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ハートフルゾンビ  作者: ひょうたんふくろう
ハートフルゾンビ
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21 四人の子供たち

「それじゃ、自己紹介の時間と行きましょう。みんな、一人ずつちゃんとできるわね?」


 まだそこまで暗くなっていない時間。レイアの持つ孤児院もどき“みんなのいえ・エレメンタルバター”の一室。にぎやかな夕飯が先ほど終わり、片づけも済ませた後、レイアが切り出した。


「この人は今日からここの新入りになるミナミ。抱っこもおんぶも肩車も、何だってやってくれるわ。遠慮なく甘え倒しちゃいなさい!」


「学者の卵をやってる黄泉人のミナミです。家事は簡単な料理と裁縫ができます。こいつは相棒の使い魔、オウルグリフィンのごろすけだ。よろしくな!」


「「よろしく!」」


 子供たちが笑顔で返してくれる。レイアやライカと同じようにミナミは顔を崩した。レイアやライカのスイッチはもふもふとしたものだが、ミナミのスイッチは子供や女の笑顔である。


 子供の笑顔は何度見てもいい。それだけで十分に価値がある。最近カズハは反抗期気味だったが、やっぱり妹とか弟とかは何よりの宝物だ。


「あたし、メル! すきなものはかっわいいもの、きらいなものはにがいもの。しょうらいのゆめはれーねーちゃみたいにつよくて、ふぃーねーちゃみたいにやさしいぼうけんしゃ!」


 最初に自己紹介してきたのは栗色の髪をした女の子だ。ぱっちりとしたハシバミ色の眼で、ふっくらとした林檎のようなほっぺをしている。コマーシャルの子供タレントに出てきてもおかしくないくらいの元気の良い可愛さで、えへへ、と笑いながらミナミに対して不器用なウインクをしてきた。


 両目をつぶってしまっているが、どこでウインクなんて覚えたのだろうか?


「ぼくはレン! おもしろいことがだいすき! たからものはねーちゃのおみやげコレクション! にーちゃにもあとでみせてあげる!」


 今度の子は小麦色の髪から猫の耳が生えた男の子。さっきずっとお土産があるか聞いていた子だ。


 元気あふれる活発な顔つきでどことなくエディと雰囲気が被る。彼の子供時代はきっとこんな感じだったのだろう。好奇心旺盛なようで、ずっと目がきらきらしており、お尻の尻尾もずっとふりふり動いている。


 外に出るときはずっと手をつないでおかないといけないタイプだと、ミナミは長年の勘でいともあっさりと見抜いた。


「ボクはイオ。いきものとか、まほうとかがすきかな。おべんきょうはきらいじゃないけど、すきじゃない。いつかはすっごいまほうつかいになりたい。よろしく、にーちゃ!」


 やや大人びた自己紹介をしたのは、上品な灰色に近い銀髪をした男の子だ。


 子供らしいあどけない感じがありながらも、その暗い翡翠のような瞳は理性や知性が感じられる。きっとすごい魔法使いになれるだろう。


 それに顔も整っている。十年後はもてると、そう確信せざるを得ないような端正さだ。ミナミがこのくらいの年の頃は鼻水たらしながら虫を追いかけていたというのに、えらい差である。


「……わたし、クゥ。これからよろしくね、にーちゃ」


 シンプルな自己紹介をしたのは先ほどミナミが抱きかかえた女の子だ。


 彼女の真っ白な髪の毛の中から、狐の耳がぴょこんと出ている。尻尾もびっくりするくらいの真っ白さだ。


 彼女は気の弱そうな赤い目をしてミナミを見つめてきた。先ほど泣きかけたから目が赤いのかと思っていたら、どうやらもともと目は赤いらしい。どうみても、寂しがりで泣き虫なタイプだった。


 どの子もみんな、五歳くらいだろうか。せいぜいミナミやレイアの腰くらいの身長だ。


 男の子は質素なズボンとシャツ、女の子もやはりシンプルなワンピースを着ている。どちらもばんざいすれば一発ですっぽんぽんに脱げる服である。


「それじゃ、次は私ですね。私はソフィっていいます。ここでは家事全般を担当しています。これからよろしくおねがいしますね、ミナミさん」


 ソフィは茶目っけたっぷりの見事なウインクをして見せた。メルのウインクはソフィの真似だったのだろう。


「ソフィ、これから家族になるのだから、ミナミに対して“さん”はなしよ。ミナミもそれでいいわよね?」


「もちろん、これからよろしく、ソフィ」


 笑いながらソフィと握手する。こっちでも握手の習慣はあるらしい。


 子供たちがそれを見て、我先にと握手をしてきて手をもみくちゃにされたが、それもまたいいものだった。


 さて、一息ついたところでミナミはとっておきのかくし芸をすることにする。最近、自己紹介のパフォーマンスのバリエーションがグンと増えたのだ。やってみたくなるのが人というものだろう。


