探り合い
数分後、セナはフロントにいた。
やる気のなさそうな中年のフロントマンに頼み、今は見る事が少なくなった固定電話を使わしてもらう。
「はい、こちら山竹事務所です」
電話をかけるとすぐに、秘書の間の抜けた声が電話口を通して聞こえる。
「かおりさん、セナだけど、所長か令人いる?」
「セナさん!!よかったみんな心配して…」
「セナっ!!」
令人が秘書から受話器を奪い取ったのだろう。
突然の令人の大声にセナは受話器を数㎝耳から離す。
「大丈夫か?!今何処にいる?!」
「落ち着いてって、私は大丈夫。東京のどっかのビジネスホテルにいるよ」
「おまえ監禁されてんだろ?怪我はないか」
「色々あったんだけど、とにかく今は大丈夫。心配しないで」
「大丈夫じゃねぇだろ、場所言えよ、迎えに行くから」
「すぐ帰るから、みんなにそう伝えて、心配しないでって」
「おぃセナ!!」
令人の怒鳴る声がまだ電話口から続いていたが、セナは受話器を置いた。
不審そうな眼をむけるフロントマンに、セナは愛想笑いを作りお礼を言う。
部屋に戻ると、イースはけろりとした表情でベットに座っていた。
「なんだ、帰ったのかと思った」
「私は泥棒しないから」
セナはポケットに入ったままだったイースの財布を、イースの方へほうりやる。
「泥棒と同じぐらい物騒な事してるじゃん、長生きしたいならあんな仕事やめるべきだね」
イースは片手で財布を弄びながら言う。
セナはつんとした表情のままベットに座る。
しかし暫くすると、急に何か楽しい事を思い出したかのようにイースを上目使いで見つめる。
「なんだよ」
「どうやってその能力手に入れたの?」
「はぁ?」
「私もビルの間を飛び移れるようになりたい」
「無理だよ、体質的なもんだから」
セナはその言葉を聞いてあからさまに残念な顔になる。
「生まれつきって事?」
「まぁ正確には違うけど…」
セナの表情がぱっと明るくなり、イースは否応なしに続きを促される。
「ちょっと前に開発された、筋力が低下する病気を治す、テンシリンって薬、知ってる?知らないか」
イースはそっぽを向いたまま続ける。
「訳あって、その薬が人より効きやすいってこと」
「その訳って?」
「それは言えねーよ」
セナは考え込むように、顎に手を持っていく。
「じゃぁ、薬の効果が切れたら普通の人間って事?」
「そ、だから今はか弱い女の子」
さっきイースが熱を出していたのは、普通に戻る為の生体反応だったのか、セナは心の中で思う。
「そっちは、十五歳まで何してたの?」
イースはセナが十五歳から今の事務所に雇われている事をさっき調べたのだろう。
セナは言葉に詰まった。
イースはまっすぐセナの目をみつめてくる。
下手に嘘をついたらすぐばれそう、セナはそう思い、ばらしても大丈夫そうなラインまで本当の事を言う事にした。
「山奥にいた」
「ふうん、で山菜取りでもしてたの?」
イースは明らかに信用していない顔をする。
「まぁね」
イースが手を振り上げたのでセナは過剰にびくっと反応する。
こつっとイースはセナの頭を軽く小突いた。
「じゃあはるばる東京まで何の為に?」
「ってゆうか、生田さんに山奥から救われた。あんまり言っちゃいけないけど」
「ふぅん」
イースは座りなおし、考えるような表情になった。
「ヒントが足りねぇな」
「じゃぁ、もっと詳しく知りたいなら、私と同じ事務所で働いたら?!」
セナは自分で言ってその名案に気がついた、とでもいうようにはしゃぐ。
「それいいよ、すごいスキルあるし、きっと凄腕の職員になれるよ」
セナはイースの両腕をとる。
「駄目だよ、一応犯罪者だし、それに色々と面倒に巻き込まれてるから」
イースにその気はなさそうだ。
セナは残念に思う。
イースは立ち上がり、両腕を伸ばして伸びをする。
「腹減ったな」
セナもそれは感じていた。
空腹すぎて胃の辺りが少しきりきりと痛む。
「なんか食べにいかね?」