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東京2044  作者: mimi
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イース

暗い部屋の片隅に置かれた一脚の椅子。


セナは椅子に四肢をテープでぐるぐる巻きにされ、拘束されていた。


どこかの安いビジネスホテルだろうか。


部屋の造りは安っぽく、壁紙には埃っぽい匂いが沁みついている。


首をうなだれたセナは、突如大きく空気を吸い込むと、ゆっくりと目を開けた。


目が覚めてすぐは、状況が飲み込めていないようだった。


手足を動かせない事に気付き、セナは何故ここにいるかを思い出したようだ。


とりあえず強引に手足をガタガタと動かしてみたが、両手両足は椅子に張り付いたままでびくともしない。


焦った様子のセナは、突如鋭く刺々しい視線を感じ、ベットの方に目をやる。


ベットの上には、完全に暗闇に同化したイースが、ぎろりとセナを睨んでいる。


初めてその事に気付いたセナは、力の限りの甲高い叫び声を上げた。



イースはベットから降り、電気のスイッチを点けた。


まだ肩で息をしているセナにイースは訝しげな視線を投げかける。


イースは今度はベットではなくソファーに座る。


白人系の均衡のとれた顔立ち。


髪はセナが写真で見たのとは違い、ショートだ。


髪の色も写真とは若干違う。


身長はセナより少し大きい位だろうか。


黒いジャケットに白いシャツ、グレーのズボン、といった出で立ちだ。


ソファーの前には小さなサイドテーブルがあり、そこにはイースのパソコンと、パソコンに繋げられたセナの携帯モバイルが置かれている。


床にはセナの荷物がばらばらに散らばっていた。


GPS機能付きブレスレットは粉々に分解されていて、財布ウォレットも物色された様子だ。


セナはイースを睨みつける。


セナのバックに入っていた小腹満たし用のシリアルバーを食べながら、イースもセナの様子を眺めている。


「これは犯罪よ」


セナは張り詰めた表情でイースを睨み続ける。


シリアルバーをゆっくりと味わうように飲みこむと、面倒そうに口を開いた。


「こんな事しなかったよ、もし一日中見張られてるせいで夜も眠れない、なんて事がなければ」


セナは小さな溜息を一つついた。


「ごめんなさい。理由わけもきちんとと話すし、私が知ってる事は全部言うから、お願いこれとって」


「理由なんてもう知ってる。君がどんな人間かも大体。法律事務所の事もだいたい調べさせてもらったよ」


セナの視線が自分の携帯モバイルに繋がったイースのパソコンへとゆっくり移動した。


「只物じゃないわね」


心の中で言った筈の言葉が知らぬ間に小さく口をついていた。


だけどかまいやしない、こうなってしまったら運にすべてをゆだねるしか道はないのだから。


イースはゆっくりとした余裕のある動作で、ベットから立ちあがると、セナの傍までやってきた。


「お腹すいてない?これ、食べる?」


食べかけのシリアルバーを、身動きのとれないセナの前に突き出す。


戸惑い、見上げると、イースの顔にはどんな表情もうかんでいない。


目の前の少女に何とも言えない不気味さを感じながら、セナはゆっくりと首を横に振った。


イースはなぜかふっと笑うと残りのシリアルバーをゴミ箱に放り入れ、ベットの上へと戻る。


イースが只物ではない、その事以外に、今さっきセナが彼女について知り得た情報がもうひとつあった。


(私の事、一瞬女として見た?)


セナは人の表情から考えを読み取るのが大の得意だった。


イースの視線の中に、セナの事を好いている男がやるように、まっすぐととらえて離さないような視線を、一瞬であったが確かに感じたのだ。


相手が少女であるにも関わらず、だ。


セナはその考えが自分の考え過ぎでない事を祈った。


相手が自分の事を好いているのと嫌っているのでは、交渉のしやすさが格段に違う。


「なんで今時若い女の子が法律事務所なんかで働いてるの?」


イースは自分パソコンに向き直る。


少しだけ不意に落ちなそうな表情を見ると、本当に疑問に思っているようだ。


「その顔ならモデルでもやればいいのに」


「褒めてくれてるならありがとう」


「逆だよ、無駄な危険にさらされて頭悪いっねて言いたいの」


パソコンのパネルを指でタップするイースをセナは一瞬だが睨みつけた。


出来るなら舌打ちでもしてやりたい気分だった。


「あれ、君生田弁護士と養子縁組してるんだ…彼、超有名な人だよね、未成年者の人権保護とやらで」


その言葉にセナがぴくりと反応した。


「人権を保護してもらわなきゃいけないつらい出来事があったんだー。君も色々と苦労してるんだね」


「勝手に詮索しないでよっ!」


セナは自分でもこの場にふさわしくない事を言っていると分かった。


先にイースの事を詮索したのは自分達だ。


しかし眼の前の少女に無性には腹がったったのだ。


イースはセナを完全に無視して、まだ何かを調べている。


「わ、でも十四歳までの戸籍がないね、君もしかして幽霊?あるいは十四歳で生まれたの?」


「なんでそんな事聞くの?どうだっていいじゃない」


セナは忌々しそうに言った。


「なんで夜空に浮かぶ月がだんだんスリムになるのかを知りたいのに理由が必要?」


つまる所ただの好奇心、イースはそう言いたいようだ。


セナは一瞬押し黙ったが、すぐに口を開く。


「分かった、全部話す。だけどその前に自由にして」


「逆だよ、全部話してくれたら自由にしたげる」


二人の間に束の間の沈黙が流れた。


「別に……逃げたりしないから」


イースはいきなり立ち上がるとパソコンを小さなバックにしまい、それを肩から掛け、そばにある黒い帽子を目深にかぶった。


「時間をあげるよ、自分が置かれた立場が理解できるようにその火照った頭をクールダウンさせるべきだね」


イースはそう言い残し、ドアから出ていこうとする。


「ちょっと何処行くの!待ちなさいよ!」


無情にもドアはバタンと閉められる。


「もぅ…」


セナは部屋にぽつりと一人取り残された。



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