「そうだ、おれには一つ特技があるんだ。ソフィ、コップを人数分用意してくれる?」


「ええっと、なにをするの?」


「まぁ、見てのお楽しみだ」


 そう言うとソフィは納得してくれたのかコップの用意をする。レイアはもうすでに察しがついているようで、黙って見ていてくれた。


 夕飯の準備も片付けもレイアとソフィがやったのだ。ちょっとくらい何かしないといろいろ気まずかったというのもある。


「おれさ、結構特別な魔法をつかえるんだ」


 慣れた手つきで水球を作り上げていく。にじみ出るように空中に出てきた水球に子供たちは大はしゃぎだ。


 魔法をここまで至近距離で見たことはなかったのだろう。特にイオの目は興奮のあまりなかなかすごいことになっていた。


「それ!」


「「わぁ!」」


 最後の一仕上げで、この水球をオレンジに染めていく。同時に、オレンジの甘酸っぱい香りが部屋中に広がった。


 子供たちの歓声もより一層大きくなった。ソフィも驚いている。にこにこ笑っているのはレイアとミナミだけだ。


「これがおれのオリジナルの魔法。ジュースの魔法だ。さぁ、飲んでみてくれ」


「「わぁい!」」


 子供たちが一斉にコップでジュースを掬う。ぴちゃん、とジュースが飛び跳ねるが、ミナミの魔力で制御しているから床に飛び散る心配はない。


「……あまぁ~い!」


「これのみほうだいだよね!?」


「にーちゃってすごいひとだったんだ……」


「……おかわり、いい?」


 一口飲んだだけで、魔法を使ったとき以上の大騒ぎだ。ソフィだって『おいしい……』とつぶやきながらうっとりしていた。


 やはりこのセカイにはそこまで甘い飲み物は存在していないらしい。レイアの様子からうすうすわかってはいたが、ひょっとするとこれだけでもお金稼ぎのいいネタになるのではないだろうかとミナミはほくそ笑む。


 百パーセントの魅力は留まることを知らず、その日はかなり遅くまでジュースの晩酌が続けられた。






 子供たちが延々とジュースを飲み続け、そろそろ寝る時間だからもうやめなさい、とレイアが切り出すまで家族の団欒は続いた。


「ミナミ、アレ出してくれる?」


「りょーかい」


 普通の家にはあるらしいが、ここの家にはベッドがない。ちょっと広めの寝室でみんなで雑魚寝のスタイルをとるのだそうだ。


 普段はソフィもレイアも一緒にそこで寝るのだが、レイアはともかく今日初めて会ったソフィがいるため、ミナミがそこで一緒に寝るわけにもいかない。そもそもそこまでスペースがない。


 よって、しばらくは食堂の端っこでミナミは眠ることとなっている。明日以降に別の部屋を掃除して寝室にする予定だ。


 そんなミナミの簡易寝床に使うのが例のふわふわウルリン毛皮だ。寄せ集めれば立派なクッション代わりになるのでうってつけなのである。


 そして、ウルリンの毛皮は大量に持っている。当然、子供たちの寝室にも使う分がある。というか子供たちのがメインなので、たりなかったらミナミは自分の分を差し出していただろう。


「ほーら、ふっかふかだぞ~!」


「すっげー!」


 何もないところから出てきた大量の毛皮に子供たちはまたもびっくりしていたが、レイアがちゃんと寝ない子にしか上げられないというと、持てるだけの量をひっつかんでものすごい勢いで寝室に入ってしまった。よくみればクゥはごろすけも引っ張って行ってる。


「ふぅ、なんとかうまくいったわね。さ、これからは大人同士でこれからのお話よ」


 ここにいるのはみんな未成年じゃないか? とミナミは思ったが、それをわざわざ口に出すことはない。


「それにしても、ミナミくんってすごいよね。私、毛皮もジュースも初めて見た。学者さんってみんなこんなことできるの?」


 子供たちがいないからだろうか。先ほどより多少砕けた口調でソフィが話す。おそらくこっちのほうが彼女の素なのだろう。


「いんや、できないと思う。おれ、異国からの旅人ってさっきいったけど、ほんとはちょっと違うんだ」


 ソフィにもミナミの正体を話すことは事前に決めてあったことだ。共同生活を送る以上、隠すわけにはいかないというのが二人の総意である。


「信じられないとは思うけどさ……」


 ミナミの身の上を簡単にかいつまんで話す。やはり驚かれたりはしたものの、ソフィはちゃんと受け入れてくれた。


「そんなわけでレイアと知り合ってここで暮らしていこうって言われたんだ。今更だけど、突然確認もなくやってきちゃって大丈夫だった?」


「レイちゃんが認めた人なら大丈夫だよ。子供たちも懐いていたし。扱いも手慣れていたみたいだけど、兄弟でもいるの?」


「うん、カズハ──三つ下の妹と四つ上の兄ちゃんがいる」


 もっとも、カズハ以外にも近所の子やいとこの面倒を見ていたから、ミナミは子供に対する経験値に関しては高いつもりだった。内申書に書くためにやったボランティアも、子供の面倒をみるタイプのやつだったりする。


