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ハートフルゾンビ  作者: ひょうたんふくろう
ハートフルゾンビ
23/88

23 子供たちとの日曜大工

「さて、これから特別任務スペシャルミッションに取り掛かる。みんな、準備はいいか?」


 ちょっと格好つけて宣言する。思った通り、三人とも食いついてくれてミナミは一人ほくそ笑んだ。子供はこういう言い回し一つで喜んでくれるため、ついついミナミはやってしまうのである。


「にーちゃんはこれからあるモノを製作しなくてはならない。それはにーちゃんの故郷にあった、素晴らしいものだ。時間制限タイムリミットは日が暮れるまでだ。諸君にはその助手をしてもらう!」


「「おー!」」


 気分が乗ってきたところで早速作業に取り掛かる。まずは材料だ。


 若草色のポーチから綺麗な木目をもった大木を大量に出す。今日のゴブリン討伐の現場となった森のものだ。長さはおそらく4~5メートル、太さはレイアとソフィの二人で抱きかかえられるくらいだろうか。


 重さの割には丈夫なようで、ゆがみもなくまっすぐに伸びている。切り口からはヒノキによく似た香りがしており、ミナミの素人目から見ても、いいモノだということがよくわかる。


 実はコレ、この辺りでは比較的高級な材木として扱われているものらしい。質も良く近場で採れるものなのだが、なにせ魔物が潜む森にあるものだから、なかなか伐採もできず、高級品になってしまったそうだ。


 こないだの薬草採集の依頼の達成の帰り、鬼の市で売られているのをみつけたのだ。あまりの値段に手が出せなかったが、職員さんに聞いたら意外とすんなり採れる場所を教えてくれたのは僥倖だったと言える。


「さて、にーちゃんのナイフを貸してやるから、メルとレンはこれの枝を払っといてくれ。絶対にケガするなよ?」


「うん! こんなのかんたんだよ! メルにまかせて!」


「ねぇねぇ、あまったらまっすぐできれいなぼう、もらってもいいよね!?」


 きゃっきゃと笑いながらナイフを受け取る二人。ナイフといってもフェリカが持ってるようなごっついやつだ。どちらかといえばナタに近く、枝打ちはもちろん、戦闘にも使えそうな便利なものなのである。


 メルはともかく、レンにもたせるのは危ない気もするが、ソフィの話では薪割りを手伝うこともあるそうなので、大丈夫なのだろう。


「それでにーちゃ、ボクはなにするの?」


 イオもちょっとやりたかったのだろうか、楽しそうに枝を払っている二人をチラチラ見ながら聞いてくる。こいつもやっぱり、男の子だとミナミは心の中でつぶやく。


「イオはにーちゃんと一緒に魔法で基礎づくりだ。たぶん、イオは補助があれば少し魔法が使えると思う」


 途端にイオの顔がぱぁっと明るくなった。やったぁ! と、飛び上がらんばかりで喜ぶ様を見ていると、ミナミもうれしくなってくる。ミナミ自身、初めて魔法を覚えたときはそうであったために、奇妙なシンパシーのようなものを感じずにはいられない。


「じゃ、始めよう。にーちゃんの手を握って……」


 イオが手をぎゅっと握ったところで体の魔力の制御を始める。流石にもう手慣れたもので、あっという間に魔力そのものの塊をつないだ手のところに集めることが出来た。よくよく目を凝らすと手の部分でうっすらと球場に空気の膜のようなものが光っているのが見える。


 イオの調子に問題がないことを確認してからミナミはゆっくりと空中でなぞるように指を動かしていく。最初に長方形。2×3メートルくらいのものだ。


 なぞった指と連動して地面に小さな隆起が起きて、高さ20センチほどの土壁が出来た。


「こんな風にやるんだ。イオはあっちに丸いのをつくってくれ」


「うん!」


 大森林から帰る途中の馬車でパースから聞いたのだが、魔法というものにもちゃんと発動する仕組みというものがあるらしい。すべて説明するのは大変なのだそうだが、基本的には、魔力の制御が出来ればそれでいいようだ。


 その補助となるのが手振りなどの動作や呪文で、あくまで補助なのでなくてもいいらしいが、あったほうが何かと便利なのは間違いないとのこと。


 魔法に慣れていない人はこの魔法制御がうまくできていない。魔力を集めながら魔力を操るという感覚をつかんでいないからだ。逆を言えば、魔力を集めてもらっていたり、制御を補助してもらってさえいれば、簡単に魔法が使えるということである。


 イオもまた、子どもゆえにその感覚がつかめていなかった。しかし今はこうして補助がある。そして魔法に対するモチベーションは人一倍だ。当然の結果として……


「できたっ!」


「やったな!」


 ミナミと同じように土を隆起させることが出来た。


 そのまま二人で黙々と作業を進めていく。途中で枝を払い終わったメルとレンが合流し、ミナミの指示のもと、三人は泥んこ遊びをするかのように着々とそれを作り上げていった。


