第六話
今まで笑わなかった人が笑っている。
マナはなんとも新鮮な気持ちになった。
いつもの真剣で険しい顔と違ってとても優しい、こちらも思わずつられて笑ってしまうような笑顔。
その顔が忘れられなくなった。
しかし恋というにはまだ実感のわかない程度だった。
マナは試合中ずっと涼平を目で追っていた。
普段もう一人の涼平、北本涼平と中々見分けがつかないのだが、ユニフォームが目印となりしっかり
「田中涼平」
を見ることができた。
真剣な顔にもマナはドキドキしてしまった。
改めてカッコイイなと思った。
その帰り道。
ハプニングが起こった。
シーサイドラインに乗り継ぐときのこと。
切符は三年生、二年生、一年生の順で買う。
一年生がもたもた買っていたせいで一本乗り遅れてしまったのだ。
試合後で疲れてイライラしていた三年生達は不満を口にし、バスケ部以外に無人となったホームに気まずい空気が漂った。
「いーよいーよ。しょうがないよ。次の待とう」
静寂を破ったのは涼平だった。
「でも…」
「いつまでもグチグチ言うなって」
あっさりと三年生達をまとめた。
あぁこれがキャプテンなのだと思わった。
あのときの涼平はプレー中のカッコ良さとはまた違った。