっとも、そうそう失敗するようなものでもないが。


「へぇ……あなたでも出来るものなのね。パース、食べてみたらぁ?」


「言われなくても」


 パースはさっとライカの手から飴をとり、口の中へ入れる。そして、にっこりと笑っていった。


「うん、とても美味しいですよ、ライカ。毎日食べたいくらいです」


 ライカが真っ赤になっていた。リティスがまぁ、といって笑っている。フェリカはこれを狙っていたのだろうか。なんだかんだで仲がいい。


「そういやエディは?」


「あっち」


 フェリカが指さした方向で、顔を赤く腫らしたエディが子供たちを追っかけまわしていた。しかし、ごろすけに乗った子供たちにはなかなか追いつけず、近づいたとしても尾っぽに弾き飛ばされてしまっている。


 さすがは冒険者というべきか、すぐに立ち上がって再び追いかけるが、いたちごっこのようだった。ミルはおろおろしているが、子供たちはけらけら笑っている。


「てめぇぇぇらぁぁぁ!」


「ごろすけ、もっとはやく。おじちゃん、なかなかしぶとい」


「おひげのおじちゃんこわーい!」


「俺はまだお兄さんだぁぁぁ!」


「い、いいのでしょうか……?」


「だいじょうぶだよ、クゥがまもってあげるから」


「そうだよ! それにおじちゃん、わきばらがじゃくてんなんだよ!」


「ばらすなレンんんんん!」


 エディはわき腹が弱点だったらしい。ミナミにはまたひとつ、無駄な知識が増えてしまった。


 それはそうと、なぜ彼らは追いかけっこをしているのだろう。


「入ってきたときに、ボールが顔面に。そこからずっと鬼ごっこよぉ」


「うわぁ」


「まったく、エディも大人げないですよ。……まぁ、本気で怒っているわけではないでしょうが」


「それに、エディさんと鬼ごっこするのはいつものことだしね。ああやって全力で相手してくれるのってエディさんしかいないから、あの子たちもちょっとふざけちゃうのよ」


 仲がいいのはいいことだとミナミも思う。


「ところで、その泥猿は例の?」


「ええと、あなたが例の教育係さんかしらぁ? たぶんその泥猿であっていると思うわよぉ」


「なぁフェリカ……この子、抱いてもいいか?」


「……本当に相変わらずね。いいわよぉ。あ、名前はピッツね」


「そうかそうか、よーしよし、ピッツ、こっちこい!」


 嬉しそうにピッツを抱き寄せ頬ずりするライカ。ピッツの泥はめちゃくちゃくさい泥だったはずだが、パースがどうにかしたのだろうか。もし変わっていないのだとしたら、それに頬ずりできるライカの感性を全員が疑うことになる。


 飴作りにフェリカが混じり、パースとライカは二人でベンチに座る。エディは未だに追いかけっこでレイアもそれに混じっていた。ミナミはリティスに飴作りを教え、そしてソフィはとっておきの調理中だ。


 まだまだパーティーは始まったばかり。もっとも、ちょっと豪華な食事が出るだけだが、ここにいるみんながそれを楽しみにしている。ひと段落したら自分も子供たちと戯れようと笑いつつ、ミナミは飴を作り続けていった。



20141101 誤字修正

20160807 文法、形式を含めた改稿。

20180408 誤字修正

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