 本当はミナミがぱぱっとやってしまったほうが早いのだが、ミナミにそれはできなかった。あんな楽しそうにしているところを邪魔するなんてことは、どう考えても無理だったのだ。


「よっしゃ、こんなもんかね?」


 ミナミが最後の仕上げをして、基礎となる土台部分は完成した。丸いのが一つ、長方形が二つ。十分だろう。


 後は材木をうまくカットして、桶を作れば大方完成だ。流石に材木の切り出しは任せられないので、三人には魔力球を作って適当に遊んでいてもらう。ちょっとゴージャスな砂遊びくらいは出来るだろう。


 さて、ミナミはきれいに枝が払われた大木の一つに近付き、魔法を使って状態を確認する。空洞や腐敗もなさそうで、これといって劣化は認められない。


 頭の中で軽く設計図を考え──といっても複雑なところは魔法でどうにかしてしまうので大まかな形だけでいいのだが──切り出す形に印をつけた。


「やれる……よな?」


 身体強化によるもともとの能力と、魔法による強化で爪を極端に鋭くする。ゾンビは切り裂き攻撃もできたはずだから、今のこの爪なら材木だって豆腐みたいに斬れるはずなのだ。むしろそうでないと困る。


 緊張しながら爪を入れると、材木はミナミが思っていたよりもずっと簡単に

切れていった。そのまま焦らず、慎重にまっすぐ爪を引いていく。


 思ったより深く仮削りが出来たので、砂を円盤状に高速回転させた魔法による簡易カッターを溝にあてがうことで、簡単に切り出しを行うことができた。


「いいちょうし」


 全ての材木の切り出しが終えたころには、いつの間にか起きだしてきたクゥがみんなと一緒に砂遊びをしていた。子供たちの興味は完全に砂遊びのほうに向いている。ここから先はちょっと危ないかもしれないから、ぱぱっとやってしまおうと気合を入れる。


 クゥと一緒にやってきたごろすけをちらりとみると、まかせておけと言わんばかりにうなずいてきた。これで安心して作業が出来るとミナミは心の中で相棒に礼を言う。最近こいつも賢くなってきてるな……と、どうでもいいことを考えながら次の工程を確認する。


 とりあえず必要なのは桶、屋根、洗い場に脱衣所、柵といったところだろうか。付近に家はあまりないとはいえ、壁と屋根はあったほうがいい。うまく母屋とつなげられそうだから、通路みたいに柵を作ろうと、頭の中で完成図を描いていく。


「やっぱ魔法ってすっげぇ便利」


 魔法を使って母屋の入口付近から壁を立てていく。どことなく街祭りにあった迷路を彷彿させる通路だ。


 屋根ももちろん忘れない。高校の体育館へ至る通路の屋根を参考にした。


 そのまま簡単な脱衣所をつくり、メインの風呂桶に取り掛かる。あっちにこさえる丸いのは一人用で、ちょっと深めにひとりでゆったり入れるサイズにする。対面にある長方形は子供たちみんなで入れるやつにする。ちょっと広めで、底は浅めに。入り口は念のため階段状にする。


 もうひとつの長方形は普通の底でちょっと広めのものだ。基本的にはこっちに入ることになるだろう。そう、風呂はデカければデカいほどグレートなのだから。





「なかなかいいんじゃないか?」


 最終チェックも済ませ、出来上がった風呂小屋をみてつぶやく。屋根もありながらちゃんと外が見えるようになってるし、ミナミがいないときでもはいれるように下に火を焚くところも作った。排水だってちゃんと考えて作ったし、脱衣所のところにはあまった材木で簡単な棚も拵えておいた。


 全体的に見かけは ちょっと不格好な気もしなくもないが、味があるともいいかえられる。あっちセカイのどっかの隠れた名湯だって、こんな感じの小屋っぽいものだった。なんというか、ミナミの胸はここちよい達成感でいっぱいだった。


「ミナミくん、できたの……わぁ!」


 ちょうどよく家事が終わったらしくソフィが家から出てきた。物珍しそうに風呂小屋を眺めている。


 つい昼前まではなかったものなのだ。魔法をつかってインチキしている分、印象は強いだろう。


「ね、ね、中に入ってみてもいい?」


「そりゃもちろん。ついでに使い方説明もするよ。おーい、こっち完成させたぞ! 一緒に探検するぞ!」


 ソフィを案内するついでに子供たちも呼ぶ。ずっと魔法をつかった砂遊びに夢中になっていたようで、呼ばれて初めて、風呂小屋の存在に気付いたようだ。


 ミナミは子供たちを引き連れ、完成したばかりのその場所へと足を踏み入れる。ドキドキしながら通路に入っていく様子は未開の地へ挑む探検隊を彷彿とさせる。せいぜい5メートルもないようなものなのに、実に嬉しそうである。