「さ、ミナミの本当の自己紹介がおわったことだし、これからのここの運営について話していくわよ」


「あ、そうか。今度からごろちゃんのご飯代もかかるし、ミナミくんの生活用品もそろえなくちゃいけないのよね」


「それについては大丈夫よ。ごろちゃんはミナミの魔力を食べるし、たまに外に連れて行ってあげるだけでいいみたい。それに、ミナミも稼げる人だから、生活は今よりはるかに楽になるわ。生活用品ももう買いこんであるの」


「もう? レイちゃん、お金はだいじょぶだった?」


 レイアがにやりとミナミを見る。その意図を読み取ったミナミは腰につけていた若草色の巾着を手に取ると、テーブルの上に中身をぶちまけた。


 ちゃりんという小気味よい音が静まった部屋に響く。


「すごい……金貨九枚もある。今回は大もうけだったんだね!」


「それ、全体の一部よ。今回のもうけは金貨千枚」


「え?」


 ソフィの顔が固まる。ミナミもレイアもそうだったのだ、仕方のないことだろう。


「え、嘘……だよね、流石に。レイちゃんちょっといじわるになった?」


「なんなら明日、いつもの口座確認してみる? きっとびっくりするわよ~? しかも、ほとんどミナミの手柄なんだから!」


「ほ、ほんとなの……!?」


 にやにやしているレイアを見て本当だとわかったのだろう。放心したようにして、ソフィは椅子に深く座り込んだ。


 べっぴんさんってどんな表情していてもさまになると、ミナミは場違いにぼんやりと考える。


「とりあえず、生活についてはしばらく心配することはないわ。まぁ、仕事はしていくけど、今までみたいなハードなのはないと思う。今夜の課題は、このお金をどうしていくか、よ」


 大きなお金というのは使い方に困るものである。使い道はたくさん思い浮かぶのに、どれが最適なものかが分からないからだ。


 大金を手にする機会なんてそうあるわけがない。手に入れたチャンスを、いかにうまく使うかが問題だ。


 どうせ明日は休むからと、夜遅くまで三人で話し合っていく。レイアやソフィと違い、ミナミ自身はこういったことを考えるのは初めてだが、自分もかかわることなのでいつも以上に真剣に考える。運営のためのお金の使い方を考えるなんて、ミナミは今まで想像すらしなかった。


「あれはどうだろう?」


「ええと、でも……」


 結局なかなかいい案は出なかった。


 これを元手に商売に手を出すとか、家を新しく増改築しようだとか、いろいろな案が出たのはたしかだ。


 しかし商売なんて素人がやってもうまくいくことはまれだし、増改築はいい案ではあるのだが、それをするのなら新築してしまったほうがよい。


 もう建物自体もボロいし、どうせなら今より大きいものを建てたほうがこれから新しい子を受け入れるときのためにも良くないかと一時はまとまりかけたが、そうなると土地と建物代を払った後の生活がちょっと不安になるということで流れた。


 そしてなにより──


「たぶん、商売のネタにしても増改築にしても、材料と時間さえあれば、おれの魔法で全部何とかなると思う」


 ミナミは神様からの公式な魔法チートを授かっているのだ。商売なんてそれこそ元手ゼロのジュースを売ればいいわけだし、こっちにはないあっちのセカイの物だっていろいろ知っている。増改築どころか新築だって朝飯前……とは言えないものの、決して難しい話ではない。


 しかしそれに賛成しなかったのはレイアとソフィだ。


 子供たちが簡単になんでもできると思ってしまうかもしれないから、あまり大きなズルはするべきでないというのが彼女たちの考えだ。


 普通は苦労して成し遂げるものを簡単にこなしてしまうと、子供はそれを普通だと思ってしまう。それは教育的によくない。


 できることなら子供たちのためにも、こういったことはなるべく普通の方法でやるべきだ、というのが彼女らの、というかぶっちゃけレイアの主張だった。


 ミナミは知らないが、彼女の師匠はそういったことを厳しくレイアに教えていたのである。あんま贅沢するとふつうにもどれないぞ、と。




 結局夜通し話しあった結果、お金はいざという時のためにとっておき、今まで通りちょっとずつ稼いで、それで新しい家を買う、ということになった。



20150505 文法、形式を含めた改稿。

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