「ここが脱衣所。服を脱ぐところな。あっちで体を洗って湯船につかってくれ。手前のが浅くて奥のがちょっと深い。子供たちも当分は浅いほうだな。おっきくなったら深いほうで」


「最初のうちはみんなまとめていれちゃってだいじょうぶよね。おっきくなってきたら、別々にいれないとだめかなぁ?」


「うーん……うちはなんだかんだ十歳くらいまでは一緒にはいってたかな?」


 ある日突然、カズハが一緒に入りたくないとぐずりだしたんだっけ……とミナミは記憶を呼び起こす。おそらく学校で友達とそういう話をすることになり、ほかの家の実情を知ったのだろう。


 とはいえ、だいたいの場合はそういうのはちょっとごまかしてあるものだ。おおかたそれを真剣にうけとってしまい、急に恥ずかしくなったのだとミナミは思っている。『高校生のお兄ちゃんと入ってる人なんていないもん!』と本気で嫌がられて落ち込んだイツキがいたため、いくらか冷静だったのだ。


「みんなぁ、帰ったわよー……って、なにこれっ!」


 レイアが帰ってきたらしい。向こうのほうでどたばたとした音が聞こえた。


「こっちだこっち!」


 よもやこんなに大きくて立派なものが出来るとは思っていなかっただろう。さぞやびっくりしているに違いない。風呂に対する日本人の、いや、おれの情熱をなめてはいけないぜ……と、心の中だけでカッコを付けながら、ミナミは彼女を迎えに行った。





「なんだかんだで、こういうのは初めてだったのよね」


 かぽーん、という音が似合う風呂小屋内で、レイアとソフィは湯船につかっていた。


 はしゃぐ子供たちをまとめて脱がし、体を洗い終わるまでは良かった。その直後に初めて見る湯の張った浴槽にさらに興奮したレンが、思いっきり飛び込んでやけどしかかったのだ。


 半分泣きべそのレンを見た残りの三人は風呂に対する恐怖心が出来てしまい、レイアとソフィに抱きついて風呂に入ろうとしなかった。


 結局もしもの時のために、と連れ込んでいたごろすけに水温を調整してもらい、ごろすけ自身が気持ちよさそうにお湯を浴びる姿をみてようやく入ってくれたのだ。


 レンとクゥが最後まで尻尾の先をお湯につけて温度を確認する様子は、ミナミが見ていたら可愛さのあまり鼻血を出して倒れていただろう。


 入ったら入ったで意外と心地よかったらしく、のぼせる寸前までちゃぷちゃぷと遊んでいるのも困ったものだった。まぁ、レイアもソフィも、今となってはその気持ちはよくわかるのだが……。


「それにしてもミナミくん、手慣れていたねぇ……」


 お湯で腕をなでながらソフィが言う。実際、赤くなってぐったりしたクゥに気付き、あわてて外に出てミナミをよんだら、驚くべきスピードでてきぱきと処置をしていったのだ。


 あの時は結構きわどい恰好をしていたと思うのだが、そんなことに気付いてすらいないようで、ミナミはついでと言わんばかりに残りの子供たちもあがらせ、クゥの処置をしつつもがしがしと三人の髪と体を拭いてあげていた。


 仕切りが一応あるとはいえ、若い女がすぐ向こうに裸でいるというのに、あの冷静な対応。そしてソフィやレイア自身もそれに対して、ある程度の羞恥心はあれど、一般的なほどの羞恥心はない。


「私もあなたもミナミも、そういう人間ってことねぇ」


 三人とも子供好きだ。加えて三人ともある程度の経験値がある。例えるなら保母さんと保父さんといったところだろうか。


 いや、園長先生かもしれない。

 いやいや、それすら超えた家族そのものなのだろう。


 家族同士でちょっと肌が見えた位でどうということはない。たぶんエディやパース辺りだったら、メルやクゥを風呂に入れることはできなかったはずだ。


 情熱があったからなのか、それとも環境がたまたまよかったのか、理由はわからないがこんな短時間で家族になった少年だ。ソフィもレイアも、ここ数日でミナミの性格や気質は完璧に理解できた。


「ミナミくんがここへ来た理由、よくわかった気がする」


「そうよ、あいつはもともと、私たちと同じ側の人間なのよ」


 けらけらとレイアは笑う。そもそもここまでミナミと親しくなれたのは、もともとのミナミの性質がレイアと似通っていたからなのだ。そうでなきゃ、最初に会ったときに話を断られている。


「それにしても……」


「それにしても?」


「おふろってきもちいいねぇ~」


 いつもはしっかりしているソフィのだらけきったさまはなかなかに新鮮な光景だったと、レイアは後日ミナミに語った。

20150830 文法、形式を含めた改稿。

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